第23話 言葉を食べる街 その7

 言喰鳥を倒した後、三人は無事に元のビルまで戻ってきた。そこでは子供達と鳳凰が仲良く、ラングトンをボールにしてサッカーをしていた。


「そーとーな恨みかってたんだね」

「だって言喰鳥に卵産ませる時、メチャクチャ蹴りとばされてたからな。そりゃそうなるさ」


 白衣がボロ雑巾のように変色するまで蹴られ続けていたラングトンだが、鳳凰が鉄の壁に向かってシュートするとその衝撃で気がついたようで、彼はフラフラしながら立ち上がった。


「……はあっ……はあっ、この野蛮人どもめ。よくもここまでやってくれたな? 」

「お目覚めのところ悪いけど全て終わってるんだ。言喰鳥は破壊したから、もうお前には何も残ってないぜ」

「確かに自分は負けかもしれない。だがこの街は負けてはいない! こうなればこれから王都に宣戦布告してぶっ潰してやる、少しでも多くの住民に被害を与えてやるよ! 」

「そんな理由で戦争を起こそうというのですか? 」

「うるさい、言喰鳥を壊した犯人が王都の人間といえばこの街の住民は喜んで戦争に参加するさ! 自分のやってしまったことの重さを後悔するがいい! 」


 ラングトンは壁のボタンを押すと街の軍事施設に向けて通信をする。すぐに相手は通信に応じ、液晶画面に顔が映る。


「ラングトンから指令を伝える! 陸上部隊よ、即刻王都向けて進軍せよ! 」

「ラングトン様! そんなことよりも大変な事態が起こっています! 街の外を見てください! 」

「街の外だと? 」


 ラングトンはボタンを数回押すと、液晶画面の画面が切り替わり、街の外の光景が映った。その映像を見たラングトンは口をぽかんと開ける。


「な、なんなんだ……、これは……」


 液晶画面に映っていたのは、街を囲む軍隊であった。その軍隊はさまざまな色の制服が混ざり合っており、持っている照明によってカーニバルでもやっているかと思わせる。


「他の街という街から大勢の軍隊が宣戦布告にやってきています! この数ではすぐにこの街はおちてしまいます! 」

「なぜだ!? どうして宣戦布告なぞしに来ているのだ! 」

「そ、それが相手が言うには私達から先に挑発してきたとのことで……」

「馬鹿なっ、そんなことはしていないぞ! 本当にそう言っているのか? 」


 ラングトンが確認をすると通信相手はコクリと頷いて、他の街からのメッセージを転送してきた。


『言語の街 スピクルスの民につぐ、我々は貴方達から宣戦布告を受けた。その回答としてこれから進軍を開始する』


「いったいこいつらは何を勘違いしているんだ……? 」


『それにしても面白い宣戦布告であった。まさか金の卵にメッセージを込めるとは良い趣味をしている。今朝、王が食事をする時にこの街から受け取った卵を割ったところ、【いい加減にしろ、さもなければこの街を滅ぼすぞ!】なんて声が出た時は非常に驚いた。しかし、こんな宣戦布告があるとは勉強になったよ』


「金の卵からメッセージがでた? 輸出しているのは音が鳴らない装飾品用のやつではないのか? 」

「なるほどな、警告の卵を他の街で割って勘違いしちゃったってことか、こりゃあ面白いな」

「ラック! お前は何か知っているな! 」


 激怒するラングトンに対して、ラックは口笛で答える。


『そのような金の卵による宣戦布告がいくつもの街で起こったためこうして連合軍を結成できた。今更後悔しても遅いぞ、自分の言葉の重みをよく噛み締めるといい』


 そうしてメッセージは終了した、ラングトンは顔面蒼白になって震え出す。


「ははは、この街はもうおしまいだ! こうなったら自分だけでも生き延びてやる! 」


 ラングトンは壁の中に隠していたボタンを押すと彼の背中に小型のジェット機が装着される。そして彼は迷うことなく屋上から飛び降りて、遠くに飛び去っていってしまった。


「あっ、ラングトンさんが逃げちゃいましたよ!? 」

「あんな負け犬一人じゃ何もできないだろ。放っておけ、それよりこの街をどうするかだ、あの軍隊どもをどう片付けようか……」

「そこはボクに任せて、魔術協会が上手く間に入ってなんとかするように頼んでみるよ」

「そんな簡単にできるのでしょうか? 」

「この街の長のラングトンはもういなくなったことと、言喰鳥の話をすれば皆も理解してくれるはずだよ。連合軍も魔法使いのエキスパート集団である魔術協会を敵にしてまでこの街を支配しようとは思わないさ」

