第43話 王都キングダム その4
自分のことを全てから追放された者と言ったケイジ。当然その意味がわからなかったティアは質問をする。
「全てから追放されたとはなんでしょう? 貴方もラックさんみたいにパーティを追放されたのですか? 」
「パーティなんてチンケなものと比べないで欲しい」
ケイジは馬鹿にしたように笑うと二人のことをじっと見ながら語りかける。
「私はかつてこの世界で科学者として働いていた。自分で言うのもなんだが世界一の天才と言っても過言ではなかった」
「そんな天才ならなんで追放されちゃったんです? 」
「世界の人々は私を恐れたのさ。世界を根本から覆すような私の研究に恐怖した世界の人間は、ある日私を強制的にコールドスリープさせて、一人分の宇宙船にぶち込んで宇宙へ捨てやがったんだ! 」
吐き捨てるように言い放ったケイジを落ち着かせるようにティアが言う。
「……でも今の貴方はここにいますよね? 」
「そうさ、宇宙の彼方の星で奇跡的に目を覚ました私は死に物狂いで戻ろうと頑張ったさ! 私を追放したこの星の奴らに復讐するためにな! そして遂に宇宙船を開発して何万光年の旅から戻ってきたのさ! 」
勢いよく話していたケイジは急にトーンダウンして自嘲する。
「しかし、私が戻ってきた世界は、同じ世界だが全く違っていた」
「それはおそらく、ウラシマ効果だろうな」
「ウラシマ効果? 」
「宇宙船のように高速で移動をし続けてると時間の経過の仕方が変わるんだ。ケイジが戻ってきた時には、予想以上にこの世界は時間が経っていたはずだ」
「そうさ、私がようやく到着した時にはアイツらは既に滅びていた。キミ達が言う古代人のことだよ。こうして帰ってきた私は復讐する相手を失ってしまった、奴らに勝ち逃げされたまま全て終わってしまったんだ! 」
「別に自分を追放した奴等が滅びてざまーみろって考えはダメなのか? 」
「復讐は私自身の手で成し遂げたかった! だからこそ宇宙の果てから戻ってきたんだよ! 」
ケイジは壊れて動かなくなっている王様型のロボットを蹴飛ばすと、それはコロコロと転がり壁にぶつかった。
「でも復讐する相手がいなくなったケイジさんがどうして王都にいるんですか? 」
「もともと王都は私が作った街だ。私は自分の指示を詰め込んだ王様のロボットに全てを任せた後、再び宇宙へと飛び立ち、また再び時間進めた。そしてこの世界で数百年の時がたち、私が戻ってきた時には予定通り王都は立派な街へと成長をしていた」
「予定通りって、この魔王や勇者を人々が信じている街がですか? 」
「ああ、この街こそが私の夢であり奴らへの最大の復讐なんだよ。キミ達自身が気がつかないのも仕方ないものだけどね」
含み笑いをしているケイジにラックは催促をする。
「話が長いぞ、さっさと要点をまとめてくれないか? 」
「待ってくれよ、ここからが本題だ。私は科学者だがその目的は人間の妄想の具現化だ」
「妄想の具現化ですか? 」
「モンスターや魔法など人々の想像は無限大にもかかわらずそれが現実になることは滅多にない。だから私が現実に呼び寄せてやっていたのさ、品種改良でモンスターを生み出し、ナノマシンを使って魔法を創造した。最初はみんなも喜んでいたが、ある妄想を具現化しようとした時、奴らは急に私を追放したのさ」
「……いったい何を具現化しようとしたのです? 」
「魔王だよ」
ケイジが一言話すとその場が冷たい空気に包まれる。その重い空気を打ち破るようにラックが声を出した。
「人間の敵である魔王を作り出そうとしたら追放されてもおかしくないだろ? 」
「なぜだ? 人々は魔王が倒される話が大好きだろ。なら魔王がいなければ話はなにも始まらない。なのにアイツらは理解しないどころか私を追放した。そして私が復讐する前に勝手に死にやがった」
「それが王都となんの繋がりがあるんだ? 」
「お前達は王都の冒険者が魔王討伐と称して人々を殺す姿を見てどう思った? 」
「……それは許せないことだと思います」
