第31話 手を差し伸べる街 その5
「寄付ゲーム……?」
突然の単語にポラティは眉間に皺を寄せる。
「といってもお前のような詐欺じゃなくてまともなゲームだよ。俺達二人と『株式会社チャリティー募金』とで、どちらが期間内に多くの寄付ができるか勝負だ」
「……それは正気か? お前二人に対してこちらは会社ですよ? 」
「ラックさん、その通りですよ!? 私達のどこにそんなお金があるんですか!? 」
「金についてはいい案があるから心配すんな」
ラックはティアに向かって自信満々に答える。その様子を見てポラティは少しの間、考えてから回答をする。
「そのゲームをしてなんになる? メリットを教えてもらいたいね。会社を動かすとなるとそれなりの理由が必要ですから」
「お前が勝ったら、寄付ゲームのカラクリについて俺は誰にも言わないで闇に葬ってやる。ただし、俺が勝ったらお前が隠し持っている汚い金を俺にたっぷり寄付してもらおうかな」
「あれ、ラックさんも結局お金なんですか!? ここはポラティさんに正しい道を歩んでもらうとかする場面ではないでしょうか? 」
「俺はそんなことには興味ねえよ、この街のことなんてどうでもいいしな。金さえあれば俺も嬉しいし、地下のアイツらも助けられるし、ポラティもこれに懲りてしばらくは寄付ゲームを控えるだろう」
「まあそうかもしれないですけど……」
どこか腑に落ちない顔をしているティア。ポラティは机に指をトントンとしてから回答する。
「自分のメリットが薄いですね。ここは条件を追加させてください」
「いいぞ、何が望みだ? 」
「もし自分が勝ったらお二人の身体を寄付してください。未来永劫、骨の髄まで自分の会社で働いてもらいます」
ポラティの言葉を聞いて、ラックは困った顔をしてティアの方をチラリと見た後、答える。
「ティアの身体だけで許してくれ」
「ラックさん!? そこはふつー、私のことは許してくれっていう場面ですよね!? あれ、もしかして私、聞き間違いちゃいましたか? 」
「……まあティアさんだけでいいか。仲間を簡単に売るような人間はこの会社にはいらないから」
「それじゃあ交渉成立だな」
「いや、まだ条件がある。寄付というのは困っている人にするものだ、だから生活に困っていない人には寄付できないというルールを追加願うよ」
「そんなルール追加してなんになるのでしょう? 」
ティアが不思議そうな顔をすると、ポラティは優しく言う。
「このルールをつけないと、キミ達二人の間で交互に寄付し合うことで、理論上無限に寄付できてしまうからね。既に生活が豊かで生きていくのに困っていない人に対しては、寄付できないということにしようよ。まあこのぐらいの対策ならラックさんは予想してるだろうけど、一応ね? 」
「……………………いいぜ」
「ラックさん、ちょっと沈黙が長かったんですけど本当に大丈夫なんですか? 」
「まあ負けても俺は関係ねーしな、ティアが困るだけだし」
「なんかさらっと、史上最低の発言しましたよ、この人!? 」
顔を歪めて頷くラックと驚くティアを見て、ポラティは心の中で勝利を確信する。
「よし、それではお互いの条件をまとめてみようか」
勝利条件:寄付金額が相手より多いこと
期間:3日後の正午まで
参加者:ラック&ティア vs 株式会社チャリティー募金
その他条件:生活に困っている人にしか寄付はできない
報酬:ラックが勝利時にはポラティの資金を譲渡。ポラティが勝利時にはティアは会社の社員になりラックは寄付ゲームの秘密を言わない
「と、こんな感じになりました。ここまで来たからにはもう引き返しませんよね? 」
「もちろんだ、男に二言はねえ」
「ちょっと待ってくださいよ、本当にこの条件で勝てるんですか? どう考えても無理ですよ! 」
「ふふっ、面白いね。そうだお互いに固有能力も明かしておこう。変な能力を使われたと疑われても嫌だし。自分の能力は『自己愛身(マイマインアイミー)』、自分自身に対するあらゆる攻撃を無効にする。端的にまとめると無敵ってことだね」
