第15話 お風呂に入ろう
「じゃあ、お風呂どうぞ」
食後、涼子ちゃんの部屋でクイズ番組を見ながら、答えを言い合っていると廊下から「お風呂が沸きました」と電子声が聞こえてきて、涼子ちゃんがにこっとしながらそう言った。
涼子ちゃんが先に、と思ったけど、ここで遠慮してもお客様だからと言われるだろうし、涼子ちゃんが入った湯船に入ってどきどきしないわけがないので、お言葉に甘えることにする。
「わかったわ。覗かないでよ?」
「わかってますって」
冗談混じりに、でもちょっと本気で言うと、涼子ちゃんはにこにこしながら了承した。
あら? 涼子ちゃんなら、えー、ざんねーんとか言うかと思ったけど。まあ、中学生と言えば性に潔癖な頃だし、冗談でも言わなくなったのかな。
涼子ちゃんの精神的成熟を感じながら、もう一歩進んだら性に興味を持つのだろうかと、ちょっぴりどきどきしつつ、着替えをもってお風呂へ向かう。
さっき説明を受けたので、バスタオルの場所もバッチリだ。洗濯物は、二日泊まるのに洗わないのも変なので一緒に使わせてもらって、明日は私が干すと念押ししている。
もちろん、涼子ちゃんの下着を手に取りたいからではなく、自分のを触られたら恥ずかしいからだ。
下着は軽く洗ってから、全て洗濯機へ入れる。一応下着は下にしておく。いや? 何なら上に置いて涼子ちゃんの視界にいれてみる? ……やめておこう。恥じらいがないと思われたくない。
中に入ってシャワーを浴びる。家ではかけ湯だけして、湯船で体を暖めてから洗うけど、涼子ちゃんの家のルールがわからないので先に洗う。
「由美子おねーさん!」
「はっ! え、な、何よ」
突然声をかけられて、シャワーを浴びていて脱衣場に入ってきていたことに気づいてなかったので、慌てながらシャワーをとめる。
「湯加減はどーですかー?」
「え、と」
湯加減って、システム管理なのに聞くか普通。時代劇の見すぎじゃない? まあいいけど。
「まだ浸かってないわ。今体を流して入るから、ちょっと待ってね」
磨りガラス越しに人影が、少し離れたところにいるのが見えて、見られてるわけじゃなくても恥ずかしいなと思いながら、慌ててシャワーで流す。
そして湯船にそっとはいる。家が熱めだから、ちょっと温いかな、くらいだけど浸かるとちょうどよかった。ほぉ、と息をついてから、待ってる涼子ちゃんに声をかける。
「いい感じよー、ありがとう。わざわざ来てくれて」
「いえいえ、じゃ、私も入りますねー」
「へ?」
がらっ、と派手に音をたてて、扉が開いた。ってえええ!?
「えへへー。びっくりしました? 今日は混浴でーす。なんちて」
涼子ちゃんが笑顔で何かを言っているけど、頭に入ってこない。
何も隠さず恥じらいもない涼子ちゃんは、そのすべてを私の眼前にさらしている。普段見えている部分もつるっと白い肌だけど、隠されていた場所はさらに綺麗で、膨らみかけの胸は元気に上下して、可愛らしい先端が私を向いている。そのまま下がると、わずかにくびれて、女の子らしい曲線で下半身があって、て、て………って私めっちゃ見てる!!
