第3章 ホワイト(カミング)アウト・パニック2.ノット・カミング・アウト!
第三章 ホワイト(カミング)アウト・パニック
2.ノット・カミング・アウト!
〈今回は、廃ビルや空きフロアで目撃されている、白い影についての調査だ〉
「はい!今のところ異常なしです」
魔法少女に変身したナナメは、夜の人気のないビル街に来ていた。見放されたかのような不気味なビルや、テナントが撤退して空いたままの部屋だらけのビルを、恐る恐る覗いて歩く。
〈一般の目撃情報だけではなく、魔特の調査員も多く目撃、遭遇している。MIDで間違いない。間違いないのだが――〉
「だが?」
〈遭遇した者の証言が覚束なくてね。内容が茫洋としているというか、本人に覇気がないというか。時間がたてば元に戻るのだが、一様にして証言が曖昧模糊としている。気を付けてくれたまえ〉
それでも、調査や目撃情報から、かなりの確率で異変が出現しそうな場所を絞り込めたのだ。そうして今日は、調査員とナナメが一斉調査をしているというわけだ。
(魔特の職員さんたちは、とっても優秀だって聞いているけど、魔法に対して僕みたいな耐性や装備があるわけじゃないからね・・・僕が頑張らないと!)
そうして、とあるビルを見上げるナナメ。外階段から調査していくことにする。
(階段を登り切ったら、奥の部屋から見ていこ――)
「kYekYekYe」
「ひっ――!」
唐突に遭遇した。ナナメよりも大きなシルエット。白く大きな顔。顔面の上半分にひしめく、大きさのそろわない眼球が、そろってナナメを見つめていた。
そして頭部の大きさを支えられるのか不思議なくらい、小さな幼児のような胴体と四肢。顔と同じく真っ白である。
明らかに自然界に存在しない、異質な生き物。この世界でいう生き物の定義に収まるかも疑わしい。
歯をむき出しにニヤリと笑っているかのような巨大な口が、動いていないのに、複数の動物や虫が同時に鳴いているような、よく聞き取れない音を発している。
(動か、ないと・・・魔法を、使わないと・・・)
それが相手の能力なのか、本能がそうさせるのか、ナナメの身体はピクリとも動かせなくなっていた。まさに蛇ににらまれた蛙であった。
「あ、ああ・・・」
「KoK、koK」
ナナメの額のあたりから、白いモヤのようなものがたち、巨大な顔のMIDの口の中へと吸い込まれていく。
(何かを、食べ、られている・・・?)
それまで必死に身体のあちこちに力を入れていたが、だんだんと力が抜けていく。代わりに足が少し動き出し、無意識に、危険から逃れようとして徐々にあとじさる。
(いけない――)
しかし、気が付いた時にはナナメの身体は、階段の手すりにぶつかり、その外へと投げ出されてしまっていた
「落ちっ――!」
とっさに伸ばした両の手は、空しく空と、魔法の杖を掴むだけだった。
ドサッ。
(――っ!!・・・あれ?)
地面にたたきつけられたにしては衝撃が弱い。恐る恐る目をあけると近くに見知った顔。
「君はいつも空から降ってくるんだな」
「せっ・・・!?」(白銀先輩!?なんでここに先輩が?)
ナナメの身体は白銀の腕に抱えられる形になっていた。
「なん、えっと、その、こんにちは、はじめまして!」
「?」
(魔法少女になってるからっておかしな挨拶しだしちゃったよお~)
しかもよくよく考えれば自分の状態はいわゆるお姫様抱っこである。考えがまとまらない上に恥ずかしさで心拍数と体温が急上昇する。
その間に白銀は、周りに注意を向けつつ隣のビルのエントランスにナナメの身体を慎重に下ろした。
「顔色、良くなってきたな。むしろ赤いか?」
白銀はハンドライトを取り出すとナナメの手足、頭などを順に照らして怪我のないことを確認する。
「だだだだ大丈夫です!それより、お兄さん、さっき『いつも空から』って言いました?」
「ああ、君は気づいていないかもしれないが、以前公園でも君が空から落ちてきたことがあったんだ」
(初めて変身した時!)
「俺は吹き飛ばされて、しばらく起き上がれなかったんだが、君と、一緒に落ちてきて運ばれていった奇妙な生き物に興味があってな」
(ごめんなさいごめんなさい!)
「インターネットの噂を調べていたんだ。この街ではよく不思議なことが起こるみたいで、特設サイトまで作られていたりしていたよ。
今回の怪しい白い影の噂が、この辺りに集中していたし、そろそろ出るんじゃないかと分析して、探っていたんだ」
「そんな、危ないですよ!?」
(白銀先輩、パソコンが使えるんだ。すごいなあ・・・)
「危ないことをしているのは君も同じだろう、何か事情があるのだろうけど・・・」
と、ナナメの奇妙な服装や装備をまじまじと見つめる。
(うわー!先輩に魔法少女姿見られてるよ僕!今更顔を隠しても遅いかなあ・・・)
「でもでも、一度危険な目に、ていうかむしろ被害に会っておきながら、こんな時間にこんなことを・・・」
と、今更ながら顔を逸らしながら言うナナメ。
「まあそうなんだが、最初は君が俺の知っている人物かと思ったんだ」
ズキン!ナナメの心臓がキュッと締め付けられる。一瞬鼓動が止まったかと錯覚する。そして一筋の冷や汗が垂れる。
(え!?これって、バレて・・・ないよね!?)
