第49話 幼馴染の結婚式 日影視点
私の幼馴染の山口由美子が結婚する。ゆみちーと子供の時から読んでいたけど、さすがに大人になると恥ずかしいので由美って呼ぶようになった。
だけど今日だけは、由美子さんと呼んでもいい。そのくらい、彼女は綺麗だった。
今日は結婚式当日だ。相手は女の子なのでまだ法的にどうこうってことじゃないけど、その決意表明と言うことで式を挙げるのだ。まあゆみちーがしたがったんだろうけど。あの子いい年していつまでも夢見がちなとこあるしね。
今時男女カップルでも結婚式しない人も珍しくない。こんなお金かけて周りに結婚しますアピールとか盛大な惚気でしょ。
さすがエリート公務員様金持ち乙。と思ってたけど、こうしてゆみちーのドレスアップした姿を見るとさすがに、ううん。私にも乙女心とかあるんだな。ってくらいにはぐっと来たと言うか、心動かされた。
歓談タイムになったところでさっそくお祝いの言葉を言いに行く。もちろん事前にも伝えていたけど、やっぱり今のこの気持ちはライブだよね!
「由美子さん、本当におめでとう。すっごく綺麗だよ!」
「日影、ありがとう! でもなによ由美子さんって。ちょっと、笑わせるつもり?」
「えぇー? 私なりにゆみちーに敬意を表したんだけど」
おっと。普通にゆみちーと言ってしまった。何だかんだ二人きりだと言ってしまうから癖が抜けてないんだよね。お恥ずかしい。
「そ? ならいいけど。まあ、ありがとう。涼子ちゃんとこうして無事結ばれたのも、日影のおかげ……と言える要素も少しはあると思ってるわ」
すごい遠回りな言い方だ。こんな場なのだから大げさに、私のおかげと言いきっちゃっていいと思うんだけど。
私のおかげと思わなくもないけど、何だかんだ自分と涼子ちゃんの二人なら運命的にうまくいったはず、と思ってるんだろう。惚気がひどいし、それでいてリップサービスを気軽にしないところ相変わらずクソ真面目で不器用と言うか。うーん。ひどい。
そもそも頭が固いんだよね。よくこれとずっと付き合って結婚しようと思うものだ。友達としては暴走するところも面白いけどさ。
「それはどうも。涼子ちゃんもおめでとう。由美とお幸せに」
「ありがとうございます。必ず由美子さんを幸せにしますから」
「頑張ってね」
なんだか身内みたいになってしまった。まあ何だかんだ二人とも付き合い長いしね。ゆみちーが涼子ちゃんに告白するところを目撃した記憶は今も、だいぶぼんやりしてるけど覚えてはいる。あの頭二つ近く小っちゃかった涼子ちゃんがまさかこうなるとはね。
涼子ちゃんはちゃん付けしていいのかな? と思うくらいにはしっかりした大人で、23歳と思えないくらいだ。お顔もなかなか涼しげでいい顔しているし、何度か顔を合わせているけど度量もひろくていつも卒なく対応してくれて、これはモテそうと言う感じだ。
それが分かりやすくゆみちーにずっとメロメロである。たしか善行を目撃されたのがきっかけとか言ってたな。まあ、情けは人の為ならずってことだよね。
挨拶もしたので席に戻る。さすがにそんな大げさな式ではない。二人のご両親とそれぞれの友人が片手くらいの規模だ。教会でもないし、雰囲気のいい海の見える会場で好きなだけお披露目するのにぴったりな感じだ。
披露宴の流れはゆみちーに自慢気に事前に教えてもらってるけど、いやそこまでする人いる? ってくらいやりたい放題詰め込まれている。
挙式みたいに会場は変えなかったもののみんなの前で結婚報告して指輪交換、誓いのキス、あと家族への手紙とかまあ標準装備でいいけどさ。
このあとケーキ入刀、ファーストバイト、キャンドルサービスに、お色直しは二回だし、それぞれ写真をとるフォトラウンドやベランダにでてシャボン玉を飛ばしながらとかバルーンも色々用意しての撮影だの、ブーケトスして最後はフラワーシャワーで退場って。一生に一回と思ってめっちゃ詰め込むよね。時代が時代ならゴンドラにのってるタイプ。
ついでに言えばケーキもカラードリップケーキで目の前でソースをかけて完成とか、細々としたことまでいちいちお金かけてるよね。まあご飯もかなりレベル高いし、正直ケーキ楽しみだけど。
「……幸せそうだなぁ」
他の友人たちにも祝われて嬉しそうに笑顔を絶やさないゆみちー。ずっと結婚したがってたもんね。よかったねぇ。と純粋に私も嬉しくなる。
でも同時にちょっとだけ、寂しい気になる。ゆみちーにはずっと涼子ちゃんがいる。でも私は結局、この年になっても一緒にいてくれる人はいない。
一緒にいてほしい人ならいる。ずっと前から。でもその人は、私のことを好きにならない。
「涼子ちゃん、すごい綺麗だね! 由美子さんも、あ、すみません、勝手に名前で呼んじゃって。前から話を聞いてたのでつい。由美子さんもお綺麗ですね!」
涼子ちゃんの友達、めっちゃはしゃいでるな。年齢的にこういう場が初めてでもおかしくないもんなぁ。23歳かー。若いなー。
