第8話 出会って半年後のデート 後編
由美子お姉さんとの運命のデートの日がついにやってきた。何度もデートして、何度もキスをして、少しは慣れてきたけど、でもやっぱり、由美子お姉さんと一緒に過ごす時間っていうのは、とても特別だなと思う。
由美子お姉さんを見つめて、傍に居させてもらって、一緒に過ごせるようになって、私の気持ちは全然衰えない。凄く好きだなって今も思うし、ずっと死ぬまで一緒にいたいって思う。控えめに言って結婚したい。
「由美子お姉さん、おはようございます」
「おはよう、涼子ちゃん」
「今日も綺麗ですね」
「……ありがと。涼子ちゃんも、可愛いわ」
「ありがとうございますっ」
社交辞令だとしても、テンション上がる! そして由美子お姉さんはガチで美人だなぁ。
一分のすきもなく綺麗に染まっていて軽くウェーブする金髪が大人っぽいし、そもそも顔が可愛い。制服だと、ギャル感の強い由美子お姉さんだけど、私服だと大人系って感じでチャラいって感じはそんなにしない。
デートの時の服装だっていつ見てもオシャレで、私もそれらしくしなきゃって思わせる。この人が私の恋人とか、いつも鼻が高いと共に、見劣りしないか心配になるよ。
「では、さっそく出発しましょう」
「そうね」
電車に乗って数駅で到着だ。連休だからか、電車は少し混んでいたけど、密着するほどではなかった。残念。そこから徒歩で少し歩いて記念公園へ向かう。とっても近い。由美子お姉さんと、お話ししていると一瞬だ。
連休中だけど、あんまり人はいない。少なくとも遊園地なんかよりも、のんびりできていいかもしれない。何事も前向きに考えよう。
到着したので、入り口から回って行く。しかし、思っていた以上に、広い。
まずはバラ園だ。薔薇って春ごろのイメージがあったけど、秋も見ごろなんだ。意外だったけど、ベストタイミングなので良しとする。
「わぁ、綺麗ねぇ」
「そうですね」
「このいかにも薔薇って感じのピンク系のも可愛いけど、この白いのも、綺麗よね」
「そうですね。って言うか、薔薇って言っても、結構形が違うものなんですねぇ」
「そうよね。面白いわ。何を基準に薔薇って分類されているのかしら」
「DNAとかじゃないですか」
ちょっとよくわかんないので、テキトーに応えておく。分類とか気にするんだ。なんか、インテリジェンスなこと考えるんだなぁ。
そういうとこ、本当、人って見た目じゃわからないと思う。そう言うギャップが、ドキッとする。今も真面目に薔薇見てる由美子お姉さんの方が綺麗だよぅとか知能指数低そうなセリフしか発想できない自分にがっかりするレベルだ。
匂いも結構、花によって種類が違う。と言うか今までの人生で、花に顔を寄せて嗅ぐってことがそもそもなかった。何の疑問もなく嗅いでいる由美子さんに、正直に言うと最初びくっとしてしまった。自分も真似てしてみて、その匂いに、へーって感心はしたけど、そんなに熱心な気持ちにはならない。
こういうとこ、女子力って出るんだなーとぼんやり思った。
そうしてはしゃぐ可愛い由美子お姉さんを、心の中で録画しながら過ごした。
そして軽くベンチで休憩してから、次のエリアへ進む。少し林みたいな木々の林道を抜けて、さっきまでとはガラッと雰囲気が変わって日本庭園風になっている場所へ入った。
拓けた場所になっていて、大きな池があって周りに紅葉があって、とてもきれいだ。思わず由美子お姉さんから目を離してしまうほどだ。
「はぁ、すごく、綺麗ね」
「はい。何というか、いいですね」
「そうね。来てよかったわ、ありがとう、涼子ちゃん」
にっこりと、微笑みを向けられた。途端に、さっきまでの自然への感動を超えて、胸がドキドキしてくる。自然を超えてくる超越するとか、由美子お姉さんヤバくない?
