第33話 手を差し伸べる街 エピローグ
ティアが『株式会社チャリティー募金』の社長になってから一週間がたった。彼女はその手腕を活かして会社を羽ばたかせている。
「ふにゃ〜、この社長特性プリン美味しいです〜」
「ティア、次はこの書類にハンコを押してくれ」
「わかりました、ラックさん。この書類はなんなんですか? 」
「……ところでシェフに作らせたS級チョコレートがあるんだけど食うか? 」
「たべます、たべます! ひゃ〜、とろける甘さです〜」
ご覧の通り、この会社はお飾り社長ティアを操るラックによって支配されていた。
ラックはハンコが押された書類を見て頬を緩ませる。
(さーてと、これで銀行から金を引き出して今夜はカジノでも行くか)
今晩の楽しい遊びを想像してニヤニヤしているラックのところに一人の子供がやってきた。
「ラックお兄さん、ティアお姉ちゃん! こんにちは! 」
「おお、カインじゃねえか。ちゃんと元気にしてるか? 」
「うん、お兄ちゃん達が支援してくれたおかげで皆が借金を返せて元の暮らしができるようになったんだ」
「それは良かったですね、私達も頑張ったかいがあったというものです」
一応、ラック達は会社を乗っ取った後、地下にいた人達の借金を全て立て替えてあげたのだ。そして街の住民には身近にも困っている人はちゃんといることも伝えておいた。これからこの街がどうなるかはわからないが、それでも多少はマシになるであろう。
「それでお兄ちゃん達は何をしてるの? 」
「仕事だよ仕事、ほら今度からは賄賂をもらわずに本当に必要な人へ募金ができるようにチェックしてるんだ」
「モグモグ、そうなんですよね。いろんなお菓子のチェックで大忙しです」
「ふーん、そうなんだ」
カインは自分が考えていたものとはちょっと違う仕事ぶりに対して疑問に思ったが、社長はそんなものなのかなと納得した。彼は将来優秀な社畜になるだろう。
「そんなことよりカインくん、これ見てくださいよ」
「それはお姉ちゃんの銃だよね? 」
「えへへ、それがこうなるんです! 」
ティアが取り出した拳銃はガチャガチャと金属音を鳴らすと、ライフルのように細長い銃身へと姿を変える。またスコープもついており遠距離狙撃も可能だ。
「銃が変形した!? 」
「しかもこれだけじゃないんですよ」
ティアがそういうと、銃は形を変えてバズーカになったり、ガトリングガンになったりと次々に姿を変える。
「ふふふ、これが私の銃を改造してできた多機能搭載機械銃。名付けて『バハムート』です! 」
「一週間でできちまうとは凄いよな」
「ふふん、社長特権で職人に頑張らせました」
「なんか凄そうだけど、お金かかったんじゃないの? 」
「いえ、たったの金貨5000万枚ですよ。会社の資金繰りも回復したのでこれくらい余裕でしたね」
「それ中規模の街の年間予算くらいあるよ? 」
カインは思った、この会社も長くないだろうから空売りしとこうと。きっと彼は優秀はトレーダーになるだろう。
「全くティアは銃のことになると周りのことが見えなくなっちまうんだからしょうがないよな。そうだ、そろそろ昼飯食うんだけどカインもどうだ」
「本当、ありがとう! 」
「超高級刺身盛り合わせと、SSSランクの牛肉ステーキ、百年もののワインでいいか? 」
「え、そんな高級なのじゃなくても……」
「ラックさん、それに加えて神パティシエの三段ケーキもよろです! 」
「おっけー、じゃあ注文するぜ」
「二人はいつもそんな食事をしてるの? 」
「当たり前だろ、俺達は社長と社長代理なんだからな」
「カインくん、この料理すごく美味しいから期待しててくださいね」
ラックとティアは莫大な資金を手に入れたことで金銭感覚がなくなり堕落した生活に足を踏み入れていた。ポラティのように賄賂をとっていたわけではないが、二人は会社の金を湯水のように使っていた。
カインがそんな二人のことを心配していると、社長室に一人の男が入ってくる。
「あれ、もう料理がきたんですね」
「違いますよ、ティア社長。自分はこういうものです」
その男は胸元から警察手帳を出して二人に見せた。
「警察が何の用だ? 俺達は何も悪いことはしてねえぞ? 」
「実はこの会社の副社長であるポラティが警察に自首してきました。かつてこの会社で極悪非道な募金活動をしてきたととね」
「ちっ、あの野郎……。だがそれは俺達が社長になる前の話だ、俺達は関与してない」
「はい、その通りです。このこと自体はお二人には関係ありません」
「じゃあなんでここに来たのでしょう? 」
社長椅子に座ったティアが可愛く首を傾げると警官は口を開く。
「この街は寄付ということについて厳重な整備を行っております」
「はん、賄賂をもらってポラティのことを見逃してたやつがよく言うな」
「……それはともかく、寄付をすることについてこの街ではこの様な法律があります」
「法律ですか? 」
ティアはこんな街にも法律というものがあったということにビックリしつつも警察の話に耳を傾ける。
「寄付する相手は清廉潔白でなければならない。反社会的な組織に寄付をした場合は即処刑にする。というものです」
「それがどうしたんです? 」
「そしてかつて悪いことをしていた反社会的企業『株式会社チャリティー募金』に多額の寄付をした人がいるという情報を警察はポラティから入手したのです。その寄付をした人について、心当たりはありますよね? 」
