第16話 安否確認と明確な敵対組織

屋敷を出たセイルは、俺にしか分からない方法で鬼車のじっちゃんが示したグレンの家へ向かっていた。盗賊の技術と俺の《魔力制御》の組み合わせた特殊な方法だ。

人混みに紛れ、とある宿屋の前に来ると二階へ案内される。中には鬼車のじっちゃんとヤクザ風な40代のイケオジが俺を出迎えた。


「じっちゃん、遅くなりました。」


「いや、むしろ早いくらいだ。おっと紹介するぜ、こちらにいるのがここらを仕切っている裏のトップのケンヤさんだ。」


「初めまして、ケンヤと申します。セイル殿には一度お会いしたいと思い、ここに無理をいって来させていただきました。」


「いえいえこちらこそ。となると…今回の一件には裏の世界の事情がある感じですか?例えば…別の組織が来て荒らしているとか?」



俺の問にケンヤさんは目を見開き、鬼車のじっちゃんはどうだと言わんばかりの自慢げな顔で笑っている。普通だったら薬とかがメジャーだと思うが、今回はおそらく俺絡みの案件だ。何となくまた奴らの仕業だろう。

ケンヤさんは少し姿勢を正して俺に話しかけてくる。


「よくお分かりですね?出来れば我々に教えていただきたい。探りに出た者は誰一人戻らず、実態がつかめていないのだ。」


「わかりました。おそらく隣国で広まった宗教団体【メシア】でしょう。私も何度か襲撃されていますし、連中の殆どが各国の元軍人や暗殺者、処刑された極悪人などのエリート集団です。」


信じられないといった顔をするケンヤさんだが、隣りにいた鬼車のじっちゃんに確認して分かってもらえた。俺がなぜ知っているのかといえば、父であるマイクの部隊がやっとの思いで調べ上げた情報だからだ。


1歳の時に王城であった騒動がきっかけではある。あのときに操られていた閣僚からでた内容の中に見知った名前があり、国王様の命で再度隣国に潜入したマイクとその仲間たちによって約2年の歳月をかけ見つけたのだ。


そして奴らの目的は転生した神を探して殺すことらしい。なぜだか転生神様が転生したリジェの生まれた日に結成したらしく、十中八九どこかの神が関わっている可能性が高く、転生理由である俺が狙われるのは必然だろう。


ここまで聞いて疑問に思った人は多いだろう。何故ケンヤさんは知らないのか。それはこの団体は一度も集まったことがなく、みんな単独犯というところだろう。


ほとんどの構成員は自分以外の仲間は顔も名前も知らなければ、お互いに殺し合ったり一般市民と変わらない生活をしてそのまま亡くなるなどはっきり言ってわからないのである。

だから普通の殺人犯と見分けがつかず、団体名も話さないので噂にもならない。ただ自分の近くに対象がいるとお構いなしに襲いかかるとだけははっきりわかっている。


「まさかそんな奴らだったとは…やはりセイル殿に会うことは間違いじゃなかった。頼みます!うちらを助けてぐださい!!」


「頭を上げてください!元々手を貸すつもりですから。もしやグレンの妻と娘は…」


俺は土下座をするケインさんに頭を上げてもらい、内容を確認する。

何だか嫌な予感がビンビンくるのは気の所為であってほしい。


「グレンの娘がどうやら奴らのターゲット候補だったが、今回セイルの旦那の件とかぶり代わりに旦那を殺せば見逃すという流れにはなっているようだ。」


間から鬼車のじっちゃんが俺に説明を始める。

あまり俺が長居出来ないことを知っている彼だからこその発言だ。


「どうやら俺らが調査する前にすでに嫁と娘は移動されて全くわからず、ケインの情報網を頼ったがだめだったんだ。」


「ああ、こんな事は今まで一回もなかったんだ。どんなに隠しても何かしらは残るはずなんだが、まるでそこにいなかったように消えちまったんだよ。」


二人の話を聞いた俺はケインさんの最後の言葉が気になった。

どんな奴だろうと必ずスキルを使えば使用した魔力残渣が残るはずだ。それすらもないとなると…


俺はグレンの自宅の場所を教えてもらいながら、《魔力制御》で放出した魔力でくまなく痕跡を探る。その中で寝室の中に入った魔力の反応が突然なくなった。なくなったというよりは何かに取り込まれた感じなのが何となく分かる。


俺は二人にこう告げた。

娘と嫁は無事だと。

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