そう言ってポラティは机の引き出しから銃を取り出して自分の頭めがけて引き金を引くが、発射された弾は彼女の頭にぶつかるとスピードを停止してそのまま地面に落ちた。
「すごい能力です、無敵ってことはラックさんの攻撃も喰らわないかもです」
「まあ寄付ゲームは殴り合いじゃない、無敵能力でも関係ないぜ」
「その通りさ、だけどこれでわかったかな。いざゲームに負けた時に、自分を襲おうとしてもそれは簡単にはいかないってことをね」
「……ああ、確かにな」
あらゆる攻撃を無効にするポラティを力でねじ伏せるのはラックといえども相当な難題だろう。
「それに自分には財力がある。実は最近とても強い傭兵を雇ってね、もし私に危害を加えたらすぐに敵を抹殺してくれるんだ。二人も旅をしているなら聞いたことがあるんじゃないかな、『赤鬼』と『青鬼』の名前を」
「『赤鬼』と『青鬼』だと!? 」
ラックが目を大きく広げて驚くとティアが不安そうに彼のことを見つめる。
「ラックさんは知っているんですか? 」
「いや、全然知らねえ。聞いたことすらないな」
「はー、そうですか……」
「コホン、まあ自分のことを力で押さえつけるのは並大抵のことではないことを知っておいて欲しいね」
「そんな情報はいらねえさ、ゲームに勝つのに力を使う必要なんてないからな」
「その言葉、忘れないでね」
「お前こそ、負けてもゲームのこと忘れたなんて言わせねえからな? 」
目を細めて笑うポラティにラックは別れの挨拶を言ってその場を立ち去る。その後、ビルの中で誰かに襲われるなどということもなく、ラック達は無事にホテルまで帰ってくることができた。
「ラックさん、やっぱり気になるんですけど私達は本当に勝てるんですか? だって無理ですよ、お金もないし寄付する人も地下の人達くらいしか知りません。一方、チャリティー募金は寄付する相手はいろんな街にいますし、お金もたくさんあります」
「ああ、そのぐらいは知ってるさ」
「じゃあなんでこんな勝負をしちゃったんですか? 」
「それは『勝てる』からだよ。負ける勝負を持ちかけるわけないじゃないか」
自信に満ち溢れたラックのことを見て、ティアは目をパチクリさせる。
「では一体どうやって勝つんですか? 」
「そのためにティアに頑張ってもらうのさ」
「えっ、私の出番ですか!? 」
「ああ、しっかりその身体で頑張ってもらうからな」
☆ ☆ ☆
その日の夜、空に月が昇る頃、ラックとティアは豪邸の前にやってくる。この豪邸に住んでいるのはこの街一番の大金持ちである。
「この屋敷にはすげえ金持ちのオッサンが住んでるんだ」
「どこで調べたんですかそんな情報」
「昨日ティアが寝た後にちょっとな。地下にいた子供、カインのやつに聞きに行ったのさ」
「あー、なるほどです」
ラックの言葉を聞いてティアが頷いていると屋敷の扉が開き、執事が中から現れる。
「ティア様でしょうか、ご主人様がお待ちでございます」
「ラックさん、本当にこれやらなきゃいけないんですか? 私、気が進まないのですけど」
「お前は俺に言ったよな、信じてついてくるって。それがこの時なんだ」
「まさか、こんなことになるとはです……」
「今さらグチグチ言うな、さあ扉の向こうでオッサンがハァハァして待ってるからさっさと行ってこい」
ラックはティアの背中をドンと押すと彼女の前には優しそうな執事と、ハァハァして杖をついている油ぎったオッサンがニヤリと笑っていた。
「ラックさん、こんなことはこれっきりにしてくださいよ? 」
「ああ、それじゃあ頼んだぜティア」
「はあ、しかたないですねえ……」
ため息をついたティアは二人に連れられて屋敷の奥へと消えていった。ラックはティアに少し悪いなと思いつつ、笑みを浮かべる。
「さて、ティアが身体をはってくれたんだ。後は俺がゲームを決めるだけ。くくく、覚悟しとけよポラティ! 」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます