第21話 涼子ちゃん視点 お泊り計画

 由美子お姉さんといい感じになって、これはもうすぐ落とせる! と確信してから早3年近くなるのに、由美子お姉さんは頑なに恋人だと認めてはくれなかった。

 そんな純情で真面目で、倫理観にとらわれちゃってるとこ、好きだ。そもそもその道徳心の高すぎるところでピンときたのが始まりの恋なので、もうそこはあきらめるしかない。


 色々あって、デートもキスも普通にするし、由美子お姉さんの頑なな言葉上だけでの恋人否定だけあっても、普通に恋人だ。なので、名目くらいは私が大きくなるまで待ってもいいと思っている。もちろんどの程度から由美子お姉さんがオーケーだすかはわからないし、できるだけ早くがいいので、隙あらばついては行くけど、焦ってはいない。

 とは言え、それとこれとは別として、私としてはもう一歩、進みたいのが本音だ。


 由美子お姉さんはあれだけ私にうっとりしちゃって蕩け顔見せて誘惑してくるくせに、私を子ども扱いから変えない。でも小学生だって、好きな人が無防備でいたら、色々と考えてしまうのである。

 だけど私としても、キスだけであんな顔しちゃう由美子お姉さんを見たら、そこから無理強いしにくい。由美子お姉さんの家だし、遠慮もある。


 と言うことを考えて、ひそかに機会をうかがっていると、中学入学を目前に、素晴らしい機会が巡ってきた。

 両親が二人で旅行に行くことになったのだ。絶好のチャンス。これを逃したら、恋人の名目が認められるまで、本当に清い感じになってしまうかもしれない。緊張しつつ、下心を感じさせないようにお誘いしてみた。


「あのですね、私の家で、お泊りしませんか?」


 由美子お姉さんは最初面食らったみたいになっていたけど、前向きに考えてだしてくれた。家の親に挨拶とか言って、なんかもう、これ結婚じゃないって思った。


 そして、どきどきわくわくしながら、ついにお泊りの当日だ。待ちきれなくて走って家に帰って、綺麗な服に着替えた。と言っても、気合入れ過ぎて警戒されても困るので、あくまで普段着の、清潔な服と言う意味だ。


「おかえりなさい、由美子お姉さん!」


 訪ねてきた由美子お姉さんを家で迎えるのは初めてで、しかもこれからに二泊三日と言っても我が家で生活するのだ。いやがおうにもテンションが上がる。

 おかえりなさい、と言った瞬間にぐんぐん上がってジャンプしたくなったけど我慢した。なんか新婚みたい!


「ただいま……ただいま、涼子ちゃん」


 由美子お姉さんは驚いたみたいに挨拶してから、照れ顔で改めて挨拶してくる。二回言うとかあざと可愛い。これが計算じゃないとかどういうことなんですか。


「ご飯にしますか? お風呂にしますか? それともー、わ、た、し?」


 由美子お姉さんといると割といつものことだけど、今すぐキスしたくなってしまうのを堪えて、私は大げさに新婚プレイを続けてみる。

 由美子お姉さんは呆れたようにしながらスルーして、家に入ってきた。


 すでにお買い物を済ませてしまったというのは残念だ。通りでちょっと遅いなと思ったけど。でもお買い物自体は、普段コンビニとか一緒に行くからいいけど、お姉さんときたら、普通にまじめに謝ってくる。

 もうそういうところが可愛すぎる。


 荷物を置くために私の部屋に案内すると、同室なのかと不思議そうにされてドキッとした。友人枠だから当然でしょって流させたけど、すみません。下心あります。

 でもでも! 無理強いはしませんから! と心の中でだけフォローを入れておく。


 そのまますぐに晩御飯を作ってもらうことになった。

 晩御飯は任せて! と先日から気合を入れてくれていたから、正直期待していたけど、そのハードルを気安く飛び越えてくれた。


 私に作れって言われても絶対作れない、ちゃんとした晩御飯だった。品数多い。由美子お姉さんは平然とたくさん作るつもりのようで、どんどんと作業をする。

 そしてその後姿を眺めている私。色々お手伝いする気持ちをあったけど、料理をしている後姿にはついつい見とれてしまった。


 可愛い。あんまり後ろから見ないけど、髪の毛くくって揺れているのも可愛いし、シルエットとかお尻の形とか足首とか、全部可愛い。

 そしてガン見しているのに全然気づかないのは、私の為に頑張って料理してくれているからなんだ、と思うと、ますます胸がきゅんとしてしまう。


 こんなに真面目に、真剣になって、本当に、由美子お姉さん好きだなぁ。私もちょっとくらい、作れるようにならないとな、と少し反省しながら、由美子お姉さんのお料理をいただく。


