第4話 デート2
「じゃあ、ちょっと早いですけどお昼にしましょうか」
「そうね」
ゆっくり見て、ついでに玩具売場自体もみた。ヨーヨーもあって、案外昔と変わらないんだなとちょっと感動した。
「ここでて、ちょっと、5分くらい歩きますよー」
「お昼のお店も決めてるの? へぇ、まめねぇ」
ショッピングモールには当然いくつも料理屋は入ってるし、フードコートだってある。だからここに来たときから、内部で適当に食べるものだと思っていた。
わざわざ外に食べに行くとは。でも外も駅近で色々お店あるし、逆にわざわざ外まで行かないから新鮮でいいか。
涼子ちゃんに着いていく。ショッピングモール自体が大きいので実際には歩いて15分ほどで、目当ての建物の前に到着し、本日二度目の驚きにあった。
「こ、ここ?」
「はい」
ホテルだった。そりゃホテルでランチもあるだろうし、値段もぴんきりだろうけど、入り口脇の植え込みにずらりと並んである看板の一番手前のをちらりと見るとランチ3000円とか書いてある。ちょっとお財布にやさしくないですね。
高校生としてもデートで三千円のランチは敷居が高いし、まして小学生がつれてくるところか。手前の看板以外の別の入ってる店だとしても、相当のところと思われる。
「ちょっ、ちょっと涼子ちゃん、あのね、その、言いにくいんだけど、あんまり高いのは、ねえ? もちろん奢ってってことじゃなくて、他のところがいいなぁ」
「安心してください。ランチは一人千円でオーケーです。もしそれも厳しいなら、奢りますし」
「え、あ、そうなの? なら大丈夫よ。全然出すわ」
千円もけして安いわけではないけど、でもショッピングモールで食べるって想定した時点で千円くらいの予定だったので、それなら全然オッケーだ。
「はい。中に母が懇意にしてるお店があって、今期間限定で2500円のランチが、3人まで1500円になるんです。あと株を持ってまして、この店で使える商品券が1000円分ありますので」
「なるほど。って、期間限定のを使うのは、まあ、ありがたくって感じだけど、商品券はちょっと、奢ってもらってるようなもののような」
「結構前の分らしくて、商品券も今月中に使わないといけないんです。母から了解はもらってますから、気にしないでください。いつもちょっと余ってもったいないくらいなんですから」
「そ、そうなの? それなら……じゃあ、お言葉に甘えて」
「はい。甘えてください」
何て言うか、完璧だな、女子小学生。こんなスムーズにこよさげなとこでの食事を組み込むとかガチでデートとしていいじゃん。て言うかこの子、ええとこの子なの? お嬢さんか?
「あ、ちなみに、母が食道楽なだけで、別にお金持ちでもありませんよ」
「心を読んだ?」
「そんな目をしてました」
むむむ。まあ、いいか。私は安く食べられて、涼子ちゃんも損してるわけじゃなくて私をかっこよくエスコートできて、WinWinよね。
ホテルに入るとやっぱりちょっとお高い感じで、家族とかじゃなくて、涼子ちゃん、しかもちょっと見慣れなくて顔を正面からじゃなくて後ろ姿見るとまだちょっと、え、誰ってなる涼子ちゃんと二人だけで入るのって、ちょっと緊張する。
涼子ちゃんはお母さんに連れられて来ているようで、手慣れた様子で注文をしてくれた。
服装も浮くほどの格好じゃなくてよかった。めっちゃラフな格好でも、そりゃ注意されるってことはないかもだけど、やっぱり浮くしね。
食事は美味しかった。
最初に前菜がスプーン一口だけが運ばれてきたときは、さすがに少なすぎだろと思ったけど、味はよかった。そのあとの何かぱりぱりしたもので巻かれた海老とか、むしろこれ単なる汁じゃねってくらい量が少なくて具が丸見えのスープとか、サラダばりに野菜の多いステーキとか、最後のロールケーキとか、とにかくどれも美味しかった。
え? 途中で美味しそうに聞こえない説明があった? その辺はカットして自由に想像して。
とにかく、全部美味しかった。
「ごちそうさま」
「はい。ごちそうさま。とりあえず立て替えますから」
「お願い」
さすがに店内でお金を渡したりするのは見映えがよくない。券を持ってる涼子ちゃんにお願いする。
レシートを取って、さくさくとお会計を済ませる涼子ちゃん。
何だか、しっかりしてるなぁ。格好と相まって大人びて見える。でも恋人にはなぁ。さすがに小学生は小さすぎるし、もう少し大きくなってもらわないと………あれ、なんか私、前向きに検討してる!?
