第4章 ヒロインズ・カムバック 前編

第四章 ヒロインズ・カムバック 前編


目次

1.白銀卓斗は抗議する

2.饒舌なるクラスメイトとそうでない君

3.再び武者小路邸へ

4.須賀栞清純派ビッチ疑惑


登場人物紹介

七芽祐太郎(14) 魔法少女にされてしまうオデコ少年。

白銀卓斗(16) 祐太郎の先輩。眼鏡男子。

須賀栞(14) 祐太郎が気になっていたクラスメイト。中学生にしてはおっぱいが大きい。 

武者小路秋継(30?) 祐太郎を魔法少女にした元凶。変態紳士。


 七芽祐太郎は魔法少女である。どこにでもいる中学生男子だった彼は、怪しげな科学の力で女の子の身体に変身し、魔法を使い、人知れずMIDという人類の脅威と闘っているのだ!


1.白銀卓斗は抗議する

(うう・・・空気が重いです・・・)

 七芽祐太郎、いや、魔法少女ナナメは、ホワイトデビル型と呼ばれるMIDとの戦闘の後、身体を男の子に戻してくれるはずの施設に戻ってきていた。

しかし、助けてくれた白銀卓斗と割と元凶である博士との睨み合いにはさまれ、元に戻ることもできずに居心地の悪い思いをしているのだった。

「だから言っているだろう、ナナメ君は彼女の意思でここにいるんだと」

「彼女にその意思があったとしても、こんな小さな女の子を危険な目に合わせるって大人としてどうなんですか!」

「一応ワタシ、14歳なんですけど・・・」

「そ、そうか、俺と2歳しか違わないのか・・・」

「いいかい、部外者である君にこれ以上の情報は与えられないんだよ。本来ならこの場所にも立ち入らせたくはなかった。ナナメ君が助けてもらったというから無下にはしたくなかったんだが・・・これ以上何も聞かずに帰ってくれないかな?」

「人として、見なかったこと、聞かなかったことになんてできませんよ!」

卓斗は感情的になる一方、博士はのらりくらりとかわし続ける。ナナメはそれをハラハラと見守っている。

「じゃあどうするね。君もこの『魔法生物及び現象による災害防止対策特務機関』、魔特で働くかい?学生さんだから研修生扱いにはなるが・・・ちょうど君もアルバイトを探していたところだったんだろう?」

「いつの間に俺の事を調べて・・・っ!」

「ごめんなさい、博士は変態だけど有能で万能なんですぅ・・・」

 ナナメは、何故自分がフォローに回らなくてはいけないのかと悩みながら、卓斗をなだめようとする。

「変態!?君!あいつに何かされたのか!?」

 しかし、逆効果であったようだ。新しい誤解が生まれてしまったかもしれない。

気が進まないにもかかわらず良かれと思って助け舟を出したはずが、裏目に出てしまいナナメは泣きたくなった。

「あっ、いや、それは誤解っていうかよく考えたらいつも変なことされたりさせられたりしてるから誤解でもなんでも無いんですけど――」

「ナナメ君、状況を混乱させるような発言はやめようか」

「日頃の行いのせいじゃ――」

「普通に犯罪じゃないか・・・俺、やっぱり見逃せません。近くで、監視しますから。下働きしながらでも!」

「そおーーーかいっ!本当は普通でも犯罪でも無いのだがね、歓迎させていただくよ!そうと決まれば役には立ってもらうからね」

 一転、フレンドリーな態度に豹変して卓斗を取り込もうとする博士に

「(コソコソ)ちょっと!先輩に正体隠してるのにややこやしいことになるじゃないですか!」

「(コソコソ)ん?別にバラしてしまってもいいんじゃないかい?」

「あんなこと(チュウ)して今更言えるわけないでしょー!」

「ナナメ君、声が大きい」

「はっ!」

 こうして、白銀卓斗は魔法少女ナナメの仲間に加わることになったのである!

 その正体は知らずに。



2.饒舌なるクラスメイトとそうでない君

佐藤 昭典(あきのり)は、クラス一、二の長身で、オネエ口調で話す。

「あっきー、おっきーって覚えてね」と本人はのたまうが、口がやけにたって、テレビの「笑点」を連想させるので名前を音読みにして「ショウテン」などと呼ばれている。

そんな彼が学校の購買の前を通りがかると、対峙したまま動かない二人のクラスメイトを見つけた。

「どうしたの~?」

「あ!アキノリ君!」

急に緊張が解けたかのように小柄な男子、七芽祐太郎が動き出す。もう一人の女子は柳井ミキ、いつも本を読んでいる文化系・・・というよりはオタク系の女子だ。

「それが今日書道あるのに、半紙きらしてて、僕も柳井さんも買いに来たんだけど、残り一個しかないんだよね」

「そんなことで悩んで二人で固まってたの!?そんなの二人でお金出し合って買って、半分ずつ分ければいいじゃない、半紙だけにー」

「あっ、そうか、うまいこと言う!」

「そこじゃないでしょ。ヤナギ女史もそれでいい?」

「・・・異存は無いよ」

「残機は半分ずつになっちゃうけどね」

「・・・シューティングゲームのような言い回しだねえ」

「柳井さんゲームわかるんだ!」

「・・・こっちもオタクなんでねえ」

「女の子とそんなゲームの話できると思わなかったよ!

