神様のガチャ ─異世界逃げて 超逃げて─

ヒコサカ マヒト

神様のガチャ ─異世界逃げて 超逃げて─

 暗くて狭い場所にいた。とにかく狭くて身動きが取れず、真っ暗なので状況の把握も儘ならない。

 否、身体にも違和感がある。自分の身体なのに思うように動かない、というか、知っている動きにならない、というか。

 総合すると、卵の中で生まれるのを待っている幼体の様な、といえば良いのだろうか。

 しかしならばこそ、自分で生まれ出なければならない。生まれる力のない幼体は卵の中で力尽き、そのまま死に腐る運命にあるのだから。

 気合一発、ただそれだけであっけなく殻を破れた。殻は破れたが相変わらず暗闇の中にいる。先程と異なるのは辺りに9個の光る卵のようなものが浮いていることだろうか。泳ぐ、もしくは飛ぶに近い感覚でその光る卵に近寄り、触れようと何かを伸ばすのだが、触れた途端にその光る卵は自分に吸収されてしまう。

 ……シロワニのようなシステムだった。吸収してしまった光る卵には申し訳ない、と思いつつ、もし此処から出て厳しい環境に放り出されてしまった場合を考えると、残りの卵も同じく吸収してしまった方が良いだろう。


──いただきます


 まだ自我すらないことを祈りつつそうやって残りの光る卵も吸収してしまうと、再び辺りは暗闇だけになった。既に此処が厳しい環境、と言えなくもないが、暑さも寒さも痛みも空腹も感じないのでどういう判定になるのだろう。あまり長い時間を過ごせば退屈で死にたくなるのだろうか?

 考えている内に暗闇の一部が明るくなる。扉が開くように光が差した方へ移動して外界へ出てみれば、


「え、10連引いた筈なのに? 間違えて単発引いた?」


人間の様な存在がいた。

 人間の様な、というのは、主に外見と言動は人間なのだが、妙に神々しい光を纏っているので人間ではない、と自分が判断したからだ。


「ってなんじゃこりゃあああ!!??」


 目の前の人間モドキが何か叫んでいる。RPGでよく見るステータス画面のようなものを見てからの絶叫だったので移動して自分もその画面を覗き込む。


 C スライム(無性)

 R サキュバス/インキュバス(可変性)

 R アルラウネ(雌性)

 R 悪魔(化変性)

 R 天使(両性具有)

 SR ドラゴン(雄性)

 C 魔女(雌性)

 R 化蜘蛛(雌性)

 R オーガ(雄性)

 R 精霊(無性)


 10連ガチャで間違っていなかったが、出てくる前に自分が他の光る卵(ガチャのケースだったらしい)を吸収してしまった結果として自分ひとりだけが出てきた、ということらしい。

 それにしてもR(推定レア)が多いな、これが通常でC(推定コモン)が所謂ハズレなのか?


「お、オマエ、なんてことを……!」

「言われましてもねぇ」

「ヒィっ、もう自我がある!?」


 今更になって気づいたけれどあれか、異世界転生か。

 神様が世界の住民をガチャで引こうとしていたところに自分が転生してきて他の住民を吸収してしまったのか。

 要するに自分はバグとしてこの世界で生きていくのか。

 吸収した、ということはスライムが自分の転生先だったと思われる。よく分からない世界に放り出される前に他の卵を吸収して良かった、スライムで生き残れるのは運の良い人達だけだ。自分にそれが出来るかは分からない、何せこれから生まれる世界は知らないところなので。

 ……それにしても。


「ねぇ、アルラウネって雌性なの? 虫媒花だろ? 両性じゃないの?」

「気にするところそこなの!?」


 C スライム(無性)

 R サキュバス/インキュバス(可変性)

 R アルラウネ(両性具有)

 R 悪魔(化変性)

 R 天使(両性具有)

 SR ドラゴン(雄性)

