第41話 コスプレ

 まず金曜日はおとなしく過ごす。そして土曜日には外出する必要のある用事は全て済ませる。最後の日曜日。由美子さんが寝ている間に、ここまでは着替えをいれているだけ、として隠していた衣服の中から自分のものを取り出して着る。

 少し恥ずかしいけど、中学時代の制服だ。幸いと言うか、私は中三でぐんと伸びる時期は終わった。由美子さんよりすでに背が伸びていて、今と数センチも変わらない。なので何とか着れた。スカート丈が少し短くなっている気がするけど、許容範囲だ。


 そして由美子さんを起こした。驚く由美子さんに、以前の会話から、久しぶりに中学時代を思い返して、中学の頃のように甘えたくなって着て見たと説明する。

 やや警戒していた由美子さんだけど、恥も外聞も捨てて、由美子お姉さんと久しぶりに呼んで甘えると破顔して受け入れてくれたので、そのまま朝ご飯から片付けまで済ませる。そしてそこからが、腕の見せ所である。あの手この手で、押したり引いたり宥めたり拗ねたりして、何とか持ってきた由美子さんの高校時代の制服を着させることを了承させた。


「最高です! 由美子お姉さん、本当に素敵です。はぁ、ため息が出ます」


 恥ずかしがってお風呂場で着替えてから、スカートの裾を掴んで下に引きながら出てきた由美子さんに、掛け値なしの称賛を送る。元々赤い顔で出てきた由美子さんは、さらに真っ赤になって、ちょっと涙目になっている。


「う、嘘つかないで。やめて、もう、いっそ殺して」

「何を馬鹿なことを。めちゃくちゃ似合ってますよ」


 さあさあと手を引いて、いつも座っているベッド脇に座らせる。由美子さんはスカートを抑えたまま座り、顎を引いて上目づかいに睨み付けてくる。たまらないくらい、可愛い。


「馬鹿。自分でも鏡見てるのよ? こんなの、どう見ても、コスプレにしか見えないし、どう見ても、変じゃない」

「何言ってるんですか」


 それがいいんじゃないですか!

 身長は変わらないけど、胸が大きくなっていて、シャツは持ち上げられてぴちっとしていて、胸のあたりのボタン部分が左右にひっぱられていて、巨乳感がすごい。それにスカートの中に裾をいれることで、より大きさが強調されている。

 スカート丈は元々短かったんだけど、最近はミニスカートをはかないからかかなり恥ずかしがっている。そして最近運動不足だと言っていたとおり、昔の姿よりちょっと足がむっちりしている気がする。

 イメージ的に、ぼんきゅぼんである。全く高校生には見えないし、どう見てもエロい。最高にエロい。許されるなら、この恥ずかしがっている姿のまま電車に乗せて、そっとお尻を撫でたい。


「すごく、素敵です。初めて会った時みたいに、ときめいてしまいます」

「……ほ、本当に?」

「もちろんです」


 初めて会った時のような純情なときめきではないけど、心臓のドキドキとしてはむしろその時以上だ。まったく嘘ではない。うわぁ、エロイなぁ。こんな高校生いたら、絶対セクハラする。


「由美子さん、今だけ、同い年になりませんか?」


 私の制服が中学だけど、そこは些細な問題だ。由美子さんが高校生に戻れば、私は現役高校生なのだから、何の問題もない。

 私の提案に、由美子さんは真っ赤な顔のまま、ジト目で私を見る。


「う……やっぱり、この前話した時から、これ狙ってたんでしょ」

「はて、何のことでしょう」

「ばか、もう、ばかぁ……絶対、今日で最後だからね。これ、処分しないと許さないから」

「分かってます。お約束します」

「……信じるからね」


 と言う訳で、今日は由美子さんと同い年の恋人と言うことで。

 くくく。JKの由美子さんとか、最高でしょ!


「じゃあさっそく、由美子さんと私は同級生のクラスメイトの恋人と言うことで」

「話し方」


 どんな感じで始めようかなーと思っていると、由美子さんは機嫌が悪いともとれる感じのむっつり顔で短くそう言った。すぐに意味が分からず首を傾げてしまう。


「え? なんですか?」

「話し方……同級生なのに、さん付けとか、敬語とか、涼子ちゃんそんなキャラじゃないでしょ」

「……」


 あ、はい……。ゆ、由美子さん、恥じらいながらもめっちゃノリノリじゃないですか! もう! だから好きです!


「そうだったね、ごめんね、由美子」

「りょ、涼子、ちゃん」

「ちゃんも、いらないよ」

「りょ、涼子……」

「うん」


 これ、めっちゃいいかも。まだ由美子さんの体に触ってないのに、こんなテンション上がるって! 由美子さんのこと呼び捨てにして、逆に呼び捨てにされるって、凄い新鮮! 興奮する!


