第9章 閑話「ナイト&ビースト」

第9章 閑話「ナイト&ビースト」


登場人物紹介

七芽祐太郎(14) 魔法少女にされてしまうオデコ少年。

白銀卓斗(16) 祐太郎の先輩。眼鏡男子。

須賀栞(14) 祐太郎が気になっていたクラスメイト。中学生にしてはおっぱいが大きい。 

武者小路秋継(30?) 祐太郎を魔法少女にした元凶。変態紳士。


前回までの魔法少女ナナメ!

中学二年生七芽祐太郎は『魔法生物及び現象による災害防止対策特務機関』通称『魔特』の武者小路博士に魔法適正を見出され、怪しげな科学の力で魔法少女ナナメにされてしまい、魔法でしか対処できないMIDという脅威と戦っている。

気になる女子須賀栞はやたら事件に巻き込まれ、憧れの先輩白銀卓斗には正体を隠すためにキスしてごまかす羽目になる。ついでにいうと母真実那は初代魔法少女。とてもつらい。

須賀栞絡みで仲良くなった女子山本梢はビジターだった上に人間の身体を失い桜の樹になってしまった。かなりせつない。


1. 真夜中の散歩者

「あーあ、こんな時間になっちゃったよ・・・」

深夜の住宅街に、場違いな姿の少女。元々は少年なのだが今は魔法少女、ナナメである。

今日も今日とてなんとかMIDを確保したのだが、MIDを追跡する間に『魔特』の隊員とはぐれてしまった。そして今は合流地点に向かっている。

危険なMIDを追っている間は無我夢中で魔法力も最大出力で全速力で追っかけたが、今はMP節約のためにとぼとぼと歩いている。

「とぼとぼ徒歩でトホホ・・・なんちゃって」

雲の切れ間から満月が顔を出し、耳と尻尾のついた黒猫魔法少女ナナメのシルエットを照らし出す。

「コマンド・ブラックキャットが使えるようになっていて助かったよね・・・あんな姿じゃ人目が無いって言ったっておいそれとお外を歩けないよ」

なんと今宵のMIDは、粘液のような身体を持ち、ナナメの服だけを溶かす消化液で攻撃してきたのである。武者小路博士が居合わせたら大興奮して成分を調べて実用化しそうなものである。