 たくさん作って凄い。嬉しい。一品でも全然いいのに。とお礼を言うと、由美子お姉さんは照れたようにしながら、


「だいたい、一品だけなんて、そんなんじゃいい奥さんになれないでしょ。馬鹿なこと言わないでよ」


 と言われた。何とか相槌をうったけど、え、奥さんって。それって、もちろん私のこと意識したうえでのことですよね。

 う、は、反応に困る。恋人じゃないとは言われても、由美子お姉さんが私を好きなのは疑わないし、その気持ち自体は否定しない由美子お姉さんだけど、そんな風にさらっと言われると、照れる。


 と、そんな挙動不審に気づいたお姉さんは、自分で意識していなかったらしいその発言内容に気づいて、ぽっと顔を赤くした。

 可愛い。自分で言って照れて可愛いし、気づかないくらい無意識にさらっと言ってしまうくらい、常に私のことそういう対象として意識してくれてるんだなと思うと、めっちゃうれしい。


 あー、もう、だから、こんなに可愛いから、恋人否定されても全然許しちゃうんだなぁもう。こんなピュアだから、キスだけで許してきちゃったんだなぁ。今日、かなり本気で、一緒に寝たいけど、いけるか不安になってきた。こんな可愛い顔で、お泊りって言ってもあんまり意識してないっぽいし。

 まぁ、その時はその時だ。


 私は頭を切り替えて、由美子お姉さんの後姿を堪能した。


 由美子お姉さんが作ってくれたお料理は味ももちろん抜群に美味しい。そして照れてる由美子お姉さんも美味しい。幸せ過ぎる。結婚したら毎日こんな食卓を囲めるのかと思うと、胸が熱くなる。


 その後、休憩してからお風呂に入る。

 と、そこで気づく。休憩中も結構いい雰囲気だったけど、いつものことだ。ここはいつもと違う雰囲気を醸し出すためにも、いつもと違うことをすべきではないかと。


 由美子お姉さんをその気にさせるためには、もっと直接的で、わかりやすいアプローチが必要ではないか、と。


 つまり、要約して、お風呂に一緒に入ろう。そうすれば、由美子お姉さんの反応見て、どこまでいけるかの判断にもなる。それになにより、見たい!

 もちろん先に言えば拒否られるだろう、由美子お姉さんは恥ずかしがりやだから。でも入ってしまえば、女同士だし、と許されるはずだ。ふふふ。子供だしね! 何ならちょっとくらい触っても、おふざけで済むよね!


 よこしまな心を極力見せないようにしながら、私は由美子お姉さんをお風呂に行かせ、タイミングを見て自分も突入することにした。


 脱衣所に入ると、すりガラス越しに由美子お姉さんが何となくいるってわかる程度なのにドキドキしてきた。

 服を脱いで洗濯機に入れる時も、由美子お姉さんの服が入っているだけで、妙に興奮して慌てて自分の服で隠した。見えもしない下着に興奮するとか、どうかしている。これから本体を見るのに。


 心臓がばっくばくしているのを誤魔化しながら、由美子お姉さんに声をかけて、何でもない風を装って、突入した。


「いえいえ、じゃ、私も入りますねー」

「へ?」

「えへへー。びっくりしました? 今日は混浴でーす。なんちて」


 いきなり裸だと動揺を隠せないと思うので、湯船につかったのを見はからって入ったけど、肩から上なんて普通に普段見ているのに、濡れていて少し赤らんだ顔がエロい。

 わかりやすいはしゃいだ声をあげて誤魔化す私に、由美子お姉さんはぽかんと口を開けている。そんな無防備な顔されると、指を突っ込みたくなるけど、さすがに驚きすぎじゃないですか?


