第10話 大大正解

「ではただいまより新入生歓迎会を始めたいと思います!」


 高らかに挨拶をするテルヨさんへ私とナイヨさんは拍手を送った。新入生歓迎会……と言ってもこの場にいるのは前述した三人+ルナさんの4人だけだ。


「なんで新入生歓迎会なのに全員集まらねえんだよ! 放課後だぞ今!」


「いやぁ、他のみんなはバイトやら補講やらで来られないって……」


「……本当の理由知ってるか、ナイヨ?」


「作者が思い浮かんでないだけらしいです……」


「なんで他のキャラ考えてないのにこんな集会の回作るんだよ!」


「それも最近ネタがないから適当に書き始めたのがこれらしくて……」


「どうなってんだよ! この小説と作者!」


 すみません! とりあえずで始めてしまったがためにネタがありませんでした! 許してくんなまし! by作者


「まあ、細かい話は置いといてさ。せっかく手下Aちゃんが入部してくれたんだからお祝いしようよ。お祝い」


「テシ! タエ! です! なんかみんな浸透しちゃってますけど私の下の名前は『タエ』ですよ! モブみたいに寄ってたかって呼ばないでください!」


「もうどうだっていいじゃねえか、それで慣れちまったんだし。細かいことばっかり気にしてっと大きくなれねえぞ」


「細かいことって……! 重要なことじゃないですか! 人名前のことなんだし!」


 私は少し腹を立てていた。と言っても、漫画などで言う「プンスカプンスカ」といった感じなのではあるが……ここで粘ればみんなが折れて呼び名を改めてくれる可能性もあるので一歩も引かなかった。


「で、でも手下Aちゃんってあだ名……親しみがあっていいと言うか……可愛らしいなって私は思うよ……」


「そうですか、じゃあこのままで」


 ナイヨさんの励ましと困り笑いに私は即答した。


「何でナイヨの意見は素直に聞くんだよ! 私の方が先輩なのに不公平だろうが!」


「だ、だって……聞いてあげなきゃ可哀想ですし」


「善人ぶるな! お前さっきナイヨがシメられてたところ、バッチリ盗撮してただろうが!」


「う、煩いですねぇ! 加害者よりマシでしょうが!」


「どっちも良くはないと思うけどなぁ……」


 二人の争いを割り、テルヨさんは歓迎会の続きを進行した。


「もうお互い歪みあってないでさ、折角の歓迎会なんだから挨拶からしようよ! 自己紹介改まってしてないでしょ?」


「ちっ……まあそうだな。草瑠奈、芸術学科三年で好きな事はパチンコ。担当はギターで好きなバンドは……って前、手下Aには話したしパス。こんな感じでいいか?」


「もっと柔らかい感じで言って欲しいけど……まあルナだしいいか。僕は張齢輝代。経営情報学科三年でこのサークルの部長。趣味は散歩とアニメ鑑賞と……まあそんなとこかな。担当はドラムで好きなバンドはdog runnerとかかな。よろしく」


 dog runner……私でも知っているくらいの有名なバンドだ。スリーピースで恋愛ソングが多めのバンド。私の中学、高校のころの同級生にもファンがいるくらいには名の知れたメジャーバンド。


「あ、じゃあ次は私……ですかね? 文学科二年の音来雲乃世です……。担当はギターで、趣味は……漫画とか小説を読んだりするのが好き……です。好きなバンドは……一度手下Aちゃんには言ったけど、マイネミです。よろしくお願いします」


 淡々とした自己紹介の後に、ナイヨさんは深々と頭を下げた。つられて私も「ど、どうも……」と会釈を返す。


「つ、次は手下Aちゃんの番……」


 ナイヨさんに促された時、私は不意にも少しドキッとしてしまった。ど、どうしよう……。昨日会ったばかりの人に自己紹介をするというのは別段、珍しい事でもない。だけど私の中には耐えがたい緊張があった。何故こわばっているのかも分からない。けど恥ずかしさからなのか、羞恥心が心の奥底から顔を覗かせているようで心が落ち着かない。


 な、何を緊張しているんだ、私は……。いつも通り……スムーズに言えばいい。自己紹介をする人たちだって顔を知っている三人だ。あがってしまうような状況では……ない。


 頭では分かっている。だけど体は固いままで、私は深呼吸をして、何も考えずに直感で自己紹介をした。


「経営情報学科一年、手市妙です。しゅ、趣味は韓国のドラマとか見るのが好きです! 担当は! ……私、音楽に関する経験がまだ一度もないので……これから頑張って探そうと思います! 好きというかよく聴くバンドはスリープバイブとMAGA-LOONです! よろしくお願いします!」


 私は素早くお辞儀をした。馬鹿がつくほどに真面目な自己紹介をしてしまった、他の先輩たちはもっと気楽な感じだったのに……。


 だけど先輩たちは嬉しそうに私を歓迎していた。


「元気があっていいじゃん! 可愛い後輩が入ったね、ルナ!」


「ケッ! 生意気で我儘だし嫌味なやつなんだぞ、こいつの本性は! でもまあ……たまに可愛いところもあるけどよ!」


「まあ、たまに怖いところもあるけど……頼もしい後輩が入ってくれて……私は嬉しいです……」


 先輩たちみんなが私を迎え入れてくれて心のどこかがふと温まった。初めは間違いから入ったサークルだったが、今は何だが居心地がいい。このサークルに入ったのも別に間違いではなかった……のかも。


 ――ガチャ。


 そんな時に部室の扉は開いた。


  ―― ―― ―― ―― ―― ――

☆タエのそれなに初心者バンドメモ☆

『dog runner(ドッグランナー)』

 日本が誇る有名スリーピースバンド。恋愛ソングが多く、季節をテーマにして書かれた曲も多々。主に女性のファンが多く、バンドの曲が短編映画になったりもする。

 代表曲は『スリシマストング』『札束』『BROTHER』『マダイン』『大大正解』などがあり、映画等のテーマソングにも起用された曲もある。以前紹介した『マイネミ』と同系統のバンドではあるが、歴・知名度共にdog runnerの方が注目を浴びる一方、dog runnerのメンバーもマイネミの魅力を語るシーンもある。

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