第7章 ジンギレイチチュウシンコウテイ、新たなる力3

第七章 ジンギレイチチュウシンコウテイ、新たなる力



3.病院へ行こう

(えっと・・・KOROGASHIの監督に聞いて、先輩が入院してるから、僕が祐太郎のままでお見舞い来ても、おかしくはないよね?

武者小路博士は、先輩のアルバイト先の偉い人の設定でもあるんだし・・・大丈夫?だよね)

そして病院に来たものの、キョロキョロしながら、ブツブツ呟いている少年は、少し様子がおかしくは見えるに違いない。

(ていうか、ナナメになろうと思ったけど!魔法少女の恰好でここまで来れないし、かといってお見舞いに来るために服買いに行くなんて・・・

そうだ、祐太郎のまま女の子の服買えないじゃん!服買いに行くための服が無いよう・・・)

と、悩みながらも辿り着いてしまったので腹を決めて行くしかあるまい。お見舞いに。

「それがね、無理矢理退院しちゃったのよ白銀さん。元気にはなってたんだけど、念のため色々診て欲しいって、医師も頼まれてたのにって」

受付で見舞いを申し込もうとしたところ、看護師からまさかの宣告を受けた。

依頼したのは恐らく博士であろう。外傷がなくとも魔法攻撃を受けた人体がどのような影響を受けているのか、しっかり調べる予定であったのだろう。

「ががーん!」

決死の思いで来たお見舞いが空振りしてしまった祐太郎。

(でも・・・先輩に会えなかったのは残念なんだけど、どこか安心しているのは何故だろう・・・)

それはきっと、卓斗をノックダウンしてしまった罪悪感のせいだけではなかったのである。

(せっかく街まで来たんだから、『オモチャのもりちゃん』に行ってガチャガチャでも回して来ようっと)



それから数日後。

「いつもすまないね。今回はボヤ騒ぎなんだ」

「放火魔ですか?」

「ただの放火魔でもホモオカマでもないよ!」

「言ってません!」

「現場から残留MP痕が検出されたんだよ。しかも場所は夜長姫事件のビルの近くなんだ。事件の痕跡とは別の新たなMPが検出されたっていうところがミソだよ!お味噌じゃないよ、英語で言うとPOINTだよ!」

「なんだろうこのノリ、いつもより辛い・・・」

またも『魔特』に呼び出された祐太郎、魔法少女ナナメに変身させられている。

武者小路博士のノリは軽いが火事に発展しうる可能性もあるので、意外と事態は深刻で緊急なのである。ナナメは早速現場に向かいながら作戦の説明を受ける。

広域のMP感知レーダーで、放火が起きる可能性があるポイントをいくつかに絞る。それぞれを見張りながら、原因を探り、出火を防ぐ。

ナナメが担当するのは本命の、夜長姫事件で戦いの現場となったビル周辺である。

〈すまないね、怖い目に遭った場所に赴かせてしまうことになって〉

「・・・大丈夫です。柳井さんがやられちゃった時は生きた心地がしませんでしたが、彼女も無事だったんで。無事・・・ではないかな?」

『魔特』の車両で市街地に着くと、武者小路家が所有するビルに入り、床に魔法陣の描かれたシートを広げて、ナナメは杖を回して集中する。

「コマンド・ブラックキャット!」

魔法が発動した光が収まると、ピンクの魔法少女服であったナナメの姿は墨をかけられたように真っ黒になっていた。

(よし、成功!これで闇に紛れて見張りができるし、夜目も効くし足音もたてずに歩けるよ。・・・でもこれって、想定外?)

塗り残し(?)がないかくまなく身体を見回していたナナメだったが、なぜかお尻からは尻尾も生えていた。

自分で持ち上げて触ってみると、モフモフで気持ちいいが、お尻の先からこそばゆい感覚が伝わってくる。

(・・・ブラックキャットだもんね。最初からこうなるのをわかってて、あえて博士が言わなかったのかも・・・とにかく受け持ちの場所に行かなくちゃ)

魔法の効果で、気配を消し、闇に紛れてナナメは数十メートル先、例の漫画喫茶のビルに着いた。

あの日ビルの横の路地では半理素体になりイメチェンし過ぎなヤナギと出会った。

そしてビルの中では純朴な中学生男子にはセンシティブ過ぎる同級生の女子の出産シーンを目撃し、自身は触手状の粘液に絡まれて死にかけ助けられ、強力な魔法を扱うMID夜長姫と死闘を演じた。

思い出すだけでも身体を震えが走る。

ナナメは作戦通り路地に身を潜ませた。

繁華街とは離れているため夜の人通りはまばら。まして事件後封鎖されているビルなのでナナメにはことさら不気味に見えた。

このまま一晩じゅう一人きりで見張りをすることになるのかと思うと再び身震いしてしまうが、幸運にも(?)ほどなくして異変が現れた。

(なにか、チカチカと地面で光ってる・・・?)

