第14章 這い寄るピンチ!大いなる使者(5)

第14章 這い寄るピンチ!大いなる使者(5)


登場人物紹介

七芽(しちがや)祐太郎(14) 魔法少女にされてしまうオデコ少年。

白銀卓斗(16) 祐太郎の先輩。眼鏡男子。

須賀栞(14) 祐太郎が気になっていたクラスメイト。中学生にしてはおっぱいが大きい。 

武者小路秋継(30?) 祐太郎を魔法少女にした元凶。変態紳士。

柳井ミキ(14?) 祐太郎のクラスメイトで人間と魔法生命体のハーフ。変身(フランツ)して強力な魔法を使う。

黒田龍之介(14?) 祐太郎のクラスメイト。クラス一番のひょうきん者のはずが『魔特』を襲撃する。


5.恐怖の大王

「うわあっ!はっ、夢・・・」

ナナメは目を覚ました。

知らない天井・・・ではない、恐らくは『魔特』のラボだと気づいた。

「ナナメ!・・・良かった。身体はどうだ?起き上がれそうか?」

(わ・・・先輩、近い・・・手を、繋いでくれてたんだね・・・)

卓斗の額には汗が浮かび、祐太郎が見たことのないような焦りを顔ににじませていた。

「うっ・・・」

そこでナナメは自分の身体が異臭を放っていることに気が付いた。そして、意識を失う前に自分が散々嘔吐していたことを思い出した。

(先輩に臭いと思われるの恥ずかしいよお!)

「も、もう大丈夫です!」

慌てて寝かされていたベッドから飛び起きようとして、ふらついてしまう。

「危ないぞ。まだ無理をするな」

卓斗はしっかりと抱きとめてくれたのだが、ナナメはとっさに離れてしまう。

「ごめんなさい!せ、卓斗さん汚れちゃうから!」

(お願い先輩僕の匂い吸い込まないで~!)

「いちゃついているところすまないが、そろそろ移動できるかな」

そこに部屋に駆け込んできたヤナギが割り込んだ。

「いい加減蜂魔の群れをやり過ごせなくなってきたよ。あっちは理素を探知しているみたいだからね」

「いちゃ・・・わかった、移動しよう。ナナメ、歩けるか?」

「はい!」

ナナメは魔法の杖を見つけてしっかりと握った。

「ナナメ氏、アレ」

「え?」

「流石に穿いた方がいい」

ヤナギの指さす先には手洗いして干されたナナメのパンティがぶら下がっていた。

「きゃーーーー!!」

慌てて回収した下着を穿き直すナナメ。卓斗は壁にめり込むんじゃないかというほど距離を取り、そっぽを向いて離れている。

(うう・・・まだ湿ってるよお・・・

え、僕おしっこも漏らしちゃったのかな・・・消えたい・・・)

