第7章 ジンギレイチチュウシンコウテイ、新たなる力5

第7章 ジンギレイチチュウシンコウテイ、新たなる力5



5.『コウ』

武者小路邸へ撤収する車の中で、ナナメはふと思い出した。

「あっ・・・、カプセルの中の小人さん、君が最後に助けてくれたんだよね。ごめんね、君の仲間たちを皆倒してしまって・・・」

カプセルの中の光の小人はナナメに応えるように手を振る。あまり何も考えていないようだ。

揺らめく淡い光を見ながら、ナナメの意識は深く落ちて行った。


ナナメは夢を見ていた。魔法少女ナナメになってからのことを反芻するような夢だった。

天才で変態な武者小路博士。初めから怪しい人物であった。

以前も同じようにMPを使い切って動けなくなってしまったことがあった。

恥ずかしいマッサージを受けた。恥ずかしい歯の治療もされた。博士の顔が近かった。

母真実那が初代魔法少女だった。今変身すると凄くキツい姿だった。自分の魔法少女姿を見られるのとどちらがキツかっただろうか

白銀卓斗と、またキスしてしまった。お姫様抱っこされてしまった。ナナメは女の子だから、おかしくはない?嫌ではなかった?では、祐太郎は・・・

「わあああああ!」

祐太郎は目覚めると祐太郎であった。

祐太郎の身体に戻っていた。ふかふかのベッドに寝かされていた。夢の中ではナナメだったので違和感がある。なんか色々と恥ずかしい夢を見ていた気がするのであった。

「目覚めたようだね。良かったよ。一日半は寝ていたんだよ」

博士がいつになく穏やかな口調で話しかけてくる。寝起きの身体に優しい湯冷ましを用意してくれたのでゆっくりと飲み干す。そういえば祐太郎自身の身体からいい香りがする。

「MPオイルマッサージの間もまったく起きなくてね。そのままジェネティック・トランス・システムで身体をもどしてね。パジャマは僕が着せてあげたよっ!」

「そこはお母さんでも良かったですよね!?」

「役得役得」

「け、ケダモノお!そうだ白銀先輩は・・・」

「彼は肉体的損耗が激しかったのでまたしても病院で静養中だよ。またそのうち勝手に抜け出してトレーニングに行ってしまうかもしれないがね」

「えっ?」

「前回コマンド・アブソープの誤射で倒れてしまったのがね。かなり不本意だったみたいだよ。しかもその後ナナメ君が危ない目に遭ってヤナギ君に助けられただろう?それを聞いた時の悔しがりようったら無かったね。どうしても戦う力が、ナナメ君を護る手段が欲しいっていうのでちょうどいい実験体になってもらったんだ」

「み、民間人にそんなことしていいんですか!?」

「彼はもう民間人ではないよ。見習いとはいえ『魔特』の一員だ。それに、倫理的なことを言っているのだとしたら・・・私は、魔法少女ナナメの為ならなあんでもするよ。手段を選ぶつもりはない」

祐太郎はゾッとした。いつもの気持ち悪さではない。いつもおちゃらけている武者小路博士のふと見せた真剣な貌(かお)。

そこになんぴとたりとも立ち入れないような凄みと狂気が見えたような気がしたのである。

「それからは、マスクド・ウォリアーシステムに適応できるように色々訓練しているようだよ。うちで行うテスト以外にもね。これは、彼の意思だよ」

「僕の為にそこまで・・・」

「違うだろう、ナナメ君の為、だろう?」

「そそ、そうでしたね!」

わかっていたはずのことをあえて確認されただけなのに、どうにも動揺してしまう祐太郎。

(あれれ、なんでだろ・・・)

ちくり。

「意識が戻ったことはマッミーナさんには伝えておくよ。私に言える資格は無いがくれぐれもお大事にね。大好きな泡のお風呂にでも入ってリラックスしていってくれたまえ」

「は、はい!」

博士はベッドルームを出て、足早にコンピュータールームを向かう。はやる気持ちがどうしても足取りを軽くしてしまう。

「ふっふっふ・・・ふがみっつ。フハハハハハハハハハハッ!!」

魔法少女ナナメの魔法制御システムや、変身システムを司るスーパーコンピューター『KAMUI』を前に、我慢できずに笑いがこぼれ、舌なめずりする様子は、極上の獲物を目の前にした飢えた獣のようであった。

「いいぞ~祐太郎君、確実に意識しているね、白銀君を!須賀栞君のことも気になっていながら!ナナメ君の時との自らのギャップにも戸惑っているね・・・いい・・・実に自然にことが運んでいる。変に意識することなく生まれた生(なま)の七芽祐太郎の心のデータだ。これぞ『恋う』心、ジンギレイチチュウシンコウテイの『コウ』!完成まであと少し!」

(アト少シ・・・アトヒトツ・・・)



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