第6話 テロリスト オルピカ
今日の空は、パステルベージュ。
黒い岩の丘の斜面に座り、
オルピカのことが浮かんだ。
(あの女! おぼえてろ)
近くでは、ヌッタスートたちが丘の
丘にも、山にも、ふもとにも、木がなくなり、すっかりあれはてた。
パステルグリーンの海に面する、黒い山のふもとの、広い土地。ヌッタスートが工場を建設していた。機械を搬入し、
ほかにもヌッタスートらは、丘や山の黒い石から
みなやつれている。
「はあ、はあ。神様の言ったとおりに作ったぞ」
「ポイント。ポイント」
製鉄所の
「やめ、やめて……」
青のヌッタスートはニヤニヤしながら、首にかけたひもをクロスし、ゆっくり左右に引っ張った。赤のヌッタスートは泣きわめき、首をかきむしり、泡をふき、死んだ。
困惑したアイキンは、じっと見守っていた。
街中に、ヌッタスートの首吊り死体がいくつもぶら下がっている。シナシナした髪や、見開かれた目や、だらりと垂れた
ガーデンテラスの前の金ピカの椅子に、
(虫ケラを従わせるには、別の虫ケラを虐げさせるのが一番)
青のヌッタスートたちが話す。
「赤の連中も、『ミソギ』でポイントあがったな」
傀儡は指をパチンとさせた。念じ、死んだヌッタスートたちの前に、ぽやっと風船のような数字を浮かべる。
10000
おおっと歓声があがった。
傀儡はあくびまじりに言う。
「ほこりたまえ。きみらの
「神様、わたしのポイントは何ポイントあがりましたか?」
アイキンがおずおずと話しかけた。
「神様、彼らは同胞です。これはいくらなんでも……」
「おまえは赤か?」
彼は
青の連中が、ガンっとうしろから殴られ、倒れた。首を吊られそうになった赤のヌッタスートが
殴ったのは、黄色のヌッタスート。
「おい、きさまはなんだ?」
背後から、さわがしい声があがった。
「ポイント思想はすべてデマです!」
「ヌッタスートの色に、
ふりむくと、街の道を、色関係なしにヌッタスートの列が
「われわれは等しく平等です」
先頭にいるのは、ピンクの髪、ピンクの瞳、ピンクの
「あの女」
通行人のなかには、行進の列にまざる者もいる。
「そうだそうだ」
「暴力反対!」
さわがしい列は、どんどん増えていく。
青のヌッタスートたちが怒鳴った。
「この
「非山民はありもしないポイント思想を受け入れるあなたたちだ!」
「同じ同胞を苦しめ、殺してまで天国に行く意味はない!」
アイキンがうつむいた。
「オルピカ、ごめん。そのとおりだ。わたしはまちがっていた」
不意をつかれ、傀儡はアイキンを見た。
彼は青い目から涙を流している。
「わたしをゆるしてくれ。こんなのはひどすぎる」
オルピカのピンクの触覚の先端が、ピクピク動いた。
「……アイキン、あなたの思念を感じる。真実そう思ってるんだね」
「アイキン、きさま」
傀儡はアイキンをにらむが、アイキンの視線も、意識も、まっすぐオルピカだけに向けられている。
「あなたなら、わかってくれると思ってた」
アイキンはオルピカにかけよった。両腕をたがいの背中にまわし、抱き合う。
「同胞を狂わせた元凶をとらえろ!」
行進するヌッタスートが、憤怒しながら傀儡を取り囲もうとした。
「神様になんてことを」
青のヌッタスートは、傀儡を守ろうと、
ヌッタスートの
傀儡は黒いマントをなびかせ、走って逃げた。
ふもとには、製鉄所のほかにも、円柱状の背の高い
切った木で足場を組む。地上で作ったレンガを引き上げ、セメントで接着しながら積みあげる。設計図を見ながら、やつれたヌッタスートらは働いた。
「ポイント。ポイント」
作りかけの城に、汗びっしょりの傀儡がとびこんできた。ぜいぜいと息をきらせている。
働くヌッタスートたちは、傀儡をとりかこんだ。
「神様、わたしのポイントはいまいくらだ?」
「こんなに労働したんだ。ポイントも大量に……」
「うるせえ!」
怒鳴り、傀儡は作りかけの階段をかけあがった。
ヌッタスートたちは納得いかない。
「なんだよ」
「こんなに働いてるのに」
できそこないの城の、最上階までのぼった。レンガの壁は半分もできておらず、床は足場が組まれているだけだ。
「はあ、はあ。ここまでくれば」
すがすがしい風が顔にあたった。黒のマントがはためく。
見れば、異世界の景色が一望できた。雪をかぶった黒い岩肌の山々。森が広がるふもと。パステルグリーンのどこまでも続く海。
この景色すべて、この土地すべて、この世界すべて、自分のものだ。
「全部神のものだ」
(あとは赤の連中と、あのいまいましい女を奴隷にすれば……)
あのとき見た、アイキンと抱き合っているオルピカの姿に、腹の底がムカムカとした。
下から、ドォンと鈍く大きな音がした。ガタガタ、ガタガタ、小刻みに城がゆれる。レンガの壁がくずれ、床がかたむく。
「え?」
傀儡は宙へ投げだされた。眼下では、爆風により土ぼこりがまいあがっている。
爆弾でもしかけられていたのか。
どさりと地面に落ちると、足場の木や、石や、働いていたヌッタスートが落下し、傀儡にのしかかった。
「……ぅ……、くっ……」
右腕が、うまく動かない。ズキズキと強く痛む。
こんなことをしでかしそうなヌッタスートが、ひとりいる。
(あの女ぁ……! おぼえてろ)
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