「そう、そうだよ」
ケイジは生徒が問題に正解したのを褒めるようにニコリと笑った。
「結局人間には敵対する何かが必要だ。それがなければお互いに殺し合う生き物。だからこそ『魔王』を創造しなければいけなかったんだ」
「それでなにが言いたい? 」
「その魔王の創造を邪魔したせいでこれから何万もの人々が命を落とすだろう。つまり奴等が私を追放したことで人が苦しむことになるのだ! こうやってアイツらが間違っていたことをこの世界で表現してやることこそが私の復讐なのだ! 」
「なんて愚かな復讐なんですか……」
「なんとでも言え、私の気持ちを誰かに理解してもらおうとも思わない」
悲しむティアのことなんて気にもかけず言いたいことを言ってスッキリしたケイジは玉座に座って脚を組む。そんな余裕を感じさせる彼にラックは話しかける。
「悪いがお前の目論みはもう終わりだ、王都の主力メンバーである勇者パーティは倒したし、他の街にも王都に逆らうように頼んだ。後はお前をぶっ潰すだけで全てが終わる」
「私を倒す? 私はこの世界の魔法もモンスターも作り出した神のような存在だ。それを倒すというのか? 」
「余裕だな、今になっても古代人の幻影に怯えて復讐し続けなければ精神を安定させられないザコには負けないさ」
「私が怯えているわけがない! 魔法強制発動コード! 『灼熱α』目の前の対象を燃やせ! 」
ケイジの言葉が室内に響き渡るとラックの身体が真っ赤な炎に包まれる。彼はよろよろとよろめきながら膝をついた。
「どうして詠唱なしで魔法を発動できるんですか!? 」
「ナノマシンを作ったのは私だ、当然短縮コードぐらいプログラムしている。私の声にしか反応しないようにしているけどな」
「そんなっ、ラックさんもう少し耐えていてください。すぐに私が回復させますから! 」
「いや、いい。この程度ならなんてことはない」
ラックはゆっくりと立ち上がって腕を横に振ると炎がかき消されて傷ひとつない状態でケイジを睨みつけていた。
「馬鹿な……、間違いなくこの世界の生物であれば跡形もなくなるほどの高熱を発したはずだ!? 」
「どうかな、お前の計算ミスじゃないのか? 」
「そんなわけはない、私の計算に狂いはない! 」
「でも魔王は作れなかったんだろ? じゃあ別に絶対ってわけじゃないな」
「違う! 私は魔王を間違いなく作ることができていた、後もう一歩のところまで進んでいたんだ。しかし寸前のところで邪魔が入ったんだよ! 」
ケイジは過去に受けた仕打ちを思い出して、怒りで両手を震わせながら声を絞り出す。
「星さえ砕く攻撃力、あらゆる物理的攻撃を防ぐ防御、光の速さで動ける素早さ、隣の惑星の虫にも銃を当てることができるほどの命中力、永遠の不老不死能力を融合する所までは作れていたんだ! そしてあと一つだけ能力を加えれば最高の魔王ができたはずなんだよ! 」
「その残り一つの能力ってなんなんです? 」
「……どんな確率でも当たりを引ける幸運力。それさえあれば私の魔王は完成したんだ! 」
「途中まで作っていた魔王はどうなったんでしょう? 」
「知らないがおそらく奴らに処分されたのだろう。まだ幸運を加えていなかったから通常の生物より明らかに不運だし、生き延びている確率は無に等しい」
その言葉を聞いたティアは目をパチリと広げてラックのことをじっと見る。
「ラックさん…………」
「なんだティア、今の話が俺と関係あるとでも思ってるのか? 」
「私はまだ何も言ってませんよ、それに私はラックさんが何者であろうとも構いません。今まで一緒に旅してきてラックさんがいい人だってことはちゃんとわかってますもん」
「そうかい、お前も随分なお人好しだな」
「ラックさんほどではないと思いますけどね」
笑顔のティアに微笑んだラックは、ケイジに向かってゆっくりと歩いていく。
「近づくんじゃねえ! 魔法強制発動コード! 『凍結β』、『感電γ』、『石化Ω』! 」
ケイジの魔法が発動し、ラックの体には霜がつき、電撃が流れ、指先が硬直するが、それはすぐに元通りになる。
「なぜなんだよっ、私の魔法が効かないなんてありえないだろうがっ!? 」
「もういいだろ、俺には何をしても無駄さ」
「くそっ、こんなところでとんでもない邪魔が入りやがった! 私はただ復讐をしたいだけだったのに! 」
「なあ、ここからは俺の想像だが古代人はお前を追放したわけではないんじゃないか? 」
「ああ? なに言ってんだ? 」
ケイジは眉を吊り上げると疑いつつもラックの話に耳を傾ける。
「もしお前を追放したのであればなんでまた戻って来れるような安全な星に追放したんだ? 」
「それは私を苦しませたいだけだろう。アイツらはきっと遠くで苦しんでいる私を想像して笑ってたんだ! 」
「違うな、魔法で世界を便利にした功労者を追放する馬鹿はいない。お前はどうして古代人が滅びたのか理由をしらないだろ? 」
「考えなくてもわかる、どうせ仲間割れか何かで世界中で大量破壊兵器でも使ったんだろうさ」
ケイジは呆れたように言うが、ラックは首を横に振った。
「違う、大量の隕石だ。数えきれないくらいの隕石が地表に降り注ぎ地上を焼き尽くしたからさ」
「はっ、そんなタイミングよく隕石が同時に降り注ぐわけないだろ? 」
ドドドドドドドッッッッ!!!!
その瞬間、ラックの真上に隕石が降ってくるが彼は片手で受け止めて空の彼方へと投げ飛ばした。
「降ってくるさ、どこかの誰かさんが最高に不運な生物を作り出したんだからな。俺はまだ眠っていたから受け止めることができなかった」
「…………まさか、お前はあの時の? 」
「きっと古代人は自分の作品が原因で世界が滅びることを秘密するのが良いと思って、隕石が衝突する前に咄嗟にお前を脱出させたんだ」
「それなら……、なぜ奴らは私を助けたんだ。それでは私が滅ぼしたようなものじゃないか? 」
「お前がすごい奴だからだよ、再び戻ってきて未来のこの星を良くしてくれるように古代人は考えたんじゃないのか? 」
「私は……、なんて馬鹿なことを……」
ケイジは頭を抱えて跪いた。地に伏した彼は嗚咽をあげて震える。そんなケイジを見下ろしたラックは声をかける。
「泣けば許されるとでも思ってんのか? お前のせいで大勢の人が迷惑かかってんだ、どうすればいいかわかるよな?」
「……王都の進軍は今すぐやめさせる。それでいいか魔王? 」
「俺は魔王じゃねえよ、ムカつくからとりあえず一発ぶん殴らせろ」
「ぐはあああっ!? 」
ラックが右拳を振り抜くとケイジは吹き飛んで壁に思いっきりぶつかる。
「まだまだまだああああっ!! 」
「ぐふふふはあああっ!?!?!? 」
ダウンしたケイジに追い打ちをかけるように一方的にボコボコにするラック。そのあまりの光景にティアがストップに入る。
「ラックさん、お気持ちはわかりますけどもうやめましょうよ。これ以上攻撃してもラックさんの気は晴れないと思います」
「わかった、じゃあ俺の分はもうおしまいだ。次はティアの分だな! 」
「がはああっ!? 」
「いや私はそこまでやれとは言ってませんよ!? 」
ラックの最後の一撃を受けたケイジは白目を剥いて気絶する。ラックは憐れみを込めた目でつぶやいた。
「すまない、ティアの分のせいでこんなことに……」
「ラックさんは幸運の他に、良心も入れ忘れられてるんじゃないでしょうか? 」
「良心なんて争いのもとさ、俺には必要ないね。さて、これから王都の進軍をやめさせて、各所に謝って、街を立て直してとやらなきゃいけないことが一杯あるな。ティアも手伝ってくれるか? 」
「とーぜんです! 力の限り頑張りますよ! 」
自信満々に胸をポンと叩いたティアは少し間をおいてラックにたずねる。
「そーいえばラックさんは本当は何歳なんですか? 」
「……それは秘密、マジで秘密だからな!? 俺はオッサンじゃねーし! 」
「……まだなにも言ってませんけどね? 」
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