番外編
第7話 出会って半年後のデート 前編
由美子お姉さんとキスする関係になってから、半年近く経つ。由美子お姉さんはいつまで経っても慣れなくて、キスするたびに赤くなってしまうのが可愛くてたまらない。
いまだ恋人じゃないとか言うし、キスも自分からしてくれないけど、好きとかは言ってくれるようになった。初めて言ってくれた時は天にも昇るくらい嬉しかったし、今でも嬉しい。
でもそろそろ、もう一歩先に進みたいなって思う。と言う訳で、ちょっと即物的だけど、由美子お姉さんにプレゼントをして気を引きたいと思う。
渡したいものは、指輪である。そのものずばり、恋人の象徴だし、今の関係なら拒否されることはないって確信できる。できるし、言葉では拒否されてるのも正直傷つくから、そろそろ正式に恋人になりたい。
「由美子お姉さん、こんにちは」
「こんにちは。あがって。お茶用意するから、先に部屋に行ってて」
「はい。お邪魔します」
もう慣れたもので、普通にお部屋に通してくれる。そう言う感じが、すでに恋人感あって、テンション上がる。
でも私としては、あんまり子供っぽく見られたくないので、そこは冷静さを装う。
部屋に入ると、こぎれいにまとめられた、いかにも女の人らしい雰囲気だ。何度きても、いい匂いだ。はー、由美子お姉さんを抱きしめたりキスする時は、割とドキドキして、冷静に匂いの中身まで実感できないので、ここで堪能しておきたい。落ち着く。
由美子お姉さんはベッドにもたれるように、私は小さなテーブルを挟んで直角の場所に座るのが定位置で、私の場所にいつもクッションを置いてくれている。
クッションに座って、さりげない感じでベッドにもたれかかり、すぐに顔をあげられるようにそっと布団に顔をつける。寝る部分からは遠いけど、由美子お姉さんの匂いがする気がするし、由美子お姉さんのベッドと思うとすっごい興奮する。たまらない。
「お待たせー」
「いえいえ。あ、これ今日のお菓子です」
「ありがと」
ドアが開く音に合わせてすっと顔だけあげて、会話しながらさりげなく体を起こす。私もすっかり慣れたものだ。
一応、お客さんにはなるので、迷惑がられないよう定期的にお菓子を持参している。由美子お姉さんからは気を使わないでもいいのに、と言われているけど、お菓子は家に結構余っているし、母からも出かけるなら持っていけと言われているので、と強行している。
そこまで言うなら、と最近では諦めてくれて、普通に食べてくれている。
今日のお菓子はマカロンだ。どこぞのお店らしいけど、よく知らない。マカロンってそんな好きな味でもないし。どっちかと言うと、和菓子派だし。
「いつも思うけど、可愛い包装よね。絶対高いわ」
「知りませんけど。値段とかどうでもいいんで」
「ブルジョワめ」
「由美子お姉さんの笑顔の前では、ささいな問題、と言うことですよ」
別にブルジョワでもない。ただお客さんがしょっちゅう来るから、手土産が家に溜まっていると言うだけだ。親の職業の問題だろう。
由美子お姉さんは可愛らしい笑顔を浮かべて、包装紙をあけていく。この、開ける時のわくわく感が好きと言うだけあって、いつも、どのタイミングでも少し嬉しそうなのだ。それがたまらなく可愛いので、家にお菓子がなくても差し入れたくなる顔している。毎回だとさすがに遠慮されるだろうし、そこまでしないけど。
「わ、かわいー。マカロンね」
「マカロン好きなんですか?」
「ん、実は食べたことないのよね」
「そうなんですか。お口に合うといいんですけど」
初マカロンか。どうでもいいことだけど、由美子お姉さんの初に立ち会えるというのは、何となくぐっとくる。
「えー、なんか嬉しい。可愛いし、写メとっていい?」
「どうぞどうぞ。あ、私もとっていいですか?」
「え? それはもちろんいいわよ」
はしゃいで膝立ちになって上空からマカロンを撮影する由美子お姉さん、をそっと撮影する。パシャっととってから、気づいたようで由美子お姉さんが顔を上げるので、そのままその顔も撮影する。
「ちょ、ちょっと、何とってるの?」
「もちろん、可愛い由美子お姉さんを」
だって恋愛の雰囲気出さなきゃクールっぽい感じの大人な由美子お姉さんが、お菓子ではしゃいじゃうとかめっちゃ可愛いし、さりげなく写メまでとれちゃうチャンスを、私が逃すわけがない。
