追加番外編 時系列ばらばら

第48話 最高に幸せな結婚式 涼子視点

 由美子さんとの結婚式がついにやってきた。私は式自体はべつになくてもいいけど由美子さんが楽しいなら好きなだけやればいい。と思っていたけど、由美子さんが色んなウエディングドレスを試着するとどれも綺麗で甲乙つけがたいし、キラキラした目で子供みたいにはしゃいでる由美子さんが可愛くて可愛くて、いつの間にか私も楽しみで仕方なかった。


 私がドレスを着てみんなに見られるのはちょっと恥ずかしいけど、でもみんなが笑顔で私と由美子さんを祝福してくれるのは、気恥ずかしいけどとっても嬉しいことだった。

 社会人になって二年目。まだまだ世間じゃ若輩者の私だけど、由美子さんのことはずいぶん待たせてしまった。

 もちろん、正式に籍をいれられるわけじゃない。かなり昔からパートナー制度みたいなのはあるのに、法律はおかたくてなかなか変わらないみたいだ。


「涼子ちゃん、タキシードも似合うじゃーん! よっ、イケメン!」

「それ褒めてる?」

「褒めてる褒めてる! 写真撮るよー! 由美子さんもっと涼子ちゃんに寄ってくださーい」

「はーい」


 由美子さんが色々考えて希望を可能な限り叶えたつもりだ。タキシード、正直自分ではあんまり似合ってない気もする。ドレスならともかく、ちょっと着られてる感ある気がする。

 でも由美子さんは可愛いって褒めてくれたし、まあみんなも盛り上がってるみたいだからいいかな。と言うか、自分でもちょっと自覚してるけど、だいぶテンションが上がっている。


「由美子さん、綺麗ですよ」

「もう、それ何回目よ。みんないるのにそんなに言ってくれなくても大丈夫よ?」

「みんなとか関係なく、言いたくなるんですもん」


 席に戻ってみんなが離れたタイミングで心からの気持ちを口にすると苦笑された。さすがに友人や身内を目の前には言いにくいけど、ちょっとくらいは構わないだろう。だって本当に、何度見ても感動してしまうくらい素敵なんだから。


 最初の白いウエディングドレスはふわっとしたシルエットが可愛らしい雰囲気で、天使と見まがうような美しさだった。いつまでも見ていたいくらい見とれちゃうものだった。

 でも今のカラードレスもいい。青系のカラーでマーメイドのきゅっとしたラインがどうしようもなく色っぽくて、今すぐ抱きしめたくなるくらい綺麗だ。


 本当なら誰にも見せたくないくらいだけど、こうしてみんなに見せつけてるのも、思った以上に気分がいい。世界で一番自分が幸せ者だと宣言してるみたいな気持ちよさだ。

 いつもこそこそしているわけじゃないけど、堂々と人前で関係を明らかにするのはこんな気分なのか。


 写真タイムを終えて、次のお色直しの前にちょっと休憩を兼ねてケーキタイムだ。そのケーキもすごいよかった。オレンジソースをかけて完成する由美子さんはすごい絵になったし、食べさせあうのもよかった。

 二人きりならしてるけど、人前ですることはないし、なによりこんなに綺麗で幸せそうな由美子さんの顔を至近距離で堂々と見れるのが楽しくて仕方ない。


「よ! 待ってました! ゆみちー男前!」

「普通に褒めなさいよ」

「我が儘だなぁ」


 幼馴染みの日影さんとじゃれあう由美子さんは今度はタキシード姿だ。もう見てるけど、それでも改めて見て、かっこいい! 似合う! 好き! とときめいてしまう。

 由美子さんは可愛いし美人とばかり思ってたけど、意外と男装も似合うなんて。正直に言うとドキドキするくらい様になってる。


「由美子さん、話には聞いていたけど、素敵ね。どれもよく似合ってるわよ」

「あ、ありがとうございます、お義母さん」


 母がわくわくした目で近寄ってきた。タキシードの話をした時から楽しそうにしていたけど、やはり由美子さんのタキシード姿は母の好みだったらしい。

 父が男らしい見た目で寡黙で静かなタイプな割に、母は宝塚とかジャニーズとか線の細い男性アイドル系が好きだからなぁ。男装好きなんだろう。

 それはいいけど、先にした私のタキシードよりはしゃいでいるのはどうなの? いやまあ、あんまり私にはしゃがれても複雑だけど。


「お母さん、さっきから写真撮ってばっかりだけどちゃんと食べてる?」

「食べてるわよー、お父さんが」


 最初は大人しくしていたけど、写真が解禁されるごとに母のテンションがあがっていったのが見てわかって心配していたけど、私の友達と同じノリで写真撮りまくるじゃん。いや、いいんだけど。写真の腕前は確かだしありがたいけど。

