第33話 由美子視点 連休初日

「つーかれたー……」


 家に帰って、事前に用意しておいた晩御飯をチンして速攻平らげ、その間に沸かしたお風呂に入って、出てきてベットに転がった。正直家に帰るとすぐ腰を落ち着けたくなるけど、そうするとだらだらしてお風呂に入るのが遅くなって、余計に何もかもおっくうになったりして大変だから、帰ってからのこのルーチンは崩さない。

 本当なら、ご飯だって着替えてからゆっくり食べたいけど、部屋着になると気が緩んで携帯電話をいじったりしてしまう。そうなるとお風呂が沸くまでに、ご飯食べて軽く明日のご飯作るのが難しい。

 でも明日はついに、連休だ。だから明日のご飯もつくらなくていいし、其の分早くベッドに転がれた。あー楽ぅ。

 連休前だからしっかり掃除、とか言って就業時間前から掃除を言いつかり、床掃除しまくったので疲れたけど。でも、これでお休みだ。


 ゆっくりと疲れをとろう。疲れを……あー、涼子ちゃんに会いたいよおおぉぉぉ。

 

「りょーこちゃんー、愛してるー愛してるー、あー、あー、りょーこちゃーん……」


 ああ、愛してる。涼子ちゃんを愛してるよぅ。だから我慢だー。……はぁ。死にそう。


 携帯電話を見ると、涼子ちゃんからの連絡が来ていた。今すぐ読みたいけど、既読をつけることで、どんどん追撃とかされたら、返事をしたくなっちゃう。だから既読をつけないよう、機内モードで見る。

 涼子ちゃんは私が一切見ずに、返信しないって状況なのに、けなげにあいさつ文を送ってくる。それにそれだけじゃなくて、今日はこんなことがありました、みたいなことも報告してくれる。


 本当、癒される。でもこのまま続けて、涼子ちゃんが駄目なのかなって諦めて、別れる状態になってしまうと、この挨拶もしばらくないんだなと思うと、辛い。

 今すぐ設定OFFにして、電話して声聞いて、愛してるよって言いたい。


「……はぁ」


 死にそう。いやいや。つらいのは今だけだ。今だけ。ちょっとだけ。涼子ちゃんが真面目に人生を考えて、進路を決めたら、速攻告白しよう。多少冷たくされても私が悪いんだし諦めない。無理やりキスでもすれば気持ちも伝わる。

 大丈夫、大丈夫。大丈夫だから。


「……寝よ」








「……」


 起きだす。お腹が空いた。ペコペコだ。今日がお休みだから、用意なんてなにもしてない。冷蔵庫をあさって、冷凍ご飯であまりものチャーハンだ。ちくわとじゃこだけの具は見た目寂しいけど、バター醤油でまぁまぁ美味しい。