僕は今、コットンっていうゲームやっててね、キャラも可愛いし女子受けもいいんじゃないかなあ」

「・・・確かに。こっちはガンバードの絵師さんが昔から好きでねえ」

(一度打ち解ければ二人ともよく喋るじゃない、まあ、思春期の少年少女だから仕方ないわよねー)

 もう安心とばかりに、肩をすくめて立ち去ろうとするショウテン。

「あ、アキノリ君!ありがとうね!」

「そうだ、知ってる?」

 その場を立ち去ろうとしていたショウテンがくるりと振り返る。

「前さ、女の人がよく倒れるってニュースあったじゃない?今度は若いオトコですって!」

「えっ!そうなの!?」

 以前の事件はMIDが起こしたもので、その真相を知っていながら公表はできないため秘密にしなくてはいけない。祐太郎は少しドキドキする。

「若いオトコの人ばっかり倒れるなんて気になるわねえ~。暴走する思春期の弾丸(リビドー)的な何かが放たれちゃったのかしら?」

「え!何かって!?(何か知ってるのかな?)」

「ううん、知らない」

「で、ですよねー」

「ごめんね、与太話につき合わせちゃって。仲良く半紙分けるのよ~」

「あ、ごめんね柳井さん」

「・・・構わないよ、七芽(しちがや)君」

「!?」

「・・・どうしたんだい?」

 祐太郎は呆けたような顔で柳井のことを見ていた。

「ううん、だいたい皆僕の事『ナナメ』ってあだ名で呼ぶからね。なんか新鮮で。

両親だってその時々で好き勝手な呼び方するんだよ。この間は『私の可愛いデコスケちゃん』なんて――あ!ごめん今の無し!」

 自分の恥(?)を自らぺらぺら話してしまったと慌てて止める祐太郎。

「改めてお顔をよく見たら、柳井さん目元にセクシーな黒子(ほくろ)があるんだねー?」

 そして不自然な話題展開。柳井はニヤリと笑う。

「・・・いいじゃないか『デコスケ』君。昭和的な情緒に溢れてて」

「もう~!柳井さんにまでからかわれたあ~!内緒にしてね?」

「・・・こっちはからかっているつもりはないのだけどね」



3.再び武者小路邸へ

「そう!我々も気になってね。調べていたんだよ!」

 祐太郎は武者小路に呼び出され、しかも既に魔法少女の姿にされていた。

(うう・・・相変わらず動きが無駄に大げさだよう・・・・イライラしてないかな?白銀先輩)

 その隣には魔特の一員となった白銀卓斗の姿もあった。

「しかも倒れた若い男性たちに、ある共通点を見つけたよ!」

「え!そうなんですか!?」

「我々は有能で勤勉だからね!なんと、彼らは同じ学習塾に通っていたんだ」

「俺の通っている塾だったんだ」

「そして、須賀栞君も通っている・・・ね」

(?なんでここで須賀さんの名前が出てくるんだろう。博士、おっぱ・・・お胸が大きい女の子が好きなのかな)

「それで俺が情報収集を任されていたんだ」

「情報も、行動も早いですね・・・」

「白銀青年は意外とスパイの才能があるかもしれないよっ!」

「嬉しくないです」

 卓斗は眼鏡を直すふりで苛立ちを抑えていた。そしてやおら、真剣な顔でナナメに向き合った。

「倒れた男子生徒に若い男性講師、使っている教室や交友範囲、塾を出る時間や移動経路を分析すると、一人の女子生徒に行き着くんだ」

(そういえば白銀先輩、ホワイトデビル型の事件も独自に情報を集めて出現場所を突き止めていたんだっけ・・・)

「それが須賀栞というわけだね」

「そうです」「ええっ!?」

 白銀の返答とナナメの叫びが重なる。

「ナナメは・・・須賀栞のことを知っているのか?」

「あっと・・・そう、グレムリン型っていうMIDの事件に巻き込まれたことがあってですね・・・」

「そうだったのか。データによると、須賀栞の周囲で定期的に昏睡事件が起きている。

そして、今夜、事件が起きる可能性が高いんだ」

「実に優秀だね。もしかすると須賀君は男の精気を狩りとるサキュバスなのかもしれないよ。そこでだ!丁度今学生たちが件(くだん)の金光義塾に通っている時間だ。白銀青年には須賀栞君の動向を探って欲しい。ナナメ君は目立つからね、隠れてサポート、いざというときは緊急出動(スクランブル)できるように」

「目立たない魔法少女衣装ってできないんですかね・・・」

 ナナメは、大きな姿見で自分のフリフリピンクな魔法少女姿を改めて眺めてため息をついた。最近ちょっと慣れつつある自分が嫌になる。

「考えておこう。それでは、作戦開始だ!」

(まるで須賀さんが犯人みたいに・・・須賀さんは真面目だし、普通の女の子なのに・・・

でも・・・そんなわけないと思うけど、須賀さんがまた危ない目に遭うかもしれないし、僕が何とかしないと!)



