第7話 太陽の街 後編
深夜十時、空には暗雲が広がり雨を降らしながらゴロゴロと雷を鳴らし始めている。
街の一番見晴らしの良い場所に長の豪邸は立っていた。汚れのない純白の建物に立派な門、こんな天気にもかかわらず兵士が守りについている。
「あいかわらず守備が硬いが、この天気ならいけるか? 」
黒髪を水に濡らしながら近くの木陰から長の屋敷の状況を確認しているのは先ほどラックが占っていた女性ローナ。彼女は力強く剣を握りしめている。ローナが屋敷の方に集中していると、不意に背後から物音が聞こえてきた。
「……キミのような美しい女性がこんなところで一体何をしている? 」
「きゃああああっ!? 」
偵察中で物音を立ててはいけないことを自覚していたにも関わらずローナは大声をあげてしまった。
黄金の鳥のマスクを被り、上半身は裸で白色の作業着のズボンを履いている変態がそこに立っていたからだ。
その変態はたくましい胸筋をピクピクと動かしながらマスク越しに声を出す。
「兵士に気づかれるぞ、あまり目立つ真似はしない方がいい」
「アンタに言われたくないっ! いったいアンタは誰なんだよ! 」
「人に名を尋ねる時はまず自分から名乗るべきではないか? 」
「ウチの名前は……」
「俺は太陽(ザ・サン)と言う、よろしくローナ」
「うぜえ……、ていうかアンタはさっきの占い師の連れの奴だろ。ラックっていったっけ? 」
ローナはどうやら声からラックの正体を見破ったのだろう、素晴らしい洞察力だ。しかし、ラックは首を横に振って答える。
「俺はザ・サンだ、よろしく」
「いや、ラックだろ? なんでそんな奇妙な格好してるんだ」
「俺はザ・サンだ、よろしく」
「まさか、ラックはウチのことを手伝いに来てくれたのか? 」
「俺はザ・サンだ、よろしく」
「……これはウチの問題だ。部外者のラックが出てくる必要はない」
「俺はザ・サンだ、よろしく」
「だが、どうしてもというのなら少しだけ力を貸してくれると助かる」
「俺はザ・サンだ、よろしく」
二人のこれからの行動について相談が終わると両者は息を吸ってから叫ぶ。
「「強情なんだよてめえええっ!!!! 」」
「だーかーらー、俺はザ・サンって何度もいってるだろうがあっ!! 何のために太陽の化身の格好をして雨の中ここまで来てると思ってんだよ! 雨で身体が冷えてめちゃくちゃ寒いんだぞ!? 」
「うるせえっ! これから戦いだっていうのに変態みたいな格好でくるなよ! 戦いを舐めてんじゃねえのか、勝手に風邪ひいてろやボケ! 」
「変態じゃねえよ、なんでこの姿をしてるか教えてやろうか?」
「いったいなんなんだよ? 」
「趣味だよ」
「やっぱり変態じゃねえか!? 」
ラックとローナの怒号が闇世に響く、それは雷鳴を遥かに凌駕する音量であり当然見張りの兵士たちが異常を感じてやって来る。
「ちっ、ラックのせいで失敗だ。今日はもう引くぞ」
「俺はザ・サンだ」
「もういいだろ、つまんねえよそれ」
「今の俺は太陽の化身、太陽を人々から奪う悪党どもには絶対に負けん」
ラックはそう言って、木陰から飛び出して兵士達の前に現れる。
「「変態だああああっ!!?? 」」
「変態ではない、ザ・サンだ。貴様らに太陽の化身として天誅を下す! 」
ラックが両手を上げた瞬間、空から雷が彼に向かって降り注ぐ。鼓膜が破れそうになるぐらいの轟音と電流が兵士達を襲った。
「ぐはああぁっ!? 」
感電し次々と地面に倒れていく兵士達、一方ラックはピンピンしていた。ローナは恐る恐る彼のもとに歩み寄る。
「ラック……、じゃなくてザ・サン。なんかすごい音してたけどアンタ大丈夫か? 」
「ああ、雷が直撃することぐらいは慣れっこだ。俺が一歳の頃から数えると大体五万発は食らってるからな、まあ意外とすぐ慣れるもんだぜ」
「それもう雷の化身だろ。そういやティアちゃんの姿が見えないがどうしたんだ? 」
「ティアは宿屋でぐっすり眠ってる。無理に戦いの場に連れてくる必要はない」
「へー、仲間想いなところあるじゃん」