「はぁ……」


 気が済むまで寝たからか、疲れはとれた、と言いたいけど、むしろ寝すぎで少ししんどい。いつもよりさらに早く寝たし、起きるのも遅い。12時間くらい寝たのか。寝過ぎだ。

 ぼーっとしてしまいそうだけど、このままこの部屋でだらだらしても、体調は直らないだろう。空気がまずよどんでいる。気合を入れて、部屋の掃除を開始する。

 涼子ちゃんがいつ来てもいいよう、万全の準備をするための準備だと思えば、苦でもない。


「ふぅ……お腹すいた」


 一通り部屋を綺麗にして、お腹がすいた。多少は活力もわいてきたし、外に出て食べよう。そして食料を買い込もう。

 今だとまじのペペロンチーノくらいしか作れない。冷凍ご飯もないし。


 あと卵は絶対買わなきゃ。チャーハンも卵なくて悲しかったし。やっぱ卵は偉大だ。美味しくて栄養満点なんだから。卵があったらなんでも美味しいし。あ、あとチーズも。


「ふぅ、行ってきます」


 出掛けには、誰もいない部屋に挨拶をする。むなしい。でも実家では毎日挨拶して家を出ていたから、玄関出るときに言わないと変な感じだ。

 涼子ちゃんの写真でも飾ろうかな。どうせしばらく来ないんだし。よし。写真立て買おう。


 家を出て、いつものモールまで足を伸ばす。前回来たときは、涼子ちゃんと一緒だったなと思うと、手がさびしい。ぎゅっと鞄に添えていたた右手に力を込めた。


 少し早いけど、お昼を食べてから買い物をしよう。あ、あと食料だけじゃなくて、消耗品も買わなきゃ。まあ、徒歩だからそんなに持てないけど。あー、車買おうかな。モールが近いとこで住めたし、いらないかなと思ったけど。せめて自転車とか? でも駅前でもあるから、自転車も駐車料金かかるんだよね。それってなんかすごい馬鹿らしい感じするし。

 まぁ、連休中こもっているのも体に悪いし、ちょっとずつ買っていこう。今日は食料と、あと切れそうな歯磨き粉だけ買っておくか。


 で、お昼は何にしよう。朝簡単だったから結構減っているし、がっつりラーメンでもいいんだけど。ラーメンはカロリー高いし、あんまり食べないようにしているけど。

 んーでも、最近女子力低いのよね。自炊の際に作るのは作るけど、洗い物面倒でついどんぶりにしたりしてるし。


 でも女子力高いのって何? あんまり高いのはあれだし、ランチセットとかにしたい。あー、最近お肉を豚バラしか食べてないし、ハンバーグとかいいかも。今は自分で作る気になんてならないし。あ、でもそれでいくと、コロッケとかつくらないけど。揚げ物自体はするし、揚げるだけのコロッケは買ってもいいし。いやでもそれでいくと、ハンバーグだって最近はレトルトでいいのあるし。


「んー」


 レストランエリアを歩いていると、いい匂いもするし、どれもおいしそうで、悩んできた。私、優柔不断なのよね。ていうか、お腹がすくともう何でもよくなってくるし。


「あら、こんにちわ、由美子さん」


 お好み焼きもいいなぁとレストランエリアで陳列棚で見ていると、聞き覚えのある声をかけられて振り向くと、大学で一緒だった友達の山本未央さんがいた。


「あ、未央さん、こんにちわ」


 ちょっとお嬢様系の人だったけど、モールにもくるんだ。ちょっと意外、でもないか。地元同士だしね。高校も近いっちゃ近いとこで、そもそもが大学初日の受講選択とかの説明の日に、名簿順で並んだのがきっかけで知り合って親しくなった。


「奇遇ね。今からお昼?」

「うん。未央さんも?」

「ええ、よければ一緒に食べない?」

「是非。暇だし、何食べるか悩んでたんだ。未央さん、食べたいものある?」

「そうね、じゃあ、お好み焼きで。目の前にあるのだし、いいでしょう」

「相変わらず、即決だね」

「このくらいで言われても、ね。さ、入りましょ」


 一緒に食べることになった。その方が気がまぎれるし、久しぶりだし、ちょうどいい。私は他の人とも全然連絡とってないけど、未央さんは取ってるのかな? 未央さんのことも、近況とか気になるし。


「何頼もうかな」

「シーフード一択ね」









「えー、まじで、青山さんってそうなの?」

「そうよ。固そうに見えるけど、あんなの人見知りのただのポーズよ」

「はー、意外だわ」


 共通の友人の話題で、未央の友達で私はちょっと苦手な感じのクール系美女の青山さんが、まさかの婚約者がいて来年結婚予定で、めっちゃくちゃラブラブでデートの度に未央に写メ送ってるとか、まじか。そんな面白いけど微妙に知りたくなかったような。


「と言うか、あなたはないの? そう言う話。高校から付き合っている相手がいるんでしょ? つきあいながいなら、就職して落ち着いたら結婚してもおかしくないと思うけど」

「ん。まぁ、いるけど、相手がまだ学生だから」

「あら、年下だった。あなたってあんまり話さないから、知らなかったわ」

「んー、まぁ、恥ずかしいし。でもそれ言ったら、未央さんだって聞かないけど。お金持ちだし、許嫁でもいるの?」

「馬鹿なの? そんな前時代的な人、いないわよ。マンガの読み過ぎよ」


 馬鹿って言われた。でも未央さん、音楽系の学校出たわけでもないのに親からもらったビルでピアノ教室してるって話も十分漫画って感じだけど。小さい頃から習っていたらしくて、普通にプロ級らしいし、演奏聞いたことあるし凄いのは知ってるけど。


