第25話 信じればなんでもできる街 前編(ブラック企業のアクアリーテちゃん)

 魔法とは魔力や精霊の力で起きるもの、そう世界に思わせるために暗躍する『有限会社魔法商事カンパニー』。これはそんなブラック企業で奮闘する一人の天才魔法少女アクアリーテのお話である。


「てやんで、てやんで……。あーもう全然わからないよ! 」


 ワイシャツ姿のアクアリーテはパソコンを目の前に頭を抱える。パソコンでは世界中の魔法使いが収集した情報を見ることができるのだが、『てやんで☆』という言葉の情報は全くなかった。


「アクアリーテ、少しは静かに仕事できないのか? 」

「すみません、ルナ部長。つい熱くなっちゃって……」


 アクアリーテが所属する『魔法推進部』は部長のルナとアクアリーテの二人だけの部である。これはこの部の仕事が少ないわけではなく、ただ単純な人員不足だからだ、この時点で魔法商事がブラック企業ということがよくわかるだろう。


「『てやんで』もいいが、この前の言喰鳥の報告書も進めてくれ。お前が一番内容を知っているんだからな」

「はい、承知しました」


 アクアリーテは報告書にラックのことを書くか迷った。ちゃんと事態を伝えるのなら書かなければならないが信じてもらえるか不安であった。


「あのー、言喰鳥をジャイアントスイングで宇宙に飛ばした半裸の男を報告書に書いてもいいですか? 」

「気が狂っても、ウチの会社から見舞金出ないからな? 」

「あはは、冗談ですってばゴミを見る目で見ないでくださいよ〜」


 アクアリーテは報告書には自分の魔法で宇宙までうまく誘導したことにした。嘘をつくことになるが、これ以上仕事に時間はかけたくなかったのである。


「あーあ、それにしても仕事がいっぱいで辛いな。早く寿退社したい」

「おい、アクアリーテ。今なんて言った? 」

「しまった……」


 ルナ部長は額に青筋を立てる。ルナ部長は二十?歳でもうすぐ三十路を迎えるにもかかわらず彼氏いない歴=年齢なのだ。ルナ部長は非常に美しいのだが今まで仕事一直線過ぎて異性に興味がなかった。しかし、ここのところ急に焦り始めたのか寿退社というワードに過敏に反応するようになっていたのである。


「なんだ寿退社って。私への当てつけか? 」

「いやー、そういうわけではないです。はい」

「ふーん、ところでアクアリーテは男の知り合いはどれくらいいる? 魔法商事以外の人間でだ」

「男の人の知り合いですか……」


 アクアリーテは基本的に魔法商事と勇者パーティの往復である。固有能力によって貧乏になってしまう彼女は常に稼ぎ続かなければならないため、ほぼ一日中仕事という状態だ。行動範囲が狭ければ知り合いも当然多くはない。


(私が知ってるのは勇者パーティにいたラック、ブレイブ、ビューストンくらいかな)


「知り合いなら三人いますね」

「よし、じゃあ今度そいつら集めて合コンするぞ」

「え!? 」


 アクアリーテが驚くのも無理はない。追放した側とされた側が同席する合コンなぞ、カオスなことにしかならないからだ。


「どうしたそんなに驚いて」

「いやー、だってその三人は色々と複雑な関係でしてね」

「は? まさかお前三股かけてんのか? 若いからって調子乗ってんじゃねえぞ、おい!? 」

「ちがいますってば! 」

「じゃあ合コンな、今度顔写真持ってこいよ。男は顔が全てだからな」

「……マジでどうしよ」


 アクアリーテは頭を抱える。このルナ部長は一度決めたことはやり通してしまう人だ。頑張って時間を稼ぐことはできたとしても合コンは回避できないだろう。


 そんなこんなでアクアリーテが今後について頭を悩ましていると、ルナ部長が机の上に置いてあった紙を手渡してきた。


「アクアリーテに追加の仕事だ。実は最近住民がおかしな行動をしている街があるらしい」

「だいたいの街の住民はおかしくないですか? 」

「確かにそうなんだが、この街の住民は特におかしいらしい。話によると一部の住民は、この世は機械が全てを支配していて自分達はプログラムだと公言する者もいるとのことだ」