「手が震えているな・・・やはり怖かったんじゃないか?落ちたことが、それともその前に?」
白銀が、ナナメの冷たくなった手を握る。ナナメの心臓は今度は早鐘のように弾みだす。
(バレてる?白銀先輩初対面の人にこんなに優しくする?今の僕は髪型も顔つきもちょっと変わってるはずだしでもそうだ喋り方いつも通りだったかもでも声も少し高いかも白銀先輩の手温かい僕の手よりずっと大人の手――)
なぜか。博士の指が自分の口に入ってきた場面を思い出した。
ドクン。また心臓が大きく脈打ったような気がする。
思わず反射的に白銀の両手に包まれていた手を引いてしまった。
(胸が痛い・・・僕、病気かな?それより・・・白銀先輩に僕だってこと、バレたくないよぉ・・・)
「す、すまない」
急に手を振りほどかれ引っ込められて少しばつが悪そうな白銀と、顔を逸らし続けるしかできないナナメ。
(気まずい・・・でもこれ以上喋ってボロが出てバレても嫌だし・・・)
「そ、それにしても似てるんだ。君、やっぱりしちが――」
(ヤバいバレちゃうバレちゃうバレちゃう)
ナナメの顔をよく見ようと近づいてくる白銀。その言葉を止めなくては。その口を塞がなくては。
恐怖、驚き、緊張、羞恥、焦り、そして、なんだかよくわからない感情。短時間に脳内を駆け巡った感情の奔流に、祐太郎の心と思考はオーバーヒートしていた。
その結果ナナメがとった行動とは――
「んむっ・・・!」
何も考えられなくなり、いや、むしろ考えすぎた結果、ナナメは白銀の唇を自分の唇で塞いでいたのである。
「な、いったい、何を」
ナナメの身体を引きはがした白銀も少なからず狼狽えていた。
「こ、これは!ワタシの国の感謝のギシキ!助けてくれたから!アリガトウアリガトウ!」
まさかのここにきての外国人設定。苦しすぎる、あまりに苦しすぎる言い訳だったが。
ピコンピコン!
〈ナナメ君、状況を報告してくれ〉
通信用のコム・ボールからの博士の声に、二人の身体がビクリと跳ね上がる。
すっかり忘れかけていたが、MID対処中であった。ナナメは我にかえる。しかし、もしや、すべて聞かれていたのではあるまいか?
「実は民間人と接触してしまいましてぇ・・・」
ナナメはMIDに遭遇したこと、その様子、白銀に助けられたことを報告した。
〈そうか、やはり、そのMIDはホワイトデビル型。人間を驚かせてその恐怖心を糧にする脆弱な白いガスの塊のようなMIDのはずなのだが・・・そんなに巨大になっているとは話と違うな・・・〉
(いったい博士はどこから魔法やMIDの情報を得ているのかしら・・・)
ナナメはふと疑問に思っていたが黙って博士の指示を待った。
〈こちらの世界の人間と餌が多すぎて、本来の生態以上に成長してしまっているのかもしれないな・・・とにかく、これ以上放置するのは危険だ。元々脅威が無かったとはいえ、今の巨大化したホワイトデビルがどれだけの力を持っているのか〉
「わかりました、つまり、怖がったらいけないんですね?」
〈まあそういうことだ。ところで、民間人の――〉
「その『民間人』です。あなたがこの子にこんなことさせているんですね?あなた大人ですよね?子供に危険なことさせて、自分はいったいどこで何をしているんですか!」
白銀が怒気を顕わに割って入る。祐太郎は、そんな風に感情を激しく表現する彼の姿を初めて見たので驚き目を丸くする。
「すまない、目の前で大きな声を出してしまって」
そんなナナメが怖がっていると思ったのか、白銀が謝罪する。
(紳士・・・!)
〈少なくともそこにいるのは、『彼女』の意思なのだよ。そして、部外者である君には、これ以上のことは教えられない。申し訳ないがね〉
(僕の意思とかよく言うよ!まあそうでも言わないと先輩は納得しないだろうけどさあ)
「・・・今はそれで引き下がります。だが、最後まで見届けさせてもらいます」
「一緒に来てくれるんですか?」
「見て見ぬふりはできないからな」
〈仕方ないね。恐らくホワイトデビル型はまだ同じビルにいるはずだ。向かってくれたまえ〉
「はい!」
ナナメは装備を確認しながら、白銀にもMIDの説明をして隣のビルへ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます