第2章 お母さん事件です
第2章 お母さん事件です
登場人物紹介
七芽祐太郎(14) 魔法少女にされてしまうオデコ少年。
白銀卓斗(16) 祐太郎の先輩。眼鏡男子。今回は出番がない。
須賀栞(14) 祐太郎が気になっていたクラスメイト。中学生にしてはおっぱいが大きい。今回は出番がない。
武者小路秋継(30?) 祐太郎を魔法少女にした元凶。変態紳士。
「血圧、MP低下、命に別条はありません!」
――僕の名前は七芽祐太郎。中学二年生の男子。訳あって魔法少女ナナメをしています。
慌ただしく、ストレッチャーに乗せられた患者(ナナメ)が運ばれていく。そこに寄り添う白衣の長髪の青年。
――この人が元凶の武者小路秋継博士。謎の発明で僕を魔法少女にしたり元に戻したりします。
「魔法の連続使用で体内のMP粒子が欠乏してしまったようだね。元素記号Mp、原子番号-√7、正式名称はムチムチプリンプリンだ。偉大な発見者たる私が命名したんだよ?あらゆる魔法少女の活動に必要な粒子なのさっ!」
――博士・・・説明が長いうえにどうでもいい情報が多いです・・・
「つまりは一時的な貧血のような状態だけど、自然にしていても回復するから安心したまえ」
――貧血かあ。お母さんにいつも言われてるようにちゃんとご飯食べておけば良かったのかな。苦手なレバニラも貧血にいいって言ってたな・・・レバ・・・ニラ・・・
「レバニラがどうかしたかい?大丈夫、すぐに楽にしてあげるからね!」
かくして傷つき倒れた魔法少女ナナメのMPを回復すべく始められるオイルマッサージ。
博士の目の前で裸にされ、リンパ節を刺激され身をよじるナナメを施術する人物とは――
「なななんで――
なんでここにお母さんがっ!?」
「はーい、お母さんでーす」
あろうことかナナメの肌にオイルを塗りこんでいたのは、七芽真実那(3×歳)、まごうことなき七芽祐太郎の母であった。
「ちょっとした・・・アルバイト?みたいな」
「ていうか!僕!今!女の子なのに!・・・知ってたの!?」
驚きのあまり祐太郎の質問は支離滅裂めいていたが母は「ウフフ」と笑って流す。それどころか容赦なく施術を続けていく。
「ちょ、腋の下グリグリしちゃらめぇ!おっ・・・胸触っちゃだめぇ!」
「でも、リンパの通りを良くしてMPの淀みを解消しないと。乳腺も刺激しておかないと健全なおっぱいの成長がね?」
「一人息子のおっぱ・・・お胸の成長は心配しなくていいの!博士もいい加減見るのやめてぇ!」
「あらあらデコスケちゃんたらいっちょ前に照れちゃってえ。それにしてもこのオイル、いいわねえ」
「これかい?そう!特別な効果を発揮するアロマMPオイルだ。君の身体の魔法力を正常に戻す力を促してくれるのさ!」
「そこじゃなくてえ!は、はぬぅん」「あら、こっちの方が良かった?」
「しかも従来のアロマオイルの効果も20%増!リラックスを超えたその果てのエクスタシーをお約束するよっ!」
「ここね、ここがいいのね?どう?」
「ら、らめええええええええん」
武者小路魔導科学研究所ラボに、哀れな魔法少女(裸)の叫びがこだまする。
祐太郎は、今魔法少女の身体になっていたことに初めて感謝した。鼠径部のリンパを執拗に丁寧に流され、変な部分が反応してしまっては社会的に死んでいただろうと思ったからだ。
「じゃじゃじゃ、じゃあ、お母さんと博士は元々知り合いだったの?」
施術が終わり、いつの間にか身体の自由も元気も取り戻した魔法少女のままのナナメが、二人を詰問する。
「そのローブ姿・・・凄く・・・事後感があって、良いじゃないか」
「博士は黙っててください!」
「質問してきたのは君の方だろうに」
「僕が魔法少女になって活動するのを隠すためのゲートボールサークルの話は?必要ありました?」
「だって息子が魔法少女になったなんて両親になかなか打ち明けられないでしょう?秋継君もネウ太君も」
「だから知ってたんでしょう!?」
「打ち明けるタイミングや打ち明け方を考える手間が省けて良かったじゃないか」
「だからそもそもその必要が無かったんでしょって!あーもう頭こんがらがってきたよう・・・」
「私もこんなに早く現場復帰するつもりじゃなかったのよ。お互いカミングアウトはもっと先の予定だったし・・・ネウタロ君頭痛いの?ヘッドスパもしてあげようか?」
「マッミーナさんの施術なら私も今すぐ私も受けたいところだよ!」
(二人ともいい加減に・・・!)
とことんマイペースな二人だしおかしな呼び名が飛び交うしでナナメの堪忍袋の緒が切れたと思った瞬間。
「――――」
三人のいた部屋を大きな衝撃が襲い、ラボ全体から喧噪が聞こえてくる。
とっさに身を寄せ合う七芽親子(今は母娘だが)。
「秋継君、何かあったの?」
内線電話を終えた博士が真剣な面持ちで言うことには。
捕獲され観察実験中だったグレムリン型MIDが逃げ出し、ラボ内で暴れている、と。グレムリン型というのはナナメが初変身初出動で無力化・捕獲したMIDに与えられた種族名だ。
「大変だ!僕が、魔法で――」
飛び出そうとして第一歩でふらついてしまうナナメを、博士が支える。
「さっきまで倒れていたのに何を言っているんだ!装備だってここには揃っていないのだよ」
「でも!僕がやらなきゃ・・・どんどん騒ぎが近づいてきてますし」
「しかし君にまで無理をさせるわけには――」
「しょうがないわね」
「え?」
問答する二人をよそに、母真実那がスタスタと廊下へ出ていこうとする。
「お母さん、危ないから――」「すまない、マッミーナさん」「へ?」
「真(まこと)たる・・・」
ドアを開けて、呪文めいたものを発する母の姿が光り輝いていく。
「真実(まみ)たる・・・マミタル・・・マジカル・・・ママ・ドール!!」
博士に手を借りて、後を追って廊下へ出たナナメが見たものは、なんと、光に包まれた魔法少女姿の母の姿であった。
「でででででえぇぇぇえええ!?」
「来たぞ!グレムリン型だ!」
ちょうど廊下を曲がり、逃げ場を求めてMIDがナナメ達の方へ駆けてくる。その勢いにひるむこともなく真実那が手を掲げ一閃――光を放つ。
「きゃあああああああっ」
ナナメが目をあけると、徐々に晴れる爆煙の中、無力化されたMIDとほほ笑む魔法少女・母の姿があるのであった。
(お・・・お母さん・・・)
(つらいよ・・・恰好が)
「じゃあお母さんは変な装置も使わずに、魔法少女になれるわけ?僕の努力と犠牲はなんだったんですか?」
「またこのパターンかね。それに変な装置ではなく、偉大なるジェネティック・トランス・スゥィィステムだよ」
「装置の名前なんて今はいいんです!」
「私ももう、魔法少女って歳でもないのよねえ」
(それはわかるよ・・・痛いほどに・・・)
巫女服をイメージさせるそれは、確かにナナメの着せられた魔法少女服と趣を同じくしていて、一児の母である成熟した真実那の身体を包むには、サイズ的にも、祐太郎のメンタル的にも、きついものがあった。
「久しぶりに変身したけど、おしりもおっぱいもぱつんぱつんねえ」
着物の衿が交わる部分は、豊かなふくらみによって前に押し出され、空いた隙間から谷間がのぞいているし、袴風のスカートも短く、かがめばすぐに下着が丸見えになることは一目瞭然であった。
そこにはもう魔法少女といった爽やかさはなく、通販で売っている下品なコスプレ衣装のようであった。しかし素材と加工のクオリティはやけに高そうなので、アンバランスさがとめどない。
膝上の二―ハイソックスも太ももにくいこんでおり、激しく動けばすぐにでもはちきれそうだ。
「だがそれでいい!むしろそこがいい!」
喜んでいるものも約一名いるようではあるが。
(母と息子で揃って魔法少女ってどれだけイタいの・・・どれだけ変態親子なの・・・お父さん・・・ごめんね・・・)
「マッミーナさんは初代の魔法少女、第一次魔法巫女計画の被検体なんだ。当時の不完全な技術の発展の礎となり、犠牲になったんだ・・・」
「急に真面目モードで説明しだすのやめてもらえます?どういうことなの、お母さん」
「今のような検体に負担のかからないシステムが作られてなかったからね、後遺症でね、以前のような出力や稼働時間は出せないの」
ボッシュー!という音と煙とともに、母の姿は元に戻っていた。
ナナメはほっとしたが、博士は悔しそうな表情であった。
「また汚れてしまったね。ナナメ君、お風呂を用意しよう」
「あわあわおふろだーっ!」
博士が10分ほどでラボ内に手配してくれた浴室に入るなり、ナナメのテンションは急上昇した。「ポセイドンごっこしよ!えへへ」足を伸ばして入れるサイズに、たっぷりの泡風呂。変人で変態だが、武者小路秋継という人間の気遣いは一流であることは認めざるを得ない。
「ふわあ~~~~~」
ようやく、大変な一日が終わる。魔法少女としての出動に、MPの枯渇・ブラックアウトというアクシデント初体験。予想外の場所への母の登場に、母の変身。身も心も疲れ果てた・・・
「お母さんに二度とあんな格好させないためにも、僕が頑張らないと」
決意を新たにするナナメ。
「そうだ、お風呂より前に、変身解いてもらえば良かった。この身体でいることに慣れ始めている自分が嫌だー!あ、でも大人の人たちは今騒動の片づけをしてるんだよね」
「それにしてもずっと泡がぶくぶくしてすごいお風呂だな――」
ブクブクブクブク・・・
「?」
ザバアアアアアアアン!
その時ナナメの足元からシュノーケリング装備の博士が現れた。
「何してるんですかああああ!」
「ナナメ君がリラックスできているか気になってね。君の心身の変化を観察、記録するのも私の責務さ。いやなに、君がどんな姿でも気にしないよ。私は心が広いんだ」
「気にしてえええええええ!」
負けるな、(二代目)魔法少女ナナメ!
★あとがき☆
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