 ルナ部長のその言葉をきいてアクアリーテは合点がいった。


「なるほど、その考えが広まるとナノマシンに行き着く可能性もあるということですね」

「その通りだ、人々がナノマシンに気づく前に調査を行い、できれば事態を未然に防いで欲しい。いざとなれば『排除』しても構わん」

「承知しました、それではこれから向かいます」

 

 アクアリーテが目的地の地図を受け取り、出張届けにルナ部長の承認をもらう。そして彼女が部屋の外に出ようとするとルナ部長に呼び止められた。


「外に出るならもっと魔女らしくしろ。総務部から支給されたコイツを連れて行け」

「なんですかこの黒饅頭? おやつですか? 」


 アクアリーテの手のひらの上に、おにぎりくらいの真っ黒な球体が乗せられる。


「黒猫ロボットだ、魔女といったら黒猫だからな。簡単なサポートや話し相手にもなるから外に出る時には連れて行け」

「へー、業務用のパソコンすら自分で買わせるこの会社が物品を支給するなんて珍しいですね。とりあえず貰えるものは貰っておきます」


 ルナ部長からもらった黒い物体には目立たないように灰色のボタンがあり、そこに『ここを押す』という付箋がついていたので押してみる。


 ガチャガチャギギギギ……


 金属が擦れる音を出しながら機械が組み立てられる。それはあっという間に子猫の形になった。


「黒猫ロボット『BRA-6700/CAT』起動、マスター。これからよろしく」

「はじめまして、型式じゃないあだ名みたいなものはあるのかな? 」

「呼び名はないね、総務部の人からは不良在庫と呼ばれてたけど」

「……じゃあクロニャで、黒くてニャーって鳴くからね」

「ありがたいけど猫の鳴き真似は苦手なんだ。にゃー(裏声)」

「大丈夫かな、外の人達の前ではちゃんと猫のふりをするんだよ? 」

「わかったよマスター」

「マスターってのも恥ずかしいから別の呼び方がいいな」

「じゃあ会社の癌」

「リストラ直前のサラリーマンみたいな呼び名はやめてよね!? 」

「ジョークさ、それじゃあアクア。目的地に向かおうか」

「ほんと不安だなあ……」


 慣れない相方を肩に乗せてロッカーに向かい外出用の服に着替える。黒い三角帽子にローブ、箒を持てばどこから見ても彼女はごく普通の天才魔法美少女だ。アクアリーテは玄関に向かうと機械の扉がチェックを行う。


『アルコールチェック……OK。それでは外出前に魔法使い安全五訓宣言をしてください』


「1.社外ではナノマシンの話はしない」

「2.飛行中は頭上にも配慮する」

「3.夜間飛行は早めのランタンで明るい視野を確保するべし」

「4.街のルールはなるべく守れ」

「5.鼻歌で魔法を詠唱しない」


『OKです、それではお気をつけていってらっしゃいませ』


 重々しい金属製の扉が白い煙を吐きながら開く。アクアリーテはすぐさま箒型の機械に乗って空へと飛び立っていった。


「それにしても次から次へ仕事なんてホント辛いよ」

「それならなんで会社を辞めないんだい? 」

「帰るところもないからね、ボクの固有能力『平等に超貧乏』のせいで生まれた時に森に捨てられちゃってさ。そんなボクを拾ってくれたのがあの会社なんだよ、ルナ部長はボクに小さな時から魔法を教えてくれた師匠なんだ」