警察官の眼差しは獲物を狙う鷹のように冷静であった。ティアはまだピンときていないようだが、ラックは事態に気づいて冷や汗を流す。
「カインよく聞けよ、お前達は地下で苦しい気持ちをしたはずだ。その気持ちを忘れないで困った人がいたら手を差し伸べるんだぞ? 」
「え、ううん。わかったけどラック兄さんはどうして急にそんなこと言うの? 」
「俺は今からこの街から離れる、それじゃあ達者でな。ティア行くぞ! 」
「ふぇ? まだ神パティシエのケーキが来てないですよ? 」
ハテナマークを浮かべるティアをお姫様抱っこしてラックは地上80階の高さの社長室から地面に向けてダイブする。
「ひゃああああああああ!? 死んじゃう、死んじゃいますよおおっ!? 」
「俺を誰だと思ってる、ほらもう地上に着いたぞ」
「へへ……、一瞬天国のおばあちゃんが見えました……」
地上80階から飛び降りてもピンピンしているラックは辺りを見渡してみると、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。四方八方から聞こえる音は徐々に近づいてきた。
「めんどくせえな、一つ一つ潰してってもいいんだが時間が相当かかりそうだ」
「それならこの子の出番ですよ! いでよ『フェンリル』! 」
ティアが空中に向けてミニカーを投げるとそれは四人乗りの乗用車へと巨大化する。それはいつも乗っている車なのだが、なにやら不思議なパーツがゴチャゴチャとついていた。
「なんだ? 変なもんがいっぱいくっついているが? 」
「ふふん、これは金貨2億枚を投じて改造した乗用車『フェンリル』なのです! 人間国宝級の職人によってさまざまな機能を外付けしました、さあ乗ってみてください」
ティアに促されて車に乗ってみると彼女は早速アクセル全開にする。
アオオオオオオオオオン!!!!
魔狼が遠吠えをするようなエンジン音がフェンリルから発せられた。
「10万馬力のエンジンを5個装着してるのです! なんと最高時速10000キロのモンスターマシンで、この突撃はあらゆる物質を破壊するラグナロクなのです! 」
「その前に俺達の身体が粉々になりそうなんだが? 」
「中にいる人への衝撃はプロの技によって緩和されてるので私のような女の子でも簡単にスピードを出せますよ」
ティアは満面の笑顔でハンドルを握ってアクセルを遠慮なしに踏み込む。その瞬間、時速300キロをマークした。金貨2億枚という大規模な街の年間予算並みの大金を投資しだけのことはある。
「ティアは道路の横に立っている、赤丸の中にある数字の意味はわかってるか? 」
「もちろんですよ、あの看板にある『60』は時速60キロの制限速度を守れという意味なのです」
「制限速度って知ってるか? 」
「その速度以上ださないとダメっていう速度ですよね? 」
「ダメだこいつ……」
スピードに飢えた魔物であるティアは時速300キロで街を爆走する。フェンリルの唸り声に恐怖した人々は自然と道を譲ってくれるので悠々自適に運転ができた。
「おい、赤信号だぞ!? 」
「この道路はティアのものです! 誰であろうとも私を止めることはできませんよ! 」
爆走するティアの横に巨大なトラックが走ってくる。ラックは車の屋根に登った後、剣の斬撃を飛ばしてトラックを真っ二つにすることで衝突を防いだ。
「ナイスですよラックさん! へへん、トラックもざまーみろです、私の邪魔をしようとしたからですよ」
「……これからの旅の間、俺はずっとこの車に乗らなきゃいけないのか? 」
「へへへ、嬉しいですよね。美少女との二人っきりのドライブデートですよ」
「これをドライブとは言わない」
そしてフェンリルは時速500キロのスピードで街を駆けていくと街の城門が見えてきた。城門はしっかりと閉じられており、その前には警察の対戦車車両がズラリと整列していた。
「警察もそのやる気をもっと前に見せてくれればカイン達も苦しまなかったんだけどな」
「今頃出てきたってもう遅いです。フェンリルのリミッターをはずします! 『グレイプニル』解除、ラグナロクモード移行です! 」
アオオオオオオオオオオオオン!!!!
リミッターを解除した瞬間、フェンリルについていたエンジンからジェット噴射が起こり、瞬間的に時速10000キロに達した。
「ふきとべえええええっ、です! 」
時速10000キロの鉄の塊が巻き起こす衝撃によって対戦車車両は木の葉のように舞い上がった。そして体当たりで城門を大破させたフェンリルは無事に街の外へと脱出した。
破壊した城門をバックミラーで確認しつつティアは恍惚の表情を浮かべる。
「えへへ、なんで素晴らしいんでしょう。フェンリルがいれば私達の旅も楽しいものになりますね! 」
「……………………」
「あれ、ラックさんが寝ちゃってる。私の運転が気持ち良すぎちゃったのかな、さすがスーパードライバーティアですね。それじゃあ、次の街に向けて飛ばしていきますよー! 」
気絶したラックを連れてティアは楽しくドライブ。こうして彼等は次の街へと向かっていくのであった。
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