第10章 這い寄るピンチ!大いなる使者(1)

第10章 這い寄るピンチ!大いなる使者(1)


登場人物紹介

七芽(しちがや)祐太郎(14) 魔法少女にされてしまうオデコ少年。

白銀卓斗(16) 祐太郎の先輩。眼鏡男子。

須賀栞(14) 祐太郎が気になっていたクラスメイト。中学生にしてはおっぱいが大きい。 

武者小路秋継(30?) 祐太郎を魔法少女にした元凶。変態紳士。


前回までの魔法少女ナナメ!

中学二年生七芽祐太郎は『魔法生物及び現象による災害防止対策特務機関』通称『魔特』の武者小路博士に魔法適正を見出され、怪しげな科学の力で魔法少女ナナメにされてしまい、魔法でしか対処できないMIDという脅威と戦っている。

気になる女子須賀栞はやたら事件に巻き込まれ、憧れの先輩白銀卓斗には正体を隠すためにキスしてごまかす羽目になる。ついでにいうと母真実那は初代魔法少女。とてもつらい。

須賀栞絡みで仲良くなった女子山本梢はビジターだった上に人間の身体を失い桜の樹になってしまった。かなりせつない。


1. Usual Morning

「デコ太郎ちゃん、もうそろそろ起きないと、学校遅刻しちゃうわよ~」

「ん~・・・今何時・・・」

「7時45分よ」

「ええっ!?もっと早く起こしてよ!5分でしたくしないと間に合わないじゃない!!」

飛び起きる祐太郎。テンパるあまり理不尽なことを母に言ってしまう。

「だってアレで疲れてるみたいだったし・・・」

母真実那の理解と優しさはありがたかったが、祐太郎は大慌てで着替えて階段を下りていった。

「あらあらまあまあ」

「おおう、ネウ君!」

「ごめんなさいお父さん!」

階段を降り切ったところで父宏実とぶつかりそうになる。ぎりぎりでかわしたはずだったが宏実の立派なお腹の肉にぶつかってしまった。

「落ち着いて、ひとつしか年違わないっていってもお兄ちゃんでしょ。弟の方はちゃんと起きて支度もできてるよ」

「ほら兄さん、朝ご飯食べてる暇ないでしょ。おにぎりにしておいたから。おかずのザンギも中につめといたよ」

「・・・隆平君!何それすごくおいしそう!ありがとう早速行こう!」

「はいはい、じゃお父さんお母さん、いってきまーす」

「いってきまーす!」

二人は仲良く並んで走りながら登校するのであった。



そして祐太郎の所属する大波中学校2-C教室。

「ふあ~、間に合って良かった~」

額の汗を拭ってぎりぎりのタイミングで席に着く祐太郎。

「今日は黒田と山本が欠席だな」

担任石巻の言葉にまたしてもドキリとしてしまう。

山本梢がいなくなってしまったことに未だ慣れることができない。今後、武者小路家の根回しによって転校したことにされるはずである。

しばらくは、祐太郎の胸の奥で、治りきっていない傷口のようにズキズキジクジクと痛み続けるだろう。だが、梢は自分の運命と意思によって人間としての最期を受け入れたのだ。祐太郎だけがウジウジしているわけにはいかない。


「・・・浮かない顔だね」

「ヤナギさん・・・」

余計なことを考えているうちに今日も集中できずに午前中の授業が終わってしまっていた。

祐太郎は無駄に考え込むよりはと昼休みにヤナギと二人きりで話をすることにした。

「もしかして、あの日ヤナギさんがピロになにか・・・した?」

「・・・須賀氏の愛犬がどうかしたのかい?」

ヤナギは知らないふりをしようとしている。祐太郎はそう思った。

「ヤナギさん・・・須賀さんの飼ってる犬の名前なんて知ってたの?」

「・・・聞いていたかもしれないよ?」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・仕方ないね、やっぱり七芽(しちがや)氏相手だとどうも油断させられてしまうね」

「じゃあやっぱり!ヤナギさんが魔法でピロを操って須賀さんを連れてきてくれたんだね」

「・・・操ったなんて人聞きの悪い、ちょっとピロにお願いをしただけだよ」

山本梢が桜の樹になった日、夜明け前にも関わらず須賀栞を連れ出し、祐太郎にひき逢わせ、梢の元に導いたのはヤナギだったのである。

栞を連れて行ったことが、栞を想い、栞を護った梢のために少しはなったんじゃないかと祐太郎は思っていた。その気持ちを共有できる相手がいて、彼の心は少し軽くなった。

「・・・山本氏のその時の言葉を、そのまま伝えるね」

「えっ!?ヤナギさん樹になった山本さんと喋れるの?」

次々と新しい事実がわかり、祐太郎はやはりヤナギと話をして良かったと思った。

「『むっはーっ!須賀ちゃんに抱きしめられてるーっ!須賀ちゃんの立派なおっぱい、あたってるーっ!ううん、これからはあえてしおりんって呼ぶね、いいよね?しおりんパイパイ、最高―っ!いやーっ、これだけでも樹になって良かったよね!あ・・・いけない、興奮し過ぎて樹液出ちゃう~!私の樹液でしおりんびちょんこにしちゃうらめええええ!!えへ、えっへっへっへ』・・・だって。・・・む、どうしたんだい?」

