第44話 王都キングダム エピローグ
「ラック、お前もうパーティから外れろ! 」
人々が集まる王都キングダムの酒場でブレイブは大声で叫ぶ。酒場にいた冒険者達は目を丸くしてブレイブのことを見つめる。そんな彼の横には聖騎士ビューストンが呆れたように立っていた。
「またその話をするのか? 」
「いいだろ? この俺様の一言からあの勇者ラック様の冒険譚が始まったんだぜ? 俺様の追放あってこそのラック様の偉業なんだよ! 」
「……別にお前がいなくても変わらなかったけどな? 」
「あっ、これはこれはラック様! 今日もご機嫌麗しゅうございます! 」
酒場に入ってきたラックの姿を見るとブレイブは手を揉みながら頭を下げる。
「お前がこうやって酒場で大袈裟に話すから俺も結構迷惑してるんだ。買い物に行くたびにサインをねだられるんだぞ? 」
「へへーっ、すみませんでした。ビューストンのやつがやれっていうものですから……」
「あの時もうちょっとボコボコにしておくべきだったか? 」
素晴らしいくらいの変わり身の早さにイラついているビューストン。ブレイブとビューストンはあの戦いの後も腐れ縁でよく一緒に酒場で飲んでいた。
「そういや王様が倒されてからもう半年がたったか。勇者パーティはもう解散したんだったよな? 」
「ああ、みんな自分の道を進んでいるよ。自分は街の兵士、コイツはこうやって吟遊詩人の真似事をしてる」
「ギャハハ、俺様はこれから旅をしてラック様の素晴らしい冒険譚を伝えてまわろうと思ってるんです」
「その恥ずかしい笑い方で俺の話をして欲しくないんだけどな」
ラックがため息をついているとビューストンが不思議そうな顔をする。
「それよりもラックはこんなところで油を売ってていいのか? 今日は大事な日なんだろ? 」
「大丈夫だ、十二時までには一時間はあるはずだからな」
「あれ、あと十五分だが? 」
「やべえっ!? 俺の家の時計電池切れ起こしてやがった! 」
「肝心な時に運が悪いやつだ……」
ラックは慌てて酒場を出ると空からアクアリーテが箒に乗って降りてきた。
「こんちわー、どうせ遅れてると思ってたから迎えにきてあげたよ」
「マジで助かるぜ、それにしてもよくここがわかったな? 」
「ラックといえば酒場かカジノと相場が決まってるからね。ほんとろくでもない男だよ」
ラックがアクアリーテの後ろに乗ると箒がふわりと浮かんで王城に向かって進んでいった。
「それでアクアリーテは最近仕事の調子はどうだ? 」
「こんな時に仕事の話〜? まあボチボチかな、王都の後始末の手伝いとかで魔術協会も大変だったけど最近はなんとか落ち着いたよ。一番の課題の古代人ケイジはまだちょっと揉めてるけどね」
「古代人の生き残りがいたなんて、魔術協会は凄い驚いただろうな? 」
「そりゃもう超パニックだよ! でもなんとかケイジはナノマシンのことは伏せてくれる方向で話は進んだみたい。どうやらケイジもこの世界を守りたいってさ」
王様の正体が古代人のケイジであることはラック達と魔術協会、一部の貴族だけにとどめておくことになった。いきなり市民に公表すると大混乱を起こす可能性があったからだ。
「だけどラックもよく古代人を倒せたよね? 古代人なんて魔法の神様みたいなものなのにその魔法すら効かないなんて凄すぎるよ」
「ふふふ、実は俺は魔王だったのだ」
「クスクス、少しは面白い冗談も言えるようになったじゃん。おっ、そんなことしてる間に着いたよ」
アクアリーテ達は王城前の広場の隅っこにゆっくりと降りた。その広場の中心に人だかりができているのを彼等が確認しているとガイラナイラがやって来た。
「おいラック! 恋人を待たせるとはいい度胸だな! 」
「えっ、いつの間にそんな関係に!? 」
「いや、この前一緒に二人で飯食ったぐらいだぞ? 」
「男女二人っきりで飯食ったらそれはもう恋人同士だろ! 初めてだったんだからな! 」
「どーゆー恋愛感してるんだよコイツ」
ガイラナイラは口調では怒りつつも恥ずかしそうにモジモジする。服装も盗賊のフードをやめてワンピースにするなど女の子らしくなれるように頑張っているようだ。
「ガイラナイラは結構忙しいって聞いたけど、ここにいて大丈夫か? 」
「仕事はなんとか無理やり終わらせた。鉛を金に変えたり、二酸化炭素を酸素に変えることぐらい一秒あれば余裕だし」
「コイツ、普通にチート能力だよな? ぶっちゃけ俺より凄いんじゃないだろうか」
「えへへ、褒めても錬金術くらいしかできねーよ」
ガイラナイラはその能力を買われて王城の錬金術師として大活躍中である。
そして彼等は人混みの中に向かっていく。三人が人混みをかき分けて進むと、人々の優しい視線に包まれていたティアの姿があった。
ティアはその小さな身体にピッタリ合った白銀の鎧を身につけ、美しい金髪の上にちょこんと輝くティアラを乗せていた。
「……っ!? 」
「おやおやー、ラックはティアちゃんの美しさに見惚れちゃったのかい? 」
「ち、ちげーし」
「ラック!? アタシという恋人がいながら他の女にうつつを抜かすか! 」
「だから恋人じゃねーって……」
そんな三人のゴタゴタに気づいたティアはニコリと笑って手を振ってきた。それに皆が手を振りかえすと、彼女の横にいた王様が大きく手を上げて人々に語りかけ始める。ちなみにこの王様はロボットである、ケイジが修理して復活させたのだ。
「この少女ティアはこの街の進歩に大きく貢献をしてくれた。今回の活躍と今後の期待を込めて、この者を『勇者』として認定する! 」
「ありがたきお言葉でございます」
「これからはこの街の代表として各地を巡り交友関係を結んでいってほしい。世界の街と街をつなぎ、人類を一つにする重要な役目だ」
「はい、わかりました! 」
ティアは深々と頭を下げると王様は輝く剣を手渡した。ティアはそれを人々に見せるように高く掲げると大きな歓声が湧き上がる。
「ねえラック、どうしてティアちゃんが勇者になったんだい? 果たした仕事を考えると、勇者になるならラックの方かなと思ってたけど」
「俺は辞退したんだよ、元々王都の人間でもないし、人々に見守られながら旅なんて息苦しいからな。それに王都の象徴になるならティアの方が適任さ」
(まあ魔王が勇者になるなんて、いざ本当のことがバレたら大変だしな)
ラックが勇者になった場合の自分の境遇を考えると、つい面白くてクスリと笑ってしまった。そんな様子を傍で見ていたアクアリーテとガイラナイラは首を傾げる。
「ティアちゃんは勇者として王都の重要なポジションになったから大変だね。街と街を繋ぐといっても兵士をゾロゾロ連れていくような感じになるんじゃないかな」
「外交官みたいな感じだな。いいんじゃねえか、ティアは結構そういうの似合ってるし」
「……ラックはそれでいいのかよ。アイツはお前にとって特別な関係なんじゃないのか? 」
「かもしれないが、ティアが嬉しいならそれでいいのさ」
人々から拍手の嵐を浴びながら満面の笑みを浮かべているティアを見て、ラックは優しい笑顔を浮かべるのであった。
☆ ☆ ☆
ティアが勇者に任命された翌日の朝、ラックは王都の門をくぐり、次の街へと歩みを進めていた。
「さて、ティアの勇者任命式も無事に見ることができたことだし、そろそろ次の街に行くか。次は美味い酒がある街がいいな」
ラックは地図を見ながら次に行く街に目星をつけると一歩一歩前へと歩き出す。
「今回の旅は俺の長い人生でもなかなか楽しかったな。さーてと、次はどんなやつに会えるかな。古代人にあったんだから次は神だったりしてな」
そんな独り言を呟いているとどこか遠くから地響きが聞こえて来た。
アオオオオオオオオオン!!
「……この嫌な音はまさか」
「そこの旅の人! 歩きは疲れるんじゃないですか、もしよければ私のフェンリルに乗せて行きますよ! 」
「ティア!? どうしてここにいるだよ!? 」
フェンリルの運転席から顔を出したのは紛れもなくティアであった。彼女は黒いローブを着て占い師の格好をしている。
「えへへ、やっぱり旅をするならラックさんとがいいなーって」
「勇者の仕事はどうするんだよ? 」
「ケイジさんにお願いして私そっくりのロボットを作ってもらいました。最低限の外交ならロボットがやってくれます」
「アイツはティアのためにわざわざそんなことしてくれたのか? 」
「私だけじゃなくて、ラックさんのためとも言ってましたよ? 」
「ちっ、余計なことを……」
ラックは悪態をつきながらもフェンリルの助手席へと乗り込んだ。慣れ親しんだシートの感触が彼を安心させる。
「それで次はどこに向かうつもりですか? 」
「そうだな、じゃあせっかくだから占いで決めるか。今度は俺がお前を占ってやるよ」
「へー、ワクワクドキドキです」
ラックがタロットカードをシャッフルしてティアに一枚引かせると彼女はニヤリと笑う。
「ふふふっ、私のカードは『愚者』です! 愚か者ですけど未来への旅立ちを表す今の私達にピッタリのカードです。幸先いいですね! 」
「ああ、面白くていいカードだ」
「ということで目的地は決めずに気の向くままにフェンリルですっ飛ばして行きますよ! 」
「おい、安全運転で頼むぞ! 俺達の旅は時間がたっぷりあるんだから急ぐ必要はないんだぞ!? ……きっとな」
地平線の彼方に向かって爆音で走り抜けるフェンリル。彼等の視界からはすぐに王都は見えなくなってしまった。
その後、世界の各地でとんでもない強さの青年と銃を使う少女の活躍する話が誕生し、語り継がれることになるのであるが、そのことを二人はまだ知る由もない。
お前と一緒じゃレアドロップが出ないんだよ運が悪い疫病神! と勇者パーティから追放されたので美少女占い師と一緒にのんびり世界を旅していたら、いつの間にか勇者が追放されてました(笑) @pepolon
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