第8章 恋する桜の森の満開の下2
2.勇者の証
翌日の放課後、山本梢が祐太郎の席の前まで来て神妙な面持ちで「相談がある」と告げた。
「学校じゃ邪魔が入るから、外で聞いてくれる?」
「うん、いいけど」
梢についていって10分くらい歩いただろうか、大きな公園をつながる道に桜並木とベンチがある。
散歩やジョギングにも人気のスポットだ。今は人気(ひとけ)はないが。
その10分あまりの間だが、梢が振り回すのにちょうどいい枝を見つけたり、猫を見つけたと言ったりして急に走り出すので、その都度祐太郎も強制的に走らされくたくたになっていた。
「あ、ちょっと勇者の剣持ってて、麦茶あるから」
「勇者の剣?あ、これね・・・」
と言ってここまで持ってきた枝を祐太郎に手渡して、鞄の中から可愛らしい水筒入れに包まれたステンレスの魔法瓶を取り出し、カップになるふたに注いで、「勇者の剣」と引き換えに祐太郎に差し出した
「ありがとう・・・はぁ、はぁ、北海道とはいえ、すっかり暖かくなったし、桜の花も、散っちゃったね・・・はぁ、はぁ」
「だらしないなあ~、若者が~」
「少しは、体力、ついたつもり、だったんだけどね・・・はぁ、はぁ」
(あれ、こんなこと前にもあったなあ・・・)
「え?何かスポーツ始めたの?」
「あ!えっとぉ・・・学校の外で、ゲートボール部を~・・・それより!山本さんの方が体力無限説あるよね!」
「そんなわけ。あ、私も麦茶飲む!」
と言って梢はカップを受け取ると、自分でお茶を注いで一気に飲み干した。
「あ、ちょっ、(間接キッス・・・)」
「ん?間接ちゅーになっちゃった?ごめんね、ななめ君男子っぽくないから気にならなかったわー」
「余計ひどくない?山本さんは須賀さんが好きってわかってるからいーけど・・・・」
あははと笑いながら、梢は「勇者の剣」をフェンシングのように構えて、舞い落ちる葉っぱを切り付ける。
「勇者の剣ってレイピアだったんだ・・・山本さんって、フェンシングできるの?」
「テレビで見たことあるだけー」
なんだそれはと力が抜けてしまう祐太郎だったが、梢の剣の扱いは見様見真似にしてはなかなか様になっていて、ひらひらと不規則に落ちる葉っぱを幾度か捉えていた。
(山本さん運動神経いいからね・・・葉っぱの動きをうまく追えるのは動体視力もいいってことかな。現役テニス部だっけ)
「ごめんごめん、夢中になっちゃって。それで須賀ちゃんなんだけどね――」
一人遊びの世界から梢が戻ってきて、それからはしばらく二人でベンチに座り須賀トークに花を咲かせた。
「――それでね、須賀ちゃんと色んな所でお散歩できたらなーって」
「それって、友達同士でもできるんじゃない?皆でワイワイとか」
「そうだね・・・でも、理想は、二人きりで手を繋いでとか・・・あとは両手で、わしゃわしゃわしゃーってしてもらいたいかな。全力で私だけをかまってくれて、全身くすぐり倒されて、私もやめてー!とか、ぎゃははは!とか、全力でリアクションするの。そして、二人で疲れ果てて、並んで眠るの」
祐太郎は赤面した。本当に自分が聞いていていいものかという気になった。
「あとね・・・内緒だけど、正直言っちゃうと、須賀ちゃんには、色々命令してもらいたいの。その指示に私がはい!はい!って答えるの。色々技も仕込んでもらいたいの!お手、おかわり、おちん――」
「それ以上いけない!」
「あ、ごめん。ちょっと欲望を赤裸々に出し過ぎちゃったね。ななめ君も思春期の男の子なのにね。ごめんね」
「うん、大丈夫。そろそろ行こうか」
「そうだね!付き合ってもらってありがとね。あ、水筒しまうの忘れてた」
梢が一度は持ち上げた鞄を下ろして水筒に手を伸ばし、その間にバランスを崩した鞄がベンチの下に落ちてしまう。
「「あ。」」
二人同時に落下する鞄に手を伸ばしたがあえなく、地面に落ちた梢の鞄からは中身が半分くらい出て来てしまっていた。
その中に、何故か革製の首輪が入っていた。
「これはね!あの、何のためっていったら念のためっていうか、万が一須賀ちゃんが私に付けてくれるならって持ち歩いているだけで、お守りみたいなものよ!男子がコンドーム財布に入れてるみたいな?」
「そ、そうなの?」
「そうじゃないの?わかんないけど(笑)」
祐太郎は梢がそんなSMグッズめいたものを鞄に入れているのと同じくらい、自分と同じ年代の男子が避妊具を持ち歩いていることに衝撃を受けていた。
「えっと・・・、山本さんは中間テスト、大丈夫?」
祐太郎は思わず話題を逸らした。不自然だったが仕方がなかった。
「んー?勉強してるかってこと?」
「そう。僕、テスト前には3つの封印をするんだ。最初にゲームを封印、次は漫画を封印、最後にはテレビを見るのも封印するんだ」
「私はギリギリまで遊んじゃう~。でも大丈夫!私、やればできる梢『YDK』だから!」
「ずるいなあ、山本さんは勉強も運動もなんでもできるから・・・」
「なんでもはできないって!好きな子に告白する勇気すら持てないわけですし!」
「それは僕も同じだし・・・」
「ええっ!?ななめ君好きな人いたの?くわしくくわしく」
「なんでもない!だめ!だめです!今日はもう終わり!」
と逃げ出す祐太郎であったが足の速さの差ですぐに梢に捕まってしまうのだった。
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