私らが29で出会ったのが16ん時だから当時10歳から、うわ、人生の半分以上付き合ってるのか。もう普通にベテラン夫婦でおかしくないのに、いつでも今が絶頂期と言わんばかりのアツアツっぷりだよね。すごいなぁ。今も初対面の涼子ちゃん友達相手にもはしゃいでるし。若いなー。
「日影ちゃん」
「あっ、真弓さん。ご無沙汰してます」
「ふふ。この間もあったじゃない」
「もう三か月も前ですよ」
そうだったかしら、と微笑むのはゆみちーの母親だ。子供の頃はいわれるままおばさんと呼んでいたけど、ずっと違和感があった。だって私にとって真弓さんは、いつも一番美人で、輝いて見えたから。
成人したのをきっかけに強引に名前で呼ばせてもらうことにはした。それからも偶然を装ったり、時にはゆみちーがいなくて寂しいだろうしなんて理由をつけて、できるだだけ会う機会はつくってきた。だけどいまだに、私のことは子供の幼馴染でしかない。
当たり前だってわかってる。それこそ、いくつ年の差があるって話だし。旦那さんはだいぶ前に亡くなってるけどすごい仲良かったしね。それでも、相手がいないこと、再婚する様子がないこと、ずっと、期待が消えなかった。
でも、もういい加減諦めるべきなのかな。ゆみちーの結婚には普通に賛成みたいだし、偏見とか抵抗はなさそうだけど、だからってじゃあ同性がありで、まして私が選ばれるって話じゃあないからね。
ゆみちーを見てると本当に幸せそうで、好きな人に思われるのっていいなぁって思う。こんな不毛な思いは、いい加減見切りをつけるべきなんだろう。
「そうだったかしら。今日は、由美子の為にありがとう。と言うか、いつも相手をしてくれてありがとうね」
「いえいえ。幼馴染ですからね」
いつもと言うほどではないけど、ゆみちーは私が無限にのろけを聞いてくれる装置とでも思っているのか定期的に電話をしている。面白いし、別に真弓さんのこと抜きにしてもゆみちーは幼馴染で腐れ縁、普通に幸せそうだと嬉しい。ゆみちーは文句を言うだろうけど、手のかかる妹みたいに思ってるとこあるしね。
「そう? それならいいけど」
「はい。気にしないでください。それより真弓さん、その服似合いますね」
「ありがと。でも、買った時にも言ってくれたじゃない。そう何度もリップサービスしてくれなくてもいいわよ」
真弓さんはゆみちーの結婚式の為、フォーマル服を新調している。たまたまそれを知れたので是非にとご一緒させてもらった。実質デートだしあの時は楽しかった。
まあお礼と言って喫茶店でケーキ奢ってもらっちゃったし普通に子供扱いだったし、若い世代の人から見ても恥ずかしくないようにって理由があるけど。でも色々試着する真弓さん綺麗でよかった。
「まあ、見るたびに思うくらい綺麗と言うことで」
「全く……いつまでもおばさんと遊んでないで、日影ちゃんは相手、いないの?」
「いやー、なかなかですねー」
私の母親よりちょっと下だけど、真弓さんは十分おばさんだ。私だってすでにおばさんになってもおかしくないくらいの年なんだから当たり前だ。
それでも今も、私の目には真弓さんが一番に綺麗にうつっている。こんなにも眼中にないのに。どうしたら諦められるんだろう。
「ふーん? ならいいけどね。本当に暇なら、いつでも遊びにきなさい。別に理由なんかつけなくてもいいわよ」
「えっ」
その予想外の言葉に、私はぱっと真弓さんを振り向いた。直球のアプローチをしたことはない。だからどんなに押しかけても、積極的に声をかけても、子供の友達だからと気付かれていないだろうと。そう思っていたのに。わざと理由をつけてるって、気づかれてた?
真弓さんは私と目があうと、どこか意味深に軽く微笑んだ。どきっと、心臓が騒ぎ出す。期待しても無駄だ。最近はそう自分に言い聞かせていたのに。
「なに?」
「いえ、その……じゃあ、今度、駅前のケーキ持っていくんで、お茶、しません?」
「いいわよ」
「! はい」
これはもしかして、諦めなくていいのでは? と言うか、こんなの諦めるの無理でしょ!
私はその後ずっと笑顔だったし、テンションもあがってしまってゆみちーの結婚をめちゃくちゃ祝ってるみたいになってしまった。
いや実際にイベントてんこもりでめっちゃいい式だったし楽しかったけどさ。
お色直しでそれぞれ交代でタキシード切るのは予想外だったわ。どっちがどっちじゃなくて相手のどんな面でも好きなんだろうなって思えたし、ほんと、ちょっと派手だったけどいい式だった。羨ましくなるくらいに。
まあ、そのせいでゆみちーから私の事好きすぎ。と誤解されてしまったけど。別にそれも嘘じゃないけど、写真も映像にも残ってしまったのはちょっと失敗。でも仕方ないでしょ、私だって二十年以上片思いだったんだし。
こうしてゆみちーの結婚は無事終わり、私の新しい関係も始まるのだった。
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