第52話 高校生と鍋を食べてスパ銭でゆっくりする話
「ただいまー」
「おかえりなさい、由美子さん」
由美子さんとの幸せな週末同棲生活もなれてきて、最近は肌寒くなってきた。私も高校二年の冬、と言うことで学生生活もそれなりにすることはあるので、由美子さんと過ごす日々が癒しだ。この時ばかりは進路や勉学のことは考えたくない。
「あー、温かい。明るい家っていいわねぇ……」
「んふふ。いつでも明るくしますよ。今日は寒いじゃないですか。なのでお鍋ですよ」
「あっらー! いいわね!」
玄関で私に鞄を預けながら表情をゆるめた由美子さんは、私の言葉にワントーンあげた声で反応した。んふふ。可愛い。
手洗いなどをすませた由美子さんはいそいそと席についた。由美子さんのお家は一人用なのでご飯を食べる机もベッドの前にあるくらいの距離感だ。はっきりいって二人で生活するには狭いのだけど、今こうして通い婚してるくらいにはちょうどいいと思う。
机の上には卓上コンロを設置しているのでお鍋の湯気が室内でも見えるのが、実に温かそうだ。まあ普通に室内自体温かくしているけど。
お鍋は豚肉に白菜、ネギ、椎茸、軟骨入りの鳥団子。由美子さんは何でも味が染み込んでいるのが好きなので、じっくりにこんで白菜もネギもくたくただ。我ながら美味しそうだ。
そのままの素朴な味わいでも美味しいし、ポン酢やゴマダレで食べてもいい。白菜がたっぷりなので白米はなしだ。由美子さんの好きなお酒も冷やして準備している。
「はい、由美子さん。お酒です」
「えー、いいのー? こんな至れりつくせりで悪いわね」
「いえいえ。お外での飲酒を控えてもらってますから、週末くらいゆっくりしてください」
「涼子ちゃん……好きっ」
「私も好きですよ」
いつものやり取りをしながらお酒も用意し、さっそく夕食を開始する。熱いのであーん、などとふざけたら普通に怒られるので自重する。
私としては由美子さんとはいつでも熱々でいたいので全然いつでもしたいけど、ゆっくりした気分の時じゃないと渋られるんだよね。由美子さんにお酌しながら私も食べる。白菜と豚肉を一緒に食べると美味しい。由美子さんは白菜ばっかり食べてる。
「んー、美味しいわぁ。このくたくたの白菜にお肉のうまみが染み込んで、最高」
「そう言う割にお肉あんまり食べないですよね」
「しみ込んだ白菜は美味しいけど、豚肉の方は味が抜けちゃってあんまりじゃない?」
「えー、そうですか?」
普通に美味しいと思うけど。お肉自体は普通に好きなのに、煮込み料理のお肉はそんなに好きじゃないのが不思議だ。まあ遠慮なく食べられるからいいけど。
「お団子は好きですよね? さ、ちゃんと軟骨入りなんで食べてください」
「大好きよ、ありがと」
「由美子さん、さっき私に好きだったのに、お団子に大つけるのやめてくださいよ」
「いや、今のは涼子ちゃんによ」
「ほんとですかー?」
「ほんとほんと」
何度も大好きって言われているし、愛してるも死ぬほど浴びてるし、その気持ちを疑うことはもうしないけど。でもなー、由美子さんって意外と言葉が軽いんだよね。調子に乗りやすいと言うか。ちょろいと言うか。
まあ、お団子に嫉妬しても仕方ないから今のはスルーしてあげよう。
「御馳走様。ありがとう、涼子ちゃん。心が生き返ったわ」
「いえいえ、どういたしまして。ところで最近寒くてお疲れの由美子さんに、とってもいいものがあるんですけど」
「ん? ……なにかしら?」
あれ、なんかちょっと警戒されている? おかしい。でも本当にいいものなので私は夕食を食べ終わってお腹を撫でている愛らしい由美子さんの前にそっとチケットを出す。
「これ、ここから徒歩20分くらいのところにあるスーパー銭湯の優待券です。通常料金で岩盤浴とドリンク一杯が無料になる券です」
「えっ! 普通にめっちゃいいものじゃない!」
「はい、普通にめっちゃいいものですよ」
「ご、ごめんなさい。まあいいじゃない。えー、いいわね! 明日行きましょうか」
「あれ、明日ですか? 今日じゃなくて?」
「今日は疲れてるもの」
うーん。ちょっと残念。でもこれからお風呂に行って帰ったら、夜ゆっくりいちゃいちゃできないしいいか。元々由美子さんが疲れているだろうから、と言うほぼ下心なしの提案なのだし、ここは由美子さんに従おう。
ちょっと残ったお鍋は明日うどんを入れて朝食にするとして、片づけを済ませる。
「由美子さん、お風呂はいらないんですか?」
お風呂も沸かしているのに、由美子さんは私が片づけている間にお風呂に入ろうとしなかった。これは私と一緒にはいりたいのかな? とうきうきしながらそっと尋ねる。
由美子さんはぼんやりテレビに流れるニュース番組を見ていた姿勢のまま、ちらっと私を見る。にこっと愛らしく微笑んだ。
「んー。一緒にはいろっか!」
「あら、いいんですか?」
普段は狭いから嫌と断られる。連休だったり昼間からゆっくりしていて四湯の有る機嫌のいい時くらいじゃないと駄目なんだけど、今日はいいのかな? まさかスーパー銭湯効果?