「なるほど、それは悪いことを聞いてしまった」

「別にいいよ、もう気にしてないしね。それじゃあさっさと目的地に行きますか! 」


 アクアリーテはスピードを最大にして飛行するとあっという間に問題の街へとやってきた。


「……話に聞いてたけどこれはひどいね。どこをどうしたらこんなになるんだろ」


 丈夫な石垣に囲まれたレンガ造りの家が並ぶ街に降り立ったアクアリーテはその光景を見て唖然とする。


「わおん! わん! わおおおーん! 」

「ぶひぶひぶひひひひ! 」

「つくづくボーシ、つくつくぎーこーつくつくぎーごー、じじじじじ! 」

「にゃおにゃおにゃー」


 その街の住民は四つん這いになったり、木に登りながら動物や虫の鳴き声を叫んでいた。


「アクア、まずはまともに会話をできる人間を探そう」

「そうだね。あとクロニャは人前ではあまり喋っちゃダメだよ? みんなビックリするからさ」

「にゃー(裏声)」

「せめてこの街の人には勝とうよ……」


 クロニャのあまりの猫声の下手さに先行きが心配になりながら辺りを散策すると、ようやく人間の言葉を話している人を見つけた。その男性は遥か彼方を見つめながらぶつぶつ呟く。


「我々はコンピュータの世界の中にいて全てはプレイヤーに操作されているのだ。この世界はデジタルでできているのだ」

「すみませーん、それってどういうことですか? 」

「この世界はコンピュータであり、全てがプログラムでできている」

「……本当にそう思ってる? その話、どこから聞いたのかな? 」

「誰かに聞いたのではない、気づいたのだ! そして我々はデータであり、目の前にある花も太陽も、そして魔法もプログラムに過ぎないのだ! 」


 目の焦点があっていないその男は唇を震わせて宣言をする。アクアリーテはため息をついて杖を手に持った。


「このままだと面倒になるかもね。それじゃあ少し可哀想だけど『排除』しようかな。圧縮せし雲の摩擦より生まれた稲妻、空駆け地を飛び全身を駆け巡れ! 『サンダースパーク』! 」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!? これは本気じゃないんだよ、マジにならないでくれ! 」


 急に正気に戻った男性は尻もちをついて謝罪をする。態度を改める彼を見てアクアリーテは右手に纏っていた雷を解除した。


 ちなみにこの魔法は古代人が肩こりを治すための電気ショック用に作った魔法なので、威力としてはちょっと痺れるだけのものである。その割には見た目が派手で脅しに便利であるためアクアリーテはよく使っていた。


「なんでそんなことをしていたのか説明してくれませんか? 」

「それはこの街の教えが原因なのさ」


 男性はすぐそばに立っている銅像を指差した。それはずんぐりした羽根のある昆虫の像であった。


「この街はクマバチの教えを信じている」

「クマバチ? 」

「ああ、クマバチは本来なら飛ぶことができないのに自分自身が飛ぶことができると強く信じているから飛べると言われている。そのことに敬意を払い、この街は何かを信じるということをとても大切にしているんだ。信じればなんでもできるとね」

「なるほど、自分の力を信じるというのは良いことだと思います。でもなんでそれがこんなことになったんです? 」

「催眠術だよ」


 男はある家を見つめながら話をする。


「ある青年が自分自身は世界一の催眠術士と信じるようになってしまった。そんな彼の催眠術を我々は何度もかけてもらっているだが恐ろしいほど全く催眠術にかからないのだ」

「それはただ単純に下手だからじゃない? 何か問題があるのかな」

「問題おおありさ、この街は信じればどんな困難でも乗り越えられるという教えがある。しかし、自分を世界一の催眠術士と信じている人間の術が全然効かないとなると、信じる力に疑問が生じてしまうんだ」

