第7章 ジンギレイチチュウシンコウテイ、新たなる力2

第七章 ジンギレイチチュウシンコウテイ、新たなる力


2.所変わって市立大波中学校2年C組教室

MID夜長姫の事件から数日が経っていた。

祐太郎や栞は細かい怪我は数か所あったが特に大きな身体の不具合も無く、普通に登校していた。

しかし、最終的に夜長姫を仕留めた柳井ミキは身体の修復の為にしばらく学校には来られないようだった。

そして祐太郎は、栞のことで心配なことがあった。夜長姫に操られて若い男の生気を集めている間の、悪い噂に悩まされていないかということだ。

栞本人もその間の記憶が曖昧になっているところがあるらしく、『魔特』の息のかかった病院で診療を受けてストレス性の意識障害だということにされていた。

勿論夜長姫のこともナナメのことも覚えていないので、祐太郎はそれとなく様子を探ることしかできなかった。

「須賀さん、今日は体調大丈夫なの?」

帰りのホームルーム後に、話しかけてみることにした。

「うん?ありがとう、今日は大丈夫だよ。どうしたのななめ君」

「前も倒れたことあったから・・・実は病弱なのかなって」

「あはは。勉強し過ぎかな?しばらくはまっすぐ家に帰って安静にするね」

「それがいいよ!じゃあね!」

言葉通りすぐに帰宅する栞。

(博士にも須賀さんのケアをそれとなくするように言われてるし、僕としても心配だったんだよね・・・いつもの明るい須賀さんで良かったよー)

「ななめ君」

「きゃあっ!」

ほっとしていた祐太郎はすぐ背後から声をかけられて、思わず悲鳴を上げてしまった。

「最近須賀さんと距離が近くなってない・・・?」

振り返ると相手は祐太郎より更に小さい。短めのポニーテール。

クラスの女子山本梢であった。背は低いが運動が得意。言動は馬鹿っぽいのだが勉強もそこそこできる。自他ともに認める須賀栞のファンである。

「そ、そうかな~?クラスメイトだし、普通じゃない?」

二度にわたってMID事件の被害者として関わることになり、操られていたとはいえナナメと戦闘したりナナメの首を絞めたりとある意味濃密な関わり方をしてしまった。無意識のうちに距離を詰めていたのかもしれない。

(変に思われないように気をつけようっと)

「ご相談があります」

「な、なんでしょう?」

梢の急な敬語と改まった態度に緊張する祐太郎。「ここじゃちょっと」と引っ張られていく。

辿り着いた先は2年C組の掃除担当区域である美術室。

「こずー、どした?」

「大島ちゃん、掃除終わった?ちょっと人のいないとこ探しててさ、ゴミ捨てだけしとくから美術室使ってもいい?」

「ふうーん、そういうこと。わかったよー、うまいことやりな」

「そんなんじゃないって!」

「まあこずに限ってはそうだろうけどね」

掃除当番だった生徒たちから美術室を明け渡され、祐太郎は梢と二人きりになってしまった。

本来であればそのまま告白イベントでも起きそうな雰囲気であるが、残念ながら祐太郎にもクラスメイト達にも、そうでないことはよくわかっていた。

「それでね・・・相談なんだけど」

「・・・うん」

再び神妙な面持ちになった梢に、祐太郎は姿勢を正して心構えをする。

「私、須賀さんのことが好きなの!」

「知ってるよ!」

(やっぱりキターーーー)

「み、皆知ってると思うよ?」

「そういう意味じゃなくて!本意気で!性的な意味で好きなの!友情を超えちゃってるの!でも私にはなかなか須賀さんとの距離を縮められなくって・・・急激に仲良くなったななめ君にならいいアドバイスをもらえるかなって!」

早口でまくしたてられて、しかも内容が内容だけに祐太郎はドキドキしてしまう。

「そんなに仲いいわけじゃ・・・好きなものも桜の花ってくらいしか知らないし。あと金光義塾に通ってるとか。ちなみに、山本さんは須賀さんのどういうところが好きなの?」

「みんなに優しいところかな」

(わかる・・・)

「男女分け隔てなくてさ、相手によって差別するようなことがなくてさ、とっても、光属性なの」

(すごくわかるなあ・・・)

