第13章 這い寄るピンチ!大いなる使者(4)

第13章 這い寄るピンチ!大いなる使者(4)


登場人物紹介

七芽(しちがや)祐太郎(14) 魔法少女にされてしまうオデコ少年。

白銀卓斗(16) 祐太郎の先輩。眼鏡男子。

須賀栞(14) 祐太郎が気になっていたクラスメイト。中学生にしてはおっぱいが大きい。 

武者小路秋継(30?) 祐太郎を魔法少女にした元凶。変態紳士。

柳井ミキ(14?) 祐太郎のクラスメイトで人間と魔法生命体のハーフ。変身(フランツ)して強力な魔法を使う。

黒田龍之介(14?) 祐太郎のクラスメイト。クラス一番のひょうきん者のはずが『魔特』を襲撃する。


4.復活祭

「お待たせ」

意外にもすぐにヤナギは戻ってきた。

卓斗は少しほっとして腕の中で震えるナナメの顔を見た。

きっと魔法を使って解毒剤を用意してくれたのだろう。

「どこから出したは聞かないでおくれ」

ヤナギの言葉の意味は卓斗には理解できなかった。

彼女の手には隣室で調達したと思われるビーカーと漏斗らしきものがあった。

ナナメの上半身をそっと起こしてビーカーの中の液体を飲ませようとするが、痙攣して口にうまく入れられない。

「白銀氏、ナナメちゃんの顔を押さえてくれるかな」

「わ、わかった!」

卓斗がナナメの顎を押さえてようやくヤナギがクスリを流し込むことに成功した。

「げほっ!」

と思ったがすぐにナナメが吐き出してしまった。

「しょうがないな」

ヤナギは薬を自分の口に含んでナナメにマウストゥマウスで飲み込ませた。

卓斗は思いがけず至近距離で少女同士のマウストゥマウスを目の当たりにすることになり、ナナメの身体を押さえながらも気まずそうに目を逸らした。

ナナメの喉がこくりと鳴り薬が嚥下できたかと思った瞬間。

「オゴ、げえええええっ」

また嘔吐してしまった。

「駄目だ。飲ませてもすぐに吐き出してしまうし、薬の吸収が間に合わない。こうなったらこれを使って・・・」

ヤナギは卓斗からナナメの身体を受け取ると、さかさまにして、下着をずらし、漏斗を使って肛門から薬を注入し始めた。

卓斗は途中で慌てて回れ右をする。

(確かに・・・アルコールも直腸からの吸収が速いとは言うがしかし・・・!)

背後のごそごそと何か苦労している物音や漏れ出る吐息や声が、非常に気になる。

(俺はここにいない!何も見てないし何も聞こえない!)