「と言うか、……うーん、まぁ、いいか。私の恋人、聞きたい?」

「え、まぁ、気になるわね」

「じゃーん」


 携帯電話を見せてきたので、受け取って見る。未央さんと男性が仲よさそうに映っている。若干貫禄ある感じで、おでこ禿げ気味だ。30歳過ぎくらいかな?


「へぇ、年上が好みなのね」

「ん? 思ったより反応薄いわね」

「え、まぁ別に、最近では10くらいの差も、別に珍しくないでしょ? さすがに親ほどだったら驚くけど」

「まぁそうだけど、でも結構、うーん。そっか。私、大人だったわ」

「? 何言ってるの?」

「いえ。年が離れているから、結構色々言われたり、親から反対されたりしていたから。今はそうね。10くらいってことだけど、私中学の時に付き合いだして、相手が30前だったから、言われたけど」

「あー、なるほど」


 確かに、成人した今なら一回り上でも別にって感じだけど、中学の時に一回り上と付き合っていたら、相手はロリコンなのかなって親なら心配したりとか、するのか。友達同士なら、むしろ年上と付き合うって結構うらやましいイメージだったけど。


「それに彼、若禿で年齢以上に見られがちだしね」

「そうなの。でも今でそれなら、ありじゃない? 私も、相手とはちょっと年離れてるし、気持ちわかるわ」

「そうなの。いくつ?」

「そっちほどじゃないけど、6歳」

「へー。ん? あら? 高校から付き合ってるって言ったわよね?」

「え? うん」


 と答えてから、はっとする。相手の年の差が大きいから普通に答えたけど、これ、まずくない? 逆算したら付き合いだした時の年齢がすぐわかる。


「もしかして小学生?」

「……う、うん」

「はー、なるほどねぇ。じゃあまだ高校生なのね。それじゃ、まだまだ結婚の話は出ないわよね」

「う、うん。そうなの。よかったー、引かれなくて」


 未央さんは普通に相槌をうったので、ほっと胸をなでおろす。未央さんは微笑んで口を開く。


「いやちょっと引いたけど、でもまぁ、好きになったら、仕方ないわよねぇ」

「そうなのよ」


 引いたと言っているけど、でもこの反応なら安心だ。十分友達関係は続けられる。それに、同じように年の差を気にしてきた同士だ。さすがに女の子であることは話せないけど、恋バナもしやすい。


「ねぇねぇ、どうやって知り合ったの?」

「家庭教師だったの。でも大変だったのよ。私と付き合いだしてから、彼、生徒に手を出したってことで首になるし」

「あー、まぁそれはね。仕方ないわよね」

「えー。由美子さんならわかってくれると思ったのに。まぁでも、続けられても、私としても新しい子と出会いがあるのは嬉しくないから、いいのだけど」

「未央さんの中学時代の写真ってないの?」

「あるけど、由美子さんの相手の写真はないの?」

「あー……ごめん、肖像権の侵害だからないわ」

「別に無理に見せてとは言わないけど」

「じゃあ、見せたくないのでパスで」

「清々しいわね。でも話したことないし、話したいからいいでしょう。会った時はいまよりさらにイケメンだったのよ。ちょっと禿げてるだけで」


 恋バナで盛り上がった。涼子ちゃんのこともぼかして話したりして、私としてもとても楽しい時間を過ごせた。

 その後、買い物にも付き合ってもらって、まだ話したりないってことで、荷物持ちもしてくれて私の部屋でさらにお喋りした。ここぞとばかりに、軽いけどかさばるから運びにくいトイレットペーパーとティッシュボックスを買ってもってもらった。


 涼子ちゃんへの思いも再確認できたし、有意義な連休初日だったなぁ。



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