第22話 言葉を食べる街 その6
「さ、さようならってどういうことです!? 」
『言喰鳥、殲滅モード起動』
黒の卵からその言葉が流れると言喰鳥の目は赤く光り、暴風を巻き起こしながら空高く飛び上がった。
「どうやら古代人の怒りを買ってしまったようだな。さてさて、いったいどうなることやら」
ラックが上空で羽ばたく言喰鳥を眺めていると、言喰鳥から黒い卵が産み落とされてラック達の目の前に落ちる。黒い卵は地面に落ちた衝撃で割れると、古代人の声が溢れ出した。
『この地の心臓から溢れ出す血流、蝕む者達への最後の祝福、さあ業火を伴いその身を清めたまえ! ブラッドマグナ! 』
「やばい、みんな俺の後ろに下がれ! 」
ラックがそう言った瞬間、卵を中心に真っ赤な溶岩が大爆発と共に撒き散らされる。満杯まで入れた水風船が破裂するかのように飛び出たマグマはビルの上から地上に向けてダラダラと垂れ流れていた。
そして不思議なことに、卵からドクドクと溢れるマグマはいつまでたってもなくなる気配はなく、街を破壊するべく地上に向かって進行していた。肝心のラック達はというと、溶岩の攻撃を全てラックが弾き飛ばしているので全員爆発音の耳鳴りがするくらいで身体は無傷である。
「こ、これは禁呪だね。書物でさえSSS級の超極秘とされているのに、まさか詠唱まで聞けちゃうとは素晴らしい経験だよ」
「そんなこと言ってる場合じゃありませんよ。見てください、言喰鳥はさっきのような卵をあっちこっちにばら撒いてます! 」
ティアは闇夜の中落ちる卵を直接目で見たわけではないが、街に突如として現れる竜巻、爆発、雷光などを見てこのマグマと同じような現象が街のあちこちで起こっていると推測した。
「言喰鳥はひたすら禁呪の詠唱が入った卵を産み続けるってことか。アクアリーテよかったな、詠唱の入った卵は見つけたから、お前の目標達成だぞ」
「なかなか面白い冗談だけど、これはまずいことになったね。古代人の怒りっぷりを見たら、言喰鳥はこの街だけじゃなくて、世界中に卵を産みに行っちゃうと思うよ」
「そんなことになったら本当に世界は崩壊してしまいます。なんとか言喰鳥を止めないと! 」
ティアがあたふたしながら銃を発砲するが、空高く飛行し続ける言喰鳥に対しては無意味であった。
「いいかティア、この場合は二つの方法が考えられる。一つは頑張って説得して攻撃をやめてもらう平和的解決法、そしてもう一つがお互いの殴り合いで決着をつける戦争的解決方法、このどちらかしかない」
「話し合いではたぶん無理だと思います。そうなると殴り合いで解決ですか? 」
「違うぞティア、正解は一方的にボコり続けて泣くまでやめない虐殺的解決方法だ! 」
「さらっと第三の選択肢を出してきましたね……。でも虐殺ってどうするんです? 相手は空高く飛んじゃってますけど」
ティアが遥か上空で豆粒くらいの大きさになっている言喰鳥を見上げると、ラックはニヤリと笑った。
「それは俺に考えがある! おいアクアリーテなんか案を出してくれ、それじゃあ後は頼んだぞ! 」
「はいはい、なんとかするって。きてっ、シューティングスター! 」
アクアリーテが手を挙げて叫ぶと地上から流れ星のように光り輝きながら、箒が飛行してくる。
「あっ、これはアクアリーテさんが乗ってた箒ですね」
「うん、『シューティングスター』っていう名前なのさ。三人ならなんとか乗れるはずだよ」
「でも子供達をこのビルに置いたままにしちゃうのは大丈夫でしょうか? 」
三人はラングトンをボコボコにし続けている子供達を眺める。街のあちこちで大災害が起きている以上、ここもいつ危険な状況になるのかわからない。
「わかったよ、それじゃあ銅貨1枚ボクに渡してくれるかな? 」
「この状況で子供を盾に金を要求するとか生きてて恥ずかしくないのか? 」
「ちがうって!? いいから早く渡してよ、今手持ちがないんだから」
「やれやれ、仕方ないな。それじゃあ、ここはティアが払うぜ」
「……ラックさんってさっきから何もしてないような? 」
ティアは首を傾げるが実際に財布の紐を握っているのは彼女であるためそれほどおかしい言動ではない。ティアは銅貨1枚をアクアリーテに渡す。
「はあああっ! 出てきてっ、鳳凰! 」
「キュオオオオオン! 」
アクアリーテは銅貨を強く握りしめると真っ赤な羽根を持つ美しい巨鳥が現れた。
「すごいです、とっても強そうですね。アクアリーテさんは召喚魔法まで使えるんですか? 」
「いやー、魔法というかなんというか……」
アクアリーテは気まずそうに地面を見ながら口籠もる。一方、鳳凰は早速子供達のそばに行き、時々飛んでくる石つぶてを真紅の羽根で防いでいた。
「もしかして固有能力か? もうここまで見せたんなら話してくれてもいいだろ? お前は俺とティアの固有能力知ってんだからお互い様じゃないか、ほら名前だけでもいいから」
「びょうど……ぼう」
「声が小さくて聞こえなかった、もう一回」
「平等に超貧乏」
「声が小さい! もっと腹から声だせ! 」
「平等に超貧乏!! 」
「うわ、よくそんなダサい名前の固有能力を大声で叫べるよな? 」
「うわーん! だから言いたくなかったんだよ! 」
「ラックさん、貴方鬼ですよ? 」
アクアリーテの固有能力『平等に超貧乏』は銅貨に描かれている鳳凰を現実に呼び出すことができる能力である。
銅貨1枚につき1匹召喚可能で呼び出せる数は無制限と強力な能力だが、代償として近くに貧しい人がいると自分が持っているお金がその人へ移っていってしまうというデメリットがある。
「へー、だからアクアリーテさんはお金を稼ごうと頑張っていたんですね」
「そうだよ! ボクは貧乏人が大っ嫌い、早くお金持ちになって悠々自適に過ごしたいなー」
「俺は世の中、金よりももっと大切なものがあると思うけどな」
「へー、なんだい。教えてもらおうじゃないか」
「それはアクアリーテ、お前自身が答えを見つけるんだよ」
「ラックさん、思いつかなかったんですね……」
そんなやりとりをしていた三人だが、さすがにそろそろ言喰鳥を止めないとまずいだろうという雰囲気になったのでシューティングスターに乗って上空へと飛び立つ。
「よーし、ちょっと遅れちゃったからフルスピードで行くよ! ターボエンジン稼働! 」
アクアリーテが箒についているダイヤルを回すと箒の尻尾から炎が噴き出し、スピードを急速に早める。
「箒から火が出てますよ! 」
「大丈夫だよ、これは箒型の飛行用機械だからね」
「えっ、これ機械なんですか? 魔法を使って飛んでいるわけではないんですか? 」
「お婆ちゃん世代は魔法を使わなきゃ魔女じゃないってタイプも多いけど、最近の人は機械で飛んでるんだ。詠唱面倒だしね」
「なんか夢が一つ壊れちゃいました……」
近代化はその便利さの代償として、人の幻想や夢を刈り取っていく。しかしその後にはきっと芽が出るだろう、頑張れティア、負けるなティア!