「あれ? 由美子お姉さん?」
「だ、で、出なさい! 入ってこないでよ!」
「えー、いいじゃないですか。女同士だし。それに、私の家ですよぉ?」
「じゃあ私が出る!」
「え? ちょっ」
これ以上は理性がもたない! 私は極力涼子ちゃんの方を見ないようにしながら、浴場から飛び出した。扉を閉めて、バスタオルをひっつかんで乱暴に頭をふく。
「ゆ、由美子おねーさーん」
「扉開けたら、絶対後悔させるわよ!」
近づいてきて声をかけてきたから、慌ててそう宣誓する。もうこれ以上、涼子ちゃんの肌を見てしまったら、この場でどうにかなってしまう。そんなの絶対後悔する。私も、涼子ちゃんも。
「ご、ごめんなさい、由美子お姉さん。その、私、ちょっとした冗談で、背中でも流してあげようかと、思っただけなんです」
「……怒ってないわ。でも、私は先にあがるから、ゆっくり入っていて」
「はい」
一分一秒でも長くここにいたら、すぐ近くに涼子ちゃんが裸でいると思うだけで、体温が上がって仕方ない。とにかく最低限の水気をとって、さっさと服を着て、涼子ちゃんの部屋に戻った。
ドアを乱暴に閉めて、バスタオルを頭にかぶったまま布団の上に座り込む。
「あー……あーーー! ちくしょう!」
何してんだ私ー! あんなの、ほんとに可愛い悪戯だし、かるーく流してあげなきゃいけなかったのに。めちゃくちゃ拒否してしまった。
でも、だって、仕方ないじゃない。
今も、目を閉じなくても、すぐ目の前に涼子ちゃんの裸が浮かんでしまう。心臓がバクバクして、その体に触れたくて堪らなくなる。有体に言って、めちゃくちゃムラムラする。あんなのと一緒にいて、我慢できるはずがない。
涼子ちゃんに、ひどいことをしてしまう。我を忘れてしまう。それが怖くて、咄嗟に逃げることしか考えられなかった。
「くそっ。ああ、もう……好きだよぅ」
三年前から、ずっと、ずっと、大好きで、触れたかったんだ。でも我慢してきた。大人になるまで、我慢してきた。それだけ大好きだから、愛しいからこそ、我慢してきた。
でも我慢したから、私のこの淫らな欲求がなかったことになるわけじゃない。ずっと蓄積して、一人でそっと慰めることだってあった。涼子ちゃんにはわからないだろうけど、大人には、純粋に好きでただ寄り添うだけでは満たされない穴があるのだ。
それを、あんなふうに突然刺激されて、興奮しない訳がない。今すぐ涼子ちゃんをめちゃくちゃにしたい。めちゃくちゃにしてほしい。そして、今すぐこの熱を収めたい。
「あぁぁぁ……」
どきどきして、興奮する。思わず膝と膝をこすり合わせて、両手はバスタオルで髪の毛をかき回してごまかす。
こんなに高ぶっていても、ここは涼子ちゃんの部屋だ、涼子ちゃんがいつ戻ってくるかわからない。おかしなことなんてできるはずもない。我慢しなきゃ。我慢、我慢。我慢しなきゃ。
○
涼子ちゃんが戻ってきたのはわかったけど、まだ気持ちが落ち着かなくて、私は先に布団を引いて中に入っていたまま、声をかけられても返事をしなかった。
「……おやすみなさい。由美子お姉さん」
おやすみなさい、と返そうかと思った。その前の呼びかけを無視したと思われても、挨拶はしなきゃいけない。それに涼子ちゃんを無視するのは、それだけで苦しい。
「……」
だけど、その言葉を口にしたら、余計に、涼子ちゃんとこれから同じ部屋で一夜を共にするのだと意識してしまうと思った。それに平静を装った返事ができないと、涼子ちゃんに私がまだ怒っていると思われると思った。
明日になったら、明日になったら、元に戻れるはずだ。寝てしまえば、この高ぶった気持ちも収まるし、改めて謝ればいい。
そう思った。
涼子ちゃんは部屋の電気を消して、布団に入った。それを気配で感じて、私も寝ようと呼吸を意識的にゆっくりと繰り返す。
「……」
眠れない。眠れそうにない。むらむらする。もう寝てるんだし、ちょっとくらい、起きてキスくらいしようか。
いやでも、涼子ちゃんの眠りが深いかなんてわからないし、何よりそれで止まれる自信もない。我慢しよう。
ふと、魔がさした。涼子ちゃんに触れるのは無理でも、今、ささっと自分に触れて片付けてしまえばいいのではないか。いやいや! そんな、そんなわけがない。涼子ちゃんが隣にいてそんな。
それに、涼子ちゃんを好きすぎる私のことだ。隣で、涼子ちゃんの息遣いを感じながらそんなことをしたら、ますますその背徳感で興奮して、余計に我慢が難しくなってしまいかねない。
「……はぁ」
小さく、ため息をついた。
身じろぎをすると、服が肌に触れるのが、普通に普段からあることなのに、妙になまめかしく意識してしまって、そんな自分に自己嫌悪するのに、そんな自分にまで興奮してきて、頭がおかしくなりそうだ。
私はただただ、祈るようにじっと、息を殺して、時が過ぎていくのを待った。そうしていれば、落ち着いて、眠りにつくと信じて。
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