ナナメは一瞬夜長姫の仕掛けた罠のトラウマがよぎり足がすくんだが、なんとか魔法のスティックの中にMIDを閉じ込めることに成功した。

しかしいつものピンクのフリフリ魔法少女衣装はボロボロの無惨な姿になってしまったので魔法で姿を変えたのである。

「夜の、匂いがする・・・」

月明かりの下、黒猫に扮して一人歩くナナメ(祐太郎)。

市内の、自転車で来れる範囲の住宅街であったが、なんだか知らない土地に来たような感覚であった。

「信号・・・赤だけど、渡っちゃおうかな?」

ひゅるひゅるひゅるひゅる。

虫の鳴く音くらいしかこの世界には無い。

車どころか、人の気配すら無い街。ナナメは、人間のいなくなった世界に来てしまったような錯覚を覚えた。

そして、普段であれば決してしないような信号無視をしてみようという気になった。

もう一度、周りを見渡してみる。やはり、誰もいない。電気を点けている家すらほとんど無い。

誰にも見られないし誰にも影響を与えない。

ナナメは、赤信号のままの横断歩道を渡った。少し後ろめたくてドキドキした。

それから、小走りで合流地点へと向かった。大事そうに魔法の杖を抱えながら。



2.玄関先の大混沌

「このたびは夜遅くまで祐太郎君を拘束してしまって誠に遺憾で申し訳なく思います。流石に今回は私自らお詫びに来た次第だよ!」

「ふわ~あ、アッキ君もお疲れ様ね」

翌朝、武者小路邸のラボに泊まった祐太郎を連れて博士が七芽宅にやってきたのだった。菓子折りを持って。

「博士、うちのお母さんのネグリジェ姿をガン見するのやめてください!」

「私は気にしないわよ~」

幼いころから旧知の仲なので、母真実那は博士に対して気安い。

祐太郎の父宏実が顔色を変えて真実那と博士の間に割って入る。まずお腹の肉を隙間に入れてぐりぐりと身体全体を押し込む。

「ママはもっと気にして!しかも大事な息子のあられもない娘姿まで見られて――」

「お父さん!?今なんて?」

「あ――」

「なんでお父さんが僕が昨日恥ずかしい目にあったことを知っているの?」

宏実がしまったという顔をする。

「そこは!私から説明してあげようか!」

そこに博士が割り込んでくる。

「マッミーナさんが生まれつき持つ魔法少女因子はね!胎内で育てられた祐太郎君には勿論引き継がれているよね!」

「はい・・・だから僕にもお母さんのような魔法少女適正が」

「そう!だがしかし!魔法少女因子はそれだけでなく後天的にも引き継がれうるのだよ!長年一緒に暮らしているとか体液交換を定期的にしているとかね!」

「思春期の少年の前でそういうこと言うのやめてください!待ってください、え?お父さんにも?魔法少女因子がってこと!?」

祐太郎は本当に立ち眩みがして倒れそうになり、なんとか踏みとどまった。

なんてことだ。まさか、親子そろって魔法少女に・・・!?

「とんだ変態一家だよう!」

「許されるならば!私にもマッミーナさんの魔法少女因子をいただけないかな!体液交換で!」

七芽家の玄関先は混沌の坩堝と化していた。

「パパ、もう埒が明かないから変身してもらった方が早いわね」

「え、ママ待っ――」

「マミタルマミタルマジカルママドール!(二倍速)」

「うわあっ!」

急に母真実那が魔法をかけて父宏実はピンクの煙に包まれた。

息子祐太郎はもうどうしていいかわからなかった。

そして、ぽかんと口を開けながら煙が晴れていくのを眺めているしかできないのだった。

(ああ・・・自分が魔法少女にされちゃうなんて辛くって、お母さんのパツパツキツキツの魔法少女姿見せられて辛くって、この上お父さんの魔法少女姿を見せられたら僕、心が折れちゃうかも・・・)

そして、煙の中から現れたのは中年太りした魔法少女姿のおじさん――ではなく。

「わあっ!モフモフだあ!しかも羽が生えてる!!」

祐太郎の目はあっという間にキラキラと輝きを取り戻した。

そこに現れたのは馬や牛くらいの大きさで、やや背は低い四つ足の獣で、背中には大きな翼を携えている。

大人一人が背中に乗るくらいは容易そうであった。

「グリフォンみたいだあ!ねえ、お父さんなの?飛べるの?」

「そんなかっこいい呼び方があるのねえ。ママは『ブタクシー』って呼んでたわ」

「悪口っ!ブタさんみたいなのは変身前だけで今は全然ブタさんじゃないよ!」

〈ネウ君、それも充分悪口だよ・・・〉

「シャベッタアアアア!!」

「いやはや、もう収集がつかないね。はっはっは。実はご両親揃って、心配でナナメ君の戦いを見守っていたんだよ」

いつもは場を引っ掻き回す側の博士も、さすがに説明役に回る。

「そ、そうだったんですね・・・」

いつもぎりぎりの戦いを強いられていた祐太郎としては見てないで助けてくれればいいのにという気もしないではない。

「いつもじゃないのよ、二人そろって行ける時だけね」

〈だってネウ太君のことが心配で心配で・・・〉

「まさに草葉の陰から見守るというやつだね!」

〈死んでません!〉

少女以外にとって魔法少女因子というものは通常、守護者、使い魔、マスコットとして発現するらしかった。

祐太郎はその日父のモフモフを堪能させてもらったのだった。


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