私は隣に座って由美子さんの肩を撫でながら確認をとると、由美子さんはそっと私の手を下ろさせてこーっと笑顔のまま私の手を握る。
「背中流してほしいなーって」
「由美子さん、お疲れですね」
「お疲れです」
なるほど。面倒だから背中を流して体を拭いてとお世話も私任せにしたいらしい。今週は中々返事も返ってこないくらいだったし、ぐっと気温も下がったし、やっぱり由美子さんはお疲れだったらしい。
お世話するのは全然いい。お着換えどころか、まずお風呂場に運ぶところからしたって全然いい。由美子さんのお世話大好き。
「いいですよ。そのかわり、寝るのが遅くなっちゃいますけど」
「うーん。……一人で入るわ」
「残念です」
まあ、もちろん私は元気だし、何なら由美子さんに会えたことで元気いっぱいなので、そんな無防備に身を任せてもらえたら当然、そう言う気にもなる。今日からお泊りなので、由美子さんが疲れているなら金曜日はしないことも多いけど、お風呂に一緒に入るともちろん話は別だ。
と言う訳で由美子さんは一人でお風呂に向かった。私もいただいてから、マッサージをしっかりしてキスだけして寝た。
マッサージを受けた由美子さんの声がちょっとエッチだったので、ちょっとだけ早々に寝ちゃった由美子さんの体を撫でたり抱きしめたりしたけど、明日の楽しみにしてちゃんと我慢した。
○
「あ”~……足が伸ばせるお風呂、さいっこうね……」
「ですねぇ」
翌日、私はてっきり夕方くらいから行くのかと思ったのだけど、まさかの由美子さんは朝の買い物などのタスクを終え、お昼を食べてからさっそく温泉に来ていた。
まだおやつの時間でもないので、まだまだ日は高い。そんな中で温泉に入るのは確かに気持ちよかった。でもそれ以上に、由美子さんの肌がよく見えるのがいいね。もちろん家だって夜だって明かりがあるけど、露天でよく見えるのはいい。屋外独特の健康的なエロさがある。
人気がないので多少いちゃつけるくらいには由美子さんのガードもゆるいのもまたいい。背中を流して肩も揉ませてもらい、由美子さんはすっかり油断している。
家のお風呂は暖色系なので、日光の明るい下で見る由美子さんはとてもきれいだ。油断してぷかぷか浮いてる胸。最高に愛らしい。あー、つっついたら怒られるだろうなー。
「……涼子ちゃん、ちょっと見すぎ。他のお客さんもいるんだから」
「はい、すみません」
そっと顔をよせて小声で注意されてしまった。でもあの、他のお客さんいなかったらセーフってことですか? ちょっとドギマギしてしまうから、言葉には気を付けてほしい。
体も洗って綺麗になり、お風呂でじっくり芯まで温まったところで、ちょっと休憩してから岩盤浴に向かう。
「おっ、由美子さん、なんと二人きりですよ!」
「あら、本当ね。ゆっくりできるわね」
体を拭いて岩盤浴専用の湯着に着替えてコーナー入ると、タイミングがよかったのか岩盤浴コーナーに人はいないみたいだった。分厚く重いドアをくぐると、少しむっとした温かい空間だった。
薄暗く、ヒーリングっぽい音楽が流れている。入ったを真ん中に両サイドに寝転べるスペースがある。左右で岩盤の素材が違って効能が違うらしい。端の方に枕っぽいのがあるので、真ん中に足を向けるんだろう。一人分ずつっぽく小さい木製のしきりがある。
「どっちが先とかはなかったわよね」
「そうだったはずです。どっちからにします?」
「じゃあ右で」
右奥に並んで寝転がってみる。あ、枕も仕切りも動くのか。顔が見える様に仕切りは足元まで移動させ、枕位置を調整、と。
目が合う。にこっと笑ってから由美子さんは無言で上を向いて目を閉じたので、私もじっと仰向けで目を閉じてみる。
入った時にうわっと思うほどの熱気はなかったけど、お湯につかっているのとまた違うような、じわじわとした温かさだ。下の岩盤は固いけど意外と不快感もない。
「……はあ」
