2
「今度の土曜か日曜、どのか遊びに行かない?」
ある日、いつものように話をしていると、彼から唐突に言われた。デートのお誘いなのかな、なんて考えてしまうけれど、いつも同じように同じ場所で話しているだけだから誘ってくれただけなんだろうな。
「行きたいけど、私見えないし迷惑かけると思うから……」
「気にしなくて大丈夫たまよ。お金もかからないし、大したところじゃないから気にしないで。」
大したところじゃないって言ってくれてるから、行きたいところかは決めてあるんだ。彼と出かけられるならどこでもいいと思える。彼と遊べるだけで幸せだ。
「迷惑じゃないなら行きたいな。」
初めて友だちと遊ぶ。そう考えただけでワクワクしてくる。多分これからその日まで、遠足を楽しみにする小学生のようになるだろう。遠足に行ったことはないけれど。
結局遊ぶのは、日曜日に決まった。土曜日は学校に行かなければならないとのことで、時間がなくなってしまつかとしれないから日曜日にとのことだった。
夏休み前の日曜日、遊ぶ当日をむかえた。私は前日から着れるわけでもないのに、お母さんが買ってくれているかわいい服を着てみたりして、デート前の気分を味わっていた。そのおかげでなかなか寝付けなかったけど、朝は早くに目が覚めて、八時集合なのにもかかわらず、一時間も早く公園に着いてしまった。
彼を待ちながら、オシャレした姿を見せたかったな、きちんとデートしたいな、なんて考える。叶わない夢だとしても想像するのは自由だ。
「あれ、早かったね。」
「あ、うん。楽しみだったから早く来ちゃった。でも、シロヤマくんも早いような。」
デートの想像に夢をふくらませていると彼が現れた。公園の時計は七時三十分を指していた。
「いつもヤマグチさんが先に来てくれてるから、先に待ってみようかなと思ったんだけど、予想以上に早かったな。」
微笑む彼の顔は、今日の雲ひとつない空のようだった。優等生で、何も出来ない私も他の人達のことも一切馬鹿にしない彼の笑顔は爽やかで、カッコイイ。きっと、モテるだろうな。
「少し早いけど行こっか。」
「そういえば、どこに行くの?」
「それは、お楽しみってことで。といっても本当に大したところでもなくて、綺麗な場所かって言われるとなんとも言えないんだけど、ただ僕の思い出の場所ってだけなんだ。」
一緒に出かけられるだけで嬉しいから、どんな場所でもいいのだけど、シロヤマくんの思い出の場所と聞いて、さらに胸が踊る。
2人で歩きながら、話をしていると気づくことがあった。あまり人を見かけない。時々人が通ることもあるけど、その時は会話を止める。だが、あまり人が通らないことを考えると、きっとそういう道を通ってくれているのだろう。そんな些細な気遣いで、世界が素晴らしいものに思えてくるのだから、私は単純だ。
「えっと……」
会話の途中、話が途切れたタイミングで彼が何かを言い淀んだ。
「今日のヤマグチさんは、いつもよりかわいい……ね。」
「え……?見えてるの?」
そんなはずはない。見えるわけはない。なのにそんなことを言うから驚いてしまう。
「あ、いや。今日は遊ぶって名目だし、服かわいいの選んだりしたのかなって思って。だから、いつもよりかわいいのかな……なんてね。」
はっきりとこっちを見ている。ここら辺に居るってわかるよだから、当然だけど目が合っているような、いないような。
「シロヤマくんはすごいね。昨日おしゃれしてみたりしてたの。今日も早く起きちゃったから、色々な服を着てみたりしてね。お母さんに不思議がられたりしちゃった。着て来れないんだけどね。」
見えているのかと驚いてしまったけど、見えていたとしても、裸なんだからわかるわけもない。彼が女の子の気持ちをよくわかっているだけなんだろうな。
「それなら言ってよかった。見えると一番いいけど、気持ちって大切だもんね。」
やはり彼はモテるだろう。私が普通だったらなと考えたけどやめた。
そこから、かなり歩いて足が疲れてきたところで彼が歩みを止めた。
「疲れてきたでしょ。ごめんね。でも、もう着いたよ。」
そこは、いたって普通の公園だった。それなりに広いけれど使われていないような寂れた公園。ここが思い出の場所。昔何かあったのだろうか。
「普通のとこでしょ。でも、大切な場所なんだ。」
なんと答えていいか分からなかった。色々聞いてみたいと思うけれど、聞いてもいいことなのだろうか。
「昔からさ……」
言葉を選んでいるように見えた。言っていい言葉を探しているような。
「ほら、色々なものを感じやすい体質だから、友だちが本当に出来なかったんだ。でも、一人だけ。一人だけ友だちが出来たことがあって。その人との思い出の場所なんだ。」
「そうだったんだ……」
謙遜でもなんでもなく、本当に友だちがいなかったんだ。こんな時に、なんて言ってあげればいいのかわからない。私もいたことがなかったから。
「でも、今はヤマグチさんと仲良くなれたし、大丈夫だよ。」
「私も、初めての友だちだからシロヤマくんと仲良くなれて、とても嬉しいよ。」
遠くに感じていたシロヤマくんが、少しだけ近い存在に思えた。それは、嬉しいようでどこか悲しいような、そんな感覚だった。
「だからね、また友だちが出来たら、来ようと思ってたんだ。」
「ありがとう。大切な場所に連れてきてくれて。嬉しいよ。」
でも、一つ疑問に思ったことがあった。聞いていいのかはわからないけれど、聞いておきたくて言葉が出てきてしまう。それが、失敗だったとは思わずに。
「その人とは、今ら会っていないの?」
彼の顔がはっきりと曇った。そんな彼の顔を見るのは初めてだ。きっと、その人を思い出して悲しんでいるのだろう。そんな感じがした。
「あれだよ……今は会えないんだ。引っ越してさ。」
何かを隠すような言葉だった。絶対に嘘だどわかる。でも、これ以上聞くことは出来なかった。聞くことを許さないような雰囲気が出ている気がした。
何の話をしても盛り上がらない。すぐに会話が途切れてしまって、もうどうしようもなかった。苦しくて苦しくてたまらなくなる。今の私たちの会話は、前は使われていたこの公園のように寂れてしまった。
「もう、お昼になるし帰ろうか。」
「そうだね。お腹もすいてきたもんね。」
公園から出ても会話はない。これは、昼になり朝に比べると人通りが多くなってきたからだ。だけど、今話をしても上手く話せる自信がなかったから、ちょうどよかったのかもしれない。
いつもの公園に着く頃には、とっくに昼をすぎていてお腹が何度も鳴っていた。
「今日はごめんね。気をつかわせてしまって。」
「いや、私こそ無神経にごめんなさい。」
「そんなことないよ。普通は気になることだからね。」
今回は絶対に私が悪い。彼が話さなかったことを聞いてしまったのだから。
「でも……」
「今度会う時には、普通に戻ってるから。」
私の言葉を遮って彼が言う。私の頭を撫でてくれる。
「それじゃ、また明日ね。」
走って帰っていく彼の後ろ姿を見ながら、私はベンチに腰を下ろす。もっと人の気持ちを考えなければいけないなと思う。帰ってからも、忘れられなくてずっと考えてしまった。
そんな幸せで、悲しい一日が終わる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます