第18話 仲直り

「涼子ちゃん会いたかったよー」

「わ、わかりましたから、帰りましょうね」

「うん、帰りましょう」

「じゃあ先輩、迎えも来たんで、私ら失礼しますね。女の子でも、二人いたらいいんですよね?」

「あ、ああ。そうだね。それじゃあ、気を付けてね」


 涼子ちゃんが背中に手を当てて促してくるので、抱き締めるのをやめて、涼子ちゃんの肩に左手だけ回して歩き出す。

 いて。椅子に足をぶつけた。


「ゆみちん、まじ酔っぱらいー」


 日影が右から私にくっついてきた。うざいけど、酔っぱらってるのは事実なので大人しくする。お会計をする時に財布を出そうとしたけど、うまく見つからなかったので日影が代わりに出してくれた。

 お店を出て家に向かいながらお礼を言う。


「ごめんね、日影。奢ってもらって悪いわね」

「勝手に奢りにしないで。今度返してよ?」

「ちぇっ」

「私が出しましょうか?」

「涼子ちゃんはいいのよ。よしよし、いい子ね」

「あのー、由美子お姉さん、どれだけ飲んだんですか?」

「ちょっとだけよ」


 はぁ。涼子ちゃん可愛い。いつも通り可愛い。しかも私の代わりに出そうかとか格好いい。頭を撫でて恥ずかしそうにしてるのも可愛い。


「涼子ちゃん、可愛いわぁ。大好き、ふふふ」

「ゆ、由美子お姉さん。えっと、ありがとうございます」

「涼子ちゃん、いい子だね。時にはぶん殴ってもいいんだよ?」

「い、いえいえ。こう言う由美子お姉さんも、素敵ですよ」


 日影が失礼なことを言うけど、涼子ちゃんは大人にスルーしている。さすが涼子ちゃん。日影ごとき、歯牙にもかけないわね。

 何だか戸惑っているみたいだけど、どうかしたのかしら? まあそんな顔も可愛いけど。って、は!! しまったーー!! 可愛い涼子ちゃんに会えた嬉しさで忘れていたけど、私のせいで涼子ちゃんは深く傷ついていたんだった。


「涼子ちゃん!!」

「わっ!? な、なんですか?」

「ごめんね、涼子ちゃん。私、涼子ちゃんに冷たくしちゃって」

「あ、ああ。そんなの、私が悪かったんですから、しょうがないですよ。私こそ、ごめんなさい」

「涼子ちゃんーーー、あああぁ。大好きぃ」


 右肩を掴んでいた日影の腕を外して、涼子ちゃんを抱きしめて頬ずりする。後ろから面倒そうに日影がため息をつくのが聞こえたけど無視する。


「ねぇ、涼子ちゃんの家、まだなの?」

「すみません。もうちょっと先です」

「よし。ゆみちんちょっと黙ってろ」

「は? なんで日影にそんなこと言われなきゃいけないのよ?」

「黙ってたら涼子ちゃんがキスしてくれるって」

「黙るわ」


 そのまま黙って涼子ちゃんの家に帰った。









「じゃあねー」

「日影お姉さん、ありがとうございました」

「ゆみちん、酒は飲んでも飲まれるな、だぜ」


 訳のわからないことを言って日影は、私を涼子ちゃんの家の前まで送って帰って行った。

 家に入ると、涼子ちゃんはずっと引いてくれている私の左手をぎゅっと握って、にこっと笑った。


「由美子お姉さん、お酒飲まれてたみたいですけど、お腹は減ってませんか? 一応私、作ったんですけど」

「食べるわ。お腹が張り切れても食べるわ」

「由美子お姉さん、何だかキャラが違うような、そうでもないような」

「断言するけど、酔っているわ」

「あ、はい」

「だから素直なの。こんな私は嫌い?」

「……ちょっと戸惑うけど、好きです」


 ああ! 可愛い!

 たまらなくなって、私はそっと、涼子ちゃんの頬にキスをした。

 涼子ちゃんはきょとんとして、呆然としたみたいに左手でそっと自分の頬にふれてぽっと染まるみたいに真っ赤になった。口を半開きにして、目元を震わせている。


「あ、えっと」


 その顔を見ていると、段々と冷めてきていた酔いがまた回るみたいに、体が熱くなってきた。そうだ。何をしているんだ私は。ずっと我慢してきたのは、涼子ちゃんのこんな顔を見たら、興奮してしまうからだ!


