第8章 恋する桜の森の満開の下1
第八章 恋する桜の森の満開の下
目次
1.さわやか2-C
2.勇者の証
3.風雲Qを告げる
4.犬と桜
登場人物紹介
七芽祐太郎(14) 魔法少女にされてしまうオデコ少年。
白銀卓斗(16) 祐太郎の先輩。眼鏡男子。マスクド・ウォリアーに変身してナナメを護る。
須賀栞(14) 祐太郎が気になっていたクラスメイト。中学生にしてはおっぱいが大きい。
武者小路秋継(30?) 祐太郎を魔法少女にした元凶。変態紳士。
1.さわやか2-C
七芽祐太郎はまれによくたまに魔法少女である。人知れず街の平穏を守るために闘っている彼も、普段はか弱い少年なのである。
「あっ、柳井さん!――わぷっ、ごめんね!」
朝の教室。久しぶりに教室に入ってくる柳井ミキの姿を見て慌てて駆け寄ろうとした祐太郎は、途中で大きな壁にぶつかってしまう。
「おいななめ、お前いつも女子にかまわれてヘラヘラしやがってよ。球技大会でも役立たずだったくせによ」
祐太郎がぶつかってしまった相手はクラスの増田聡樹だった。身体が大きく、野球部の活動で日に焼けて精悍な顔つきの男子。男は力強くあるべきだという古めかしい考えが普段の言動から見え隠れしている。
男らしくない系男子の祐太郎は目の敵にされることもあった。ちなみに聡樹には叶芽(かなめ)という双子の姉がいる。
「うっ・・・ご、ごめんよ・・・」
「女とばっかつるんでっからなよなよしてんじゃねえか?気持ち悪いんだよ」
「そんなこと・・・」
自分より身体も声も大分大きく、運動も得意な同級生にはなんだか気後れしてしまう祐太郎。だが軟派なキャラに思われるのも心外だった。実際には女子にからかわれていることの方が多いのだから。
「ちょっとやめなよ!増田君!」
そこに割って入ってきたのは山本梢だった。祐太郎より小さい身体なのに威風堂々と聡樹の前に立ちはだかり、睨めつける。
「なんだよ、ほら、やっぱり女子しか味方してくれないだろ」
体格差のせいで逆に梢に強く出ることもできない聡樹は、憎まれ口をたたくのがせいぜいだった。
「そんなことないわよ!かっちゃんだって真君だって幼稚園からの仲だし、ショーテン君にも可愛がられてるし、ちびっこ仲間の黒羽君だっているわよ!」
「一番小さい君が言うな!」
黒羽操が抗議する。
「黒羽君がいればもれなく左野君もついてくるわ」
「いやみさおちゃんはいっつもお姉ちゃんと幼馴染のくれなとべったりだから」
「学校ではサノの方がまとわりついてるだろ!」
「にしししし」
「喜ばないでくれ!」
黒羽左野凸凹コンピのいつものやりとりに、クラス皆が集まってくる。
「まあまあ、増田氏」
最終的にフォローに入るのは安倍和也。梢の言う「かっちゃん」とは彼の事である。2年C組のサッカー小僧その2で二年チームのキャプテンを務めている。クラスではリーダー格である。
「ななめは球技大会のサッカー頑張ってたよ?球技大会はクラスが一致団結するためにやるものだろ。ななめは一生懸命にやったうえで役に立たなかったんだから仕方ない」
(えっ・・・何気に残酷な事実をつきつけられてない?)