「いい天気だし、池に紅葉が映っているのがまた、いいですよね」
「そうよね、ため息ものだわ……ため池だけに」
「ん? え? 何か言いました?」
ぼそっと小声気味にだけど隣なので確実に聞こえる声が聞こえたけど、なんかあまりに内容があれだったので耳を素通りしたので聞き返した。
由美子お姉さんはちらっと私を見てから慌てたように視線をそらした。
「な、何でもないわ」
「え? 何か今、場面にそぐわないしょーもないギャグが聞こえた気がしましたけど」
「聞こえてるんじゃない。いいでしょ。思いついたから、言いたくなったの」
拗ねたように言われた。なにそれ可愛い。くわー、もう、だから、そういうとこが、ギャップ萌えなんだよ! たまらん!
拗ね気味の由美子お姉さんと、次へと進む。と、そこでいい時間だったので、そろそろお昼を食べることにした。
あちこちにベンチがあるので、少し奥まったところにある、上から池を見下ろせるところで腰を下ろした。
「いいですね。外からも見えにくくて」
「へ、変な言い方しないで」
「おや? 私はただ、のんびりできるって意味だったんですけど。何か期待させちゃいました?」
「……知らない。食べましょ」
由美子お姉さんは、誤魔化すように二人の間にお弁当を広げた。中身は事前に知っていたけど、実においしそうだ。おにぎりと言い、古典的な感じが実に和風庭園と合うではないか。いいなぁ。この感じ。
母は洋風が好きだけど、私はどちらかと言うと、和風の方が好きだ。洋風(ギャル)の皮を被った和風(純朴)な由美子お姉さんは、そういう意味でも私好みだったか。
「美味しいです、由美子お姉さん。さすが、大和撫子」
「何がさすがなのよ。と言うか、私の見た目によくそんなおべっか言えるわね」
「そこがいいんです。あとホントに美味しいです」
「ありがと。自分でも、美味しいと思ってるけど、うん。この景色のなかだと、一層美味しいわね」
美味しい。屋外だし、落としたりしたら大変なので、あーんは自重して、素直にお昼を楽しんだ。
それから少しゆっくりして、私たちはゆっくりとさらに記念公園内を散策していく。この記念公園はとにかく広いので、とてもじゃないけど今日だけで歩いて一周なんてできない。
適度に散策していると、広場に出た。大きな芝生のエリアで、家族連れが多くて、子供がボール遊びをしたりしている。ほほえましいけど、ボールが当たったりしても危ないし、そういうはしゃぎ方をする年でもない。そっと横道を進む。
ここがまた広くて、途中噴水のあたりで屋台も出ていたので覗いて、それぞれ飲み物だけ買って、また道を外れる。途中、目についた脇道へと続く道へと進路を変えてみた。
木々の中へと小道を進むと、小川があって、小さな橋があったりして、これまた雰囲気がいい。あまり人目につくところだと、由美子お姉さんも素直になってくれないだろうと思うし、この辺りでプレゼントしちゃおうかな?
