第3話 デート

 涼子ちゃんからラブレターをもらってしばらく、具体的に言うと二週間ほど経過した。合計六回一緒に帰った。週に二回は学校の友達と遊びにいった都合だ。ちなみに六回のうち一回は、日影が自転車をおしてついてきた。のれよ!

 ごほん。ともかく、まあ普通に、慣れた。わりと普通に? 友達感覚です。


「由美子お姉さん、あのー、そろそろ私たち、お互いのこと知って、仲良しになれたと思うんです?」

「ん? そうね。私も涼子ちゃんのことわりと好きよ」

「えっ、それは、デレたと思っていいですか? 恋人になってくれます?」

「調子にのんな」

「はい、すいませーん。で、そろそろデートしたいんですけど」

「えー?」

「デートっていってもほら、二人で休日に遊びましょってだけですから。変なことしませんからっ」

「そんなこと疑ってないけど」


 女子小学生相手に、襲われちゃうかもと心配するほど、私ひ弱じゃないからね。と言うか、さりげなく休日に限定してきてる。このまま、じゃあどっか寄り道ーと言うのを防ぐとは。

 まあ、別にいいんですけどね。


「由美子お姉さん、いつ空いてます? あと行きたいとこあります? 奢りますよ」

「普通に割り勘にして。あと、明日、土曜空いてるよ。行きたいとこはなし」

「ふむ、私の腕の見せどころと言うことですね。いいでしょう。私に惚れちゃうようなエスコートします!」

「期待してるわ」


 日影並みにうざいテンションで物を言ってきても、私より頭1つ以上小さいところでぴょこぴょこゆれる二つ結びの髪の毛が、犬のしっぽみたいで可愛いから許せる。

 意気込んでいるとこ悪いけど、いかにも小学生ルックの涼子ちゃんに、年上好きの私がその気になることはないだろう。でも可愛らしいからいいことにする。


 子供は嫌いだったけど、それは何を考えてるかわからなくて、すぐ泣いたりしそうなイメージだからだ。でも涼子ちゃんは素直でわかりやすいし、ちょっときつめに対応しても全然こらえたところがなくて、素で接しやすい。


「はいっ。由美子お姉さんの好きな傾向も、今までの聞き取りでわかりましたし、任せてください。もし駄目だったら、由美子お姉さんの言うことなんでも聞きますよ」

「言ったわね。よし、じゃあもしいい感じだったら、私も涼子ちゃんのわがままを聞いてあげましょう」

「ほっ、ほんとですか!?」

「え? ええ」


 あら? ちょっとえらく食い付きがいいけど、え、これ友達の冗談の範囲よね? ちょっと何かおごるくらいのつもりよ? 信じていいわよね?


「よーし! じゃあ、バリバリ頑張ります!」

「あ、あの、わがままっていってもあれよ? 恋人になるとかは駄目よ?」

「わかってますって。無理矢理恋人になってもらっても仕方ないですから。安心してください」

「そう? ならいいわ。明日、何時に何処にするかも、じゃあ後でメール頂戴ね」

「はい!」


 明日、ね。うん、楽しみだ。

 小学生の遊びだし、ゲームセンターとかショッピングよね、多分。たまには童心にもどるのもいいだろうし、付き合ってあげよっと。








 てなわけで本日はデート(笑)です。

 涼子ちゃんも多少は可愛い服でくるだろうから、さすがに私も着倒してない普段使いじゃないちょっとはよさげな格好です。

 お気に入りのデニムジャケに、淡色のワンピース。足元は歩きやすいようにヒールじゃなくてスニーカーだ。いい機会なのでワンピースおろしちゃった。白系って汚れが怖くて、先伸ばしにしたのよね。


 さて、待ち合わせ場所、に来たはいいけど、いない。駅前の噴水にて約束の10分前。待つか。


「涼子お姉さん? ちょっと? 素通りしないでくださいよー?」

「へっ」


 振り向くと、いつものツインテールじゃなくて髪の毛を首もとで1つ結びにしていて、いつもの動物柄のシャツに半ズボンじゃなくて、白い英字シャツの上にピンクのジャケットをきて、大きいベルトと黒スカートで、足元もスニーカーじゃなくて花がついた可愛いローヒールだった。

 お、おおい? なに、全然いつもと違う。さすがに顔は化粧したりしてないみたいだけど、めっちゃ大人っぽくなってる。 


「おはようございます、由美子お姉さん」

「お、おはよう」

「えへへ、どうですか? ちょっとは大人っぽいでしょう?」

「え、ええ。びっくりしたわ」


 いや、確かに、よく考えたら? 私が小4の時も、今までの涼子ちゃんみたいな見るからに小学生、って、格好よりもこんな感じの女の子系を着てたし、めっちゃおかしいわけじゃない。