ナナメは目を凝らした。

光の小人だ。淡い輪郭の光る小人達が集まっている。どことなく完理素体のモヤモヤになってしまったヤナギの姿を思い出させる。

小人達は何かを探してわらわらと動いているようだったが、良き場所を得たのか、一箇所に集まり、輪になって、動き出した。

(踊っているのかな?フォークダンスみたいだ)

やがて小人達の中心に、光る芽が生えてきた。

(あれ、一人だけ小人さんが仲間はずれになってる!)

ナナメは、輪に加わらず一体で踊っている小人がいることに気が付いた。

一体だけではなかなか芽を生やすことができないようで、その間にも輪になって踊っている小人達は、光の芽を成長させて、蕾を生じさせていた。

(あっ、あっ、ぼっちの小人さん、大丈夫かな・・・)

ナナメは、ついつい、ようやく小さな光の芽を生えさせた仲間はずれの小人を心配してしまうが、一方の光の蕾は花を咲かせ・・・

燃えだした。

「ひゃっ!」

思わず声をあげてしまったナナメ。集中が切れて魔法が弱まり、声と物音を漏らしてしまった。

顔の無い小人達が一斉にナナメの方を向いたように見えた。

「ひぃ・・・」

小人達は膨れ上がるようにして花から生まれた炎と一体化し、形を変え、大型犬のような姿になった。

「あわわわわわ・・・」

ただし炎でできた犬に顔は無く、脚も3対、6本ある。

〈ナナメ君!捕獲だ!〉

「は、はいぃ!コマンド・キャンセル!」

犬に対して猫ではなんとなく不利そうだ。黒猫化の魔法を解き、魔法の杖を構えて炎の犬に対峙する。その時。

ガッシャアーン!

ナナメの背後で漫喫ビルの窓が割れて、炎の犬が次々飛び出してきた。そのままナナメに向かって突進してくる。

ナナメは慌てて身をかわすが、犬の群れはそのまま一方向に走り去っていってしまう。最初の一体もナナメの横をすり抜けて行ってしまう。

「コマンド・ターゲット!」

ナナメはギリギリすれ違いざまに、目標を追尾するための魔法をかけるのが精いっぱいであった。むしろ回避しながら咄嗟にこれだけ出来たのだから誉められてもいいくらいであった。

「博士、これはいったい・・・」

〈今のはファイアスターター型、フレイムイーター型だね。MPを燃やして集めているようだ。まずいことになりそうだ。追跡しておくれ〉

「はい!・・・あ、ぼっちの小人が置き去りになってる」

ファイアスターター型MIDと呼ばれた光の小人の一体が、取り残され、ようやく生み出した光の若芽も、フレイムイーター型と呼ばれた獣型のMIDに踏みつぶされてしまっていた。

「なんか放っておけないよね。あ、ガチャガチャのカプセルがあるけど・・・入るかな?」

小人を玩具の入っていたカプセルの半分ですくってみる。不思議と熱くはなかった。ナナメは透明なカプセルの蓋を閉めてポシェットにしまった。

「それじゃあ急いで追わないと・・・うん、杖が引っ張られる感触がある。追尾できてるみたい」

ナナメは改めて直立し、姿勢を正す。足は肩幅に開き胸をはって顎を引いて、お尻も突き出し過ぎないように。肩を下げて腕は杖を水平に掲げて身体の正面。

リラックスして、お腹を膨らませると同時に息を吸い、体じゅうに魔法の力の源であるMPが巡るのを感じて、息を吐きながらお腹をへこませる。数セットの腹式呼吸によって血流とともにMPが活性化したら、杖を回してイメージを固める。

「コマンド・スムーズ!コマンド・チェイス!」

立て続けに魔法を使うと、ナナメの身体は杖に引っ張られるようにして炎の獣たちが駆けていった方向へと飛んでいく。

「よっ、とっ、ととと!」

魔法で摩擦を調節した靴底で、ナナメは上手くバランスをとる。昔テレビで見た水上スキーというのはこんな感じだろうか。

〈コマンド・ターゲットを維持しながら新たに二種類の魔法を・・・ナナメ君、腕を上げたね!でも交通事故には気をつけておくれよ!〉

「はい!力の込め方でスピードは調節できますから!子供のころスピードスケートやってたから、曲がったり止まったりも大丈夫です!」

〈今でも充分子供だと思うよ!・・・とは敢えて言うまい〉

ナナメは人気(ひとけ)が無くて平坦で広めの道をうまく選んで、杖が導く方角へと滑っていく。

〈あのビルには夜長姫が使った魔法の残滓、残留したMPが相当残っていたようだね。そして認識阻害の魔法の影響も。故に我々が検知できなかった。が、ボヤ騒ぎは氷山の一角に過ぎなかった。このMID群はMPをかき集めて一体何を――〉


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