第50話 小学生とお花見 由美子視点

「由美子お姉さん、お花見しましょうよ!」

「お花見、いいわね!」


 と言うことでお花見をすることになった。涼子ちゃんが告白してくれて両思いになって、恋人ではないけど二人で過ごすようになった次の春。

 お花見デートだ。涼子ちゃんと一緒に過ごすに否はないし、ただ一緒にいるのにマンネリも感じなくもないのでこういった季節イベントは大歓迎だ。


「お花見と言えばお弁当ですよね。今回は私、作りますよ!」

「え、作れるの?」

「はい。由美子お姉さんがお弁当作ってくれるのが嬉しくて。いつかお返ししたいなって思って、練習してました」


 やだ、可愛い。健気。好き。きゅん、としたし、ついでに最初にお弁当作った時は秋の遠足デートで改めて告白されてきゅんきゅんしたなーと思いだし胸きゅんしてしまった。私ってちょろいかもしれない。


 と言う訳で春、週末。私たちはお花見をすることにした。考えてみれば涼子ちゃんが告白してきてくれたのも春だ。あと二か月もすれば涼子ちゃんと出会って一年。と言うか、そう言えば涼子ちゃんの誕生日もその手前にあるし、イベントもりだくさんよね。

 涼子ちゃんももうすぐ五年生……もう一年のような、まだ一年のような。まあ、仕方ないか。今を楽しむしかないわよね。


 と言う訳で私は全力でお花見を楽しむことにした。


 お花見って改めてすることあんまりないし普通に楽しみ。子供の頃は親とかとした記憶がかすかにあるけど、ある程度成長してからはないし、友達ともちょっと帰り道に見るくらいだったし。


「由美子お姉さん、お待たせしました」


 週末、迎えに来てくれた涼子ちゃんはスポーティな格好で大き目のリュックを背負っている。似合ってて可愛い。きゅんとする、とは思うと同時に、多分これ好きになる前だと遠足に行く小学生じゃーんと思っていただろう見た目だ。

 確実に涼子ちゃん限定でなんでもありなくらい好きになってしまっている。小学生だけど普通に惚れてる。ううーん。毒されてると言うべきか。いや、今更気持ちを否定する気ないけど、それはそれとしてがっつり小学生にときめくのってどうなのって気はするよね。

 私はロリコンじゃない。ただ涼子ちゃんが好きで、涼子ちゃんが小学生なだけだ。


「由美子お姉さん、はぐれないよう手を繋ぎましょうね」

「そうね」


 まだ家の前なので当然はぐれるわけないけど、桜の名所の公園はいっつも混んでるしね。だから仕方ない。恋人じゃなくても手くらい繋ぐ。


「お、おー。思ったより人すごいですね」

「そうね。混んでるなーって横目で通り過ぎることが多いけど、中に入るとすごいわね」


 やばいくらい混んでいた。本当に手を繋いでいないとすぐはぐれちゃうレベル。これ幸いと涼子ちゃんと腕を組めたのはいいけど、これじゃあレジャーシートを広げるスペースもない。


「うーん。場所がないわねぇ」

「す、すみません。私が前日から泊まり込めばよかったですね」

「なんでよ、逆、でも危ないし、そんなことありえないでしょ。桜の下は混んでるけど、あっちの方ならちょっとくらいスペースありそうよ」


 小学生を泊まり込みなんてありえない、逆、と言いかけたけど冷静に考えたら私だって女子高生だ。夜はまだ冷える公園に一人で泊まり込むとか怖すぎて絶対無理。そもそも親も許さない。

 私は涼子ちゃんの腕を引っ張るようにして奥へすすむ。桜並木の向こう側、敷物に座ってすぐ上に桜がくるスペースは埋まっているけど、通り道が一本通った向こう側、川辺の柵の前なら少し余裕がある。

 家族連れが多いからちょっと場違いかもだけど、別に私たちは恋人じゃないし、ごく普通に健全にお花見に来たのだ。桜エリアは企業とか大学生とか大人の集まりが多いのかお酒の匂いもちょっとするし、こっちの方がいいでしょ。


「えー、こっちだと桜から遠くないですか?」

「5メートルくらいだし普通に見えるでしょ。見えない?」

「見えますけど、なんていうか……私のエスコート不足と言いますか」

「なんでよ。私は涼子ちゃんが誘ってくれたから桜並木を通って綺麗な景色を楽しめたし、涼子ちゃんのお弁当と言うメインイベントもすっごく楽しみにしてるんだけど?」

「……えへへ。由美子お姉さん、大好きです」

「私も好きよ。さ、場所をとりましょうか」


 ちょっと恥ずかしいけど騒がしいし、水音もあるし大丈夫でしょ。私たちは家族連れからちょっと離れた端っこを陣取る。さらに桜から離れたと涼子ちゃんは唇を尖らせたけど、そんなところが年相応に子供っぽくて可愛い。