 でも今までのイメージってやっぱりあるし、涼子ちゃんじゃない別の子を相手にしてるみたいな気になる。


「でも、可愛いわ。いつもそんな格好すればいいのに」

「えへへ。考えてみます。涼子お姉さんも、私服もとっても可愛いですね」

「あ、ありがとう」


 ううん。いつもと雰囲気が違うと、なんか調子狂うなぁ。


「じゃあ涼子お姉さん、さっそく行きましょうか」


 とりあえず気を取り直して、デートと行きますか。


 まずはと涼子ちゃんに最初に連れていかれたのは、電車で数駅先にある、大型ショッピングモール。


「え、ここ?」

「はい。どうです? 好みでしょう?」

「な、なんでわかったの?」

「見てたらわかりますよー」


 ええ、いや、普通に怖い。

 連れていかれたのはショッピングモールの中のぬいぐるみ売場だった。玩具売場の奥にあるので、なかなか足を向けにくいけど、ぬいぐるみは実は好き。値段が高いのでたまにだけど、ネット販売で買うこともある。だってぬいぐるみって超可愛いじゃん。

 でも日影にも子供っぽいってちょくちょく馬鹿にされるし、あえて涼子ちゃんにも言ってないのになんでわかったの。


「簡単な推理ですよ、ワトソンさん」


 驚く私に、涼子ちゃんは得意気にどや顔で解説してくれる。て言うかそこさん付けするんだ。確かに突然呼び捨てタメ口だといらっとするかもだけど、そこまでしなくてもいいのに。


「その涼子さんの鞄についてるキーホルダー。可愛いし、私もお揃いが欲しくて調べました。そしたら期間限定で販売された、大きな熊太郎ぬいぐるみのおまけキーホルダーじゃないですか。元々可愛いもの好きで、動物も好きですし、ぬいぐるみが好きなんてすぐわかりますよ!」

「いや、このキーホルダーは貰い物なんだけど……」


 そんなちょっと特別なやつだったのか。と言うか、さらっと勝手にお揃いにしようとしたのか。


「……まあ、結果オーライ!」


 私の指摘に涼子ちゃんはちょっと視線を泳がせてから、にっこり親指をたてた。


「それに、動物も好きでぬいぐるみが嫌いな女の人なんていませんからね」

「そうかもね」


 そもそも、キャラクターとかでもぬいぐるみっておおいし、ぬいぐるみそのものが嫌い!って聞かないし、まあ外れはしないわよね。

 とにかく、涼子ちゃんと一緒なら保護者として気兼ねなくぬいぐるみを見れるし、堪能しよう!


 まずは手前の小さなキーホルダーコーナー、ではない! まずは絶対買えない大物からでしょ!

 涼子ちゃんの手を引いて、奥へ移動する。


 大きなテディベア、中くらいのテディベア、小さい(と言っても15センチくらい)テディベアが大家族のように戯れている。

 リボンをつけてるのや服を着てるのも列を作ってる。順に撫でたり手に取りながら、涼子ちゃんにも見せびらかす。


「可愛いー、もうやっぱりテディベアは定番可愛いわよね。みて、このつぶらな瞳。あ、カッパ着てるのも可愛いー。ほら、長靴もちゃんと裏面に滑り止め加工されてる。こまかーい」

「そうですね、可愛いです」


 涼子ちゃんはにこにこと年相応に可愛く微笑みながら相槌をうってくる。涼子ちゃんもぬいぐるみ好きなのね。


「そうよねっ」

「はい、由美子お姉さん可愛いです」

「……ごほん」


 ああ、うん。ちょっとね。はしゃぎすぎたかも知れないわね。うん。恥ずかしい。

 咳払いをして話題転換だ。

 えっと、あ、あっちにくじらだ。くじらも可愛いのよねー。


「涼子ちゃん、他にも見ていきましょうか」

「はいっ」


 くじらの潮吹きまであるのは、個人的にはどうかと思う。振り回したらとれそうだし。別に振り回す必要はないけど。

 あ、いかもある。きもかわ。ぷにぷにしてる。こってるわねー。


 下段は鳥類だ。ぴよぴよひよこも可愛いけど、誰得なのか等身大のにわとりがリアルで、いい味だしてる。絶対買わない。

 さらに隣はお待たせしました、わんちゃんねこちゃん。三毛も黒も白も可愛いし、ぴんっとした耳もふにゃふにゃもいい。胴体がふわふわしたクッション系もいいけど、だきしめがいのあるちょい固めも好き。


「由美子お姉さん的にはどれが一番可愛いですか?」

「んー……この子かしら」


 垂れ耳で真っ白もこもこ兎を示してみる。どれも可愛いけど、兎は持ってないし買うならこれかなー……に、2800円か。小ぶりだけどやっぱり高いなぁ。買えなくはないけど、うん、またの機会で。

 ぬいぐるみってどれも微妙に顔が違うから、こうやって手にとって買うのが一番安パイなんだけど、まあ、そこそこいいやつはそうそう外れもないしね。ここにあるのもどれも可愛いし。


「ほうほう。うさぎさんですか。ところで私、うさぎに似てると思うんですけど、どうですか?」

「似てないし」

「えー? そうですかぁ?」


 何を根拠に。あ、いつものあのツインテール?


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