「由美子、可愛いよ」


 そっと右手を由美子さんの頬に添えて、うつむき気味だった顔をあげて、正面から見つめあう。羞恥で真っ赤だったままの由美子さんが、少しまた別の恥じらいを見せるように、はにかむ。


「その、転校してくる前の制服も似合ってるよ」

「私、転校生なの?」

「じゃないと、クラスメイトで別の制服っておかしいじゃないですか」


 多少の矛盾は勢いと妄想で誤魔化すとして、制服はさすがに気になるので、そういう設定でお願いします。


「えっと、じゃあ、あ、ありがとう、涼子。でも、急に前の制服姿がみたいなんて、どうしたの? 私をいじめて楽しんでるの?」


 あ、疑惑の目を向けられた。設定に乗っかったうえで問いただしてくるとは、やるな、由美子さん。


「違うよ。見たくなっただけ。実際、凄く可愛くて、自分で自分をほめてあげたいくらいだ」

「大げさね」

「そんなことないよ。ほら、こんなに、エロいなんて、想像以上だよ」


 言いながらそっと左手の人差し指を、谷間ところの膨らみで隙間ができているボタンの合間に差し込んだ。わぁ、た、楽しい。


「っ、ば、馬鹿。そんなことばっかり考えてるんでしょ。この変態っ」

「失礼だなぁ。そんな生意気なことを言う由美子には、こうだよ」


 キスをして口をふさぐ。それと同時に指を抜いて、外から包み込むように胸に触れた。軽く揉む。うむ。何度触っても、いいものだ。

 触れただけの唇を離すと、由美子さんはむーっと私を睨んでいる。


「やめてよ、涼子。いくら誰もいないからって、教室よ?」


 あ、そう言う設定なんだ? あ、いや。そういう風に進まないように、あえてそう言う設定にしたのか。だけど、馬鹿だなぁ。そんな設定、もっと興奮するに決まってるじゃん。


「大丈夫だよ。もう放課後をとっくに過ぎてるんだ。誰も来やしないよ」

「そんなのわからないじゃない」

「て言うか、別に私、何するなんて言ってないけど? あれれー? 見られてまずいこと、期待したんだ?」

「ば、う、や、もう、もう! なんでそう意地悪なことばっかり言うのよ。だいたい、人の胸触ってる時点で、見られたらダメでしょ」


 頑なに拒否しようとする姿は、何だか本当に由美子さんが高校生の頃、私との関係を進ませないようにとしていたのを思い起こさせた。

 懐かしさと共に、その頃のやるせなさを思い出し、同時に今ならそれを無理やり覆させることができる状況に、言葉にできない優越感に似た感情が湧き上がる。さて、どう言いくるめていこうか。


「女同士ですから、じゃれ合いですみますよ」

「ちょっと敬語。やめてよね。冷めるわ」

「あ、はい。すみません」


 冷静に突っ込まれた。

 と言うか、あれ? 別に本気で嫌がっていたんじゃなくて、それも女子高生プレイのいっかんだったのかな。怒ってる素振りも? ……レベル高いな。由美子さん、実はこういうごっこ遊び的な、ロールプレイ好きなのか。これはいいことを知ったぞ。


「女同士なんだから、じゃれ合いで済むよ」

「そんな」

「大丈夫、由美子が声を我慢すれば、大丈夫だよ」


 実際には拒否されていないことが判明したので、さらに強引に展開を進めることにする。

 右手を由美子さんの腰に回して引き寄せ、左手でそっと由美子さんのお尻から太もものあたりを撫でる。まずは上から下へ、スカートを乱さないように。そして返す手で、スカートの裾に引っ掛けるようにして中へ手を滑らせる。


「きゃっ」


 非常に可愛らしい声で応えてくれた。ちょっとわざとらしいくらい可愛いけど、高校生編と言うことでサービスしてくれたんだろう。


「りょ、涼子ぉ」

「駄目だよ? もっと、声押さえて。可愛い声が、私以外に聞こえたら大変だ」


 にっこりほほ笑んで、私は由美子さんをなでなでしたりぺろぺろして、その反応を楽しんだ。









「はぁ……涼子ちゃん、満足した?」

「あれ、終わりですか?」

「終わりです。疲れたから」


 最終的には半分以上制服を脱いだ感じでぎゅっと抱き合って、このごっこ遊びは幕を閉じることになった。個人的にはこの後のだらだらタイムも高校生で構わないんだけど、ノリノリだった分体力を使ったみたいだし、私もJK由美子さんを堪能したし、いいか。


「楽しかったですね」

「……否定はしないけど、この制服は捨てるのよ。いいわね?」


 にこにこと微笑みながら同意を求めてみたけど、読まれているようでさらっと念を押された。

 確かにそう言った。約束した。でも、あんなに似合っていて、あんなにエロくて、あんなに由美子さんもノリノリで、同い年設定とかすごい楽しかったのに。あまりに残念すぎる。なので駄々をこねてみることにする。