「見て、涼子ちゃん。川に桜の花びらが流れてるわ」

「ん? ああ、確かに。綺麗ですね」


 レジャーシートを敷いて座ろうと荷物を下した拍子に柵の向こうが見えた。涼子ちゃんを引き寄せてそれを見せるとようやく涼子ちゃんは表情を緩めてくれた。


「そうね。こっちに座らなきゃわからなかったわ。そうじゃない?」

「……由美子お姉さんって本当に、素敵ですね」


 頭を撫でて慰めると、涼子ちゃんはぽっと頬を染めて私を見上げた。その好意にぬれた目は、ぞくぞくするほど気分がいい。あー、もう桜とかどうでもよくない? 一生見つめ合っていたい。ううん。うそうそ。

 私は肩に添えていた手に力を入れて抱きしめたくなる衝動をこらえ、手を離しシートに向かう。


「そんなに言われると照れるけど。さ、涼子ちゃんの努力の結果、見せてくれる?」

「はい!」


 涼子ちゃんはにこにこ笑顔でお弁当をひろげてくれる。


「あら! 炊き込みご飯じゃない!」

「由美子お姉さん好きですよね。もちろん海苔は別添えですよ」

「涼子ちゃん、さすが、わかってるわね」


 ずっとついていてへにゃへにゃの海苔も悪くないけど、やっぱりパリパリの海苔が一番よね。


「と言うか、可愛いわね」


 ラップに包まれたお握りは何と炊き込みご飯。茶色いご飯が食欲をそそる。それだけではなく、その横にある卵焼き、斜めに切ってハートにして入れてある。その脇のプチトマトは半分に切って星形のチーズがのってる。ウインナーなんてすごい向日葵みたいになってる。ハンバーグも上にハートのチーズがのってる。


「美味しそうなだけじゃなくて可愛さにもこだわってて、すごいわね」

「えへへ。そう思ってもらいたくて頑張りました。早く食べて見てください」

「はーい。じゃあさっそく炊き込みご飯からもらうわね。いただきます」

「はいっ」


 小分け海苔を開けてからお握りを手に取り、一口分巻いて早速一口。ぱりっと味付けのりと素朴な炊き込みご飯の味わい。美味しい。ちょっと薄めの味付けなのが、おかずとも合いそうだし単品でもいけそうだしちょうどいいわね。


「とっても美味しいわ」

「ほんとですか!?」

「嘘なんて言っても仕方ないでしょ」

「えへへ。よかったです。普段あんまり炊き込みご飯食べないので、由美子お姉さんのお家の味を目指した甲斐がありました」


 きゅん! 好き! はぁ、いけないいけない。危なかったわ。ここは外なんだから、あんまり気軽に触れ合うべきじゃないわよね。お弁当の続きだ。卵焼き、人切れとると可愛さはなくなるけど、半分に切られてるから一口サイズで食べやすいわね。


「んっ」

「ど、どうしました!?」

「いえ、ちょっと殻が」

「えっ、ちゃんととったつもりだったんですけど、すみません! 私、どうしても卵を割るのが苦手で」


 がりっとしたので思わず大げさに顔をしかめてしまった。慌てる涼子ちゃん可愛い。膝立ちになってわたわたしてる。私はお箸をおいてどうどうと手で涼子ちゃんを制しながら飲み込む。


「大丈夫よ。よくあるミスだし、殻にも栄養あるもの」

「そ、そうなんですか?」

「そうそう。なれてても殻がはいることはあるし。むしろ可愛いミスだわ。好感度10ポイントアップよ」

「え、えへへ……あの、由美子お姉さん、食べさせてもいいですか?」

「え。だ、駄目よ」


 心は揺らいだけど、こんな衆目のあるところで恋人でもないのにするわけない。全く、涼子ちゃんと来たら大胆にもほどがあるわ。


「えー、いいじゃないです。由美子お姉さんを慕う、小学生からのささやかで可愛いお願いじゃないですか」

「もう、黙りなさい。ほら、あーん」

「え、あ、あーん」


 にやにや顔を近づけてくる涼子ちゃんの口に唐揚げをいれて黙らせた。小学生にあーんしてあげるならともかく、あーんさせてもらう高校生はおかしいでしょうが。全く。


 私は自分も食べつつ、涼子ちゃんをアーンで黙らせた。結局、桜より涼子ちゃんのちょっと照れつつ嬉しそうな顔ばかり見ていた気もするけど、幸せなデートだったのでよしとする。

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