気持ちいい。寝湯に似ているけど、寝湯はお湯につかってない部分との落差が気になるのがなくて、全体的に気持ちいい。ゆるーい気持ちいい感じだ。
「由美子さーん、岩盤浴って思ったのとちょっと違いますね」
「あら、初めてなの?」
「え、由美子さんは違うんですか? ひどい。私と言うものがありながら、誰と行ったんですか」
目を開けて隣を見ると、由美子さんは目を閉じたままでこっちを見もしない。
「えー? 家族とか日影だけど」
「むぅ。日影さんと仲良すぎません?」
「なにー、嫉妬ー?」
「はい、そうです」
「爽やかに言うわねぇ」
由美子さんはくすくすと笑う。むう。全然見てくれない。でも岩盤浴を堪能してくれている自体は嬉しいから、仕方ない。
ちょっとだけつまらない気持ちになりつつ、でも私も岩盤浴初体験で結構気持ちいいから、ここは気持ちを切り替えて楽しむことにした。
「……」
「……」
じーっとしてると、お風呂を出てちょっと冷えた体がまた温まってきた。額から汗が流れる感覚があったけど、そんなに熱い気もしない。むしろ心地いい。
頭の上をちょろちょろと水が流れている音と、上から聞こえる木々のざわめきのような音楽が混ざって、目を閉じていると知らない場所にいるみたいな気になる。
自分の呼吸がゆっくりになっていき、薄暗いけど瞼越しに優しく感じていた明かりが少しずつ弱くなっていく。あ、これ、眠くなってきている。と自覚する。
寝てしまうのはあまりよくないらしいから、寝ないようにしないと。一定時間で水分をとるべきだし、そもそもいくら人が限られるとは言え、こんな無防備な格好で寝るのはどうかと。
「……涼子ちゃん? 寝ちゃ駄目だからねー」
「はーい」
由美子さんの声もちょっと眠そうだったので、自戒の為にも声をだしたのかな。とりあえず目を開ける。入った時は暗く感じたのに、目を開けた瞬間明るく感じてしまって眉をしかめながら右腕をあげて自分の手を見る。
「……おぉー。結構すごい汗がでるものなんですね」
自分の腕には玉のような汗、としか言いようのないほどびっしりと汗がういていた。
「最初びっくりするわよねー。完全に汗じゃなくて蒸気が多い空間だし混ざってるらしいけど、気持ちいいわよね」
「そうなんですね」
ちらっと隣を見る。由美子さんは目を閉じたままだった。起き上がって由美子さんをのぞき込む。汗が沢山流れていて、首から鎖骨にかけて見えている部分もどんどん汗が流れてる。
何がどうと説明できないけど、淡い色に照らされている由美子さんはさっきに比べて全然露出がないのに、妙に色っぽくて、全然目も合わないのもなんだか昔の一方的に好きだった頃を思い出して変にドギマギしてしまう。
「……、何見てるの?」
その何とも言えない姿につい見入っていると、ぱっと由美子さんの目が開いた。
「いえ、つい。キスしてもいいですか?」
「いいわけないでしょう」
「まだ誰もいませんよ」
「だーめ。これで我慢しなさい」
言いながら由美子さんはさっと手をのばし、私の手を掴んで握った。ぎゅっと指と指をからめるような恋人つなぎ。お互いの汗がわからないくらい混ざり合う。
その汗ばんでいて熱い手の感触は、そう言う時に触れ合う感触に似ていて、さすがにそんなつもりはなかったのに興奮してきてしまう。
「ゆ、由美子さんぅ」
「甘えても駄目。お家に帰ってから、ね?」
思わず身を寄せて鼻にかかったような声をだしてしまう私に、由美子さんはごつっと頭突きで追い返した。思わず唇を尖らせると、つん、と反対の手で唇をつつかれた。
「……まだ出ないんですかぁ?」
「もうちょっとしたら一回出て、水分補給してもう一回よ」
家まで我慢した私、偉い。
この後、家に帰った由美子さんはすっかり疲れもとれたみたいで、私といっぱい仲良く過ごした。
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