左手で頬を触ると少し熱を持っている気がして、ぺしぺし軽くはたく。
いやいや、おかしい。まず女の子だし。だいたいよく見てよ。今日の涼子ちゃんは確かに大人っぽく見える。だけどそれって、いつもが子供っぽすぎるからその対比でそう見えるだけであって、最初からこの格好なら普通に小学生だと思ってたはずだ。
そう頭でわかってるのに、なんか、いつもと違うように見えてしまってる。これ、涼子ちゃんの術中にはまってない? 私、大丈夫かな。
○
「ささ、次はここでーす」
「はいはい」
次に連れてこられたのは、先程のショッピングモールに戻って、別フロアにあるゲームセンター広場だ。
ここはまあ予想内だ。私も友達とくることあるし、プリクラとろう。
「ちょっとクレーンゲーム見てもいいですか?」
「ん? ああ、いいわよ」
クレーンゲームは下手なのであまり手を出さないようにしてるけど、見て回るくらいは問題ない。
どれどれ、今は何があるのかな? プライズってすぐに変わるから、いいのがあったら一回くらいしようかなー?
アニメキャラのキーホルダーに、フィギュア、お、犬侍のぬいぐるみキーホルダーだ。可愛い。
お菓子のクレーン懐かしい。見かけるけど、ずっとやってないしやろうかなー。でも絶対買った方が効率いいのよね。うーん、でもなぁ。
「由美子お姉さん、これ、どうですか?」
「ん? ああ、可愛いわね」
涼子ちゃんが指差す隣のクレーン台を見ると、うさぎの可愛いマスコットがはいっていた。可愛いぬいぐるみだ。手のひらに収まる程度で、頭からはチェーンが生えていてキーホルダーにできる。
「ちょっと待っててくださいね」
涼子ちゃんは手慣れた様子でお金をいれる。いきなり500円だ。
そしてうさぎをつかむ、かと思ったら全然違うところへ。頭をつかもうとしたんだと思うけど、全然かすっただけだ。2体並んでるうさぎの頭の辺を撫でていて、どっちを狙ってるのかもわからない。距離感見誤りすぎ。下手くそか。
涼子ちゃんは気にせず二回目もするけど、またもや頭の上の耳を撫でるだけだ。
「涼子ちゃん、頭より胴体の方が狙いやすいんじゃないの?」
「もうちょっとですから、ちょっと待っててくださいね」
私のアドバイスは無視された。ちくせう。
「……!?」
こうなったら取れなくて悔しがるといいわ!と思ってみてたら、頭の上のチェーン部分にアームの先端がひっかかり、見事涼子ちゃんはぬいぐるみをゲットした。
天才か! 偉そうにアドバイスしちゃって、なんか、すみません。
「はい。由美子お姉さん、プレゼントです」
「え? 私に?」
「はい。もちろんですよ。他に誰がいるんですか」
涼子ちゃんはにっこりと微笑みながら、私にもこもこ可愛いうさぎさんぬいぐるみキーホルダーを差し出してくる。
「あ、ありがとう。お金、払うね」
「冗談やめてくださいよ。私が由美子お姉さんにあげたくて勝手にとったんですから。由美子お姉さんが喜んで笑ってくれれば、十分ですよ」
「う、あ、ありがとう」
ぐぐぅ。や、やばい。ちょっとどきっとしてしまった。
なにこの子、ちょいちょい言動がイケメンだ。前からそんなカッコつけたこと言うのもあったけど、今日は雰囲気が違うと言うだけで、ちょっと流されてしまいそうだ。負けるな私。
「お。おーい、涼子」
「うわ」
え、だ、誰?
クレーン周りを巡回してきた店員のお兄さんが、涼子ちゃんに声をかけた。涼子ちゃんは振り向いて嫌な顔をしてるけど、反応的に知り合いっぽい。
「ちょっと高志くん。話しかけてこないでよ」
「んだよ。お前がわざわざ俺のシフト聞いて、来るって言うから待ってたのによ。て言うか連れって……」
「ど、どうも」
目があったので会釈しておく。お兄さんは目を見開いてから、がっと勢いよく涼子ちゃんの頭を抱き締めるように肩を組んだ。
「お、おい、まじかよ」
「まじです。とりあえずもうクレーン終わったから、いいよ。ありがとね、高志くん」
「お、おお。ごゆっくり」
何だかわからないけど、高志くんとやらは立ち去った。
涼子ちゃんは私に振り向くとにっこり笑う。
「さ、由美子お姉さん、次はプリクラとりましょーね」
「え、ええ」
別に、全然、私には関係ないけど。
でもなんか、涼子ちゃんずいぶん今のお兄さんと仲良しなんですね。私とデートだって言っていたのに、お兄さんの予定聞いて会えるか確認してたんだ。ええもちろん、私には関係ないけど。
涼子ちゃんに連れられるままプリクラに並ぶ。幸いすぐに空いたので殆ど待つことなく入れた。
「肌色とか、選んじゃっていいですか?」
「どうぞ」
涼子ちゃんはちゃちゃっと選ぶ。私もそんな頻繁にとらないし、肌の色とか目とか睫毛とか、別にこだわりはないし。
機械の指示するとおりにポーズをとっていくと、段々テンションがあがってきて、ちょっとモヤモヤしていた気持ちもなくなった。て言うか気のせいだったわよね。うん。
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