第6話 ふたりごと

 ハロー! みんなぁ! おっはよー! みんなのアイドル、手市妙ちゃんだよー!


 今日はうちの大学でも特に廃れたサークルである『軽音楽部エレクトリック部門』の部室に初めて潜入しちゃうゾ☆


 意地悪な先輩がいるからあまり乗り気ではないけど、空きコマで気軽に話せる友達がいないから仕方なく、お邪魔しちゃうゾー! 感謝しなさいよね(ツンデレ)!


 ……えー、というわけで部室前に来ました(賢者タイム)。いざ入室って考えると、少し緊張してしまいますね。中に知らない人がいたらどうしよう……。昨日ドアをノックするのもかなり躊躇ったし……。気丈にふるまってはいるけど、心の中は純粋無垢な少女そのもの。さすがの天使タエちゃんでも乙女だから悩みごとの一つや二つはあるんだゾ☆


「あのー……」


「ひぃっ! ご、ごめんなさい! 乙女ぶってごめんなさい! そうです、私はただの馬鹿なメスです! 調子乗ってごめんなさい!」


「え、いや……そんなに蔑まなくても……入らないんですか?」


「……え?」


 急に背後から声を掛けられるものだからびっくりしてつい咄嗟に謝ってしまった。私の後ろにいたのはナイヨさんだった。扉の前で足踏みしてた様子を見かねて声をかけたのだろう。


 大きな瞳に、長い髪。眉毛が少し太く、たれ目だから普通の表情でも困っているように見える。


「……? 私の顔に何かついてます?」


「え、い、いや! 整った顔だなって!」


「え、あ、その……あ、ありがとうございます……」


 ナイヨさんは分かりやすく照れた。口元を隠しながらほのかに頬を染めるのがまた……色っぽいなぁ……ゴクリ……はっ! いけない! 自我を保たないと!


 ナイヨさんを相手にするとなぜか危ないスイッチが入ってしまいそうで困る。たまに自分が自分でなくなるような気さえもしてしまう。この人と話すときは細心の注意が必要だ!


「は、入りましょうか!」


「そ、そうですね……」


 私が先導を切って、部室のドアを開ける。改めて、考えてみればナイヨさんと一対一で話すのはこれが初めてだ。今は邪魔者(ルナさん)もいないし、普通の女の子のように楽しくキャッキャと会話が出来ると思うと、私は楽しみで仕方がなかった。


「(あ、でもこの子、変態だった……うぅ、二人っきりで大丈夫かな……)」


 おい、後ろで何か小言が聞こえたぞ。

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