第4話 課外学習

秋休みに入る一週間前。

課外授業ということで、動物愛護センターを訪問することになった。

動物愛護センターとは、いわば保健所。

由利香は気が進まなかったが、訪問を理由なく拒否すれば、単位がもらえない。


「行ってきます……」

「行ってらっしゃい」

母親が由利香を見送る。


学校まで行くのと同じように、まずはJRに乗った。

そこから隣の県まで向かうのである。

学校の生徒たちには、たまに会うのだが不思議なことに今日は誰とも会わない。


それもそのはず、由利香が乗っている電車は、指定された集合場所である課外授業最寄り駅に三十分ほど早く到着する電車である。

次の電車で来る生徒の方が多いだろう。


由利香はぼんやりと車窓を眺めていた。

少し覚悟がいるような、そんな気がしたからだ。


隣の県の主要駅に着く。

そして、地下鉄に乗り換えて最寄り駅へとやってきた。

思っていたような場所ではなかったが。


「ええっと、南口だったよね」

配布されたプリントを見ながら南口へと向かう。


だが、やはり早すぎたようだ。

由利香は近くにコンビニを見つけた。

飲料だけでも買っておいた方が良さそうだ、と中に入る。


コンビニの中には、意外なことにクラスメートが二人いた。

「おはようございます」

「あ、おはよ。早いね」

「うん、間違えて遅刻したらやばいと思って……」

「由利香なら大丈夫でしょ」

クラスメートは笑って言う。


集合時間五分前まで、何とか時間をつぶす。

「じゃ、行こうか」

「うん」

三人は外に出て、他のクラスメートたちや引率の先生と合流した。


愛護センターまでは少し歩いた。

「ここが愛護センターです」

施設内に入ると、担当の人が案内をしてくれる。


「ここにいるのは、迷子になった犬や猫、また飼えないと持ち込まれた犬や猫や、野良犬、野良猫です」

もちろんそれは誰でも想像がつく。

「もちろん、いつまでもいて欲しいのが本心ですが、そうすれば施設がパンクします。その為、ある程度の期限を経た犬や猫は、非常に心苦しい決断ですが……」

担当の人はそこで言葉を切る。

「手元の資料の通りです」

どうしても、担当の人は言葉にすることができないようだ。


由利香は資料を見た。

ガス室……、すなわち……、強制的に虹の橋を登らせるということだ。

「これから施設内を案内いたしますが、気分が悪くなられた方は、すぐにお申し付けください」

由利香はこれが一番嫌な瞬間だった。


「こちらにいる犬や猫は、一週間後に最後の部屋へと向かいます」

檻の中に、まだ明るい目をして人を見ては尻尾を振る犬がいる。

「毎日決まった時間に、隣と別れている折が動き、奥へと強制的に向かいます」

二日経過した犬や猫は、少し元気がないようだがまだ人間を見て尻尾を振る。

日に日に、目が暗く沈んでいく様子を見ているのがつらい……。

六日経過した犬は、もう人の目を見ようともせず、生きてはいるのだが生気がない。


「この奥が、ガス室です。本日はもう……、役目を終えた部屋です。中には動物たちもおりませんが、中をお見せできませんので、外だけです」

その言葉に泣きだす生徒もいた。

由利香は、呆然とガス室の外観を見た。

中はさすがに見せてもらうことはない。


「では、先ほどの講習室へ」

そう言って担当者が先導する。

由利香は半ばくらいのところで着いて行く。


『くぅーん、くぅーん』

由利香は思わずガス室の方を見た。

悲痛な犬の悲鳴が複数聞こえた気がしたからだ。

周りに話しても、聞こえなかったと言われた。


命を飼う責任……。

可愛い、欲しいだけじゃダメだ。

由利香は改めて言葉の重さを知ったのである。




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