第6章 ヒロインズ・カムバック 後編1

第六章 ヒロインズ・カムバック 後編


登場人物紹介

七芽祐太郎(14) 魔法少女にされてしまうオデコ少年。

白銀卓斗(16) 祐太郎の先輩。眼鏡男子。

須賀栞(14) 祐太郎が気になっていたクラスメイト。中学生にしてはおっぱいが大きい。 

武者小路秋継(30?) 祐太郎を魔法少女にした元凶。変態紳士。


前々回のあらすじ!

怪しげな科学の力で魔法少女にされてしまった少年七芽祐太郎は魔法少女ナナメとして、魔法でしか対処できないMIDという脅威と戦っている。

連続男子失神事件の容疑者である須賀栞を追跡するが、ナナメの魔法は協力者の白銀卓斗を誤って攻撃してしまい、栞には逃げられてしまったのであった。


1.ナナメのケツイ

「ナナメ君、そう落ち込むものじゃないよ。相手が認識を操作する魔法を使ってくるなんて想定外だったんだからね!」

ナナメと卓斗は、武者小路邸にある『魔特』の本部基地へと撤収してきていた。卓斗は自分で立ち上がることもできなかったので、魔特の三本木隊員に手伝ってもらった。須賀栞によって気絶させられた塾講師の森も、魔特の医療室に運び込まれていた。

「コマンド・アブソープを思いっきり浴びてしまったからね。通常の人間の体内のわずかなMPと、体力を根こそぎ奪われたようだが、彼も若いし、念のため処置もしてもら――」

そこでナナメはまずいことに気が付いた。

「それってお母さんのオイルマッサージですか!?」

「まったく羨ましいことだよ。勿論ビデオ撮影はさせてもらっているが本来なら私が受けたいとこ――」

「ちょっと待ったああああああ!!」

ナナメは駆けだしていた。かつて自分が受けた性的すぎるMP快復マッサージを思い出して。しかも臨時職員の母真実那から施術されるという羞恥と屈辱つきだった。あんなことを卓斗にさせるなんて絶対に駄目だ。

MPとは魔法の発現に必要な粒子で、人の体内にも少量存在している。魔法少女であるナナメの身体には、その何百倍何千倍ものMP粒子が流れているのだ。

無駄に広い武者小路邸内のラボまで、ツインテールとフリルを翻して全力で駆け巡るピンク色の魔法少女だったが。

「なんてことだ・・・

間に合わなかった・・・」

「あら、ナナメちゃん、今卓斗君の施術が終わったところよ。あなたもMP流していく?」

施術室には、頬を上気させ、いい仕事した感の充実した表情の母真実那と、脱力し顔を覆い隠した半裸の白銀卓斗の姿。下半身にはタオルがかけられているが恐らくナナメが体験したように施術用の紙パンツだけにされているのだろう。

一応ナナメの正体は卓斗に隠しているという話は通っているので、ナナメに対して意味ありげにウインクをしてきた。「(マッサージは)いらないです・・・」

(MP配合アロマオイルのいい香り・・・と、ちょっとだけ白銀先輩の汗の匂いが混ざってる・・・)

なんだか少しだけドキドキしてしまうナナメ。

「ナナメか。すまない・・・少しひとりにしてくれないか・・・」

やはり、リンパ節などを執拗に刺激するMP快復マッサージは、青少年にとって刺激が強すぎたようであった。

(ああ・・・先輩・・・本当にごめんなさい)

「なぜここに・・・七芽の母さんが・・・」

卓斗はぶつぶつと呆けたように呟いている。

(本当に本当にごめんなさい!親子でご迷惑を!)

「勝手に施術室に乗り込むなんてひどいじゃないか。私も混ぜてくれないか」

そこで追いついてきた武者小路を、無理やり押し出すナナメ。

「今は駄目です!凄く敏感になってるから・・・」

「なんかいやらしい言い方だね!もう一回言ってくれないか!」

「博士・・・」

「そうだ、白銀君が須賀君に仕掛けた発信機の行き先が判明したよ」

「先輩、いつの間に!僕、追いますね」

卓斗は栞の肩に触れた時に服に小型発信機を仕込んでいたのである。

「こちらとしては相手の戦力をもっと分析したいところだが・・・」

「須賀さんって操られている可能性が高いんですよね!

姿かたちや声もしぐさも、いつもの須賀さんだったし、僕はずっと前から須賀さんのことを知ってます。真面目で優しくて頭が良くて普通に同級生に恋をして・・・、普通の女の子です」

「恋をするMIDもいるのかもしれないよ。もしくはそう擬態できるのかもしれない」

「事件が起きたのは最近になってからじゃないですか!須賀さんはMIDなんかじゃありません!一番心配なのは今の須賀さんです!それに・・・」

(白銀先輩にマッサージは二度と受けさせられない!)



2.だからロンリロンリー単独調査

装備を整えたナナメは、三本木隊員の運転する車両で栞につけられた発信機の信号の位置へと向かっていた。

〈その先の右手のビルだ。流石に表通りは目立つから、中通りから侵入してくれたまえ〉

「はいっ!」「かしこまりました」

しかしナナメには、車の窓からはよくわからなかった。窓越しでよく見えなかったのかもしれない。そう思ったが違うようだった。

地図上ではここだとわかるのだが。車が回り込み、中通りに入る。だが地図の場所にはたどり着けない。気が付くと地図上の目的地を通り過ぎている。

「あれ?」「む、おかしいな・・・」

〈これは既に魔法にかかっているのかもしれないな・・・ナナメ君、車を降りて魔法を使って調べてくれるかい?〉

「わかりました」

ナナメは人通りの無いことを確認して、車を降りた。確かに歩いても違和感がある。ビルとビルの間に空間があるはずなのにそれを認識できないのだ。

ちょうどビルひとつ分くらいの認識のポケットがあって、見えないのだ。

ナナメは途中で折れ曲がった魔法の杖「トラン=ソイド」を振り、杖を回して虚空に円を描き、また杖を回して意識を集中させる。

「コマンド・センス!・・・見えた・・・」

ナナメは驚愕した。

(ビルひとつ丸ごと隠してしまう魔法があるなんて・・・)

「すまない、自分にはまだ見えない」

三本木隊員が車を降りてサングラスを外し、目を凝らすがまだ認識できないようだ。

「僕一人で行きます!」

〈わかった。が、くれぐれも用心してくれ。ビルの周囲や構造、脱出経路を確認してから突入すること。そこはすでにMIDの領域だ〉

「せめて裏口から入ったほうがいいかな・・・」

ビルの周りをぐるっと一周しようと、細い道を歩いていると向かいから歩いてくる者があった。

(どうしよう、僕魔法少女の恰好だけど!)

困惑するナナメだあったが人影はどんどん近づいてくる。


(あれ、外国の方かな・・・?)

自分よりかなり背の高い細身の女性。ニット帽とショートパンツ。帽子の下からキラキラのぞく毛髪は恐らく金髪(ブロンド)。

自分のピンクのフリフリなコスプレが恥ずかしい。魔法の杖も幅をとるし、邪魔にならないようにすれ違わなければ。

近くに寄れば、夜の闇のなかでも白い肌と瞳の淡い色の虹彩が際立つ。

「あわわわっ!」

すれ違う際に小さくなろうと頑張りすぎて、杖を壁にぶつけて取り落としそうになってしまう。

「おっと、大丈夫かい、デコスケちゃん」

「はわわわ、すみません・・・」

「構わないよ」

「・・・」

「・・・?」

「・・・!」

「・・・」

「違うよね、まさか、でも!柳井さん!?」

「・・・失敗したねえ・・・どうしてわかった?どうしてそう思った?」

「うーん、目の下のほくろと・・・なんとなく?あと、デコスケって呼んだでしょう」

「恐れ入ったね・・・そっちには相手の本質を見抜く目があるのかもしれないね」

「本当に柳井さんなの!?ああああでも僕も今女の子・・・」

「まあそれもわかるよ。ただのコスプレではないことはね。だがそっちのリソーの流れが大きくなってるとはいえあまりにも似ていたからね」

「???」

「理素(リソー)っていうのは魔法の元になるもので、生き物とか自然物とかに含まれているんだよね」

「MPのことかな?あ!もしかして柳井さんがMID!?」

ここまで駄弁っておきながら最悪の事態が頭をよぎる。瞬時にナナメの背中に嫌な汗が流れ落ちる。

「こっちは今回の黒幕ではないよ。それにね。人間達はこっち達をビジターなどと呼んでいるが人間こそがこの世界にとっては新入りなんだよ」

魔特では、人類に無害な魔法生物のことは、MIDと区別してビジターと呼んでいた。

そして柳井は語った。自分は人間ではないと。

古来より魔法生物は地球に生息していた。中には動植物のような肉体を持たないものもいる。

人と同化し人間社会で暮らすことを決めたものもいる。魔法の力を失って完全に同化しきったものもいる。

ヤナギはそんな魔法生物の古代種と人間の間に生まれたハーフである。

かつて「鬼」や「モノノケ」「妖怪」などと呼ばれていたものは彼ら古代種やその子孫のことである。

ヤナギが魔法力、身体能力をいかんなく発揮するためにはこの「半リソー体」になる必要がある。姿かたちが変わり、角も生えている。「ツノ生えてるの!?」「見るかい?」「いいです!」

「こっちの臨戦態勢モードってわけだね。今回あまりにも派手に魔法で事件を起こしている輩がいるから、こっち達に被害がかかる前にどうにかしなきゃと思ってね」

「ええええ~なんかすごい情報量で感情がついてこれないよお」

「そっちも、魔法を使うためにそんな『変身』をしているんだろう、同じじゃないか。目的も同じなんだろ?」

「でもでも柳井さん見た目もキャラも違いすぎだよう・・・」

「確かにそっちはキャラは変わらないね、デコスケ君」

「もう~~~」

〈ご歓談のところ悪いけどね!〉

そこで博士の通信が割って入る。

〈話は聞かせてもらったよ!目的が今回の事件の収束で一致しているなら、この魔法少女ナナメ君に、協力してもらえないかな?魔法使いの先人が一緒となれば心強い!本当はその体を検査実験させていただきたいところだがね!〉

「人間のモルモットになるのはゴメンだが、今回は協力しよう。ナナメちゃんの為にね」

〈うむ。偉大なる先人から連なる血筋に敬意を示そう。よろしくお願いするよ!〉

――人間とビジターのハーフの、ヤナギが仲間に加わった。


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