「人間生きていれば色んな経験をするもんさ、気を落とすなよ。

それより、蜂魔の巣を攻略する策を練るよ。こっちの大きめの魔法で巣を制圧するからさ、ナナメ氏はその間蜂魔を無力化してくれるとありがたい」

「わかったよ、蜂魔って魔法で生み出された虫ってこと?それならコマンド・スリープクラウd――」

その時、ナナメの身体から大量のMP=理素(リソー)があふれだした。

限界までシェイクされた炭酸飲料を開けてしまった時のように、ナナメの意思ではとても止められない。

魔法の杖を握ってはいたがナナメは魔法を使うために意識も集中させていないし、印も描いていない。

なのに、魔法の名前を口にしようとしただけで膨大なMPが魔法を形作り、実行した。

一瞬にして広がった煙に包まれて、ラボ内の人間もMIDも全てが昏倒した。

ヤナギですら予測も反応もできなかった。

龍之介にも予想だにしなかった。

蜂魔たちも一匹残らず地に落ちた。避難中の『魔特』職員も皆、眠りに落ちた。

ナナメ本人すら眠ってしまった。

まず目を覚ましたのは卓斗であった。ナナメに気を使ってちょうどヘルメットをかぶっていたのが幸いした。

続いてヤナギが目を覚ます。二人でナナメを起こす。

「驚いたね。魔法が暴発したのかな。しかしすごい威力だったね」

「こ・・・こんなこと初めてです!」

「蜂魔がまだ眠っていればチャンスなんじゃないか」

急いで三人は蜂魔の生成装置である巨大眼球の元へ向かった。

蜂魔たちは、まだ地に転がっていた。

「ホモォ・・・ホモォ・・・ホモォ・・・ホワイトブレス!」

おかげで苦も無く巨大眼球を氷漬けにできた一行は、博士の救出に向かうことにした。

「運よくMIDが眠ったままなら話が早いんだけどな」

〈あー、テステス。マイクチェック、ワンツー。館内にいる魔法少女、MID、ビジターの諸君は、覚醒しだい会議室Aに来られたし〉

「どうやら楽はさせてもらえないようだね」

ヤナギはアイロニックな笑みを浮かべやれやれと肩をすくめた。


「・・・一体なにがあったのかしら。ラボの結界は破られているし、そこらじゅうに理素(リソー)の残滓が漂っているわ」

ブタクシー体のモフモフ夫から降りて、初代魔法少女七芽真実那が『魔特』ラボに到着した。

空から見えた屋根の大穴。ところどころに倒れている職員の姿。

真実那は自分のものと同種の理素(リソー)を辿って進んでいく。

(だけどこの理素(リソー)・・・デコちゃんのもののはずだけどあまりにも・・・)

そしてラボの会議室に、龍之介の招いたメンバーが集結した。


「ようこそおっぱいの大きな元魔法少女さん、あなた達で最後だ」

会議室の最奥には拘束された武者小路博士、その横に魔導書を携えた龍之介。

ヤナギにナナメに卓斗。夜長姫にぐれリンもいる。会議机を囲んで座らされていた。

よく見ると机の上にファイヤスターター型入り二足歩行アザラシ人形も座っている。

「ギロチンギロチン、シュルシュルシュ」

龍之介が博士を這いつくばらせ、大きな刃を中空に生じさせた。

「!!」

「この魔法は・・・」

夜長姫が眉をひそめる。

「さあ、MID総会議を始めよう」

「そんな人質をとるような真似をして、会議というより裁判でもするつもりか」

「黙れ!単独で魔法を使えない人間風情が。

七芽真実那さん、どうぞおかけになってください」

卓斗の言葉は一蹴して、龍之介はうやうやしく真実那に席を勧める。彼女の傍らには守護獣(ブタクシー)体のままの宏実が控える。

卓斗はそんな二人を怪訝な顔で見つめていたが、龍之介を刺激しないよう口をつぐむことにした。

「お前たち現代の人間は、装置を使わなければ魔法も使えない。

かつてこの星にも、神秘の森の奥、光刺さない水底、火を噴き、風を吹かせる高き峰・・・あらゆる場所に理素(リソー)が溢れていた。

だが人間たちは、星を拓き、削り、砕いてきた。途方もない時をかけて育まれたものをあっという間に台無しにしてしまった。

神秘や魔法を信じる人間も歴史上無くはなかったが、大きな時代のうねりの中では濁流に飲まれる小枝のようなものだった。

なのにお前たち『魔特』は、MIDと呼んで我々を狩り、残り少ない理素(リソー)を独占して魔法を使役しようと企んでいる!

吾輩は罪のない同胞(はらから)をそんな人間たちからこの力で守ってきた」

「あ、もしかして山本さんが人間になった時お世話になったって言ってたのは」

「そうだよ作り物のプリンセス。いや、かわいそうな被害者の七芽祐太郎ちゃん」

「ちょっ!!」

「なに・・・!?」

ナナメと卓斗に動揺が走る。

ここまで博士も真実那も黙って龍之介の言葉を聞いている。

「人間との信頼関係が崩れてしまったら申し訳ないなあ。だがななめ、お前は人間に騙されて利用されて魔法少女なんてやっているんだろう?」

ヒートアップしてきた龍之介は会議机の上に立ち上がり、声をあげる。

(先輩に正体がばれちゃった・・・でも今は、そんなことよりも!)

「そりゃ最初は不本意だったけど・・・!周りの大事な人たちが危ない目に遭うんだったら僕だって、僕にできることだったら・・・

勿論MIDさんだって話してわかればそれに越したことはないし、傷つけたいわけじゃないし・・・」

「ナナメはん・・・」

ぐれりんが感動してほろりと涙をこぼす。

「そうやってつけこまれてまるめこまれたんじゃあないのか?