「由美子お姉さん、少しお話ししませんか?」
「ん? いいけど。じゃ、そこに座ろっか」
「はい」
由美子お姉さんと並んでベンチに座る。ちょっと緊張してきたな。
由美子さんへのプレゼントは、指輪だ。高すぎてもあれなので、ちゃんと考えている。お年玉だって貯めているので、その気になれば由美子お姉さんがドン引きするくらいの金額を買えるけど、そこはちゃんと考慮して、そこそこにしている。
いくら私の気持ちですって言っても、金額の多さだけで表すのは下品だし、押しつけがましいもんね。かねてより由美子お姉さんが身に着けているアクセサリーはチェックしているので金属アレルギーがないことも、好みもリサーチ済みだ。
満を持してのプレゼントと言うことだけど、実は指輪のサイズだけはわかっていない。なので残念だけど、ネックレスにしている。と言うか本当は指輪、と思っていたけど、ちょっと重いかなと思って方向転換したのだ。でもでも、指輪には違いないし、恋人としての重要アイテムには間違いないんだし、由美子お姉さんの乙女心をうちぬいちゃうはずだ。
「あ、あのですね、私、由美子お姉さんにプレゼントがあるんです」
「え? どうしたの? 急に」
「まぁ、急ではあるんですけど、私的にはそろそろかなーと思いまして。あの、これを」
もっとこう、格好いい言いまわしで、さりげなくあげられたらいいのだけど、土壇場になると、弱いなぁ。ちょっともじもじしながら鞄から差し出した。
由美子お姉さんは不思議そうにしてから、そっと受け取った。
「用意してくれたから受け取るけど、あんまり気を使われても、私も困るんだけど」
「あー、えっと、今回は特別です。まぁ、まずは開けてください」
「え、ええ」
そう言えば、そろそろいい仲になりたい! と思って突っ走ったけど、誕生日とかに引っ掛けた方がよかったのかな。うーんでも、自分的に今だと思ったわけだし。でも由美子さんからしたら唐突だし、プレゼントもらう理由がなくて困るのか。
由美子さんは戸惑いながらも包装をとき、そして目をまん丸にした。あー、可愛い。
「こ、こんな立派なもの、何でもない日にもらえないわよ」
「何でもない日じゃありません。これから、変えます」
「え?」
「由美子お姉さん、私、あなたが好きなんです。お友達からってことで、ずっとこうしてやってきました。私なりに、距離をつめたつもりです。だから、今一度、言います。好きです。私と、恋人になってください」
これは私の気持ちです。と箱をもつ由美子お姉さんの手をそっと両手で握る。
由美子お姉さんはぽかんとしてから、かーっと一気に顔を赤くした。瞳を潤ませて口を半開きにして、あ、とか、う、とか声にならない音をもらす。そんな間抜けな様子が、たまらなく可愛い。
「落ち着いてください。由美子さんが答えてくれるのを、待ってますから」
「りょ、涼子、ちゃん、その……う、嬉しいわ。その、すごく、嬉しい」
「はい。喜んでもらえて、私も嬉しいです」
「涼子ちゃんが、ずっと私を思ってくれているの、すごく伝わってくるし、こんな風にしてもらえて、その……もう、我慢できないくらい、好きです」
「由美子お姉さん……!」
ついに、正式な恋人! もう両思いなのはわかりきっていたけど、でも由美子お姉さんの口からきくと、全然違う! めちゃくちゃ嬉しい! 好きって言われた! しかも我慢できないくらいって! うわぁ、うわあ! 結婚しましょう!
「で、でも、恋人は、まだ、待って」
「え!? ど、どういうことですか?」
我慢できないくらい好きとまで言ってくれたのに、何をもったいぶったことを言っているんだ?
私は抱きしめようと広げかけた両腕をそっと膝に戻しながら、でも我慢できずに前のめりで問い詰める。由美子お姉さんは、赤い顔のままだけど気まずそうに視線をそらす。
「だって、涼子ちゃんはまだ小学生だし……」
「そ、そんなのどうしようもないじゃないですか」
「どうしようもなくはないわよ。だって、時間が経てば解決する話なんだから」
「そ、それはそうですけど」
年下だとか同性だって言われるなら、一生変わらない話だけど。でも小学生なのは時間が経てば嫌でも卒業して終わる話だ。いやでも、そんな。それこそ、時間しか解決できないじゃないですか。他の、もっと頼りないとかなんとかそういうことなら努力して、一秒でも早く解決に進められるけど、時間だけは絶対にどうにもできないじゃないですか。
