第12話 ロックンロールは鳴り止まないっ

「へえー……ここが音楽スタジオですかぁ」


 部室棟を離れ、学生用の駐車場を通り抜けた先にある小さな寮のような建物。中には、いろいろな小規模の同好会やサークルなんかがあり、使われていない部屋もちらほら見受けられた。


 そんな建物の右下にある一室。吸音材が敷き詰められたわけでもなく音がこもりそうなコンクリートの壁に、窓ひとつない部屋。壁にはいろいろなバンドのポスターやらステッカーが貼られており、部室に置いてあったものより大きいアンプやスピーカー、マイクスタンドやらが各位置に備え付けられていた。


 アンプやミキサーのコンセントが床に張り巡らされていて、延長コードやたこ足配線を駆使しながら差し込まれているため、足の踏み場が狭そうにも見えた。だが、そんな風景もザ・ロックって感じがして、私は嫌いではなかった。


 ルナさんが持ってきたギターにシールドを差し「何の曲合わせる?」と訊いた。顔はずっとエフェクターの方を向いたままだった。


「そうだねぇ、『マイネミ』とかいいんじゃない? スリーピースだし、そこまで難易度も高くないし。ユリコ、弾ける?」


「『真青』なら去年やったので何とか弾けるっすかねぇ……まあうろ覚えなんでところどころ怪しいかもしんないっすけど」


「お、良いんじゃない? 僕もコピーでしたことあるし。ルナは?」


「アルペジオの部分以外ならコードでなんとなく弾けると思う。とりま、携帯で原曲の音、確認するから準備に時間くれ」


「了解ー」「うぃーっす」


 各々が黙々と楽器のメンテナンスや原曲の確認に集中していた。なんだか、私のために動いていると思うと、少し申し訳ない。それと同時に、ルナさんのギターがまた聴けて私は期待で胸を膨らませていた。


 ユリコさんがアンプのボリュームを上げる。弾いた弦がアンプから出力され、「ボン」という低い音が響く。ただ音が出ているだけなのに私には新鮮に見えた。ベースの音ってバンドの中では目立たないし、それだけを聴く機会なんてこれまでになかった。だからかもしれない。音の調整をしているユリコさんがやけにカッコよく映ってしまう。


 テルヨさんもドラムで一定の練習を終え、ルナさんはまだエフェクターをいじっていた。アンプから出される音にようやく満足したのか、「うし」と短く呟き、ギターから手を離してマイクの位置を調整した。


 そうして短く発声練習をしながら、ミキサーを今度は調整し出した。ギターボーカルの準備の手間にしばらく釘付けになる。面倒そうだなぁと素直に思った。やっと納得がいったのか、発声をやめるとルナさんは辺りを見渡した。


 テルヨさん、ユリコさんともに相槌を送ると、ルナさんはマイクスタンドの前へと戻って行った。ベース、ドラム、ギターの順で位置に並び、私の方を見てルナさんが簡単な挨拶をする。


「えーっと、今から手下Aのために即席バンドを始めます。ちゃんと見とけよ! 出来は悪いかもしんねえけどな!」


 少し離れた出入り口の付近でナイヨさんと並んで見学していた私に指を指す。それが終わるとルナさんはテルヨさんに合図を促した。シンバルが「たん……たん……たん……たん……」とカウントを始め、四拍子でルナさんが歌い始める。

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