ローナがニヤニヤ笑っているのを軽く受け流してラックは壊れた門の先を見つめる。
「そんなことより先へ進むぞ。あの屋敷の中に『天候自在操り機』があるんだよな」
「そうだ、そのためにはまずこの巨大な門を開ける必要がある」
何人たりとも招かなざる客は通さない冷徹で無表情な鋼鉄の門を前にして、ローナは自分の剣を使って地面に絵を描いて説明を始めた。
「この門を開けるためには二つの鍵が必要だ。鍵は長が雇っている優秀な傭兵『赤鬼』、『青鬼』がそれぞれ保持している。こいつらは屋敷の外を巡回しているから、ザ・サンとウチが二手に分かれて鍵を入手する作戦でいきたい。協力してくれないか? 」
「うおおおおおおっ、めんどくせえから門をぶっ壊していくぞ! 太陽拳『コロナックル』!! 」
ラックの右手には炎が宿る(原理は不明)、そして音速を遥かに超えた光速にも近いスピードのラックの拳は真っ赤に燃え上がりながら鋼鉄でできた城壁のような門を粉々に粉砕する。
粉々になりパラパラと砂埃が落ちる音を聞きながらローナはぽかんと口を開く。
「…………は? 」
「よし、これで門は開いたな。次はあのでかい建物に行けばいいのか? 」
「いや待てよ、アンタ何者だよ。なんでそんなに強いんだよ!? 」
「俺は昔から運が悪かったからな、三日に一回は隕石が頭に上に降ってくるし、一週間に一回は意味もわからず身体が家の壁を通り抜けて二階から地面に落ちそうになるし、一年に一回は別の惑星の怪獣が襲ってくるし、一生に一度もマークシートで正解をしたことがない。これらのことを乗り越えていくうちに勝手に強くなるんだよ」
「運の悪さが宇宙レベルだ……、でも最後のは勉強すればいいだけだろ?」
「ふふふ、実は俺は運が悪い以外にも秘密があるんだ」
「まだなにかあるのか? 」
興味ありげな反応をしたローナに向かって、ラックは人差し指を振りながらチッチッチッと舌を鳴らす。
「俺は頭も悪い!! 」
「それじゃあ、さっさと進むぞ。目の前にある白い屋敷がそれだ。障害物は全て破壊してくれ」
「ノーコメントかよ……」
もしかしたらこの惑星にはラックがいない方が平和なのかもしれない。だが、生まれてきてしまったものはどうしようもない。彼らは前に進んで行くことしかできないのである。
「そういやザ・サンの固有スキルってなんだ? 」
固有スキルとはこの世界にいる人間が一つだけ持つことができる特殊能力である。この能力は役に立たないものから世界を支配できるようなものまで様々であり、これによって人生が決まると言っても過言ではない。
「俺は世界一運が悪くなる能力だ、正式名称は『悪魔の祝福』、お前は? 」
「予想はしてたがアンタは大変な能力なんだな。ウチの能力は『離れ刃慣れ(ハナレバナレ)』、一年以上自分と寝食を共にした刃物で切断した場合、ウチの許可があるまで切断したものは決して元には戻らない」
「回復不能の攻撃ってわけか、ローナのは戦闘向きでいい能力だな」
ラックが頷くと彼に雷がドゴンと直撃した。ラックはもう慣れているのでへっちゃらだがローナはまだ耳を塞がないと鼓膜にダメージを受けてしまう。
「じゃあ、ティアちゃんはどんな固有スキルなんだ? 」
「……そういえば知らないな」
「普通一緒に旅するならそこは一番最初に確認するところだろ」
「だって固有スキルの話にならなかったし、俺は自分からスキルの話はしないから」
ラックは固有スキルの話を自分からしない。なぜなら『あなたの固有スキルはなんですか?』と聞いたら『じゃあ、あなたは?』と返されるからに決まっているからだ。できるなら役に立たない固有スキルのことは話題にあげたくなかったのである。
「ふーん、そんなもんなのかねえ。まあ話したくないってやつは結構いるし、今のままでやってけるならそれでいいのかもな」
そんなことを話しながらラックとローナは屋敷の建物の玄関まで辿り着く。厳重な扉をラックのパンチで粉々にして中に入ると綺麗な真紅の絨毯と煌びやかなシャンデリアが出迎えてくれた。
そしてそのシャンデリアの光を受けてピカピカと禿頭を光らせる老人が豪華な椅子に座っていた。
