第4話 チビった

「ゴクゴクゴク……かぁーー! パチンコに勝った後、飲むビールはやっぱ格別だわ!」


「勝ったのは私ですけどねー」


 私たちは今、焼き肉店にいた。それもめったに入ることのできない高級店だ。見たことの無い油が程よくのった牛や豚の肉が見たことの無い細長くうねった形状の皿にのせられて運ばれてくる。この上ないほどの贅沢だ。


 無論、金の出どころはあの3万2千発からだ。結局、私はあの大金を山分けさせることが出来なかった。せめてもののと、2万円だけ手下Aから渡されたのみだった。だから、このくらいのおごりは当然だ。そう自分に言い聞かせ、私はビールを口に含んだ。


「ルナさん、私ビール頼んでいいなんて言っていないんですけど」


「うるせえ! あんだけ出たんだからこれくらいいいだろうが!」


「私、未成年でお酒飲めないから不公平じゃないですか! お肉だってさっきからずっと私が焼いているし! ルナさんも少しは手伝ってくださいよ! 頃合いのものばっかりとって! 私は少し焦げたものしか食べられてないんですよ!」


「うだうだうだうだとうるせぇなぁ! 私はお前より2つも年上なんだぞ! 先輩を敬うのが後輩の役目ってものだろ! 少しは口を慎め!」


「むー! 先輩だったらもっと先輩らしい行動を心がけてくださいよ! ここのお会計も私がするんですからね!」


「元はと言えば私の金だろうが!」


「あげるって言ったじゃないですか!」


「何をー!」「なんですかぁ!」


 お互い顔を見合わせて、ガンを飛ばす。くそっ、やっと新入部員が入ってきたと思ったが、とんだ大外れだ。生意気だし、わがままだ。後世にもこのサークルを受け継ぐため、張り切って勧誘(誘拐)したものの、こんなにストレスが溜まるならやらなければ良かった。私はため息を吐いた。


「……しょうがねえなぁ、確かに先輩としての面子ってもんもある。奢られっぱなしっていうのも癪だから少しは肩代わりするわ」


「え……い、いいですよ。10万円も入ってきたんだし……私もちょっと言い過ぎたところが――」


「体で」


 私はコートを脱ぎ、Tシャツの襟元を指で下げ、腰を屈ませ手下Aを誘惑した。が……。


「あるのかないのか分からない胸でよく堂々とそんなポーズとれましたね」


 呆れた様子だった。


「んだとゴラァ!」


 私は向かい合って座っていた位置から、手下Aの隣に座り、彼女の乳を思いっきり揉んだ。


「あ! ちょ! 何触ってるんですか!」


「お前だって似たような胸してるだろうが!」


 モミモミ。


「ましてや私のより小さいじゃねえか!」


「なっ!」


 顔を真っ赤にさせながら手下Aは反論する。


「私は今後付き合うイケメンの彼氏に揉んでもらって大きくなるからいいんです! 大きくなる未来がないルナさんとは一緒にしないでください!」


「何がイケメンの彼氏だ! おめえみたいな田舎から出てきてそうな女はチャック柄のシャツを着た、いかにもって感じのオタクと付き合うのがやっとだわ! 夢見んな!」


「う、うるさいですねぇ! 未来ある若い後輩にそんなこと言って楽しいんですか!? 悪趣味な先輩! ってかいつまで胸揉んでるんですか!」


「あ、あのう……お客様……他のお客様の迷惑となりますのであまり騒がれるのは……」


「うるせえ!」


「ふう……!」


 いつの間にか個室の引き戸を開けていた店員に、私は視界に入れることなく、その場にあった空のグラスを投げつけた。それは見事に店員の顔面へ直撃した。


「あっ! 何してるんですかルナさん! 店員さんに当たっちゃいましたよ!」


「あっ……わりい……ついカッとなっちまって……ごめんな、お店の人」


 さすがにやりすぎたと私は店員に頭を下げた。鼻を抑えながら、店員はヨレヨレと立ち上がる。


「い、いえ大丈夫です……慣れてるので……ってあれ? ルナさん?」


「えっ? どうして私の名前……」


 店員をよく見てみると、そいつはナイヨだった。黒のスーツベストのような服装にエプロンをつけ、いつもの長い黒髪は後ろで縛っていた。ここでバイトしてたのか、初めて知った。


「えっとルナさん、騒がれるのはほどほどに……」


 叱られている相手がナイヨだと知ると、私は無性に腹が立ったし、嬲りたくもなった。


「あ? 先輩に向かってそういう態度とるのか? ナイヨ」


「えっ……わ、私も出来れば注意したくないんですけど……バイトの先輩が行けって言うから……」


「バイトの先輩とサークルの先輩、どっちが大切なんだよ?」


「え……ふ、普段はルナさんなんですけど……い、今はアルバイトの時間だし……その……」


「あぁん? お前も2年になって態度がデカくなったもんだなぁ!? オラァ!」


 私はそう言い残すと、ナイヨの胸を強く揉んだ。ナイヨは「はぅ……!」と可愛らしい悲鳴をあげ、揉み上げるたび、涙目になった。もちろん興奮した。


「ひぃ! ル、ルナさん! やめてください……!」


「うるせえ! こんなにでけえもんぶら下げやがって! ちょっと揉んだところで減りはしねえだろ!」


「ル、ルナさん……ハァハァ……やめてあげましょうよ……ハァハァ……この人困ってますって……えへ、ぐへへへへ」


 正論ばっかつらつら並べて全然手下Aは手助けしない。……こんな感じのフレーズの曲、確か『ヨイショカミカミ』の曲にあったなぁ。まあ兎にも角にも手下Aは嫌がっているナイヨを見て、口ではやめようと言うくせに、遠くからニタニタと笑っていた。こいつも同じ穴の狢で、イケる口だった。


 結局、この後、別の店員に止められ、ナイヨは解放された。しかし、私たちに虐められた後もナイヨは店長から厳重に叱られたとか。正直悪いことをしたと言う後悔はある。

 

 ―― ―― ―― ―― ―― ――

☆タエのそれなに初心者バンドメモ☆

『ヨイショカミカミ』

 通称『ヨイショ』。『チビった』『BBQしたい、70代まで生きたい』『ダルカワ男子』『システムアンダーソン』などの代表曲を持ち、フェスなどでは多くの観客が集まる有名バンド。ライブでは毎度のように異なる衣装で演奏する他、パフォーマンス等も異色でコミックバンドの先駆けとなるほどの知名度を誇る。

 ルナさん曰く、「五人版『エモY』」とのこと。『エモY』とは何なのだろうか? 一体『?い?シャツ屋さん』なのだろうか……。

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