卓斗は必死に自分に暗示をかけた。

「・・・ふう。なんとか落ち着いたようだよ」

ヤナギの声に卓斗が振り向こうとした時、卓斗の身体が光りに包まれて普通のライダースーツ姿に戻った。ナナメからの魔法力供給が途切れて、変身が解除されたのだ。

供給が絶えても解除までに多少猶予があるのはありがたい。即時に戦闘力が落ちてしまっては危機を脱することができないかもしれない。

確かに残存した魔法力で多少ナナメ本人から離れていても行動可能であった。そんなことを考えながら卓斗は平常心を取り戻そうとしていた。

卓斗はヘルメットを外し、ナナメの表情が安らかになった寝顔を拭って、吐しゃ物を除いてあげた。

「助かった。俺の名は白銀卓斗」

そしてヤナギに向き直り、深々と頭を下げた。

「ああ、そっちのことは聞いているよ。こっちもナナメ氏とは知らない仲じゃないからね。あ、こっちのことはヤナギちゃんと呼んでくれたまえ」

「わかった。ヤナギ・・・さん」

「さて、あの蜂魔の大群をどうしたものかね」

「まだ残っているのか!」

「うーん、あれは魔法で無尽蔵に生み出される兵隊みたいなものだね。どうやらここにその生産システムがあるみたいだ」

「あの目玉の塊か!」

「まずはナナメ氏をもっと安全な場所に移したいところだね・・・」



「さあ、役者はそろいつつあるぜ」

「一体君の目的はなんなんだい」

「まずはこれだな、吾輩が仕組んだ通り、お前たちは最後のピースを埋め違えた」

龍之介は壊れてしまったモニターを指し示した。

「そうだ、ジンギレイチチュウシンコウテイ・システムは、不発になる・・・!」



どこまでも真っ白な道を歩いている。道ですらない。目の前が全て、真っ白。

車のタイヤ跡がうっすらあるとまだ歩きやすいが途切れてしまう。すると靴の中に雪が入ってくるのを我慢して雪を漕いで進まなくてはならない。

左右には軽く自分の身長の2倍もある雪山ばかり。

「横山君の家にゲームソフト返しに行ってくるから!」

子供の頃の祐太郎、吹雪の中友達の家を目指して歩いた。そんな急ぐ用事だったわけじゃない。母と喧嘩をして家を飛び出したのだ。

そんな大した内容ではなかったし、母も悪くないのはわかっていた。でも気まずくて天気の悪い中家を出て心配させたいと子供じみた考えだったのだ。

手袋の中の指先が冷たくて、手袋に唇をくっつけて息を吹き込む。そのたびに少し温かくなるがまたすぐに冷えてしまう。だから、歩きながら何度も息を吹き込む。つま先も冷たいが、さすがにそこに息は吹きかけられない。心細くなり、引き返そうかと思ってしまう。

いやいやと首を振り、また前へ進む。すぐに自分の意地を曲げて逃げ帰るなんてかっこ悪い。

ひたすら、真っ白の中を歩いている。歩いていた?これは、子供のころの記憶?

では、今この目の前の真っ白い景色はいったい・・・

雪の上を歩いていると思えばそうとも感じられるし、ふわふわした雲の上のようでもあった。雲の上を歩いたことは無かったがそういうイメージということだ。

何しろ全てが真っ白で、状況の判断がつかない・・・

どれくらい歩いていたのか、急に目の前に大きな生き物が現れた。雪山ではなかったが全長はナナメの二倍はあったかもしれない。

(ドラゴン!?みたいな・・・)

その姿は祐太郎がゲームや漫画で見たドラゴンのようであった。が、それよりも特に顔が、人間に近いような気がした。人間とは明らかに異質ではあるが。その異質さは、かつて漫画喫茶で戦った夜長姫に似ていたかもしれなかった。

身体は鱗に覆われて、背中には羽が生え、腕も眼も乳房も人間とは数が違う。普段の祐太郎であれば声をあげて恐れ慄(おのの)いていたかもしれないが、今はなぜか落ち着いていた。不思議と懐かしい匂いがしたからかもしれない。

目の前の生き物と目が合った。

「こ、こんにちは・・・」

握手をしようと(?)ナナメはおずおずと手を差し出す。相手も応じてか手を差し出し、お互いの手が触れる。

(あたたかい・・・)

その手はまるで象の皮膚がそうであるかのようにごつごつとして固かったが確かに血が通っていて熱を持っていた。どれくらいそうしていたか、ナナメは言葉を交わすでもなく、謎の生き物とずっと手をつないでいた。不思議とその手を離しがたい気持ちになっていた。

その顔の作りから表情は正確には判らなかったが、辛うじて穏やかな光をたたえているようにに見えるまなざしから、ドラゴンもどきもナナメに対して同じく親しみを感じているような気がした。

が、おもむろに生物の身体が光り始め、空中に浮いていく。ついにはナナメの手を離れ、その巨体がナナメに向かって飛んでくる。

「うわわわわわわっ!?」

ナナメはぶつかると思って慌て、尻もちをついてしまったが、ドラゴンもどきは光の奔流となってナナメの身体の中に吸い込まれていく。

「わわわーわわーわわ!!」

どちらにせよ慌てふためくナナメであったがどうすることもできない。

(身体が・・・熱い!!)


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