「えー。またやりたいですー」


 由美子さんの手をつかんで大きく振りながらお願いする。が、由美子さんは半目だ。さっきまでの可愛い反応どこ行ったんですか。


「絶対ヤダ。セクハラで訴えるわよ」

「由美子の可愛い姿、また見たいな」

「普段から可愛いと言ってくれているのと矛盾します。ギルティ」


 おおっと。別にどっちが嘘ってことはなくて、ベクトルの違う可愛さだし、それはそれあれはあれって感じなんだけど。


「うーん。本当に駄目ですか? エロくて最高だと思うんですけど」

「どうしてその言い方で、じゃあ残すわって言うと思うのかしら」

「勝負下着的な感覚で残しません?」

「残さないわよ。あのね、普通に考えて。こんなにシチュエーションの限られた勝負下着なんてないでしょ」

「この制服着た由美子さんにお願いされたら、私何でもお願い聞いちゃいそうなのになー」

「……一瞬いいかもって思いかけたけど、普段から涼子ちゃん、私のお願い基本的に聞いてくれるじゃない」


 おしい。だけど由美子さんの言うことももっともだ。と言うか、そもそも由美子さんが言うお願いが、大したことないものばかりだ。恋人の些細なお願いくらい、いくらでも聞きたくなるのが人の常である。


「そうでしたっけ。由美子さん、何なら今わがまま言ってみてくださいよ。遠慮せず、断られそうなやつを」

「ええ? うーん。じゃあ、私の代わりにトイレ行ってきて」

「断りますけど、そういうのじゃないです」


 それ、受けようがないやつですよね。と言うか、仮にとんでもないのでも、叶えますよって言って持っていこうとしたのに、絶対無理なやつ言われた。しかも計算なのか天然なのかわかりにくい。


「こういう時のトイレって、凄く面倒じゃない?」

「わかりますけど……あ、いいこと思いつきました」

「え? なに?」

「私、頑張って飲みますよ」

「トイレ行ってくるわ」


 おかしい。名案だと思ったのに。由美子さんのなら飲めると思ったんだけど。でもいっぱい出されてこぼしたら大変だし、仕方ないか。

 トイレから戻ってきた由美子さんは、さっさと服を着替えてしまって、早々に制服をごみ袋にいれた。


「あー、勝手なことを。一回もらった以上、私のものですよ」

「もちろんそうね。だけど涼子ちゃんは、私が嫌がることをしないもの。ましてや約束を破ったりしないもの。だからこうして、手間を省いてあげているだけよ」

「むむむ」


 そこまで言われたら仕方ない。ここは名残惜しいけど、諦めるか。


「分かりましたよ。捨てます」

「よろしい。まぁ、楽しかったのは本当だから……設定だけなら、またしてもいいわよ?」

「本当ですか? 嬉しいです」


 この制服は捨てるけど、今度は別の制服を用意すれば問題ない。問題はガチの制服を知り合いからもらうか、コスプレ用を買うかだけど。

 さすがに知り合いからもらったら、そう言うシーンでその顔浮かんでも嫌だ。かと言って、安っぽいコスプレ用なんてなー。そんなAV女優みたいな恰好を由美子さんにさせるなんて……逆に女優設定と言うのも楽しそうだけど、それは置いといて。いっそ私の制服着せるとか?


「……ねぇ、なにか企んでない?」

「まさか。私を疑うんですか?」

「疑うわ、だからこの制服は、このまま私が処分します。いいわね」

「わかりました。それでお願いします」


 由美子さんが実際に使用して、汗やにおいが染みついた制服はあまりにおしい。でも四六時中見ていたわけじゃないから、この由美子さんを説得して反対されてでも、というほどのこだわりはない。今楽しんだくらいで、あの頃のあこがれは十分かなえられた。

 今後普通に、高校生ロールを楽しむ分には、他の制服でも問題ない。


 というか、由美子さんがあんなにノリノリなら、もっと色々なパターンで試したい。いっそ女教師とか、もっとはっちゃけてコスプレするならナースとかメイドとか、うーん。夢が広がるなぁ。


「……怪しい」


 おっと。ニヤニヤしてしまった。

 由美子さんには誤魔化して、私はいかにして設定だけじゃなく、格好までエロくしてもらうか考えていた。


 そしてしばらくして、由美子さんは制服は年齢詐称なうえサイズが合っていないからめちゃくちゃ恥ずかしがって居たことが判明した。なのでサイズの合っているものでコスチュームチェンジをするのに慣れさせてから、めちゃくちゃ恥ずかしい格好をさせる計画を立てることにした。長期計画でいこう。

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