「ちょ、ちょっと。まって、やめて。めちゃくちゃ恥ずかしくなってきたから消して」
「えー、レアなのに。いやですよ。エスレア並みですよ」
「エクレア並みって言うのがどの程度なのかよくわからないけど、やめて」
「えー。じゃあ、キスしてくれたら消します」
「……しません」
「じゃあ消しません」
「うー、もう、涼子ちゃんのバカ。知らない。勝手にすれば」
拗ねたみたいに、ふん、と鼻をならしてつんと顎をあげてマカロンをそっとつまんだ。
ごめんね、由美子お姉さん。でも普段から写メとらせてくれないし、こういう機会は貴重なんだ。私しか見ないから許して。そして拗ね顔も、大人っぽいのに可愛いです。
「いただきます」
そして怒っていてもいただきますの挨拶は欠かさないとこ、きゅんとくる。
「んー。ん? んー」
と、マカロンを口に入れた由美子お姉さんはなにやら首を傾げた。
「どうしました?」
「あ、うん……なんか、思っていた味と違った。あ、別に駄目ってことはないんだけど、なんかこう、もっとふわっふわした感じのおいしさを想像していたから」
「そうなんですね。気を使わないでください。私もマカロン、別に好きじゃないですから」
「そうなの?」
「好きな人は好きらしいですけどね。由美子お姉さんのお口に合わないのは、残念です」
「あ、別にそういう訳じゃないわよ? 普通に、先入観なしなら、どっちかと言うなら美味しいわ」
どっちかと言っている時点で、積極的に食べたい好印象でないことは一目瞭然だ。フォロー下手くそか。可愛い。
でも私はとてもいいことを思いついてしまった。にやける顔を可能な限り誤魔化して、私はさり気なさを装ってそっとマカロンに手を伸ばす。
「しょうがないですよ、好みは人ぞれぞれですから。そういうこともあります。でもせっかくですから、少しでも美味しくいただいてほしい。そこで私は提案します」
「え? 何?」
「ここは、あーんで食べさせ合うのはいかがでしょう」
「は?」
「あーんで食べさせ合うのはいかがでしょう」
「いや聞き返したんじゃないわよ。なんでそうなるのよ」
「美味しくないなら、愛情のトッピングをするべきかと」
「お、美味しいから」
「まぁそう言わずに。はい、あーん」
強引にだけど、由美子お姉さんの口元に差し出す。由美子お姉さんはとっても優しくてちょろいので、強引にされるとついつい流されてしまうのだ。
今も、ええ? みたいな引いた顔から、ちょっと照れたような顔になって、躊躇うようにちらちらマカロンと私に視線を泳がせてから、ゆっくりと近づいてきた。
「あ、あーん」
「美味しいですか」
「……ま、まぁまぁね」
「そうですか。じゃあ次は由美子お姉さん、お願いします」
先に口を開けて待っていると、由美子お姉さんはゆっくりとだけど応えてくれた。もちろん、あーんの言葉つきである。
まったく、最高ですね、この彼女。ちょっとツンだけど、すぐデレデレになってしまうのがまた、ちょろくて可愛い。
そうして食べさせ合ってから、そう言えば、とさりげなくいよいよ今日の本題である、次回のデートの話題を出す。
「来週末の三連休、予定を空けてもらえるようお願いしていたと思うんですけど。どうですか?」
「……別にわざとじゃないけど、まぁ、涼子ちゃんが言うなら、三日ともデートできるけど?」
「是非三日ともデートしましょう。で、えっと、行き先なんですけど、ちょっと遠いんですけど、遊園地にでも行こうかなと思ってまして」
「え。うーん。いいけど、遊園地、ねぇ」
「あれ? 気が進みませんか?」
「そうじゃないけど、連休の遊園地って絶対混むでしょ? ちょっと遠いって言っても、一時間くらいの距離だから泊まりで行く必要ないんだし、わざわざ連休はちょっと」
「あー」
その発想はなかった。と言うか、結構行っているのかな? 私の感覚では、友達だけで行くにはちょっとハードル高くて、数えるくらいしか行ったことないし、デートの定番って感じで、プレゼントを渡すのにばっちりかもって思ったんだけど。
うーんでも、一日遊びまわると、疲れるし、ゆっくりプレゼントって雰囲気でもなくなってしまうのかな?
