第51話 高校生とコスプレ 由美子視点

 涼子ちゃんはとっても素敵な女の子だ。だけど欠点がないわけではなく、その一つがやたらコスプレが好きなことだと思う。

 成人してるのに制服を着させられた時は家をでないとは言っても恥ずかしくて死にそうだった。それからもどこから用意したのか、ナース服やメイド服まで用意してきた。

 まあ制服で年齢詐称までした私なのだ。涼子ちゃんに頼まれて否とは言えるはずもなく、結局来ましたけどね。

 でもまあ、やられっぱなしと言うのは面白くないわよね?


「と言うわけで、涼子ちゃんにはこれを着てもらうわ」

「えぇぇ……由美子さんの趣味はどうかしてます」

「なんでよ! 私が着るんじゃないわよ!?」

「だからですよ。由美子さんが着るならお似合いでしょうけども!」


 なんでよ。それこそおかしいでしょうが。

 涼子ちゃんが嫌がりつつ似合いそうだし見てみたいコスプレ、と言うことで私が用意したのはゴスロリドレス。黒が基調でロリロリのリボンふりふりで、いかにもといった感じ。でも可愛いし、こう言うのも見てみたい! 自分では絶対着ないけど!

 大学卒業済み社会人の私と違って涼子ちゃんはぴっちぴち(笑)の高校生なのだ。何を着ても青春感でセーフになる年代だ。


「いや、本気で嫌なんですけど」

「何も外に出させるつもりはないし、そもそも散々嫌がる私に着させてきたでしょうが」

「それはほら、なんだかんだ言って由美子さんはノリノリと言いますか」

「シッ! 静かに! さぁ、ぐずぐず言ってないで着替える!」

「えぇ、やり口が強引すぎる……」


 どうせなんだかんだ言って着替えるんだから問題ない。と言う訳で小さい子を着替えさせるかのようにさっさと始めると、涼子ちゃんは呆れつつも素直に着替えさせられてくれた。

 ここで揉めたところで時間の無駄だわ。私は確かに涼子ちゃんの説得を受けてたけど、涼子ちゃんは自分が私にコスプレさせた以上、拒否する権利はない。と言うか、私にさせる時に自分も医者とかしてるでしょう。自分の趣味じゃないのだけ拒否するのは駄目でーす。


「……」

「……な、なんとか言ってくださいよ!」

「いや、可愛すぎない? 芸術品だわ。いえ、これは、国宝!」

「そこまでべた褒めしろと入ってないんですよぉ」


 涼子ちゃんは真っ赤になっているけどちゃんと服が見えるように両腕を肘でまげてグーに握った手をあげてポーズをとってくれている。うーん、かわいすぎか。

 涼子ちゃんのショートカットの綺麗な黒髪の頭にのってるヘッドドレスは、ふりふりの白いフリルが花のように飾り立てていてはっとするほど目を引く。全然実用性を感じないほど広がる袖口にむけて肘からに三重にフリルがあるのも可愛い。見せかけで実際は背中にチャックがあるタイプのワンピースなんだけど、前面にあるリボンの網掛けみたいなデザインも可愛いもちろん生地の合間にはフリルがあるし、広がる裾にかけてあるフリルには等間隔にリボンも合って、裾からちょこちょこリボンがはみ出ているのがシルエット的にも面白い。


 そんな感じでデザインももちろん可愛いけど、実際に涼子ちゃんがきると想像以上に可愛い。ふわっと広がるスカートからでている足の細い感じとか、アンバランスな素足と学生らしいスクールソックスのアンバランスさも愛おしい。指先まで隠れるほど大きい袖口から出ている涼子ちゃんの手は指が長いから違和感なくて、とてもお上品にすら見える。