「だ、で、出なさい! 入ってこないでよ!」


 と思って声をかけるとはっとしたように怒鳴られた。

 お、おお。由美子お姉さんが分かりやすく怒りで顔を染めて怒鳴るのは、たまにしか見ないから少しビビる。でもここでひいてはいけない! だってこの後の夜を考えたら、混浴くらい許してもらわないと! なんなら今回のお泊りは混浴止まりでもいいから、由美子お姉さんの生まれたままの姿が見たい!


「えー、いいじゃないですか。女同士だし。それに、私の家ですよぉ?」

「じゃあ私が出る!」

「え? ちょっ」


 とは言え、本気でキレられたら困る。照れも入っての赤い顔だろうから、軽くちゃかす口調で言ってなぁなぁに許してもらおうとしたら、由美子お姉さんは立ち上がった。

 その瞬間、太ももから上が、全て隠すことなく、見えた。由美子お姉さんは勢いよく出て行ったけど、振り向いてお尻を見る余裕もないほど、私はそれに見とれた。


 やっぱり肌白いし、知ってたけど生で見てもおっぱい結構大きいし可愛い。って、やばい! こんなこと考えてぼーっとしている場合じゃない! 本気で怒らせた!


「ゆ、由美子おねーさーん」

「扉開けたら、絶対後悔させるわよ!」


 お風呂場の戸を開けずに声をかけたら、そう怒鳴られた。後悔させるって、もう本気で後悔しているのに、これ以上?

 やばい。最初の由美子お姉さんの怒りを軽く流したのが間違いだ。見誤った。あれがすでにかなり怒ってたんだ。なのに強引に進めようとしたから、めっちゃ怒っている。一瞬のことでよく見えなかったのに、ここまで怒らせるなんて、失敗した!


「ご、ごめんなさい、由美子お姉さん。その、私、ちょっとした冗談で、背中でも流してあげようかと、思っただけなんです」


 とりあえず火に油を注がないよう、下心はなかったんです。本気で子供の無邪気な悪戯です。と、子供アピールして許しを請う。

 いつも私が大人と言っても聞いてくれない由美子お姉さんには、この手は効果的なはずだ。むしろ恥ずかしがるほど、意識していると言うことだから、そんなに恥ずかしがらなくてもいいと誤解してもらって、怒りを収めてほしい。


「……怒ってないわ。でも、私は先にあがるから、ゆっくり入っていて」

「はい」


 由美子お姉さんは、そう静かに言った。

 怒ってないと言質はもらえたけど、声がちょっと震えてた。怒りじゃなくても、かなり動揺しているのは間違いない。


 ううーん。やばいなぁ。どうしよう。

 動揺して、恥ずかしがってくれてる分、私のことを本当に子供じゃなくて、そう言う意味でも意識してくれているのははっきりしたし、それは嬉しい。

 でも、それで気まずくなって、この二泊三日を終わらせてしまったら、あまりにもったいない。エッチな意味じゃなくても、お泊りして夜遅くまでお喋りするだけでも特別で楽しみにしていたのに。


 これに警戒したら、もうお泊りしてくれないだろうし、うう。どうしよう。


「……はぁぁ、私のバカ」


 そして、何が駄目かって、こんなやばいなって焦ってるのに、それと同じくらい、さっき一瞬見た由美子お姉さんの裸に、めっちゃドキドキしてるってことだ。

 あー、もっとじっくり見たかった。ていうか、こればっかりは仕方ないと思ってたけど、私、幼児体系かも? うーん。私は正直、由美子お姉さんの完成された綺麗な体にはムラムラするけど、由美子お姉さんは私の体に特別な何かって感じたりするのかな?


 恋人であっても、そういうのってどうなんだろう。恥ずかしがって、裸を見られたくないってことだし、意識されてるとは思うけど。私の体に関して何か思うのかと言うと、謎だ。


 落ち込みながら、胸のドキドキが由美子お姉さんの姿を見ても動揺しないよう、落ち着くまで時間をかけてお風呂に入った。


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