第24話 涼子ちゃん視点 プロポーズは待ってて
「あぁぁ……」
何か、押し殺したような声で目がさめた。目を開けると、由美子お姉さんが顔を両手で隠して、唸っていた。
その姿を見て、昨日のことを思い出して、にやける。ついに、私たちは正真正銘の恋人になったんだ。そして何より、もう、最高だった。
由美子お姉さんめっちゃ可愛かった。まぁ私も色々恥ずかしいことあったけど、順番にしたんだからお互い様だ。うん。それにしても、由美子お姉さんもああいうこと考えてたっていうのは、本当に意外だったけど。
でもお互いに誤解とかあったっぽいし、昨日で和解したんだしいいか。これからはもう、ああ言う下心も隠す必要なくて、もう遠慮なくいちゃいちゃできるとかマジ最高だねっ!
って、思うんだけどなんで由美子お姉さん、そんな後悔してるみたいな感じなの?
「……由美子お姉さん、なに、悶えているんですか?」
「ごっ、りょ、涼子ちゃん、起きてたの?」
名前を呼ぶと、両手を外して由美子お姉さんの顔が見えた。めっちゃ赤くなってる。
後悔ではないか、後悔だとしても、悪いものではなさそうだ。にやっと笑って、起き上がる。
「何ですか? そんなに昨日がよかったんですか? 可愛いですね」
「ば、馬鹿。何言ってるのよ」
「もう一回しますか?」
「馬鹿っ。朝から、変なこと言わないで」
あんまり可愛い顔をするから、実はちょっと本気だった。だけどこんなに強く拒否されても、もう、私の心は揺らがない。不安にもならないし、傷ついたりしない。
だって、本当のことを知っているから。本当はあんなに私を求めてくれて、あんなに可愛い顔を私にだけ見せてくれるんだって、知っている。だから、嘘の言葉を、本当かもと思わない。
昨日まで、どうしてあんな風に思っていたのか、自分でも不思議だ。それに、由美子お姉さんの言葉に、あんなに怒鳴ることもなかったなと思う。よくわからないまま腹が立っていたから、今となっては、子ども扱いされるのもいつものことだったのに、と反省する。
とにかく、今日からは違うのだ。今日からは、もう、昨日までとは何もかも違う。だから昨日までのことを振り返ってああだこうだと無駄に時間を遣うのはやめよう。
これからのことを、考えよう。
「軽い冗談じゃないですか。お腹も減りましたし、シャワー浴びて、ご飯にしましょうか」
「……そうね」
軽く誤魔化して、私はベットから降りる。汗だくになったので、すこし気持ち悪いし、シーツも洗わないといけない。
「シャワー先に浴びてきてください。部屋を片付けておきますから」
「えっと、涼子ちゃん」
何故か疑問形で呼ばれて振り向く。由美子お姉さんは戸惑ったように、視線をそらしていて、立ち上がらない。おかしいな。何か、気になることでもあるのかな? 片づけを自分がしたいとか?
「遠慮せずどうぞ? 私の部屋ですし、由美子お姉さんの方がお疲れでしょうから」
「涼子ちゃん、その、シャワーだけど」
「なんですか?」
歯切れの悪い由美子お姉さんを促すと、ぱっと顔を赤くして、うつむき気味で上目遣いで、尊大な口調で、だけど気弱に視線を漂わせて由美子お姉さんは言う。
「い、一緒に……入ってあげても、いいわよ?」
「……是非!」
ああもうっ! 何ですかこの可愛すぎる生き物!
○
色々済ませてから、朝ご飯を食べる。由美子お姉さんお手製で、とても美味しい。愛を感じる。
昨日までも、由美子お姉さんのことは好きだった。とても愛していた。この恋情が、世界で一番強いものだと思っていた。でも、今、もっとずっと、愛おしいと思っている。あれ以上がないと思っていたのに、不思議だ。
「ねぇ、涼子ちゃん……」
「ん? なんですか? キスですか?」
「な、なんでよ」
熱のこもった声で名前を呼ばれたから、そうかなと思ったけど、違った。残念だ。
由美子お姉さんは少しだけ赤らんだ顔を振って誤魔化して、拗ねたみたいな可愛い顔をする。
「そうじゃなくて……何となく、名前を呼びたくなったの」
可愛い。もう、私の名前でよかったらずっと唱えていてほしい。そのバカップルプレイ、いいと思います。
「いいですね。いかにもバカップルっぽくて。由美子お姉さん」
「一言余計よ」
あれ? 自覚なかったのか。と言うか、余計と言えば、いいこと思いついた。
「それもそうですね。恋人になったんですから」
今度こそ正式に恋人になったんだから、いつまでもお姉さんと呼ぶのもおかしいだろう。年上の女性には間違いないけど、恋人って言うのは対等なものだし、呼び方を変えるきっかけとしても悪くない。
突然話題変更する私に、由美子お姉さんは首を傾げるけど、それをスルーして、呼び名を考えてみる。
「さすがに呼び捨てはあれなんで、由美子さん、辺りでどうですか?」
「ど、どうって、ぐっときます」
何ですかその返事。私の方がぐっとくるんですけど。ていうか。
「何で敬語何ですか?」
「うるさいわね。ちょっとドキッとしただけじゃない」
「えへへ。いいですね。敬語の由美子さんも、可愛いです」
「……もう、涼子ちゃんは何でもいいんでしょ」
「そうですよ。由美子さんなら、何だって好きです」
年上だからと偉ぶる由美子さんも可愛いし、敬語つかって甘え力天元突破してるのも可愛い。好き。どのタイミングでも好き。
さらっと答えたんだけど、由美子お姉さんは何だかちょっとだけ驚いたみたいな顔をしてから、微笑んだ。
「私も、好きよ」
う。な、なんですか、その顔。もう、神々しいくらい美人だ。可愛い要素は私にも多少はあると思うけど、美人要素は0だから、もうその時点で100%負けてるから、せめて格好良くいたいのに、由美子さんが美人過ぎてにやけそうだ。
にやけそうな顔を、気合で引き締めた。全く。油断も隙も無い。
でも、そんな風にしても、やっぱりにやけた。だってすきだもんほんとにさー。
「もう、もう、あー、もうほんと、大好きです。もー、一生一緒に居てください!」
私がこんなに情けない姿を見せてしまうのも、由美子さんが好きだからだし、責任とって一生を共にしてほしい!
と魂の叫びをしたら何故かきょとんとされた。
「それはもちろんそのつもりだけど。え、あっ」
「そ、そのつもりだったんですか。いや嬉しいですけど」
あ、ああ。はい。うん。………私も本気です。
って、やばい。もしかして今のプロポーズになってしまう? あんな格好悪いのがあってたまるか。ううん。言い直すべきかな? でも、何の準備もしてないのに言葉だけつくろってもなぁ。
と悩む私に、思わず言ってしまったみたいで照れた顔になる由美子さんが、ちょっとだけ唇を尖らせてじっと私を見て口を開いた。
「そのつもりよ? だから涼子ちゃん、大人になって、プロポーズしてくれるの、待ってるからね」
あ、えと……つまり、今のはプロポーズとは由美子さんも認めない方向ってことですよね。えへへ。
待ってるって。待ってるんだ。なにこれ。めっちゃにやける。
「……はい。頑張ります、えへへ……由美子さん、愛してますよ」
「もう。……私もよ」
プロポーズができるよう、頑張ろう。そう、心から思った。
この人を思うと、何でもできる気がした。ずっと、一生傍にいたい。傍にいてほしい。それはきっと、ずっと、死ぬまで変わらないんだろうなって、確信した。
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