「だって本当に可愛いんだもの。あー、好き。涼子ちゃんさいこー」

「いえ、まあ、はい。喜んでもらえて嬉しいです」

「じゃ、撮るわね」

「ちょちょちょっ! 写真撮るのは別ですよ!?」


 私がデジタルカメラを構えるとちょっと呆れたように受け入れ気味だった涼子ちゃんは途端に両手で体を隠し始めた。これはこれで可愛いのでまずぱしゃり、と。


「大丈夫よ。流出はさせないから」

「そう言う心配はしてませんけど! どうしてそんな邪悪な発想が出てくるんですか」

「邪悪って、ひどいわね。恋人の可愛らしい姿を記録したい。それが悪いことかしら」


 写真をとるどこが邪悪なのか、と呆れる私に、涼子ちゃんはふむとどこか考えるように顎に手を当ててから、今度は目をキラキラさせはじめる。


「じゃ、じゃあこれから私が撮りたいって言ったら撮らせてくれるんですか?」

「それはその時によるわね」


 それはそれ、これはこれ。私だって最初の制服みたいな年齢詐称でサイズもあってないのは恥ずかしいし制服は無理だけど、メイド服とかスカートも長いただのコスプレなら写真くらいやぶさかではない。でもナース服はスカートが短すぎたし。

 結局服装によるとしか言えない。これはけして私が意地悪だからでも悪い大人だからでもない。女子高生の涼子ちゃんは少々安っぽいコスプレをしても許される幼さと言う武器があるけど、成人した私にはぺらぺらしたコスプレは痛いだけなのだ。いつか涼子ちゃんも自分が老化を感じる身になればわかってくれるだろう。


「ひどい! 由美子さんはずるい大人です! うわーん!」


 だけどいまだ幼い涼子ちゃんには理不尽に感じられたようで、わざとらしく顔を覆いながらぺたんと座り込んで泣き真似を始めた。普段こんなことしないから、めっちゃ可愛い! しかもぶりっこっぽくて格好にも合っていて二重丸!!


「涼子ちゃん、いいわ。そのまま泣き崩れてみて」

「いや、本当に鬼畜みたいなこと言わないでくださいよ。もういいです。でも次はぜっっったい! 写真に残しますからね!」


 写真を撮りながらお願いをすると、指の隙間からめっちゃジト目を向けられてしまった。それから気合を入れて宣言されてしまった。内容によるから、ちゃんといかにも、みたいなのじゃなかったらまあ、恥ずかしいけど写真もいいけど。

 今までは自分が恥ずかしいのと、涼子ちゃんの方はちょっと白衣羽織っただけとか大したことない格好だから写真撮ろうって思わなかったし、涼子ちゃんも言い出さなかったからその発想無かっただけだ。そんな気合入れて宣言されるほど拒否するつもりはないんだけど。まあ、NGの場合もあるからいいわよ、とは言わないでおく。


「じゃあ撮影OKと言うことで、はい、もう一回ポーズとってくれる?」

「わかりましたけど、あと普通に由美子さんが自分の分も用意してないの不満なんですけど」

「大丈夫、私のこれはコスプレよ。ちゃんと役は決まってるから安心して」

「え?」

「その前に、写真だから。はい、小悪魔っぽく笑ってー」

「……どんなですか、もう」

「いい!」


 きょとんとしてから、私の言葉に苦笑するように口元に手を当ててくすっと笑う涼子ちゃん、完璧に可愛い!

 それからも色々ゴスロリ涼子ちゃんらしい、いつもと違う可愛さを探求して写真をとっていった。


 寝転がったり寝転がせたり、段々興が乗ってちょっとはだけさせたりもしたけど、これは健全な範囲なのでセーフ。


「いやー、よかったわ。涼子ちゃん最高。後で厳選して写真送るわね」

「えー、恥ずかしいからいいですよ」

「すっごく可愛くて素敵だったわよ?」

「まあ、由美子さんが楽しんでくれたならいいです。でもあくまで、由美子さん専用ですからね。由美子さんがあとあと、寂しい夜に見るくらいならいいですけど、他の人には絶対見せたり、印刷もしないでくださいよね!」

「見せないけど、印刷も駄目なの?」

「駄目です!」

「えー、残念」


 漏えいのリスクは変わらないと思うけど。まあ、そこまで言うなら仕方ない。このままじゃ小さいから、大きい画面で見れるようデジタルフォトフレームでも買おうかしら。ネットにつながってるスマホにうつすのは流出リスクあるし。