 ちらっと見ると父が席で黙々と食べてる。いや、無駄にしないでって言う意味ではないのだけど。まあ、いいけど。父が母と同じようにはしゃぎだしても怖いし。



「そんなことより写真、良い感じよ。さ、一緒の写真もとりましょう」

「はい。ごめん、日影、写真お願いしていい?」

「もちろん。その次は私たちね」


 母と一緒に三人でも写真をとる。うちの母が写真が好きででしゃばりがちで、こっちばかり写真撮ってないかとちょっと心配になったけど、日影さんが由美子さんのお母さんも連れてきてくれるからちょうどいいくらいだ。

 よかったよかった。由美子さんのお母さん、由美子さんに似てあっさりしてると言うか、遠慮がちなところあるみたいなんだよね。


 こういう場では同じくらいに扱わないと、後々禍根になったら嫌だからね。そう思いながら、ちらっと隣の由美子さんを見る。


「お義母さん、もっと近づいて、と言うかタキシードとか好きならこういうポーズどうです?」

「きゃっ、素敵ね。ありがとっ。素敵な娘を持ててラッキーだわ」


 母はともかく、楽しそうにしてくれている。なんかすごいノリノリで手を差し出してエスコートするみたいな格好してるの複雑だけど、由美子さんが楽しいならいいよね!


 こうして約半日たっぷり時間をかけて、私と由美子さんの結婚式が行われた。

 気を遣うところもないではなかったけど、何より由美子さんが素敵で、由美子さんが幸せそうで、由美子さんと結婚して、これからずっと彼女を幸せにするんだと思ったら私まで幸せになる、最高の結婚式だった。









「はー、さいっこうだったわね! もう毎日結婚式していたいわ!」


 去年から二人で住んでる家に帰ってきた由美子さんは終わりごろに軽くコップ半分飲んだのもあり、ほろ酔い気分でそう家に帰るなり拳をあげて言った。

 私も最高の一日だったとは思ってるけど、毎日はちょっと。ずっとテンションの高い由美子さんにさすがに苦笑してしまう。


「いやいや、嫌ですよ、そんなの」

「えー、どうして? 涼子ちゃんのドレスだってこれで見納めとか、はー、楽しかっただけに、残念」

「まあ、それはありますけど。どうせなら買い取ればよかったですね」


 そうすれば今も由美子さんはドレスを着ているわけで、なんならこの後ベッドに連れ込めるのに。とは思うけれど。でもまあ、疲れているし化粧や髪のセットもがちがちだ。風呂に入ってちゃんと体を休めた状態で寝た方がいいだろう。


「もう、そんなことしても着る機会ないでしょ。無駄なお金だわ」


 でも買い取ってれば明日だって、とちょっと未練が漏れたのだけど、由美子さんはそんなことは思いつかないのか、めちゃくちゃ現実的にぶったぎってくれる、

 毎日結婚式とか言ってた人の次のセリフかこれが。軽く酔っていてもそこは現実的なの、頼りになるなぁ。由美子さん最高。そう言うとこも好き。


「ふふ、そうですね。でも結婚式毎日するのも同じじゃないですか?」

「同じじゃないわよ。式はするたびに楽しめるんだから」

「はいはい。でもだとしたら、ずっと新婚生活始まらないじゃないですか。そんなのいやですよ」

「えっ、い、言われてみれば? なるほどね。さすが涼子ちゃん、目の付け所が違うわね」

「お褒めいただき恐悦至極」


 頭を撫でて褒めてくれた。子供じゃないんだから、と思うけど、今日は色々思い出したりしてしまって、何だか素直に嬉しく感じてしまった。


「さーて……面倒だけどお風呂はいりましょうか」

「そうですね。お背中ながしましょうか? お酒はいってますし」

「入ってるって、さすがにあれだけの量でそんなに酔ってないわよ」


 多少は酔っている自覚があるらしい。まあ、酔う前の方がなんならハイテンションだったけど。

 まあ由美子さんは最初こそお酒で失敗しているけど、さすがにこれまで何度も飲んできて調整を覚えてきている。私もだいたい適量をわかっているので、カクテルをコップ半分でおぼつかなくなることもないだろう。


 仕方ないので順番にお風呂にはいる。私も一日はしゃいだ自覚があるし、結構疲れているしね。お風呂くらいはちょっとゆっくりして疲れをとりたい気持ちがあったので仕方ない。


