第3章 ホワイト(カミング)アウト・パニック3.ホワイト・リベンジ!

第三章 ホワイト(カミング)アウト・パニック


3.ホワイト・リベンジ!

「私に作戦があるんです。MIDの姿はおっかないけど、怖がったらダメですからね」

そうして、すぐにMIDと遭遇した部屋の前までたどり着いてしまう。

そっと部屋を覗くと、広い部屋の奥に何か大きなものが座り込んでいるように見えた。

「いきます!コマンド・ライトボール!」

ナナメは、だいぶ慣れて素早く繰り出せるようになった魔法の力で光の玉を生み出した。

「コマンド・ライトボール!」

「コマンド・ライトボール!」

空中に浮かぶ光の玉を、続けて生み出しては部屋の隅から埋めていく。

スティックを振り続けた疲労で手首の動きがだんだん悪くなり、魔法の連続使用の負荷で心臓はバクバクと脈打ち汗が噴き出るが、ナナメは構わず続けた。

「コマンド・ライトボール!コマンド・ライトボール!もひとつおまけにコマンド・ライトボール!」

部屋の中はもはや昼の明るさ以上になっていた。MIDも目が眩んでいたようだが、ようやくナナメ達を発見する。

(明るいけどやっぱ怖っ・・・く、ない!)

 心臓のドキドキを魔法の使い過ぎだと自分に言い聞かせて、MIDから目を逸らさず、まっすぐ見すえる。それでも。

「手を繋いでもいいですか?」「ああ」

ナナメはくじけそうになる心を奮い立たせて白銀の手をぎゅっと握らせてもらった。

白銀の手のひらは少しだけ汗がにじんでいた。緊張か、恐怖かはわからないが、白銀も自分と歳が二つ違うだけの普通の男子なのだ。

その間にも真っ白で大きなMIDは二人に近づいてくる。広いホールになっている部屋の、端と端ほども離れているのに、すぐ目の前にいるかのような威圧感である。

明らかに先ほどナナメが遭遇した時よりも大きい。ナナメの恐怖心がホワイトデビルを成長させてしまったのだろうか。

「怖くない!」

「!」

突然のナナメの声に白銀もMIDもビクリとする。が、再びMIDはおもむろに近づき始める。その一歩一歩で、まるで建物全体が揺れているようであった。

「怖くない怖くない!」

ナナメは自分に言い聞かせるように更に大声で叫んだ。

(言葉で言うだけじゃダメかな、もっと、恐怖心を乗り越えないと)

 ホワイトデビル型が足を踏み出すたびに床が破損し、めり込んでいるようだった。そんな重量で踏みつけられたら一体、人間の身体はどうなってしまうか。

 最悪の想像を頭から追い出して、身体が逃げ出そうとするのを耐える。まるで重力が二倍になったように身体が重たく感じるのは今は好都合だった。

(だけどこのままじゃ・・・)

 その時、白銀に握られた手が、もう一度強く、優しく握り直された。

 ナナメの胸の中に、ナナメが名前を知らない熱い感情が湧き出して、恐怖心を押し出した!

「怖くない!怖くない!」

ずんずんと歩いてくるMIDに向かって、ナナメは「怖くない」を連呼し、更に、一歩前へ出た。

「そうだ。・・・怖くないぞ」

白銀も、ナナメに合わせて声に出し。同じだけ歩を進める。

どんどん近づいていたはずのMIDは進み続けているはずなのに、なかなか二人まで辿り着かない。体が、小さくなっているのだ。遠近感がおかしくなってくる。

それにしてもそんなに二人の所まで歩くのに時間がかかるのは不可思議であった。

「怖くないや!」

「怖くないな」

二人は顔を見合わせ、そしてまた一歩前にでる。MIDは、どんどんと弱っていくように見えた。恐怖を否定して、乗り越えたことで、ホワイトデビル型の力を奪うことに成功したのだ。

白い悪魔は、二人と1mの距離まで接近する頃には、大きさも人間の子供ほどで、息も絶え絶えでフラフラモヤモヤとしていた。

ナナメは、白銀に笑顔を向けながら魔法の杖――デバイスティックをくるくる回し始めた。地道な修行の末、手元を見ずにトワリングできるようになっていたのだ。

「コマンド・アブソープ!」

そして魔法を発動。スティックの太くなっている部分を中ほどから取り外す。

「バージョン・バキューム!」

固体と気体がところどころ入り混じり曖昧になり、ヨロヨロとふらついているMIDにスティックの断面を向けると、その体を吸い込んでいった。

ホワイトデビル型はもともとのガス状の形態になって全て吸い込まれた!

「よい・・・しょ!コマンド・シールド!」

ナナメは蓋をするようにスティックをもう一度組み合わせてMIDを捕獲完了した。

「よくやったな」

横で見ていた白銀が、感心したように拍手を送る。

〈素晴らしい!魔法少女ナナメ、任務完了だよ!今から二人を回収に向かわせる〉

「やれやれ。そういえば、自己紹介もしていなかったな。俺は白銀卓斗。翠鈴高校一年生だ」

と、白銀は自然に握手をしようと手を差し出す。祐太郎は多少複雑な想いで、その手を握り返した。


「私は――魔法少女ナナメです!」



 その様子を、武者小路博士は満足げに作戦本部からモニタリングしていた。

「もっと、もっと強くなるのだ、ナナメ。すべてが手遅れになる前に・・・」

 その言葉の意味を本当の意味で知るものは、彼のそばにはいなかった。



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