ななめがそこまで人間の為に酷い目に遭う必要があるのか?」

「だって僕は人間だから・・・」

ナナメはもう祐太郎としてしゃべっていた。

「どう考えてもななめの理素(リソー)は純粋な人間じゃあないんだがな」

「えっ!?」

「知らなかったのか?しかも今のそれは、明らかに地球の・・・

武者小路秋継!お前が気づいていないわけはないだろうな。

やはり人間は卑劣だ。

永き世にわたって理素(リソー)を浪費し枯渇させた罪、人類史に代わって詫びろ詫びろ詫びろ詫びろ!ハハハハハ!」

「やめてえ!」

龍之介は腕を振り上げ今にも空中のギロチン型を博士の頸に下ろしそうであった。

卓斗は動くに動けず、ナナメを止めた方がいいのかそのまま離脱した方がいいのか考えあぐねていた。

(動くか?ナナメの魔法は今頼るには不確定要素が大きすぎるし俺も変身させてもらってはいない・・・

ヤナギならなんとかできそうだが彼女も立場的にはあのMIDに近いのか――)

「わざ。わざ」

沈黙を守っていた者のうちの一人であったヤナギが、ため息をつく。

「え?ヤナギさん?」

「もうそれくらいでいいんじゃないのかい?

そっちだって人間と共存しているんだから、傷つけるつもりは無いんだろう?」

「たまにはこれくらい脅しをかけないと、人間はすぐ調子に乗るからな!」

龍之介が腕を下ろすと、空中のギロチン型の姿は霧散して消え失せた。

あるいは、はじめから刃は存在せずただのまぼろしだったのかもしれない。

「どういうことだ、傷つけるつもりがないだと?

あれだけの攻撃を加えておいて!」

卓斗も事情が呑み込めないといったふうであった。

「蜂魔は理素(リソー)に反応するから常人に向かって行くことは無いし、魔法を使える者は制圧して話を有利に進めたかったからな。

MIDって言ったって十把ひとからげにできるものじゃあないってのも当然わかる。

好戦的のものや明らかに人間を害そうとするものだっているし、吾輩達にとっても危険なやつだっている。

人間だっていいヤツはいるしいい関係を築ける者達だっているのだ。

だがジンギレイチ・チュウシンコウテイ・システム。あれは駄目だ。

あれはこの星に僅かに残された理素(リソー)を絞りとって、魔法少女ナナメにピンポイントで収束させるリスキーなシステムだ。

そんなリスクを冒してまで何を企んだ?

本当に魔法を独占するつもりだったのか?」

「えっ!僕地球のMPを根こそぎ搾り取っちゃったの!?」

「それがジンギレイチ・チュウシンコウテイ・システムは不発だったんだよ。ところでナナメ君その言い方なんか・・・こう、いやらしいね!」

拘束を解かれた博士が立ち上がり、白衣を翻して近くの椅子に座り直す。

その相変わらずな言動になんとなくほっとしてしまうナナメであった。

「でもさっき僕の魔法が暴走しちゃいましたよ?すごくMPが高まって、抑えておけないぐらいに・・・」

「確かにななめの中に今まで感じなかったとんでもない大きな理素(リソー)の流れを感じるんだが、さっき言った通りこの星の理素(リソー)とは違うんだな。

吾輩は何としてもジンギレイチ・チュウシンコウテイ・システムは阻止したかったしな。

少なくとも残り少ないこの星の理素(リソー)は守られているぜ。

それより博士、吾輩の質問に答えてもらおうか」

「ふむ。ナナメ君の不自然なほどのパワーアップも興味深いが今は話さなくてはいけないね!隠してきた私の思惑を!命の危険を潜らせてでも、地球のMPを枯渇させてでもナナメ君をマッミーナさん以上の最強の魔法少女に作り上げなくてはいけなかった理由をね!それは地球にかつてない危機が迫っているからだよ。皆も知っての通り先日の須賀栞君を襲おうとしたMID達、判別されているだけでもベオウルフ型、ニーベルンゲン型、ガリヴァー型、どれも夜長姫に匹敵する災害級の脅威だね!それらの通ってきた次元の穴(ホール)。規模も数も今まで以上だったね!少しずつだが明らかに規模が拡大しているんだ。そしていずれ極大点を迎えれば地球が耐えられない規模の物理干渉を受けてしまう・・・既に数年前武者小路家の擁するスーパーコンピューター『KAMUI』がその時期を算出してしまってね。今まで観測された穴(ホール)が概ねその計算通りの規模であることを鑑みても的中してしまう可能性はかなり高い!残念ながらね!地球存続の為には魔法の力を使うしかないよ!とんでもなく、常識外れに強大な、ね!」

(そんなあ~、急に、地球の危機だなんて言われても・・・)

「それでいつなんだ。この星の危機が訪れるのは!」

「計算では、1999年、7月。地獄の釜の蓋が開く――」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

少年なのに魔法少女譚「ななめトランス!」 由樹ヨシキ(夢月萌絵) @mutsukimomomo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