簡単には納得できなくて、何とかならないかとじっと見つめて圧力をかけていると、由美子さんは顔の赤みもとって、真剣な顔で私を見つめ返してくる。
「……涼子ちゃんのこと、本当に好きよ。だから、言ってるの。ねぇ、わかる?」
「……わかり、ます」
言いたいことはわかる。由美子お姉さんは真面目だから、どんなに私を好きになってくれても、小学生とは付き合えない。だから私に何も言わなかったのに、それでも我慢できないくらい、言いたくなるくらい、私を好きにはなってくれたんだ。
でも、それでも恋人の壁は超えられない。由美子さんが私に好きって言ってくれた。これはつまり、私が大人になるまで、待っててくれるということだ。そしてそれまで、私にも、由美子お姉さんを好きでいろってことだ。
そういう、お互いに強制力のある、好きだ。だからこそ、由美子お姉さんはこんなに真剣に、言ってくれているんだ。
「わかりました。まだ、恋人は我慢します。でも、ずっと好きですし、諦めませんから。私をもっと好きにさせて、子供でもいい。今すぐ恋人にしてって言わせるよう、努力します」
本当は、嫌だ。それに両思いだと確信してたから雰囲気をつくれば絶対恋人になれるって思ったし、好きって言われた瞬間に幸せな未来をめっちゃ想像したから、それ全部なしになって、すごいショックだ。
肩透かしを食らったみたいで、がっかりにもほどがある。しかも最悪、何年もお預けだ。
それでも、由美子お姉さんが、私を好きだと言い、待ってくれているというなら、仕方ない。私は由美子お姉さんが大好きだから、愛しているから、頑張ろう。こんな堅物な由美子お姉さんが好きなんだから、それを覆させるくらい、私が頑張るしかない。
「涼子ちゃん……ありがとう、わかってくれて」
「仕方ないです。だって、言うじゃないですか。惚れた方が、負けだって」
嬉しそうに、それこそ花がほころんだように、安堵したような笑顔をみせられて、それだけで、我慢するって決めてよかったって思ってしまうんだ。こんなに惚れている私が悪い。そして、逆に由美子お姉さんが倫理観をすっ飛ばしてでも私と恋人になりたいって思うくらい、私に惚れさせられていないのが問題なんだ。
そこは私が努力で何とかできる問題だ。頑張れば、何とかなる。最初はわたしは由美子さんの視界にも入ってなかったんだ。それが半年でここまで来たんだ。なら、あとはどうとでもなる。
「涼子ちゃん!」
由美子お姉さんは、ぎゅっと私を抱きしめてきた。うっ。こんなのでも、由美子お姉さんからされたのは初めてで、それだけで単純なもので、凄くドキドキしてしまう。
「ありがとう。大好きよ」
「私も、大好きです。ところで由美子お姉さん」
「なに?」
「恋人ではないってことですけど、でも今までも恋人ではなかったということで、今までしていたことは、これからもしていいんですよね?」
これは譲れない。ここまで来て退化するなんて許されない。今まで通りなら、恋人仮だし、距離感はほぼ恋人だし、我慢できるしね。
まぁ言うまでもないくらいの絶対条件だけど、軽い気持ちで念のため確認したんだけど、由美子お姉さんは何やら頬を軽く染めてじとーっと私を見てくる。はて?
「……一応、言っておくけど」
「何ですか?」
「恋人でもない相手と、誰とでもああいうことすると思ったら、大間違いなんだから。涼子ちゃんだから、許してるだけなんだから、それだけは、わかっておいてね」
くっ。か、可愛すぎか、そのくらいわかってますよ! 由美子お姉さんはチョロいけど、ビッチではない。告白をした上で恋人を保留にしちゃうくらい、純情なのだ。
「わかってます。由美子お姉さん、好きですよ」
「……」
抱き合っていて、すでに顔の距離が近いので、そのままそう囁くと、由美子お姉さんは観念したみたいに、そっと目を閉じた。その可愛すぎる顔に、私はそっと口づけた。
それから私たちは離れて、プレゼントを片付けて何事もなかったかのように、デートを再開した。お別れのキスをして、家に帰って、それから由美子さんがネックレスを付けた写メを送ってくれた。
こうして私の二度目の告白失敗は、ほんわか幸せムードで幕を下ろした。まさかこの後、本当に小学校を卒業するまで勝てないとは、思わない私だった。
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