「うるさい虫が来たかと思ったらお主かローラ」
「クソ長! ウチが来た理由、もちろんわかってんだろうな! 」
「『天候自在操り機』じゃろ、わかっておるがそれは出来ない相談じゃ」
「悪いけどそれなら力ずくでいかせてもらう! 」
ローナが剣を構えると同時に長はシワシワの指を鳴らそうとするが、雨で湿気った指ではうまくならなかった。三十回ほどチャレンジしてしてようやく雀が鳴くくらいの音量の音が鳴ると、天井に大きな穴が開いて大男が現れる。
「うごおおおおおおっ!! (やべっ、登場の仕方間違えた。普通にドアから入るんだった)」
「ふぉふぉふぉ、コイツの名は『殺人 する夫』王都のA級冒険者すら裸足で逃げ出す超手練れの盗賊じゃ」
「うおおおおおおっ!!(人殺しがんばるぞ)」
『殺人 する夫』の固有能力『殺覚(さっかく)』は死んだかもしれないと一瞬でも思ってしまった生物を本当に死亡させる能力である。そしてその巨大な体躯から繰り出される『お前は既に死んでいる』という言葉で動揺させることで数々の王都の冒険者を葬ってきた実力者だ。
「太陽拳コロナックル!! 」
「うごおおおおお!?(やられた)」
しかし、そんな強敵もラックの渾身の一撃で館の天井をぶち破ってとんでいってしまった。
「する夫!? いったいそこの変態は何者じゃ! 」
「なんてことはありません、ただの通りすがりの太陽の化身ですよ。おじいさま」
「ローナ、付き合うやつはもう少し考えた方がいいと思うのじゃが? 」
「くそっ、否定できない……」
「じゃが、せっかくここまできたのじゃ。『天候自在操り機』を見せてやろう、ついてくるのじゃ」
長は杖を大理石でできた床にカツンと打ち付けると地響きを立てながら地下室の入り口が開く。そして長は杖をつきながら二人を案内し始めた。
長につれられて暗くて無機質で石階段を降りていくと運動場くらいの広さの部屋に着いた。
その部屋の天井は高くちょっとした樹木程度の高さはある。壁や天井は冷たい灰色の金属でできており、その中心に部屋の大きさとは不釣り合いのタンスくらいの機械がピカピカと光を出していた。
「あれが『天候自在操り機』だ! 」
ローナは剣に手をかけて叫ぶと長がそれを静止する。
「その機械を壊してどうするのじゃ? 」
「もちろんウチ達の街に太陽を取り戻すためだ! 」
「そんなことをしてなんになる、今の我々は常に自然の恵みを受けているようなものなのじゃ。それを捨てようというのかの? 」
「なにを言っているんだ! 太陽がなくなってから街の人間の気力は無くなっている。てめえは知らねえかもしれないが生まれてから一度も太陽を見たことがない子供だっているんだぞ! 」
「そんなに太陽が見たいのなら、さっさとこの街を出ていけば良いのじゃ。太陽なしで街の経済は回っておる。小娘のわがままもたいがいにせい」
長は部屋の真ん中に設置している『天候自在操り機』のそばまで歩き、機械のボタンを体重をかけてポチりと押した。すると機械からホログラム映像が空中に映し出される。そこには『雨:25%、雪:25%、雷:25%、砂嵐:25%』という予報が書かれていた。
「見るのじゃ、この天気のお陰でこの街は水、氷、電気、砂という資源を無限に入手することができる。一方晴れはどうじゃ、お肌に有害な紫外線しか受け取れないわい」
「ふざけろ! その資源だって他の街に全部奪われているじゃないか」
「奪われているのではない、恵んでやっているじゃ。貴重な資源を持つこの街の方が立場が上なのは決まっておろう」
「そんなのてめえの卑屈な思い込みだろうが! てめえが搾取されていることから目を背けて自尊心を保つために無抵抗で無責任だから、このメチャクチャな天気予想が生まれたんだ!! 」
「……それ以上言うと、ワシもそろそろブチギレるぞ? 」
ローナと長の議論は平行線である、今となってはなにが正解だったのかは誰にもわからない。しかしこれだけは分かっている、これからは正しい道を歩まなければならないと言うことだ。
「二人とも熱くなってんなあ」
