第3話 最下等色族 オルピカ

 できるだけ心を無にした。


(俺の思念はオルピカに伝わる)


 木の向こうで、青い髪に青い目、青い触覚のアイキンが、みんなをたしなめた。


「そういうこと言うのはよくない。彼が聞いたら傷ついてしまう」

「アイキン。でも」


 ピンクの髪にピンクの目、ピンクの触覚のオルピカが、

「そうだよ。根は悪い人じゃないよ。絶対いじめちゃダメ」


 と、同調したので、傀儡くぐつはうれしくなった。


(オルピカのやつ、そんなに俺のこと……)


 ヌッタスートたちはいぶかしげにしている。


「でもさ、自分が神だとか言ってるけどほんとなの?」


 オルピカがプッと吹きだした。


「フフ。それはちがうと思うな」

(……は?)

「わたしには伝わるもん」


 ひたいから生えた、アンコウのような触覚を、オルピカはピクピクさせた。


「わたし、普通より感覚鋭いから。クグツは普通の人。ただ自己じこ顕示欲けんじよくが強いんじゃない?」


 住民たちは苦笑した。


「そうだよなあ」

「神なんてそもそもいるわけないじゃん」

 オルピカは続けて、

「でもカワイソウな人なの。そう感じる。多分ニンゲンの世界でたくさん虐げられてきたのかな。だから合わせてあげて」


 アイキンがうれしそうに笑った。


「オルピカは優しいね」

「アイキンのおかげだよ。あなたのやさしい心が伝わったの」


 オルピカは彼によりそった。ヌッタスートたちはほのぼのとする。


「二人は結婚式はどこでするの?」

「ウェディングドレスはどんなのがいい? つくろってあげる」


 ガーンと、傀儡は鈍器で頭を殴られたようなショックを受けた。


(結、婚……?)


 オルピカが、ピンクの触覚の先端をピクリとさせた。


「あれ? クグツ? いたの?」


 はずかしさに、傀儡は走って逃げだした。




 小さな家に帰ると、傀儡はベッドにもぐりこんだ。電池の切れないスマホの、大量のメモを見返す。ムカムカとしてしかたない。


(後悔しろ。俺様に本気を出させたこと)


 アイキンにべったりしながら笑っているオルピカを思い出し、ますます怒りがつのった。


(そしてオルピカ、てめえは俺様の奴隷にしてやる!)


 


 パステルパープルの空。ヌッタスートたちは、今日も森で輪になって踊り、雪だるまを作り、かけっこをしていた。

 みんなの触覚は、赤、黄、青とさまざま。赤い触覚は、先端がふたまたにわかれている。黄色はみつまた、青はよつまた。ピンクだけわかれていない。

 青の触覚のアイキンと、ピンクの触覚のオルピカも、手をつないで踊っていた。

 そこへ黒い制服の傀儡が近づいた。アイキンとオルピカは、にっこり笑いかける。


「やあクグツ」

「一緒に踊ろう」


 オルピカが手をさしだした。傀儡はぱしっとそれをはらう。


「クグツ?」


 傀儡はニコニコしながら、アイキンの肩に腕をまわした。


「青くん。きみは特別なんだよ」

「え?」

「青はこの俺の、神の色の黒色に近い。その色が体にあるきみは神に選ばれたということ。よつまたもまたその証拠」


 傀儡は、アイキンの触覚の先を指さした。青く、先端がよつまたにわかれている。


「え? え?」

「そう。きみは高貴色こうきしょく族として、ヌッタスートの優位に立つべきだ」

 

 

 スマホのメモに書かれていた、なにかの本の知識。

 

『教祖は信者に教義を信じる優遇措置として、非信者との差をつけよう』


 

「ほかの青たちも」


 傀儡は青髪に青い目、青い触覚の者たちだけを集めた。みなとまどっている。


「さあ、踊れ。神に捧げ」


 手をとりあって、踊りだす。

 ピンクのオルピカが、無邪気に輪のなかに入ろうとした。


「わたしもいれてよ」


 傀儡は彼女をつきとばした。ぼうぜんとしたオルピカをみくだす。


「ピンクは最下等の色。最下等さいかとう色族しきぞく高貴色こうきしょく族に触れるな。けがらわしい」


 数回まばたきをしてから、オルピカはわぁんと泣きだした。


「クグツなんて嫌い!」


 ヌッタスートたちはぽかんとしている。

 傀儡はオルピカを無視して踊った。よろこびをかみしめながら。


(ざまあ)

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