祐太郎はドン引きしていた。

「うん、山本さんが憑依してるみたいで怖かっただけ。ヤナギさんモノマネ上手なんだね」

「・・・今度は七芽氏の真似もして見せようか」

「結構ですっ!」

いつしか祐太郎の沈んだ気持ちはいつもどおりに浮上してきていた。



「やあ、ななめ今日は顔色悪くないね?」

午後は家庭科の授業で、被服室でそれぞれエプロンを作っていた。

作業をしながら話しかけてきたのはクラスメイトの黒羽操(くろはそう)。祐太郎と同じくらいの低身長系男子だ。

「え、そう?」

「最近ななめの表情が暗かったから、気にはなっていたんだ」

「そっか・・・自分ではそんなつもりなかったけど、心配させてごめんね、ありがとう」

「おーう!俺も心配してたんだぜ?感謝して、もっとして!」

「サノ・・・いつでもどこでも僕の話に入ってくるのはやめてくれって何度言ったら」

「あらやだ、ごめんなちゃあい、アタシもエプロンずぇんずぇんできてないもんですからあ、真面目にやるわあ~」

操の親友?相方?高身長系男子左野準一郎はぶりっ子オカマのポーズでおどけながら二人の作業していたテーブルを離れていく。

操に対しては遠慮もデリカシーも無いが空気は読める爽やか男。それが左野準一郎である。

「双葉!須賀でもいいから俺にエプロン作りを教えてくれ~」

何とも言えない表情で準一郎が去るのを見届けた操が眼鏡をくいと上げる。

「やれやれ、ようやく本題に入れるよ。

2つ上の白銀先輩って、七芽と仲良かったよね。今翠鈴高校で姉さんと同級生でさ、最近なんかちょっとおかしいらしいんだ」

「うん、今でもたまに会うよ。で、おかしいってどういうこと!?」

「ああ、なんか急に色んな部活荒らししてるっていうか、特に格闘技の部活を渡り歩いているみたいなんだよ。短期間だけ在籍して、はじめは大人しく基礎から学ぶんだけど、ある時急に上級者に挑んで、倒しちゃっては去っていくらしいんだ。漫画みたいだろ」

「えっ!?(先輩・・・強くなるためにそんなことしてるのかな・・・ナナメのために?危ないことしたり怪我したりしてないよね・・・)」



一方その頃当の白銀卓斗は――

「白銀ちゃん、他の部も荒らしてんだって?いよいよ剣道部も見限る気かい?」

「いえ、そんなことは。単純に士貴先輩と力比べがしたい。それだけです」

「おっほ!いーいじゃん真っすぐで!それじゃあいっちょ揉んでやるよ!」

剣道。正直卓斗には今まで馴染みも無かったし、映画「トランスポーター2」の敵役が演じるトンデモ剣道くらいしか見たことが無かった。

剣道部に所属している同級生の試合も見たことはなかったし、おおよそ実戦とはかけ離れた『競技』だと思って多少見くびっていたところは否めなかった。

しかし武道家として己を律する心、礼を重んじ相手を尊重し認める強さ、お互い武器を持った状態での間合い、一触即発の呼吸・・・学べることは多かった。今ではそう思っていた。

士貴(しき) 洸大(こうた)。この先輩の実力は部では二番手。だが部長をも負かすことすらある素質は持っている。しかし素行はそんなに良くはない。故に、卓斗の無謀とも思える挑戦も受けてくれる。

(ありがたい・・・)

「キエエエエッ!キエッ!キエッ!」

洸大の気迫のこもった声がこだまする。

上段の構えからの面、面、面。こちらを格下と見て力を測ることも無く派手な技ばかり・・・しかも腕につられて腰が浮いてしまっているせいで、足をうまく使えていない。いや、使う気も無いのか。

すんでの所で受け、逸らし、かわす。

「キエエッ!」

しびれを切らして洸大は竹刀を中段に構え直した。普通であれば途中で構えを変えるなどそう上手くいくものではない。だが洸大にはそれを可能にする技量と自信があった。

握り手が沈む。必殺の突きを繰り出すつもりだろう。

「キエ――」

「イヤアアアアッ!」

自分の喉元を狙う竹刀を叩き落し、何が起きたのか理解できないといった表情をしているであろう相手の面を真上から打ち込む。

バシイイン!

「一本!」

洸大は尻もちをつき倒れこむ。周りの剣道部員からはどよめきが生まれる。

(駄目だ。予測が簡単についてしまうようでは。相手の攻撃を見てから判断して、反応できるくらいじゃないと・・・)

「ありがとうございます。お世話になりました」

その日、卓斗は剣道部を辞めた。



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