第3話 腎臓検査
一ヶ月ほど経った後。
基礎獣医学の授業の終わり際のこと。
先生が言う。
「次回の授業では、実際に犬の尿を使って尿検査の実習授業をします。もし誰か犬の腎臓が気になるよ、って人は採尿容器を渡すから名乗りに来てね。過去には生徒の犬の腎臓病も早期発見できたケースもあるし、授業だから無料でできますよ」
由利香はすぐに挙手した。
「由利香さんのところの犬さん以外は?」
他は誰も手を挙げない。
「じゃあ、由利香さんは後で学務室に来てね。採尿容器を渡すから」
「はい!」
次回の基礎獣医学は来週だ。
学務室で採尿容器を受け取り、大事に鞄にしまう。
「来週の授業当日の朝、採尿してね」
「分かりました。うちの犬もそれなりに年なので、私も把握できるなら嬉しい機会です。だから、名乗り出ました」
「そう言ってもらえてうれしいわ。トレーナーコースの子、他はみんな反応なしだったから……」
先生はそう言って肩をすくめた。
ちなみに、由利香の選んだコースはドッグトレーナーだが、学校の方向性もあり、トレーナーコースの生徒もトリミング、動物看護、一般教養など一通りのカリキュラムを受講することになっている。
由利香はフォトグラフィック実習の他は、比較的基礎獣医学と生体管理学と言った、看護寄りの科目や接遇サービスと言った一般教養の方が得意だった。
入るコースを間違えたんじゃないか、と周りもからかってくるし、由利香自身も後々そう思ったが、学費の兼ね合い(※コースごとに1万~3万程度値段が違い、トレーナーが最も安い)かつ看護コースは採血なども練習するという話があり、血を見るのが苦手でトレーナーにしたことを思い出す。
授業当日、この日は何と由利香の誕生日でもあった。
「由利香、お父さんとカーラの散歩に行ってこなくていいの?」
「あ、行かないと! 採尿しないといけないんだった!」
由利香は豆腐の空パックを持って、父とカーラの散歩に付いていく。
カーラはやりにくそうだが、ちゃんと採尿させてくれた。
「授業でカーラが健康か聞いてあげるからね」
由利香は満足そうに言った。
授業本番。
「さてと、由利香さんのおうちの犬さんと、実習犬のすずちゃんで採尿した物を検査していきましょう。由利香さんちの犬さんの名前は?」
「カタカナで、カーラ、オスの未去勢です」
「はい、カーラくんですね。未去勢だからちょっとにおいがキツイかもしれませんが、カーラくんのは由利香さん主体でやっていきましょう」
いくつかの分別、成分の調査などを経て、簡易検査の実習は終わった。
「この成分的に、現時点ではカーラくんもすずちゃんもさほど問題はないと思います。カーラくんの尿、もらって精査しますね。来週には結果が出るでしょう」
「はい、お願いします!」
由利香は少し胸をなでおろす。
授業後、数人が話しかけに来た。
「あーあ、こんなに簡単だったらうちの子もやってもらえばよかった」
「由利香さんとこのカーラくんだっけ? 精査してもらえてよかったね」
「でも、うちの子の健康を考えたらやっぱり出すべきだったなぁ」
やっぱりクラスメートから、後悔の話ばかりされる。
「うちの子、もうそこそこ年だったから……、心配だったの」
由利香は出してよかった、と心から思った。
翌週。
カーラの誕生日に、カーラが健康体そのものだ、と検査結果を聞いた。
由利香とカーラの誕生日は8日違いである。
凄い誕生日プレゼントだ、と由利香は心から嬉しく思った。
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