「ラック、じゃなくてザ・サンはもちろんウチの味方だよな? 」
「悪いが今の議論においてはどちらの意見も全くの検討外れとは思わん。別に俺はこの街の住民じゃないから結果に対して責任も取れんしな」
「じゃあ、お前は機械をどうするつもりなんだ? 」
「もちろん壊すさ」
ローナの問いに対してラックは右手を強く握り締めて答える。彼は笑みを浮かべていて自分なりの揺るぎない信念を持っていることが見てとれた。
「俺の仲間で太陽を見たいって言ってるやつが一人いるんでね。それ以外の理由はない」
「なんという傲慢で破壊的思考の持ち主なのじゃ!? いったいその機械に何万人の生活がかかっていると思っている! 」
「知るかよ、かき氷なら食わなくても生きてけるし、水なら川から引けばいいし、電力は人力発電、砂は公園からとってくればいい! 」
『天候自在操り機』に向かって全速力で走るラック。彼の右手は太陽のように光り輝いており、そのとてつもないエネルギーをその場にいる全員が感じ取っていた。
「ちょっ、ちょっと待つのじゃ。そうじゃ、明日は晴れにしてやるからそれを仲間に見せてやれ、それで満足じゃろ? 」
「機械なんかに作られた人工的な晴れなんて、アイツには見せたくねえええっ! 」
ラックの右手が機械にぶち込まれ、一種にして粉々の灰となってしまった。その光景を見て、長はがくりと膝から崩れ落ちる一方、ローナはラックの肩を元気よく叩く。
「やったな! これでこの街も元通りだ、感謝するよザ・サン」
「……いや、まだだ」
ラックの視線の先にあった機械の灰はみるみる内に一塊になり、粘土のように固まったかと思うとすぐに元の『天候自在操り機』の形となり、色鮮やかなシグナルを発する。これは先程までと全く同じ状態になっていた。
「元に戻っちまった!? 」
「この機械を作ったやつは相当なもんだ。どんなに分解されても元の状態に自分で組み立て直すようにプログラムしてある。単純に破壊するだけでは厳しいかもな」
「……え、もしかして、こ・わ・せ・な・い・? 」
先ほどまでのガッカリとうなだれていた長の顔に邪悪な笑みが浮かび上がってきた。
「はい勝利、負けたお主は可哀想に、最後に笑うはワシ老人、余裕の証にヒゲ剃ーりー、oh yeah!! 」
下手くそなラップを口ずさみながらキレキレなダンスを踊り出す長を睨みつけながらローナは剣を抜く。
「元に戻るのならウチの『離れ刃慣れ』の力で! 」
「だめだ、この機械は剣程度ではかすり傷一つつかないほど丈夫にできている。ローナじゃ、そもそもこの機械は切断できない」
「じゃあ、どうしようもないのかよ……」
自分の力不足を感じて目に涙を滲ませるローナを見たラックは機械についているボタンを眺める。ボタンは1から9までの数字が並んでいた。
「おい長、このボタンはなんだ? 」
「ボタンを押して機械に命令、その内容で予報に連携、だけどお前にゃ関係ねぇ、もう気が済んだらお主は家にけえれぃ! Wow! 」
「なるほどボタンで入力した数字のコードによって予報が変わるってことか」
「数字のコードは全部で100桁、何が正解アタマはハテナ、本当はワシしか知らないあっかんべーだ、早く帰れよキミボケた? ピャオ! 」
興奮のあまり汚い尻を見せながらブレイクダンスをする長の話を聞いてラックは頷いて、ボタンを連打し始める。
「おい、ウチにはメチャクチャに押してるように見えるけど大丈夫か? 」
「機械っていうのは暴走を止めるためにある機能がついているもんなんだよ。特にこんなものを作る天才なら絶対につけている機能がある」
「なんだよその機能って? 」
ローナは顎に手を当てて考えるがさっぱりわからない様子だ。ラックはもう既に50桁まで入力を終えている。
「自爆装置さ、これが長に伝えられているかまではわからんが絶対にある。機械に命令をして自爆させれば自己修復プログラムは発動しないはずだ、発動したら自爆の意味がなくなってしまうからな」
「でも自爆するためのコードなんて知らないだろ? 」