「あとね、実は意思がすごく強くて、意固地になっちゃうとこも可愛くて、それで悔し泣きしちゃうこともあって・・・」

「本当に好きなんだね」

「そうよ!昨日今日じゃないんだから!なのにななめ君たら栗生との仲を取り持つなんて」

「ええ~!?別に取り持ったわけじゃあ・・・須賀さんにも相談されただけだし・・・」

しかし今の梢には取り付く島もない。

「なんか揉めてる?大丈夫か?」

そんな時美術室の入り口から声がかかった。

祐太郎は誰かもわからないが助け舟を得たとほっとして振り返る。

美術室に入ってきたのはクラスメイトの黒羽操(くろはそう)だった。いつも祐太郎と学年で一番小さい男子の座を争っている生徒である。

「なんか言い争ってるように見えたけど」

「喧嘩してたわけじゃないんだ。心配してくれてありがとう」

「ちっちゃい人間族だけで何話してんだ?」

「サノ!」

続いて操の後ろから現れたのは左野準一郎。こちらは逆に2年C組で1,2を争う高身長、野球部。

坊主頭なのに爽やかでかっこいいのが祐太郎には羨ましくも悔しい。

確かに祐太郎と梢と操が3人そろっているところを準一郎から見ると小人の集まりのように思えるだろう。

しかし操は眼鏡をくいっと上げて反論する。

「一緒にしないでもらおうか。僕は去年の身体測定と比べて8.9cm伸びていたんだ。これは13歳0ヶ月から14歳0ヶ月で男子が伸びる身長の平均8.7cmを上回っていてだね――」

「そんな細けえことばっか言ってるからちっちゃいままなんだって」

「なんだとお!」

腕を振り上げて小突くふりをする操だったが頭を準一郎が押さえてしまうと、まったく届かない。

二人の男子のコントのようなやりとりに、梢は大きくはーっとため息をつく。

「もうこれじゃ相談続けられないや。じゃあね、ななめ君、また相談乗ってね!」

梢は先に、ポニーテールを揺らして「スタコラサッサ」と言いながら美術室を出て行ってしまった。

「山本が相談ってことは須賀絡みか?」

「サノ、そういうところ鋭いよね」

「須賀栞・・・あれは将来有望株だよなあ、おっぱいも大きいしよお・・・」

「君たちそれしかないの!?」

「僕をサノと一緒にしないでくれ!」

操が抗議の声を上げる。

「あ・・・ごめん、黒羽君のことじゃないだ。黒田君とか・・・」

(あと博士とか!)

祐太郎の頭に厄介で破廉恥で不謹慎な人物の顔がちらつく。無駄に美形なのが始末が悪い。

「小鞠さんみたく美しくなってくれたらいいよなあ・・・系統としては、ななめの母さんも近いよな。豊かなバストに表れる、女神の如き母性・・・」

「人の姉をそういう目で見るな!」「人のお母さんをそういう目で見ないで!」

思わず言葉がシンクロしてしまう祐太郎と操。ちっこいブラザーズ。

「まあ真実那さんは人妻だし?でも小鞠さんは合法だよな!」

「だ・め・だ!」

「みさおちゃんたらシスコンが過ぎますわよ~?」

「みさおちゃんと呼ぶな。シスコンでもないし!ぼ・く・が!嫌なんだよ!」

「まあそう言うな義弟よ~」

「二度と義弟って呼ぶな!」

「お前には双葉という幼馴染キャラだっているだろ。贅沢だぞ」

「キャラってなんだ。僕はギャルゲーの主人公じゃないぞ!」

またしてもコントを繰り広げながら操と準一郎も美術室から出て行った。(僕も帰ろう・・・)と、落ち着いた瞬間祐太郎はふと思い出してしまった。

(今更だけど山本さんが須賀さんを好きって、女の子同士ってことなんだよね・・・)

急に背中から後頭部にかけて熱い血流が駆け上がるような気がした。頬が、耳が熱く火照る。

そして不意に脳裏に蘇る、白銀卓斗にお姫様抱っこされる自分、卓斗にキスして有耶無耶にしようとする自分。なぜかフラッシュバックした場面では魔法少女ではなく祐太郎のまま。

(なんで白銀先輩のこと思い出すの!!コマンド・アブソープを当てちゃって心配だからだよね!そうだお見舞い行ってみよう、『魔特』関係の病院に入院してるはず)


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