第11章 這い寄るピンチ!大いなる使者(2)

第11章 這い寄るピンチ!大いなる使者(2)


登場人物紹介

七芽(しちがや)祐太郎(14) 魔法少女にされてしまうオデコ少年。

白銀卓斗(16) 祐太郎の先輩。眼鏡男子。

須賀栞(14) 祐太郎が気になっていたクラスメイト。中学生にしてはおっぱいが大きい。 

武者小路秋継(30?) 祐太郎を魔法少女にした元凶。変態紳士。


2.TURN OVER

「ねえ兄さん、今日ラボの見学に行ってもいい?」

放課後、学校を出るところで祐太郎は隆兵に呼び止められた。

「博士に呼ばれてるから『魔特』には行くけど・・・うん、博士に頼んでみるね」

「ありがとう!」

「隆兵君もおにぎりありがとうね、美味しかったよ」

(とはいえ『魔特』って結構機密の塊みたいなところだからね・・・大丈夫かな?)



「勿論かまわないさ!他でもない祐太郎君の・・・弟君の頼みだからね!祐太郎君にとって弟ということは僕にとっても弟ということさ、むしろ息子と言ってもいいね!」

「違います」

「特別に社会科見学ルートを作ったよ!三本木隊員にガイドしてもらおうね!」

「それについてはありがとうございます」

(こんなに怪しげなラボなのに一般?の人に見せてもいい見学ルートをすぐさま準備できるなんてやっぱり博士はすごいね)

「そろそろ小腹が空いてくる時間だからね!お弁当も用意したよ!簡単なサンドイッチだけどね!祐太郎君の分もあるよ。どうぞ召し上がれ!」

博士は隆兵に童話の登場人物が持つような可愛らしいバスケットを渡した。

ソファに座っている祐太郎には、優雅にサンドイッチが盛りつけられた皿をルームサービスワゴンから取り、無駄に優美に回りながらサーブする。

祐太郎は空想上の上流階級の世界に出てくる執事のようだと思った。

「わぁい、いただきます。

あ、目玉焼きがはさまってる~。あ!両面焼いてある!」

「パンにはさむからね、ターンオーバーで焼かせてもらったよ!何を隠そう今まで寝食を忘れて研究していたものだからね!私たちも遅いランチをいただくところだったのさっ!」

「じゃあ兄さん行ってきまーす」

「またあとでねー」

ガイドさんの格好をした三本木隊員に連れられて、隆兵は部屋を出て行った。

三本木隊員の表情は大真面目であった。おそらく博士に強要された扮装なのであろう。

「それで博士今日のご用件はなんですか?」

「そう!朗報だよ!この天才がまた新たなる魔法を発明したんだ。ジンギレイチチュウシンコウテイシステムに加えて、魔法少女ナナメ君自身の戦闘力を上げる魔法『コマンド・フュージョン』!これはMIDの力を取り込む魔法だよ」

「MIDの力を!?どうやって?」

「協力してもらうんだよ。MIDに」

「そんなことしてくれるMIDなんて・・・」

「例えばマッミーナさんの魔法を浴びて無害化、しかも喋れるようになったグレムリン型。ナナメ君が保護してフレイムマスター型撃破の役に立ってくれたファイヤスターター型を、活動しやすいように魔法のぬいぐるみのなかに閉じ込めた。そして、ヤナギ君の魔法の氷の中でMPの大半を抽出された夜長姫」

「夜長姫ぇ!?あんな強いMIDを自由にさせたら危ないですよねえ!!」

「さあ、ナナメ君ならどのMIDとフュージョンできそうかなあ~?スィンキング・タアーイム♪チャッ、チャチャラ~、チャッチャッチャチャラ~」

優雅なステップで踊りながらチクタクと時を刻む博士になぜか焦らされるナナメ。

「ええええっ、そんな感じなんですか!?辛うじて大丈夫そうなのってあの光の小人さんくらいなんじゃあ――」

「そう思って全員用意いたしましたっ!!」

「なんでええええ!?」

博士がカーテンを勢いよく開くと、グレムリン型、ぬいぐるみ、肌が浅黒く耳の尖った幼女が並んで立っていた。

「え?この子が夜長姫!?」

「何を見下ろしておる、頭が高いわ」

「いえ、見下ろそうとしているわけではないのですが随分と可愛いサイズになって――あ痛っ!」

夜長姫(幼女)に思い切り足を踏まれて悲鳴を上げるナナメ。

「ナナメ氏~、お姫(ひ)いさんには逆らわん方がええと思いまっせ!」

「え、グレムリン型ってそんな喋り方なの!?」

「そないな堅苦しい呼び方嫌やわあ、親しみを込めてぎゅっと短く、ぐれリンって呼んでおくんなはれ~」

「うん、そんな短くはなってないよね!そしてなんなのこのコミュ力!でも僕が初めて出会ったMIDだからって捕獲する時に危ない目に遭わせてごめんね」

「何をおっしゃるうさぎさん!あんさんワイの命の恩人やでえ!