「ご、ごめん、涼子ちゃん。ご飯食べよ、ご飯」

「あ、は、はい! 由美子お姉さん大好きです!」

「私もよ」


 涼子ちゃんが作ったご飯はカレーだった。甘口で、とろけるように美味しい。たぶん死ぬほどシンプルなカレーのはずだけど、酔いがさめていないからか、惚れた弱みと言うやつか、めっちゃおいしい。


「涼子ちゃん、美味しいわ」

「よかったです。えへへ。私、カレーは何回かつくったから自信があるんです」

「そうなの。作ってもらえて、嬉しいわ」

「えへへ……由美子お姉さん、その……えへへ、何でもありません。お風呂ももういれてますから、食べたら入りましょう。もちろん、覗いたり入ったりしませんから」


 いえいえ、入ってきて。と言いそうになった。おおう。危ない。

 本音を言うなら涼子ちゃんの裸は何回だって見たいし、そのまま一線超えたい。涼子ちゃんからお風呂に来たらもう誘ってるんじゃない?

 とかそんなわけないから! はぁ。欲望まみれな自分は自覚しているけど、涼子ちゃんまでそうだなんて、心が汚れている証拠だ。


「涼子ちゃん、帰るのが遅くなってごめんなさいね」

「いえいえ、いいんですよ」

「夕ご飯も作らずに」

「昨日作ってもらったんですから、いいんですよ」

「ましてお酒飲んで、酔っぱらって、迎えにきてもらって」

「意外でしたけど、たまにはそういうこともあります。大人ですから、付き合いもありますよね」

「涼子ちゃん……結婚しましょう」

「はいはい。酔ってないときに、私から言いますからね」


 なんて、なんて格好いいのだろう。心も広い。こんなスーパー女子中学生が存在するなんて。私が中学生の時なんて、馬鹿みたいに先輩に片思いしてただけだった。こんな風に、おおらかに相手を受け止めようなんて思ったこともない。

 涼子ちゃんのこの格好良さを知ってしまったら、誰だって涼子ちゃんを好きになってしまうに決まってる。ああ、なんて罪深い女の子なのか。愛してる。


 こんなに素敵な女の子を独り占めして、そしてその魅力も理解しているのは私だけなんだと思うと、とてつもない優越感を感じて、にやけてしまう。


「涼子ちゃん、好きよ」

「もう、わかりましたよ。何だか、嬉しいですけど、お姉さんからそうまで言われると、照れちゃいますね」

「可愛いわ」


 いつもと逆で、照れる涼子ちゃんを私がからかうという状況に、何だか妙に興奮してきて、誤魔化すように私はカレーを完食した。


 それからテレビを見ながら腹ごなしして、先にお風呂に入らせてもらうことにした。

 体を洗って、ゆっくりと湯船につかっていると、何だか少しぼーっとしてきた。お風呂を出て、大きく深呼吸すると、何だかすっかり酔いがさめているなと自覚した。

 まだ、完璧に素面になったとは言えないけど、もう結構時間もたったし、お風呂に入って汗をかいたからか、何だか頭がすっきりしている。いつもに比べると、少し眠い気もするけど、これは本当に眠いのか、酔っているのか。


 とりあえずお風呂からあがる。涼子ちゃんが入れ違いでお風呂に行く。

 昨日はこれで先に寝たふりをしたけど、ここはかねてからの予定通り、夜遅くまでおしゃべりしたい。昨日出来なかった分、たくさんイチャイチャしたい。


「……ふわぁ」


 やば。じっと待ってたらマジで眠くなってきた。ここで寝たら昨日の二の舞だ。私はとりあえず自分の布団から離れて、涼子ちゃんのベットに腰掛ける。


「ふう……あ」


 勢いよく座ったせいで、そのまま後ろに寝転がってしまった。むむ。なんだこのベッド。ふかふかだ。ブルジョワめ。けしからん。別に家も貧乏ではないけど。

 あー、なんか、仰向けなのにほんのり涼子ちゃんの匂いがする気がしてきた。むらむらしてきたけど、同時に安心感もして余計に眠くなってきた。


 このまま少しだけ寝ようか。と思いついて、とてもいいアイデアだと思った。この状態だと涼子ちゃんは寝れないし、掛け布団の上にだから、私を起こさない訳にもいかないはずだ。

 と言うわけで、ちょっとだけ、寝た。


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