「そうなんですか。じゃあ、遊園地は今度の機会にしますか」
「そうね。考えてくれて悪いけど、行きたいなら逆に、今週末とか行く? たぶん比較的空いていると思うわよ」
「え、いいんですか?」
「もちろん。まぁ、さすがにおごるわよ、とは気安く言えない金額だけど。行く自体は私も好きだし」
「そうですねぇ」
でもプレゼントは、来週末と思ってまだ買ってない。今週末となると、ちょっとあわただしくなる。どうせずらすなら、連休の翌週にして、恋人状態になってから行くのも悪くない。
「連休の次の週はどうですか? そっちの方が空いてる気がしますし」
「そうね。それがいいかも。じゃ、それは決まりね。土曜の方でいい?」
「はい」
やったね。デートの予定が決まった。と、それはそれとして、じゃあ連休はどうするか。次が遊園地なら、おとなしめのゆっくりできる雰囲気がいいかなぁ。
考えたら、プレゼントして勢いでキスできるほうがいいし、そういう方面で考えよう。
「じゃあ三連休ですけど……どこか希望はありますか?」
「うーん。三連休だし遠出って理屈はわかるんだけど、遊園地って結構使うし、三連休は近場で安く済ませちゃダメ?」
「いえ、駄目じゃありません。そうなると、家デートか、あ、自然公園にピクニックとかどうですか?」
お金を使わないデートとなると、あんまり思い浮かばない。モールをぶらつくとかでも、地味に小銭を消費してしまうし、物理的にお店から離れるのが確実なんだけど。ピクニックはちょっと牧歌的かな。
「ピクニック……悪くないわね。でもちょっと、近場だと恥ずかしいわ」
おや? 感触悪くないな。考えたら、近場でぶらつくくらいならしょっちゅうだし、由美子お姉さんも、ちょっとは三連休に特別感あることを期待していたのかも。
ピクニックは友達同士ではなかなかいかないし、恋人っぽいから、いつかはって思ってたんだよね。でも近場だと恥ずかしい? ……あ、知り合いに会ったらってことか。んー。
「電車で少し行きますけど、記念公園はどうですか?」
あそこなら、多少距離がある分、この辺りの人は自然公園に行ってあんまりいかないイメージだし、森よりで見晴らしがいい方でもないから、そうそう知り合いがいたとして顔を合わせるってこともないだろう。
「あー、あそこか。一回行ったけど、ちゃんと回ってないし、いいわね」
「ですよね。中は薔薇園とか、施設もありますし」
「へぇ、そうなの。あんまりあっち行かないから知らなかったわ」
「町側の方が色々ありますもんね。でも、あっちはあっちで、景色とか結構いいですよ」
「いいわね。お弁当作ってあげる」
「本当ですか? やったー。えへへ。それ狙いでした」
「ふふ。いいわよ」
ぃやったね! ぐふふ。手作りお弁当きた! なかったら私が、と言うつもりだったけどマジで嬉しい!
しかも由美子お姉さんから言ってくれるとか、マジで以心伝心って言うか、くっそ恋人っぽくない!? うわー、テンションあがるわー!
「何が好きとかある?」
「私なんでも食べちゃいますけど、そうですねー、玉子焼きとかは欲しいですね」
「まあ、定番ね」
「あとは唐揚げとか」
私と由美子お姉さんは、当然だけどお休みの日のデートをしたら一緒にご飯食べることが多い。その経験では、そんなにお互い好き嫌いが激しいってことはなかった。
定番のtheお弁当の方が、今回はテンションあがるし。デート、デート!
こうして三連休のメインデート内容が決まった。当日はいい雰囲気になったら、指輪を渡して恋人になって、由美子お姉さんからキスしてもらうと言う、完璧なデートプランだ。今から待ち遠しすぎる!
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