そしてママさんの魔法の力でワイは正義と知性に目覚めたんや!なんでも手伝わしていただきまっせ」

話し方の異様な馴れ馴れしさに加えて、よくよく見れば、初めて遭遇した時の狂暴そうな顔つきや雰囲気とは一変して毒気を抜かれたようになっている。

そういえばグレムリン型が脱走しかけた時に真実那ママが魔法少女に変身して吹き飛ばしたという事件があった。

「ほんま、あん時は堪忍やで~。ワイもこっちに迷い込んだ途端理素(リソー)が薄うて苦しうてひもじうて、パニックなってもうたんや~」

「うーむ、MIDの中には、自分の意思と関わらずこちらの世界に来て助けを必要としているものも少なくないのかもしれないねっ!」

「いつまで妾(わらわ)抜きで話をしておる!」

「あ痛い!」

先ほどとは逆の足を踏まれて涙目になるナナメ。

「おぬしらのような下賤の生き物など、妾の魔法で絶滅させることも容易いのだぞ?」

「ひいいいいいっ!」

「それがね、夜長君は『魔法で人間を傷つけることができない』という魔法の契約を結んじゃってるんだよね!あとMPもごっそり奪われちゃったおかげでこんなに縮んじゃったってわけさ!こう見えて年齢はこちらでいう50歳を超えているらしいよ!これぞ合法ロリータの爆誕だねっ!」

「妾の理素(リソー)を返さんか!そして妾のないすばでえを戻せえ!」

逆上して暴れる夜長姫(幼女)を「はっはっは小さい小さい」と笑いながら片手で押さえつける博士。

あの冷酷で尊大で、強力で多彩な魔法を次々と使いこなす最強のMIDをこうも容易く手玉にとるとは、武者小路秋継、やはりこの人は大物だと認めざるを得ないナナメであった。

その間に、二本足と腕の生えたアザラシ顔のぬいぐるみが、とてとてとナナメの元に歩いてきて、痛がるナナメの足をなでなでしてくれる。

「か、可愛いい~~!君、光の小人君?」

情報量の多さに理解と感情が追い付かないナナメであったが、唯一の癒しを見つけてほんわかとするのであった。現実逃避と言ってもよかった。

「まあ今日は面通し程度とでも思ってくれていいよ、本題(メインディッシュ)はジンギレイチ・チュウシンコウテイ・システムの完成の方だよ!私としたことが期待のあまり胸のたかまりを抑えられないね!思わずコマンド・フュージョンの紹介でワンクッション置いてしまったよ!お茶を濁したなんて言うつもりはないよ。コマンド・フュージョンも画期的かつ大きな戦力になり得る計画だからね!魔法少女ナナメとMIDの力のコラボレーション!その化学反応次第では想像以上の力を発揮できるかもしれないよ!うむ。ナナメ君の準備もできたようだね!それでは実験室に行こうじゃないか!」

と博士がしゃべり続けている間にあっさりと魔法少女化されてしまった祐太郎。今はナナメ。

では博士は一体誰に向けて話していたのだろうか?



ナナメは魔法の力を計測したり練習したりするための実験室へ。そして博士は強化ガラスごしのモニタールームへ。

大きなモニターの一つにはジンギレイチ・チュウシンコウテイがわかりやすくアイコン化され、動画や画像のサムネイルも並んでいる。

ナナメとしては目を逸らしたい内容が目白押しである。特に『チュー』の項目は直視できない。

(うう・・・意識しないようにと思っても顔が火照ってきちゃうよ・・・そういえば今日は白銀先輩ラボに来るのかな?)

〈お待たせしたね!遂にジンギレイチ・チュウシンコウテイ・システムの完成のお披露目だよ!〉

スピーカーごしに博士の興奮した声が聞こえてくる。

モニタールームではほかの研究職員たちが沸いているようだった。

<『神』のような才能を持った私との邂逅、あまりにも全能である私への懐『疑』。虚無感によるライフ『零(ゼロ)』。少女であるがゆえの羞『恥』。白銀卓斗君との『チュー』。親バレの『親』。そして・・・男の子の時はクラスメイトに、女の子の時は卓斗君に『恋う』心!>

「え、ちょ、なんですかそれ~!」

〈そして最後のピースは『弟(テイ)』。隆兵君だ〉

大きなモニターに映し出された8つのアイコンが、全て光り輝く。

〈神疑零恥チュー親恋う弟システム、インストール!〉

ナナメの身体からも淡い光が溢れてくる。

(なんだか凄い魔法が使えそうな気がするよ!)

〈ナナメのMP値、インストール前と比べて・・・え?〉

スピーカーごしの研究員の声が動揺している。何かトラブルだろうか。

〈ほぼ変わっていません!〉

〈なんだって!?〉「えっ!?」

その時大きなモニターにエラーを示すポップアップウインドウが表示された。最新鋭の設備にやけにクラシカルなウインドウが違和感を放っていた。

〈なんだこれは・・・!〉

ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR ERROR

ふざけたウインドウが画面を埋め尽くし、コンピューターは操作を受け付けない。

「落ちる時は、あっという間さ」

その人物は、最初からその部屋にいたので、誰も注意を払わなかった。

「独楽(こま)のようにくるくるまわって、暗の底へ、まっさかさま」

だから、唐突にそこに現れたように見えたのだ。

「え・・・なんで?なんでここに――」




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