「さて、じゃあ由美子さん、このゴスロリドレスと由美子さんのその服がコスプレって、どういうコンセプトか教えてもらっていいですか?」


 気を取り直した涼子ちゃんはベッドの上にちょこんと座ったまま、小首を傾げて私を見上げた。私は仕上げにその様子もぱしゃっと撮ってから、デジカメを枕元に置いて隣に座る。


「この服、一応普段着じゃなくて買ってきたやつなのよ」

「まあ見覚えのないワンピースですけど。でも普通と言うか、ゴスロリに比べると地味ですよね」


 黒と白のツートンカラーの普通のワンピース。後ろにリボンが一つある。私がつけてもおかしいわけじゃないけど、ちょっと可愛い系だ。


「これはね、ゴスロリに憧れるけどとても自分じゃ身につけられない引っ込み思案な女の子、と、そのうっぷんをぶつける様にゴスロリドレスを着せられている可愛いお人形、のコスプレよ」

「私、人形役だったんですか。なるほど……そんな遠慮しなくても、由美子さんも絶対こういうの似合いますから、着ましょう? ね?」

「いや、あくまで役柄であって、ガチじゃないから」


 コスプレをするときは何だかんだその服にあった役というか、お遊びの一環でちょっとした寸劇のように役をふって楽しんでいる。涼子ちゃんもその為に、明らかに私ほど力はいれてないものの自分用のコスプレも用意していたので、私もちゃんと合わせて考えておいたのだ。

 私自身がコスプレしたい欲は一切ない。ただ涼子ちゃんには似合うと思ったし着せたい。それでいて私は普段にも使えるもので何か合わせられるものが無いかと考えた結果だ。


「えー、ほんとですかー?」

「本当だから、私にゴスロリドレス買ってきても着ないからね?」

「うーん。まあそこまで言うなら。でも、その設定でどうやってえっちな展開に持っていくんですか?」

「ちょ、ちょっと。表現に気を付けてよ」


 にやにやしながら聞かれたけど、表現が直球すぎでしょ! 確かにね? 実際これまで毎回そう言うことしてきました。今回だってその気でしたよ。でもそんな、言い方。そう言う風に言ったらコスプレごっこからじゃなくて、普通にそう言うプレイになっちゃうじゃない。


「えー、そう言うつもりじゃなかったんですか?」

「そ、そう言う訳じゃないけど。話の持って行き方なんていくらでもあるでしょ」

「いや、ガチなんですか。ちょっと難しくないです? 無機物プレイとか」


 涼子ちゃんはちょっと呆れた感じに眉を寄せて考え込むけど、頭が固すぎるでしょ! お人形役って言ったからって無機物プレイって何!? 内容が全然想像つかない。


「馬鹿。もう。普通に考えたらわかるでしょ、こう、毎日話しかけてたら命が宿る的なことよ」

「あ、なるほど。さすが由美子さん。由美子さんらしいメルヘンなストーリーラインですね」

「ねえ、言い方。ほんとに私の事好き?」

「もちろん。由美子さんのこと、好きですよ。好きだから、こうしてお話できるようになったんですよ?」


 あら! 自然に入ってきてくれたわね! うんうん。涼子ちゃんほんと肌も綺麗だから、作り物っていわれても納得しちゃうくらいだものね。


「ね、呼び方、由美子にしましょ。お人形の涼子ちゃんが敬語使うのは不自然だもの」

「んー、そうかな? そうかも。じゃあ由美子ちゃん、由美子ちゃんが毎日私にお話ししてくれるから、私、お喋りできるようになったんだよ!」


 あ、可愛い!!!


 私はノリノリで役になり切ってくれる涼子ちゃんの可愛さにメロメロになって、楽しい一日を過ごすのだった。

 こうして、涼子ちゃんの趣味で始めたコスプレだけど、私の趣味にもなって私と涼子ちゃんのいちゃらぶ生活の礎の一つになるのだった。


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