「あー、催眠術が効かないと催眠術士とはいえないからね。だから皆は無理やり催眠術にかかったようにして頑張ってたんだね」

「そうなんだ、しかし我々がどんなに頑張っても全然催眠術にかからない。我々の信じる力が足りないのか、それとも催眠術士の信じる力が足りないのか……」


 男は言いたいことをいうと力なく座り込んだ。催眠術にかかったふりをするのは相当疲れるのだろう。その様子を見てクロニャがアクアリーテにこっそり話しかける。


「かかる側がどんなに頑張っても催眠術にかからないなんて聞いたことがない。これじゃあ世界最低の催眠術士だ」

「とりあえずはその催眠術士に話を聞いてみないとね、こんなややこしい催眠をかけるなんて事情があるはずだよ」

「もし催眠術士がナノマシンのことに気付いていたら? 」

「その時は『排除』だね」


 アクアリーテは自分もその催眠を体験したいと頼むと男はすぐに催眠術士の家の場所を教えてくれた。


 そして催眠術士の家に行ってみると玄関の扉が開きっぱなしであった。アクアリーテが家の中に入ってみると、中は薄暗く、棚に並べられた怪しい薬品からは煙が立ち上り、不思議なお香の匂いがする。


「アクア気をつけて、見ず知らずの怪しい催眠術士の家に上がりこむなんて何があるかわからない。自分の初仕事が死亡届の提出なんて嫌だよ、この肉球でペンを持つのは相当つらいんだ」

「大丈夫、油断はしてないさ。魔法もいつでも使えるし、これだってあるからね」


 アクアリーテはポケットから拳銃を取り出してウインクする。


「魔女とはかけ離れたものを持ってるんだね」

「声を出せなくする能力とか発動されたら魔法は使えないから念のためだよ。ただ拳銃を使うのは魔法使いのイメージをぶっ壊しちゃうから本当に危険な時だけ。一発撃つごとに総務部に使用状況の報告書を出さないといけないんだよ」

「魔法を使うのは報告書いらないの? 」

「いらないよ、魔女が魔法使うのは当然だからね。理由があれば街一個吹き飛ばす魔法でも問題なしさ」

「へー、なんだか不思議な感じ」


 クロニャは目をチカチカと光らせながら首を傾げていたが、家の奥から人影が現れると慌てて『にゃー(裏声)』と鳴いた。


「何ぶつぶつ喋ってんだ……、って一人しかいないじゃないか? 」

「コホン、いやーこの家の雰囲気に飲まれてつい独り言を喋っちゃった」


 可愛らしく舌を出してニコリと笑うと目の前の青年は呆れたように舌打ちをする。


「それでキミが世界一の催眠術士さんかな? 」

「あ? ……ああ、そうだよ。魔女が催眠術士に何の用? 」


 催眠術士と名乗った目つきの悪い青年はアクアリーテのことをじっと睨む。アクアリーテは全く怯むことなくそのまま視線をぶつけて言う。


「ボクにもその催眠術をかけて欲しいんだ。世界一の催眠術から新しい魔法を編み出せないかと思ってね」

「なるほど、それで魔女がわざわざ俺のところに来たってわけか」


 青年は納得してコクコクと頷くとニヤリと笑った。


「何万回やっても効かないと思うぜ、俺の催眠術なんてな」

「あれ? でもキミは世界一の催眠術士って聞いたけど」

「そうだな、そういう話にしてるから当たり前さ」


 青年は机の上に置いてあったコーヒーカップを手に取って一口飲んでじっとアクアリーテのことを見つめる。


「お前はこの街の人間じゃない、もしこの秘密を誰にも話さないというのなら全てを教えてやってもいいぜ」

「そーだねー。その秘密の内容にもよるかな。もしそれが魔法使いの立場に関わるものならボクも対処しなきゃいけない。そうでないなら誰にも言わないことを約束できるかもね」

「それなら大丈夫だ、この秘密はこの街の人間にしか関係がないことさ。くくくっ、こうやって思いっきり秘密を言えると思うと気分が昂ってくるな」


 くくく……と怪しげに笑う青年を見て、アクアリーテはポケットの中の拳銃に手をかけ、いつでも撃てる準備をしておく。そんなことは全く気にしない様子で青年は話し始めた。


「この街は信じる力を大切にしているのは既に聞いているか? 」

「うん、クマバチがなんとかってやつだね」

「……そんなものクソ喰らえだ! 信じればなんでもできる!? ふざけんじゃねえ、そんなに世の中甘くないんだよ! 」


 青年は突如怒鳴り声を出しながらカップを机にドンと叩きつけた。


「俺は好きだった女にも振られ、行けると思っていた大学にも落ち、やりたかった仕事にも落ちた! 俺はずっとできるって信じていたのにだ! 信じたって無理なもんは無理なんだよ! 」