ローナの問いに対してラックは口角をあげて返す。機械のパネルには90桁の数字がおしくらまんじゅうをしており、空きスペースは10桁のみだ。
「デタラメに数字を押したら大切な機械がたまたま自爆した、さてどんな感想を持つ? 」
「そうだなあ、すげえ運が悪いなって思うな。…………まさか!? 」
「ああ、俺はすげえ運が悪いんだ!! 」
ラックが最後の数字である1をデジタルパネルにぶち込むと突然けたたましい警告音が鳴り響く。
『警告:自爆装置が稼働しました。近くにいる人は急いで避難をしてください。繰り返します……』
「「よっしゃー!」」
ラックとローナはハイタッチをする。そして、機械がカウントダウンを開始し始めた、自爆に巻き込まれないように早く逃げなければならない。
『それではカウントダウンを始めます。3、2、1、0』
「「「……え? 」」」
機械の自爆による凄まじい爆風は屋敷を粉々に吹き飛ばし、その閃光は真夜中に突如降臨した太陽のように地上を照らした。その明るさは隣街で寝ている子供もびっくりして目を覚ましたと伝説になっている。
☆ ☆ ☆
「ラックさん! 早く起きてください。晴れなんです、太陽が出ているんですよ! 」
翌日の朝、ベットで寝ているラックの体をティアがゆすって起こす。初めて雪を見た子供のようだ。
「ふぁ〜、おはよう。それで花は見れたか? 」
「はい、すっごく綺麗なんですよ。一緒に来てください! 」
ティアに手を引かれながら街の外に出てみると、道端には宝石のように虹色に輝く花が咲き誇っていた。
ティアは服に泥がつくのも気にせずに花に顔を近づけてまじまじと観察している。
「俺も長いこと旅をしているがここまで綺麗な花は見たことがないな。さすが太陽の街と言われるだけのことはある」
「でもでも、晴れになったということは『天候自在操り機』が壊れたということですよね。ローナさんは無事でしょうか? 」
「誰かウチの噂をしたかな? 」
「わっ!? ローナさん無事だったんですね! 」
「無事もなにもウチは何もしてないぜ、どうやら長の家に置いてあった機械が不具合で自爆したらしい」
「あれ、そーなんですか? 」
『天候自在操り機』が自爆をした時、ラックはローナを守るように庇った。屋敷を焦土と化す爆発でもラックに守られることによってローナは一命をとりとめたのだ。
そしてティアを心配させないために今回の事件は機械の不具合による自爆ということにしようと、ラックとローナは相談して決めたのだ。
「そうなると長さんは無事なのでしょうか? 」
「長は今回のことで疲れたから少し休むってさ」
「そうなんですね、皆さん無事なようでよかったです」
天使のような優しい笑顔を見せるティアを見て二人は心が痛んだ。長はもうここにはいなくなってしまっていたのだから。
「ってことでこれからはウチが代理としてこの街の長をやることになったんだ。今日の朝の会議で決まったぜ」
「すごいですね、知り合いに街の長がいるなんて自慢できちゃいます」
「でもこれからは天気を操作できなくなるから外交が大変じゃないか? 」
「大丈夫、街の皆はウチが引っ張っていく。それにこんな美しい観光資源あるんだ、いつか世界最高の街にしてやるよ。いや、もう世界最高か、アッハッハ! 」
地面には光を受けてプリズム状に輝く花々、そして空では雨上がりの後の虹が大きなアーチを作る。空と大地に描かれる虹にラック達は見惚れていた。
「もし俺達がこの街に来た時からずっと晴れだったらこの光景は見れてなかったな」
「そうですね、雨があったからこそです」
「やっぱり、先がわからないからこそ、この世界は楽しいんだ」
☆ ☆ ☆
広い草原の中を一人の老人が杖をついて歩いている。
「敵に助けられ命拾い、よくわからない今の気持ち、だけどワシにはいない身寄り、ならば旅すりゃよりどりみどり! チェケラッチョ!! 」
ラックに助けられた長はあの戦いでラップに目覚め、世界一のラッパーを目標に奮闘するのであるが、それはまた別のお話。
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