 C 魔女(雌性)

 R 化蜘蛛(雌性)

 R オーガ(雄性)

 R 精霊(無性)



「あああああああああ!!??」


 神様らしき人がまた絶叫しているのでもう一度、画面を覗いたら一覧が変化していた。自分にはステータス干渉能力があるのか、それともこの場だけだろうか。是非ともこの能力は残存して欲しいところだ。

「あああどうしようこんなバグスライム世界に送り出して大丈夫? いっそ此処で消し飛ばした方が良くない?」

 神様らしき人は頭を抱えているがその発言は自分にとって見過ごせるものではない。どうやらスライム確定なのはさて置き、これから生まれようというのに消されるのは望むところではない。とはいえ対抗手段があるわけでもない。

 さてどうしたものか、と思案していると、神様らしき人の服のポケットから何かはみ出している。


──SSR確定ガチャチケ……?


 ひょい、と触手を伸ばしてガチャチケットをスり、使った直後に現れる先程よりも強く光り輝く卵を丸呑みにする。


「ぎゃあああああああああ!!?? 何てことするんだこのバグスライム!?」


 SSR 半神(独神)


 神様らしき人を真似てステータス画面を出現させれば先程のガチャ結果が表示される。随分なものを取り込めたようなので神様らしき人に向かってニヤリ、と笑う、顔はないので気持ちだけだが。


「何か力を着けてしまったようなので? 消すの勿体なくないですか?」

「どの口が言うこのバグ生物……!!」

「口なんてないんですがねぇ」


 わなわなと拳を震わせる神様()に自分は全身を震わせて見せる。我ながら煽りスキルが高い。


「そんなわけの分からない身でどうする心算だ!? ただ仲間もなく独り寂しく長い生涯を過ごすのか!?」

「自分、人型なら多少の差はあれどそういう対象に出来ますし、適当に相手捕まえて奴隷にでもします」

「ヒェっ、嗜好も倫理感もバグってる!?」


 何を言うか、地球では変態と名高い日本人(※ 個人の意見です)が異世界という無法地帯(※ 個人の意見です)に行ったら多種多様なハーレムを作りたがるのは当然のこと(※ 個人の意見です)。ついでに自分が両性愛者で許容範囲が他の日本人より少しばかり広かったという、ただそれだけのこと。そして色々と取り込んだこの身体なら男も女も誑し込み放題、寧ろ好都合でしかない。


「っ、オマエの様なバグ、勿体なくても消した方が我が世界の為!」

「あ、勿体ないとは思ってるんですね?」

「うるさいっ! とにかく覚悟!!」


 うーん、困った。目の前の神様()は恐らく創造主とかいうやつ。それに対して此方は色々取り込んだとは言え、所詮は生まれたてのスライム。どうやって勝負すれば良いのかすら分からないのに勝つなんて土台無理。ならば、


「勝てない勝負はしない主義なので」


足元に転生先の世界へ繋がる穴を出現させる。下界に逃げてしまえば神様()とて力を振るい難いだろう、何故なら創造主が干渉すればその世界を壊しかねない可能性があるから。


「ちょ、待っぁああああああああああ!?」


 最後まで絶叫の多い神様()だ、そんなことを考えながら自分はうまいこと異世界転生を果たした。



「……まずいまずいまずいあんなバグの究極体が我が世界に降りてしまうなんて我が神生最大の汚点最早勿体ないとかそういう次元じゃない我が世界を護らねば……、取り敢えず封印しよ」



 神様()の報復として、世界に降りたと思ったら直後に出現した難易度バカ高い地下牢ダンジョンの最奥に封印されました。

 所謂ボスじゃん。

 まぁいいや、ダンジョンとして機能しているなら冒険者とか来ると思うし、来る者拒まずでやっていこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神様のガチャ ─異世界逃げて 超逃げて─ ヒコサカ マヒト @domingo-d1212

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る