箒はスピードをさらにあげ、地上の車やビルの灯りが流れ星のように通り過ぎると、ラック達は言喰鳥を視界に入れることができた。
「久しぶりだな言喰鳥、ようやく会えたぜ! 」
「愚かな未来人ヨ、我が主を悲しませた罪。死によって償エ! 」
「そうはさせねえよ、自分達の言葉を一方的に押しつけて挙句の果てには滅びろだあ? 滅びるのはてめえらの方だろうが、おっともう古代人は滅びてたんだっけな? 」
「我が主への侮辱、許すマジ! 」
「ラックさん、人を煽るのホント上手いですね」
「そこは流石としか言えないよ。でもおかげでやりやすくなったけどね」
言喰鳥は大きく旋回してラック達に突進してくる。両者の質量差は圧倒的であり、まともにぶつかれば箒ごと三人は粉々になってしまうだろう。
「へへっ、遅いなー。言葉を食べ過ぎて太ってるんじゃないの? 」
「虫けらメ。ちょこまかトオオッ! 」
アクアリーテはその素早い動きで言喰鳥を翻弄する。時にはワザと目の前で停止し、時には背後に素早く回る。そんな不規則な動きに言喰鳥は全くついていけない。
「でもこのままじゃ倒せません。あの巨体にダメージを与えるには相当なダメージが必要です! 」
「それこそ俺の出番さ、それじゃ行ってくるぜ」
アクアリーテが言喰鳥の真上に移動した時にラックはタイミング良く飛び降りて、言喰鳥の背中に掴まった。
「この何をスル!? 」
「まずはそのうるさい口を押さえてやるよ! 」
ラックは自分が履いていた褌を言喰鳥の喉元に強く結びつけて、思いっきり引っ張る。
「カハッ!? なんでパワーダ、喉が閉まって息がデキンッ!? 」
「どうだ、どんなに身体がデカくても息ができなきゃ死んじまうだろ? 」
言喰鳥は喉を締められて苦しそうにジタバタする。ラックの変わった格好にもちゃんと意味があったのだ。
「でも言喰鳥って機械みたいなもので生き物じゃないのに息止まるとキツイんですね」
「……たしかニ、我は別に呼吸をする必要はナイ、だからよく考えれば大丈夫ナノダ! ふはは、助かったぞ娘ヨ! 」
「あーあ、ティアちゃんのせいで言喰鳥が復活しちゃったじゃん! 」
「そうだぞティア! もっと状況をよく考えて動け! 」
「えー、私のせいですか……?」
呼吸が必要ないことに気づいた言喰鳥は元気に飛び回りラックを振り落とそうとする。
「なら俺の拳でコイツを粉々にするだけだ! タワー・クラッシュ! 」
「ダメだよラック! そいつの身体の中には詠唱が入った卵がたくさん詰まっているんだ。もし殴って壊したらこの辺りが大爆発で更地になっちゃうよ! 」
「そうだったのか!? 」
「そうだったノカ!? 」
ラックと言喰鳥は事態を飲み込む。これでは迂闊にラックは攻撃することができない。
「ということダ。くくっ、おしかったナ、小僧」
「まだだ、まだ方法があるはずだ。こいつの卵をなんとかする方法が……」
「卵は割れたら声が出て、それがナノマシンを動かすというのが問題ですから、それをなんとかできればいいはずです」
「ナノマシンは世界中に散らばってるし、音を出さずに卵を割るというのも難しいよ」
その場にいるものがどうすべきか考えていると、ラックがあるアイデアを思いついた。
「あったぜ、音も出ないしナノマシンもない場所が! 」
ラックは手刀を作って思いっきり言喰鳥の喉元を狙う。
「はあああっ! タワーソード! 」
「ゲフゥ!? こんなあっさりと我が首ヲ……? 」
ラックの強烈な一撃を受けた言喰鳥は首を切断される。言喰鳥の首は風の流れに乗って地上へと落下、そして頭を失って羽ばたくことをやめた胴体もゆっくり降下していく。
「まずいよ! 首はともかく卵の詰まったお腹が地面にぶつかったらもう終わりだ! 」
「ティア! アクアリーテに銅貨を渡して鳳凰を召喚、俺の足場にしてくれ」
「鳳凰でもその重さは耐えられるかわからないよ! 」
「数秒持ってくれればいいから早くしろ! 」
ラックの言葉を聞いてアクアリーテは鳳凰を召喚。鳳凰はすぐさまラックを受け止めに向かった。
「よし、それじゃあいくぜ! タワージャイアントスイング! 」
鳳凰を足場にラックは言喰鳥の身体を思いっきりぶん回し、そして勢いよく投げ飛ばした。
「行ってこい、音を伝える空気もナノマシンもない宇宙へなああっ!! 」
投げ飛ばされた言喰鳥は矢のように真上に飛んでいき、そして二度と地上に戻ってくることはなかった。
「ラックさんって、もうなんでもありみたいな能力してますね」
「ラックは勇者パーティの中でも最強だったからね。あれで、もうちょっと頭と運がまともだったらね」
「でもそれがラックさんのいいところだと思います」
「そう思えるなんて、ティアちゃんも十分おかしくなってるんじゃないかな……」
こうして見事、言喰鳥を宇宙へと追放して世界の危機を救ったラック達。そして、彼らはこの事件の原因であるラングトンにケジメをつけさせるべく、ビルへと戻っていくのである。
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