「ちょ、キャプテン、部活ん時にはそんな優しいこと言われたこと無いぞ!!」
とサッカー小僧その1栗生真も入ってくる。
「俺が優しくして真は上手くなるのかよ」
「まあな!最強のストライカーになるからには、厳しい修行あるのみだ!イナズマドリブル~♪」
ドリブルと言いながらカズダンスと呼ばれるラテン風ステップを踏む真。
「チッ・・・あほらし」
すっかり毒気を抜かれた聡樹は、和也になだめられて去っていく。
「ありがとう、山本さん」
「本当のことを言っただけよ」
「・・・そろそろ、こっちも席についてもいいかい」
そこでようやく、教室の入り口からなかなか進めなかったヤナギが口を開いた。
「あっ!ごめんね柳井さん!また会えて良かった・・・」
「・・・どうぞそっちも、こっちのことはヤナギちゃんと呼んでくれたまえ」
「うん!わかったよ柳井さん!」「ヤナギ」「ヤナギさん・・・」
「ちょっとななめ君、須賀さんの次はヤナギちゃんにちょっかいかけてるの!?増田君の言った通りモテ男ムーブかましてくれるじゃないの!」
ヤナギちゃん久しぶりーと言いながら、先ほどとは逆に祐太郎をいじる側に回る梢。
「そんなんじゃないよ、柳井さんの体調が心配だったし」
「ヤナギ」
「ヤナギさんには色々助けてもらった恩もあったし・・・」
(主に命をね。何回もね)
「モテるっていったら、左野君とか黒羽君とかじゃないの?」
謙遜ではなく、確実に自分よりも女友達が多い二人を挙げる祐太郎。
そこにピクリと反応する山本梢。
「むしろあの二人同士が・・・怪しい・・・」
「・・・百理あるね。むしろそうであって欲しい」
お互いの顔を見合わせて、邪悪な笑みを浮かべる女子二人。
祐太郎はそこの部分に関しては聞こえなかったことにした。気づかなかったことにした。下手に首を突っ込んでどんなとばっちりがあるかもしれないのだ。
「・・・ところでそっちの方こそ大丈夫かい?山本氏」
「・・・っ!」
「?」
「だだだだ、大丈夫に決まってるじゃない!ピンピンしてますよ!じゃーねー、スタコラサッサー」
「・・・こっちは自分でスタコラサッサって言う人間を初めて見たよ」
自分で話をふっておきながらそれほど気にはしていなさそうなヤナギだったが、祐太郎は梢が一瞬見せた青い顔とあからさまな動揺した態度が気になっていた。
「白銀先輩!」
「七茅(しちがや)」
下校時。祐太郎は大波中学校卒業生であり魔法少女ナナメの協力者である白銀卓斗がジャージ姿で走っているのを見つけた。
「先輩、ランニングしてるんですか?いっつも?」
「ああ、学校の行き帰り1時間ずつくらいだがな」
「制服は・・・」
「学校に置きっぱなしだ。予備もあるしな」
「鍛えてるんですね!」
「必要だからな」
(僕が巻き込まなければ、先輩にまで危ないことさせることなかったのに・・・)
少し心が痛む祐太郎。
「あ・・・ごめんなさい、邪魔しちゃって」
「構わないさ。七芽とも久しぶりだったしな。ところで、七芽の母さんって――」
「え?お母さんがどうかしましたか?」
「いや、やっぱりいいんだ。それじゃあ、気をつけて帰るんだぞ」
「はい・・・先輩、やっぱり僕も一緒に走っていいですか?」
「え?ああ、いいんじゃないか」
卓斗は予想外という表情だったが祐太郎が気まぐれではなく真剣な様子なのを見て少し微笑んだ。
その薄くて左右対称な整った唇を見て、祐太郎はドキリとした。ナナメになった時にやむなく口づけをしてしまったことを思い出したのだ。しかも二度。
「ぼ、僕先に行きますね!先輩ここまで走って疲れてるでしょうし!」
卓斗の顔を見ていられなくて、祐太郎は走り出した。
「待て、自分にあったペース配分をしないと――」
「ぜい、ぜい・・・はあ、はあ・・・ひ、ひい・・・」
十数分後、祐太郎は息も絶え絶えになり、道端で四つん這いになっていた。
「大丈夫か七芽、自分で歩けないようなら運んでやるから」
隣に膝をついて覗き込む卓斗の予想外の顔の近さに、落ち着きかけていた祐太郎の心臓の鼓動が再び速くなる。
止まって欲しいのに次から次へと汗が湧いてきて、余計に焦る。
(ま、まさか先輩僕のことをお姫様抱っこ・・・)
今度はナナメになった時に、卓斗にお姫様抱っこされたことを思い出した。またあれをされてしまうのかと。しかも今度は男のままで。
(汗だくの身体を触られちゃうなんて恥ずかしいよお・・・)
「辛い時は意地を張っても仕方ないからな。おんぶが恥ずかしいとか言ってられないぞ」
「えっ!あっ、そうですよね(おんぶ!よく考えたら普通そうだよね・・・)」
結局卓斗は祐太郎の家まで送ってくれた。
祐太郎はおんぶを丁重に断って、落ち着いてから並んで歩いた。
「ありがとうございます!ぜひあがって、麦茶でも飲んでいってください!あ、お母さん洗濯物干してる」
「いや俺はランニングの続きがあるから!またな!」
「えっ、せんぱ――」
珍しく取り乱した様子で、卓斗は駆け足で退散してしまったのであった。
「もう見えなくなっちゃった・・・やっぱり邪魔しちゃったかな?」
「あらおかえりデコ太ちゃん、汗かいてるわね、麦茶飲む?」
「うん!」
祐太郎の気持ちはあっさり切り替わり、水分を求めて家の中へ駆け込んでいった。
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