「お待たせしましたー。って、あれ? 何飲んでるんですか」


 先にあがった由美子さんに、寝ないでくださいよと釘をさしておいたからかベッドに行かずにソファに座って待っていてくれたのは良いのだけど、アルコールの缶が置いてある。


「んー? お酒。飲む?」

「飲みますけど、飲むなら飲むで、今日くらい待っていてくれてもよくないですか?」


 そもそも普段から由美子さん一人で飲ませないようにしている。私は飲んだり飲まなかったりだけど、一人にするのは心配だし。だから飲みだしているのは普段なら珍しくないけど、今日は私だって飲みたい気分なのに。


「えー? ごめんなさい。だって、まだこの夢を終わらせたくない気分だったんだもの」

「由美子さん……」


 ちょっと何言ってるのかわからないけどシリアスな雰囲気を出されたので、申告層に相槌を打ちながら隣に座り、私の分のコップに缶の残りをいれた。ちょっとぬるくなっているけど、甘くておいしい。


「ちょっと、涼子ちゃん聞いてるの?」

「聞いてますよ。夢から覚めたくないんですね。でもう今、夢じゃなくて現実ですから」

「夢みたいに楽しかったってことなの。もう。涼子ちゃんって、夢が無いわよね」


 まあ言いたいことはわかるけど。でも私に言わせてもらえば、楽しい結婚式だった今日一日を指して夢だなんて、由美子さんはまだまだ私に夢中になってくれてないなって思う。


「そんなことないですよ。それを言うなら、私は由美子さんと居られるならいつだって夢を見ているみたいなものですから」


 これはいつもそうだ。今までだって何度か、実は夢だった、なんて絶望的な夢を見たこともある。由美子さんが私を愛してくれているその現実そのものが、私にとってはずっと夢が叶い続けている状態なんだから。

 だからこれ以上に求めることなんてない。


「う。涼子ちゃんはほんと、ずるいわ」


 私の言葉に由美子さんは照れながら視線をそらした。ああ、なんて可愛いんだろう。


「ふふ。ずるくてもいいです。それより由美子さん、夢のような結婚式は終わっても、夢のように楽しい結婚式当日はまだ終わってませんよ」

「ん? ええそうね。だから名残惜しいんじゃない}

「だから、今から初夜なんですから、そんなに寂しそうな顔しないでくださいよ」

「え? するの?」

「しますよ、当然じゃないですか」

「えー。疲れてるんだけど」

「ええ!? しない選択肢あります!? 初夜ですよ!?」

「お、大きい声ださないでよ。初夜も何も、結婚を決めてから何回初夜って言ってやったと思ってるのよ」


 いやまあ、婚約初夜とか、指輪を買ったし実質正式だから初夜とか、色々名目つけて初夜にかこつけたりしましたけど。でも法的にはともかく、式を挙げたんですから今日こそ本当の初夜なのは間違いない。なのにやらないって。

 体の負担を考えてお風呂は遠慮したのに、それが誤解されてしまったのかな。


「今日を思って昨日は我慢しましたのに」

「前日にするわけないでしょ。一昨日も結婚式直前の初夜とか言ってたじゃない。と言うか、正式には初夜って結婚してから初めてする日のことらしいから、当日じゃなくても大丈夫よ」


 はい、と手元のスマホで検索してウィキを見せられたけど、そんなのはどうでもいい! 私の心の初夜は今日なのに!

 私は由美子さんのスマホをとりあげて机に置いて、そっとその手を取って身を寄せながら目を伏せる。


「そんな……私、今日、由美子さんの魅力的なドレス姿を見て、ずっとドキドキしてたのに」

「それは私もだけど……前に試着した夜にしたから十分でしょ」


 あれ、強情だな。私は体をくっつけたまま、もう片方の手を由美子さんの体に回してそっと腰を撫でながら、正面からじっと見つめる。


「十分じゃないです。正式に由美子さんと結婚して、私の由美子さんを抱くの、ずっと楽しみにしてたんですよ」

「……いや、ほんとに疲れて……うー。いや、ほんとに、ちょっとだけにしてよ? 明日休みって言っても、日付変わる前には寝たいんだから」


 私のお願いに由美子さんは一瞬無下にしそうになったけど、抱き寄せるようにして隙間にいれた手でお尻をなでて頬にキスをして追加でお願いすると折れてくれた。でもまだ折れ度が足りない。


「駄目です。由美子さんが言ったんですよ?」

「え?」


 私は由美子さんに軽くキスをして太ももをなでながら耳元で囁く。きょとんとした由美子さんに私はもう一度キスをしてから答える。


「夢を終わらせたくないって。だから私が、引き伸ばしてあげます。私は由美子さんの為なら、神様になりますよ」

「小悪魔……」


 なんか言っているけど、どうせ口だけの抵抗なので私は由美子さんを抱きあげた。そして新婚初夜をいちゃいちゃしてすごした。

 こうして私と由美子さんの最高の結婚式は終わったけど、最高の幸せはそのまま、ずっとずーっと続くのだった。


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