「……それはお気の毒様だね。でもそれが催眠術となんの関係があるのかな? 」

「だから俺はこの街の人間に教えてやってんのよ。自称世界一の催眠術が誰にも効かない催眠術を使うことで、奴らに信じる力がいかに役に立たないかってことをな! 」

「ということはキミが使っている催眠術はデタラメなの? 」

「当たり前だ、だけど面白いんだぜ。俺が催眠術を使うと皆が必死に犬や猫の真似をするんだからな。キョトンとした顔をした後、気まずそうに猿真似をする街の奴らといったら今思い出しても笑えるぜ」


 ゲラゲラと笑う青年を見てアクアリーテは少し安心した。この青年は信念のある悪党でも間違った正義を振りかざす暴君でもない、ただの小物ということに気づいたからだ。この程度であれば大事件を起こす度胸はないだろう。


「確認したいんだけど、魔法はプログラムって催眠をしたのもキミだと思うけどなんでそんな催眠をしたのかな? 」

「何回も催眠やってるとただ動物の真似させるのにも飽きてきてな。じゃあ狂人の真似をさせようと思った時に考えたんだよ、確かそんなことを書いてある小説があったからそれから使った」

「ふーん、面白そうだからその本の名前を教えてくれるかな? 」


 アクアリーテは青年からその本のタイトルを教えてもらいメモにとった。


(この本は発禁処分にして作者も記憶改竄かな、あーまた仕事が増えるよ……)


「それじゃあ貴重なお話ありがとう、催眠術がなかったのは残念だけど面白かったよ」

「あ、ああ……、もう帰ってしまうのか? 」

「そうだよ、魔女も暇じゃないからね」

「…………そうか」


 青年は残念そうな顔をしてアクアリーテなことを眺めている。彼は直接アクアリーテと目を合わせないように注意していた。彼女は意地悪そうに笑みを浮かべる。


「もしかして、今キミは『信じてた』よね? 」

「……っ!? な、何をだよ!? 」

「もし大事な秘密を教えてあげればボクがキミに好意を抱く、そう信じてたんじゃないかなー、と思ってさ」

「そ、そんなわけないだろうが!? 」


 青年はムキになって怒り出すが、それは痛いところを突かれていることに他ならない。


「キミの信じるってのは自分の頭の中で必死に考えるだけのものだったんでしょ。実際に行動したわけじゃなくてさ。キミは頭の中で考えてるだけで、女の子に好かれようと行動しなかったし、勉強もしなかったし、社会人のスキルも身に付けようとしなかった」

「……黙れ、黙れ黙れ黙れええええっ!! お前に何がわかるってんだよ! 」

「何もわからないね、人の足を引っ張るためだけにこんなことしてるような奴のことなんてさ」


 アクアリーテがクスクスと笑うと激怒した青年は近くに置いてあった火かき棒を手に持って彼女目掛けて降り下ろす、があっさりと避けられてしまった。


「ごめんごめん、怒らせる気はなかったんだよ。これでも情報をくれたことには感謝してるからね。それじゃあ秘密はしっかり守ってあげるからさ、バイバイ〜! 」


 アクアリーテは家を出ると箒に乗って飛び立った。地上では青年がなにやら喚いていたがアクアリーテにはもう聞こえない。


「アクア、なんだかしょーもない事件だったね。結局は偽物の催眠術士のせいでしたと」

「クロニャはこれでこの事件が終わると思う? 」

「あれ、終わりじゃないの? 」


 喉の奥からギリギリと歯車の音を出すクロニャ。アクアリーテは買ったばかりの玩具を見るように楽しそうに地上にある街を眺める。


「うん、せっかくだからあの男を本当に世界一の催眠術士にしてあげようと思ってね」

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