4.須賀栞清純派ビッチ疑惑

 白銀卓斗は、自分が通う金光義塾の自習室にて待機していた。

彼は律儀にも、不審に思われない程度には勉強をしているふりをしている。が、ただの休憩、交流の場として自習室を使っている生徒も少なくなかった。

そのおかげで、今回の件で比較的容易に噂話を仕入れられたという側面もあるのだが。

「既に授業中の教室内に須賀栞の姿を確認しました。講師は森さん、須賀と普段から仲がいい20代の青年です」

 卓斗は小声で本部の博士と連絡をとる。

〈それなら授業後に接触する可能性もあるね!白銀君が金光義塾に通っていてちょうど良かったよ〉

「さあ、丁度最後の授業が終わりましたよ」

授業から解放された学生たちの喧噪がひとしきり続いて、その中で栞と森講師がなにごとか話しているようだった。授業科目のことに関してか、それとも。


「やっぱり塾外で合流しました。後を追います!」

〈うんうん、イケないねえ。講師と教え子、禁断の関係の香りがするねえ〉

(須賀さん・・・どうして・・・真のことはもういいの?

それとも真も僕の知らない間に大人の階段登っちゃってるの・・・!?)

 二人の通信が聞こえている祐太郎は、複雑な気持ちでいた。

元々気になっていた女子の須賀栞。その栞が気になっていた栗生真。二人がお似合いだと思ったから、祐太郎は諦められたのに。

それでも、行かなくては。白銀卓斗と合流すべく、動かなくては。

人目を避けて塾の外で落ち合った須賀栞と森講師は、よく散歩コースに選ばれる公園内を移動していた。

そのしばらく後ろを、合流したナナメと卓斗が樹に隠れながら尾行している。その姿はとても怪しい。

「あっ!」

 ナナメは思わず声を発してしまった自分の口を慌てて覆った。

 栞が森に身を寄せたかと思うと、木々の陰に隠れてしまったからである。

「これはまずいな」

〈MID絡みかはまだわからないが、取り返しのつかないことになる前に踏み込むんだ!〉

 二人は忍ぶことを放棄して、全力で栞達の消えた辺りに駆け寄った。

「そこで何をしている!」

 卓斗が声をかけると、木の陰からがさりと、驚いて思わず動いた気配がして、二人は回り込んだ。

 そこには抱き合う栞と森の姿が・・・あったように見えたが、すぐに森講師の身体は力なく崩れ落ちた。

「困りましたね。・・・見られちゃいました」

 栞は口元を拭いながらいやらしく微笑んだ。

「違う・・・いつもの須賀さんじゃない!」

 ナナメは悲痛に叫ぶが一方卓斗は、油断することなくナナメをかばうように立ち、栞を観察していた。

(特に見た目がおかしなことは無いが・・・事件の元凶と見て間違いないようだ)

「君はMIDか?その人を病院へ運びたい。君もついてきて話を聞かせては・・・くれないだろうか」

歩み寄った卓斗が栞の肩に手を置いた。

「うふふ、そういうわけにはいきませんね」

 栞はその手を振り払い、身を翻して逃げ出そうとした。

「ナナメ、緊急だ!無力化させるんだ!」

 今にも走り去ろうとする栞の進路をふさぎ牽制しながら卓斗が指示を出す。ナナメはやや遅れて、魔法の杖を振りかざした。

「コマンド・スリープクラウド!」

 生き物の活動を鈍らせ、やがては眠らせる効果を持つ気体の塊が、杖の先から放たれる。

が、栞は身軽にかわしてしまう。ナナメと卓斗は、栞を逃がさないように走って追う。

(須賀さんは女子の中でも運動神経いい方だった!でも、足の速さなら僕と・・・同じくらい!)

 二人は栞に距離を離されないよう追いすがりながら、やがて挟み撃ちするように位置をとった。

「須賀さんごめんね!コマンド・アブソープ!」

 栞の前に躍り出たナナメは、一番使い慣れて素早く繰り出せて、杖が触れた瞬間すぐに効果を出せる魔法を選択した。今度は確実に須賀栞を捉えたはずだったが。

「ぐああああああああ!?」

「いえええっ!先輩!?先輩なんで!?」

 杖が捉えたのは卓斗の身体だった。間違いなく目の前にいたはずの須賀栞は、そうこうするうちに既に追いつけないほど遠くまで逃げてしまっていた。

「ごごごごめんなさい!」

 卓斗は体力と魔法の源となる元素MPを吸い取られ、倒れてしまった。ナナメはオロオロとするばかり。作戦は完全に、失敗だった。

〈二人の空間把握の認識が阻害されていた・・・?この相手は、一筋縄ではいかないかもしれないね・・・〉

 




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