「そうか、それは助かる。アクアリーテありがとうな」

「えっへん! 」


 嬉しそうに胸を張った後、アクアリーテは恥ずかしそうにラックに話しかける。


「あの今更だけど、ラックのことを追放したことは少し言い過ぎちゃったかなって思ってる。まさか本当に出ていっちゃうとは思わなかったんだよ、ごめんなさい」

「そんなことはもういいって、俺はそこまで気にしてねえしな。そうだ、せっかくだから仲直りにこれをやるよ」


 ラックは褌から黒い卵を取り出した。ぶっちゃけ絵面はかなり酷いものだが、アクアリーテの黒い卵に対する驚きの方が褌よりも上回った。


「どうして黒い卵があるの!? 」

「さっき言喰鳥を宇宙に投げ飛ばす時、切断した首のところから一個出てきたんだよ。詠唱が中に入っているなら俺よりも魔法使いであるアクアリーテの方が活用できると思ってな」

「ありがとう! これを魔術協会で研究すれば新しい魔法の発見につながるかもしれないし、ボクも昇進できるかも! 」


 アクアリーテは可愛らしく跳びはねながら黒い卵を受け取った。その様子を見ていたティアはラックの耳元でこっそり話しかける。


「ラックさん、その褌の後ろからはみ出てる墨汁の容器はなんなんですか? 多分ですけど、あれは金の卵を黒くなっただけのものですよね? 」

「くっくっくっ、それはアクアリーテへのお礼さ。俺を追放してくれたことのな……」


 ラックは意地悪な笑みを浮かべながら、純粋無垢に笑うアクアリーテを眺めていた。




☆ ☆ ☆




「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!! あの王都の蛮族ども絶対に復讐してやるからな! 」


 朝日がもう顔を出す頃、ラングトンは森の中を一人突き進んでいた。背中につけていた飛行用の機械が故障し、深い森に墜落したのだ。草木が絨毯となったので大怪我こそしなかったものの、どこに行けば良いかわからない状態だ。


「くそっ、それにしてもどこだよここ! 誰か人間はいないのか? 」


 ラングトンが叫び声を上げながら歩いていると、突如草むらから二つの影が飛び出してくる。それは日に焼けた健康的な肌の筋肉質な男性であった。

 

 その男達は頭に変な被り物をしており、他に身につけているものは腰蓑だけという格好。ラングトンは文明が遅れている彼らを見て内心馬鹿にしながら助けを求める。


「助けてくれ、道に迷ってしまったんだ! 」

「菴輔r險?縺」縺ヲ縺?k繧薙□? 」

「縺輔≠縺ェ縲√&縺」縺ア繧翫o縺九i縺ェ縺」

「お、おい何を言っているんだ。自分にわかるように話しやがれ! 」


 ラングトンは怒りに任せて拳を振り上げると男達は吹き矢でラングトンの身体を麻痺させた。そして彼らはラングトンを担いで森の奥深くへと移動する。


「縺ェ繧薙°螟峨↑繝、繝?黒縺セ縺医※縺阪◆縺」

(なんか変なヤツ捕まえてきたぞ)

「諢丞袖荳肴?縺ェ縺薙→繧定ィ?縺」縺ヲ縺?※隧ア縺ォ縺ェ繧峨↑縺??」

(意味不明なことを言っていて話にならない)

「縺ィ繧翫≠縺医★讙サ縺ョ荳ュ縺ォ蜈・繧後※縺翫¢」

(とりあえず檻の中に入れておけ)


 同じような格好の人間が集まる村に連れて行かれたラングトンは物を扱うように檻の中に放り投げられる。


「おい開けろよ! 俺の固有スキルは『知れば–終わり』という能力で……」


 ラングトンは早口で自分の固有能力を説明するが村人達は全く聞く耳を持たなかった。


「縺励°縺礼ゥコ縺九i遏ウ蜒上′髯阪▲縺ヲ縺阪◆繧翫?∵怙霑大、峨↑縺薙→縺悟、壹>縺ェ」

(しかし空から石像の頭が降ってきたり、最近変なことが多いな)

「縺ゅ≠縲√b縺励°縺励※螟ァ蝨ー縺ョ逾槭′縺頑?偵j縺九b遏・繧後↑縺??ゅ↑繧臥函雍?′蠢?ヲ√□縺後←縺?☆繧九°?」

(ああ、もしかして大地の神がお怒りかも知れない。なら生贄が必要だがどうするか?)

「縺昴l縺ェ繧峨■繧?≧縺ゥ縺?>縺ョ縺後>繧九◇」

(それならちょうどいいのがいるぞ)


 村人達はニヤリと笑いながらラングトンの方を見る。事態を理解していないラングトンにできるのはただただ叫ぶことだけである。


「誰か、助けてくれれれられッッッッ!! 」


 その絶叫は獣の声にも聞こえるような魂の叫びだった。ラングトンの喉を擦り切るくらいの絶叫を聞いて、彼と同じ檻に入れられていた鳥の頭だけの石像が口を開く。



『ウマイ、ウマイ』

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