第5話 バカの妄想 ミソギポイント
今日の空はパステルピンク。
緑の植物に覆われるカフェのガーデンテラスに、金ピカの椅子が置かれた。黒の制服の
ヌッタスートたちが、ニコニコしながら
カフェの前を通り過ぎるヌッタスートの中には、嫌そうな顔で、ちらちら傀儡を見、通りすぎる者もいる。
肩をもむアイキンが、媚びるように言った。
「クグツ、いまのわたしのポイントはどれくらいかな。結構
「なんだその呼び方は」
「ご、ごめん。なんと呼べば」
「神様と呼べ」
「神様。わたしのポイントを教えてください」
傀儡は表情を変えなかったが、心の中でじぃんとした。
(ついに言われた。神様! 異世界サイコー!)
念じる。ぽやっと風船のような数字が浮かんだ。
3150
「はあ。まだこれだけか」
「もっと善行をつめ」
「はい」
クククと、笑いがとまらない。
「善行といえばちょうどいい。1000ポイントゲットのチャンスをくれてやる」
「ほんとですか? やったあ」
「どんなことをすれば?」
「特別な善行だよ」
スマホにメモしてあった。
『……年、……で逮捕……された……は……、信者を……に加担させることで罪悪感を植え付け……、……から抜けられなくさせ……』
ガーデンテラスの前に、アイキンや、ほかの青のヌッタスートたちが、あるヌッタスートたちを
金ピカの椅子に足をくんで座る
「神様、
「ん」
赤のヌッタスートたちは、ひきずられて地面に倒されながら、傀儡をにらみあげる。
傀儡は念じた。彼らの前に、ぽやっと数字が浮かぶ。
−100 −200 −300 …… ……
これみよがしに言ってみる。
「これじゃあ地獄行きだなあ」
ぽやっと、べつの思念を浮かべる。
地の底の、煮えたぎる血の湯の
「……っ」
赤のヌッタスートたちはおびえた。目をそらしている者もいる。
「あわれだからポイントボーナスをくれてやる。やれ!」
ある赤のヌッタスートが縄をとかれ、はがいじめにされ、立たされる。
「え?」
アイキンがその前に出た。彼はためらう。
「あの、神様。やっぱりこれは」
「そいつらが
「……」
「きみは
アイキンはおそるおそる腕をもちあげ、こぶしで赤のヌッタスートの顔を、しこたま殴った。
「うっ」
赤のヌッタスートの口の皮が切れ、血が飛んだ。
アイキンはふたたびこぶしをふりあげ、何度も、何度も何度も殴る。
「うっ、うっ」
傀儡は指をパチンとならし、念じた。
赤のヌッタスートの前に、ぽやっと数字が浮かぶ。
−300
殴られるたび、−299、−298、−297……と、少しずつ数字が増える。
アイキンの前にもまた、ぽやっと数字が浮かんだ。
3150
赤のヌッタスートを殴るたびに、数字が増える。3151、3152、3153……。
とりまく青のヌッタスートたちが、おどろいて顔をみあわせた。
「ポイントが上がってる」
傀儡が、
「これは『ミソギ』というボーナスポイント。殴られるものは
とりまく青のヌッタスートたちや、ガーデンテラスの前をとおる通行人は、殴られ続ける赤のヌッタスートを見て、ほっとする。
(自分は赤じゃなくてよかった)
(赤にはなりたくない)
(赤はよくないもの)
(赤は悪いもの)
「ポイントがほしけりゃほかの者もやれ!」
青のヌッタスートたちは、縄でしばられた赤のヌッタスートをはがいじめにして、殴りはじめた。通行人のヌッタスートにも、立ち寄って殴る者がいる。
かれらの前に数字が浮かぶ。殴られる者は殴られるたびに、殴る者は殴るたびに増えた。
街のヌッタスートや通行人はその様子を見て、おびえ、おそれ、早足で去っていく。
傀儡はぞわぞわと興奮した。
(そう。これだ。俺様のひとことでみんなが操られる。この感覚がほしかった!)
アイキンが、赤のヌッタスートをさらに殴ろうと、こぶしをふりあげた。もはや殴ることへのためらいは消えている。
横からだれかがわってはいり、アイキンに殴られた。
「オルピカ……」
殴られて、ぺっとつばをはいたのは、ピンクの髪、ピンクの瞳、ピンクの触覚のオルピカだった。
「アイキン、見損なった。あなたはやさしい人だと思ってたのに」
「……」
頬を押さえながら、彼女はヌッタスートたちに呼びかける。
「みんなひどいよ! ありもしない妄想の数字のために、人を傷つけてよろこぶなんて」
「……」
通行人や、遠巻きに見ておびえていたヌッタスートたちが、声をあげる。
「そ、そうだよ」
「ちょっとやりすぎなんじゃ」
青のヌッタスートたちは戸惑った。
(まずい)
「お、おまえらも赤なのか?」
「それは……」
「赤に加担する者のポイントはマイナスになる。いかなる
ためらった青のヌッタスートたちの前に、ぽやっと数字が浮かぶ。
0
みんなは怖がった。
だが、オルピカは胸をはり、言い切る。
「そんなのぜんぶうそ」
「なっ……」
「ぜんぶクグツの妄想。だから安心して。みんなが人を傷つける必要なんてない」
「そっか。そうだよな」
「よかった。全部うそなんだ」
オルピカは、ガーデンテラスに背を向ける。赤や黄、そして少数の青のヌッタスートたちは、彼女についていった。
アイキンがオルピカの肩に触れようとする。
「オルピカ」
ぱっと手が払われる。
「わたしに触れたら、バカなあなたのバカなポイントが減るんじゃないの?」
「……」
傀儡はオルピカの背をにらんだ。
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